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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 だいぶ前のことになりますが、胸部への緩和的放射線治療を行う目的で70才代の〇さんがうちの科に入院しました。〇さんからお話を伺うと、最初の手術後から体重は少なかったそうですが、今回の入院時は食欲不振もあって体重30kg台とかなり痩せてきていました。

 放射線治療が始まってまもなくの病室回診時、私が〇さんに食事の具合をお尋ねすると、「本当はエビチリが食べたいんだけど、からいものは(放射線治療の食道粘膜炎が強くなるから)ダメって言われていて…」と暗い表情でポツリ。
 
 私、「〇さん、どうぞお食べください。主治医として許可いたします!」と即答いたしました。
 〇さんの放射線治療内容、町医者的には食道粘膜に照射される範囲はたいしたことなかったですし、すでに別の部分で痛み止めの内服を開始されていましたし、「まあ大丈夫でしょう」って感じでしたから。

 すると〇さん、パァーッと満面の笑みを浮かべられました。入院後、初めて拝見した笑顔でした。


 後日、次の回診の時、〇さんにそれとなく「エビチリ、食べました?」と私が伺ってみました。

 「美味しかった!許可してくれた時、先生に後光が差して見えました」と、また笑顔。
飲みこんだ時の胸の痛みはなかったそうです。

 その後も笑いながら二人でエビチリ談義をしばし続けました。


 胸部に放射線治療を行う患者さんに対し、いずれ食道粘膜炎が出てくる可能性があることから症状を悪化させないように「(放射線治療開始時から)からい食べ物は控えましょう」という食事指導が、医師や看護師から治療開始前や照射中に行われることがあります。風邪ひいてのどが荒れているときに辛い物を食べるのは痛くてしんどいでしょ?治療が進むとだんだんそんな感じになる(ような)ので刺激物は控えたほうがいいという理由で。
 特に抗がん剤を同時併用している場合は、粘膜炎に関しても放射線増感効果が出てしまうので注意が必要です。


 でも、緩和的放射線治療で照射範囲が小さかったり総線量が少なかったりする場合には、照射部位の粘膜炎は(そんなに)ひどくならないことが多いです。また、普通は照射開始数日くらいまでなら何の症状も感じませんし。
 緩和的放射線治療でよく用いられる1回3Gy以上の小分割短期間照射法と抗がん剤や分子標的薬剤との「同時」併用も確立したメニューってあるようでなかなかないですから、私は副作用対策を優先して可能ならお薬を一旦お休みしていただくことが少なくありません。この辺は医師によって病状によって意見が分かれるところかもしれません。

 ということで、緩和的放射線治療の場合、少なくとも粘膜炎が無症状のうちは食事制限で神経質になり過ぎなくて良いだろうと個人的には思っています。ぶっちゃけ、私の食事指導は甘いかもしれません。
 もちろん、痛みなどの症状が出はじめた場合には気をつける時期であることをきちんとお伝えしていますし、何でもかんでも気にしなくていいと言っているわけではないのですが、時と場合により臨機応変な対応というのも大事なのではないかと。

 食べることって人生の楽しみの一つですから。 (ね、勝亦社長!)


 と、偉そうに書きましたが、〇さんに今回「エビチリだめ」を意識させたのは私(たち)でした…。

 実際同じようなことをお伝えしているつもりでも、各医療者による説明の仕方やニュアンスが微妙に違って患者さんに伝わることも少なくありません。また、説明不足があったかもしれません。放射線治療前の私(たち)の説明の時なのか、その後の看護師さんたちの説明の時なのか、患者さん説明用の冊子かなにかを見た時なのかわからないのですが、〇さんにはしばらく「損」をさせてしまいました。
 医師・看護師の連携や意志統一がなってない!というご批判、まことに申し訳ございません。
 

 ところで、日本放射線腫瘍学会公認の「放射線治療を受けられる方へ」という放射線治療患者さん説明用の小冊子があります。うちの病院でも患者さんたちへ配布しています。

 この冊子の食事指導上の注意点の所に、「のりやワカメ、トマトの皮」にオレンジ色の☓がついている部分があります。粘膜に放射線治療が周囲の粘膜に照射された場合に食べるのに気をつけたほうが良い食品類を紹介しています。もちろん、これ以外は何でも食べていいというわけでなく、代表的な食材の一部です。ちなみに、その上には禁止すべきとされるアルコールやタバコが赤☓をつけられています。絶対にダメ!という赤です(たぶん)。つまり、オレンジ☓は「絶対にダメ」というわけではありません。
 実は(少しくらいの)アルコールも個人的にはオレンジ☓なのですが…

 この冊子をご覧になった後で、「のりやワカメが好きなんですけど食べちゃダメですか?」と質問される乳房温存術後で胸壁のみに照射される患者さんが時々いらっしゃいます。部位的に粘膜には全く照射されないので、治療中の副作用として粘膜炎が出てくることはありません(つまり、のりやワカメを食べても何ら問題ないということです)。食道がんによる食道狭窄部に薄皮のような食材が蓋をしてしまう(≒詰まらせてしまう)心配もありません。でも、少なからず患者さんたちはそうは思わないようです。
 これも、患者さんにきちんと伝わっていないという点で、私たちが気をつけなければいけない所です。

 ただ、外来などで一度説明を受けても、その内容を覚えていらっしゃらない患者さんも実際にはいらっしゃいます。放射線治療科受診の時は(時も?)、何人もの医療者からいろいろな難しい説明をたくさん聞いたり、そうでなくても病状や不安で頭が真っ白になって、説明されたこと自体を覚えていない方もいらっしゃいます。

 で、自宅に戻って説明書を熟読し、書いてあるから「(オレンジ☓の)のりやワカメ食べちゃダメなんだ…」と思い込んでしまわれるようなのです。もちろん、その方に合っていそうな各部位ごとの食事指導も(特に看護師さんたちが)丁寧に行っているつもりなのですが。

 他にも気をつけなければいけない食材もありますが全部を記載するのはほぼ不可能ですし、何でもかんでも食べるのを控えるというのも(特に外来通院では)大変なことです。


 患者さん全員が充分にご理解いただけるような放射線治療の副作用対策用の説明書を作成するのってなかなか簡単ではないような気がします…。


 〇さん、無事に緩和的放射線治療が終了してからも飲みこんだ時の痛みは感じなかったそうです。よかったよかった。


(スーラータンメンへ続く)


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【2015/05/29 20:21】 | 放射線治療:支持療法・アメニティ
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 唐突ですが、2013年に「がんのリハビリテーションガイドライン第1版」(金原出版さん)が発刊されています。信頼度の高いいろいろな臨床試験などの医学論文をもとに、日本を代表するリハビリテーション科の専門家の方々により様々ながん患者さんに対する包括的な国内指針を記した書籍です。

リハGL

 なんと今ならタダでPDFファイルが手に入ります!
http://www.jarm.or.jp/wp-content/uploads/file/member/member_publication_isbn9784307750356.pdf

 その第8章に「化学療法あるいは放射線療法がおこなわれる予定の患者または行われた患者」という項目があります(p120-135)。化学療法・放射線療法中もしくは治療後の患者さんに対して運動療法(や鍼治療・物理療法・音楽療法など)を行うのは心身のいろいろな面で客観的評価としてどうなのか?という疑問についていろいろ書いてあります。
 すでにご覧になっている方も少なくないでしょうが、まだご覧でない方々用に***以下へ一部抜粋改変してみました。

 昔は、放射線治療中には「疲れを取るために、身体を休めるように」という患者さん指導が当たり前でした。少なくとも私(の周り)はそうでした。実は今でも、そんな指導をなさっているお医者さんや看護師さんたち、少なくないかもしれません。
 でも、このガイドライン(つまりこれまでのエビデンス)では「動け、動け!」が正しい生活指導になるようです。ご覧いただけば分かる通り、なにしろほとんどの項目で「推奨グレードA(≒超おすすめ)」なのですから。

 もっとも、心臓に負担のかかることがある乳がん用の薬や、治療が終わってから肺炎などをおこすことがある薬や放射線治療内容などを受けられたがん患者さんでは、「動け動け」が検査結果によっては必ずしも好ましくない場合もありえます。それ以外にも患者さんの体調に左右される部分はあるでしょう。
 リハビリテーションの先生方だけが作成メンバーであるこのガイドラインでは、その辺りをどこまで評価されていたのかが個人的に気になる部分ではあります。

 とはいえ、なんとなく思いつきではなく、一つの客観的指針があったうえでがん患者さんへのリハビリテーションや日常の運動の指導ができるというのは臨床現場的にありがたいのは間違いありません。

 ということで私も、特に元々お元気な乳がん術後照射や前立腺がん根治照射のような方々には、「自宅でごろごろ横になっているのはよくないです!」と強調するようにしています。

 ただ、頑張りすぎて足腰いためたり、ひどく息切れしたりする方もたまにいらっしゃいますので、今までしていないようなことを急に無理しすぎないようとも指導しています。 
 今の所、狭心症発作や骨折を起こしてしまった方は私の担当患者さんにはいませんが…。


 少し前のことになりますが、うちの病院が自宅から近いという理由で某病院さんからご紹介の乳がん術後照射患者さんを外来通院で治療したことがあります。その時も、初診時に私が「いつも通りに運動してもいいですよ」とお話しました。

 放射線治療を開始してしばらく経ってからですが、その方から「いつも通り自転車をしてもいいでしょうか?」とご質問がありました。私は「もちろん!」とお返事しましたが、お話をよく聞いてみると実はその方、全国大会でチャンピオンになったこともあるすごい選手だったのです。パッと見では華奢な体格の方でしたので、びっくりしました(もちろんしっかり筋肉質でしたが)。

 いつもの運動といっても本格アスリートのいつもの、です。私はつい「放射線治療が終わるまでは、いつもの自転車の練習は少し控えたほうがよいでしょうか…?」とお茶を濁すようにお伝えし、実際治療終了まで練習制限をかけてしまいました。

 で、今は大会にばりばり出場されているようです。

 その時の私の指導、これで正しかったでしょうか?アスリート大会に出場するような激しい「いつもの」練習をしても良かったのでしょうか?これをご覧の専門家の先生方、ご助言ご教示いただけるとありがたいです。


*****************************

第8章 化学療法あるいは放射線療法がおこなわれる予定の患者または行われた患者(p120-135)

【CQ01】
化学療法・放射線療法中もしくは治療後の患者に対して運動療法を行うと、行わない場合に比べて身体活動性や身体機能(筋力、運動耐容能など)を改善することができるか?

推奨グレードA
化学療法・放射線療法中・治療後の乳がん、前立腺がん、血液腫瘍患者に運動療法は安全に実施でき、…(中略)…行うよう強く勧められる。


【CQ02】
化学療法・放射線療法中もしくは治療後の患者に対して運動療法を行うと、行わない場合に比べてQOLを改善することができるか?

推奨グレードA
化学療法・放射線療法中・治療後の乳がん、前立腺がん、血液腫瘍患者に…(中略)…行うよう強く勧められる。


【CQ03】
化学療法・放射線療法中もしくは治療後の患者に対して運動療法を行うと、行わない場合に比べて倦怠感を改善することができるか?

推奨グレードA
化学療法・放射線療法中・治療後の乳がん、前立腺がん、血液腫瘍患者に、…(中略)…行うよう強く勧められる。


【CQ04】
化学療法・放射線療法中もしくは治療後の患者に対して運動療法を行うと、行わない場合に比べて精神機能・心理面(抑うつ、不安など)を改善することができるか?

推奨グレードA
化学療法・放射線療法中・治療後の乳がん、血液腫瘍患者に、…(中略)…行うよう強く勧められる。


【CQ05】
化学療法・放射線療法中もしくは治療後の患者に対して、運動療法または(鍼治療・)物理療法を行うと、行わない場合に比べて、有害事象、その他のアウトカムを改善することができるか?

推奨グレードA
化学療法・放射線療法中・治療後のがん患者に、…(中略)…行うよう強く勧められる。


【CQ06】
化学療法・放射線療法中もしくは治療後の患者に対して、精神的リラクゼーション(音楽療法など)を行うと、行わない場合に比べて、有害事象を軽減できるか?

推奨グレードB
化学療法中・治療後のがん患者に、…(中略)…行うよう勧められる。


※(中略)部分の「運動療法」=エルゴメーターやトレッドミルを用いた有酸素運動、ストレッチングや筋力トレーニングなど


【2015/02/11 22:44】 | 放射線治療:支持療法・アメニティ
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 今日は日本医学放射線学会の地方会があり、私も口演発表をしてまいりました。

 演題名は「自力移動困難な照射症例に対する身体苦痛軽減目的の乗せかえ装置付き車椅子」

 長ったらしい演題名ですがこれで充分な要約ともいえたので、思い切って文字はほとんどなく画像だらけのスライドにしてみました。私の人生の中で最も文字数の少ない発表でした。
 実は先日、ある発表(MEDプレゼンってやつ)を聴きに行き、スライドに文字がなくても語り方やボディーランゲージで充分にプレゼンとなるなと改めて意識し、ちょっと真似してみようかな~と思いまして。
 でも、「お前、スライド作り、手抜きしただろ!」って指摘を受けそうで、あえて自分から前振りで発表の冒頭で「手抜きなし(?)」の予防線を張っておきました(笑)

 ボディーランゲージはこっ恥ずかしく結局できませんでした…


 ということで、***以下に演題抄録として以前提出したものを少し改変して転載いたします。

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 車椅子を利用する照射患者さんが段差と高さのある放射線治療寝台へ移動する際、診療放射線技師さんや看護師さんらが患者さんの身体を支えて介助することがあります。

 痛みなどがんの諸症状を発症していたり、脳こうそく後遺症などの合併症があったり、抗がん剤治療などで多くの点滴をつけていたりと、車椅子から自力移動困難な場合が少なくなく、また介助による転倒や骨折などのリスクは現場スタッフを悩ませる問題点の一つでもあります。
 また、病棟スタッフも人員不足でベッドのままの移動でなく車椅子に乗り換えて治療室まで移動せざるを得ない場合があります。

 患者さんにとっては痛かったり辛かったり、スタッフにとっても支えが不安定で心配だったり力が必要だったり、筋骨隆々の男性技師さんならまだしもかよわき女性の若い技師さんや看護師さんだと業務とはいえ男性患者さんの身体を抱きかかえながら移すことにいささか抵抗があったりもします。

 そのような患者さんに対し毎回の放射線治療そのものに伴う負担を改善する方策として、患者さんに過度の負担を与えず医療スタッフの労力軽減にも効果があるとして介護分野などで利用されている「乗せ換え装置付き車いす」(HS-300、㈱いうら社)を今年の3月にうちの病院で導入してみました(写真)。
http://www.iura.co.jp/products/hs300/index.html

 この機器の最大の長所は、車いす(坐位)からストレッチャー(臥位)にゆっくりと形が変わり、付属の繰り出しベルトで苦痛が少なく治療寝台や病室ベッドに乗せかえが安全に楽にできる点です。若い放射線技師さんから「くるまいすとれっちゃー」というわかりやすい呼び名をつけてもらいました(でもスタッフ全員がそう呼んでくれるわけではありません…)。

 これまでに骨転移そのもので移動が難しい患者さんと脳こうそく後遺症で半身不随の患者さんと脳腫瘍で体調不良の患者さんの放射線治療にくるまいすとれっちゃーを使用しましたが、ご利用いただいた患者さんからは「楽に放射線治療が終われました」というお言葉をいただきました。

 車いすの患者さん全員に必要というわけではないでしょうが、安全安楽に放射線治療を行うための有効な補助具としてこれからも活用したいと思っています。

**********************************

 今回の発表後、フロアから「普通にベッド移動でもいいのでは?」的な質問がありました。

 たしかにその通りで、うちの病院でも実際多くの入院患者さんはベッドで臥床したまま移動してきます。しかし、ベッドのままで院内移動や待機というのは「重症感があって抵抗がある、恥ずかしい」という患者さんのご意見もあります(以前からそんな話を看護師さんたちから伺っていました)。

 病棟看護師さん的にもマンパワーが不足しがちな要素です。でも、くるまいすとれっちゃーなら看護助手さんやお付き添いの方でも治療室まで比較的楽に連れていただくことができます。外来通院で車椅子移動を要する患者さんでも、くるまいすとれっちゃーが役に立つ方はいそうです。

 他の用途として病室から他科の外来診察に行く時も、ベッド移動でなく車椅子移動のほうが外来の待合スペース的に便利です。治療台に限らず、病室ベッドから車椅子移動も危険を伴う恐れがあります。

 安全安楽な小道具がいろいろあるって良いと思いません?

 さらにちょっと改良するともっと使い勝手がよくなりそうなのですが、それはこれからの課題です。どこかの研究開発費、獲得できないかなあ?


 おかげさまで12月の日本放射線腫瘍学会でもポスター発表として演題採択されました。文字ばかりでごちゃごちゃは避け、「私の人生の中で最も文字数の少ないポスター発表」にしたいと思います。

 手抜きをするつもりではございません!


くるまいすとれっちゃー

【2014/10/24 23:27】 | 放射線治療:支持療法・アメニティ
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 先日、地元の「〇×看護ケアセミナー」に私も参加してきました。同時間帯の他会場ではうちの病院の先生方もご発表される講演会が2つもあり、苦渋の選択でしたが。


 座長の先生による基調講演のあと、某がんセンターがん放射線療法看護認定看護師さんの教育講演「放射線治療に伴う副作用マネージメント」と、国立がん研究センター中央病院アピアランス支援室長である野澤さんの特別講演「がん治療に伴う外見変化と患者サポート」の2講演。どちらも私にとって大変興味深いタイトルでしたが、内容も期待通り、いや以上で、他会場を裏切った甲斐(?)がありました。m(_ _)m

 某がんセンターさんは昨年うちの施設に導入した高精度放射線治療装置と同系の装置をすでにフル稼働させていることで有名だったので、何名かのスタッフと一緒に一度施設見学をさせていただいたことがあります。そのおかげもあって、うちの装置も順調に稼働しております。改めてこの場をお借りして御礼申し上げます。
 ご講演では、先日投稿したセツキシマブと放射線治療の併用時の副作用対策など、大変参考になるお話をいくつも伺えました。やはりセツキシマブと放射線治療の同時併用は皮膚炎や粘膜炎が強く出るそうです。私の初期臨床経験とほぼ一致…

 放射線皮膚炎に対するケアって、私の知る限り診療エビデンス(科学的証拠)があるようであまりありません。日本人への対応については特に(現時点では国がん東病院単施設PhaseIIだけ?)。
 皮膚炎が出現した時に使用する軟膏類は何がベストなのか?治療開始時から軟膏類を塗布すべきなのか?使うとしたらどのタイミングでどんな薬剤を使うのがいいのか?一般的なスキンケアとしてパンフレットや教科書に記載されていることも、実は昔からの慣例や口コミだったり(私もきちんと確認できてません…)、正常人用のスキンケア(も明確なエビデンスがあるようでないらしい…)を病状や治療の副作用で傷ついた部分にそのまま当てはめていいものかは疑問だったり、そしてそのやり方も施設毎で異なっていたり、と。  
 もちろん「証拠がない≠効果がない」なのですけれど、なんとなく(?)行っている放射線治療の支持療法って少なくないような気がします。

 その後の懇親会では地元の認定看護師さんたちを交え、いろいろ有意義なお話ができました。で、結局は「現状ではまだ検討すべき事項が多いですよね」ってまとめ(で、終わってはいけないのでしょう…)。


 野澤さんのアピアランス支援(ケア)のお話も目から鱗の内容がたくさんありました(以下、「 」内は私が講演をメモした言葉です)。

 「身体の痛みよりも、外見の変化のほうが患者に苦痛をもたらす」

 アピアランス(appearance)とは、顔つき・容貌など患者さんの外見のこと。がん治療によって身体の変化や症状が現れると、仕事や学校への影響がでたり、生活の変更を余儀なくされることがあります。
 がんの治療に伴う外見の悩みに対処して患者さんの『生きる』を支える部門がアピアランス支援センターだそうです(国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センターHPより)。
http://www.ncc.go.jp/jp/ncch/consultation/appearance.html

 野澤さんによると、外見に関するケアの方法も十分なエビデンスというものがないそうです。患者さんに「勉強しすぎた医療者がケアを押しつけたり、一般論ばかりで逆に悩ませたりするケースがある(私の解釈)」とも話されていました。
 そもそもその情報、元はどこから発信されたものなのか?エビデンスはあるのか?その人にはあてはまる情報とは何か?「業者さん目線で商品紹介をしていないか?」…放射線皮膚炎ケアのお話とかぶります。

 「患者さんの目線と医療者の目線を持ったアピアランス支援を」…すべての医療にも通じることですね。

 日本では診療報酬上の特典は(まだ)ないようで、これからという領域だと思いますが、「患者さんの目線からは」とても大切な部分だなと改めて感じました。うちの病院にもできるといいなあ。


 良いセミナーでした。


【2014/06/03 13:18】 | 放射線治療:支持療法・アメニティ
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 今回の学会では、私もポスター発表をしました。

 タイトルは「骨盤部放射線治療用術衣の試作と使用後患者アンケート調査」
 某業者さんと共同製作したオリジナル骨盤部放射線治療用病衣の紹介。まだ試作段階なのですが、ここ数か月ほど希望された患者さんにご使用いただいております。
 
 抄録集に掲載された要約(改変)を以下に転載します。抄録集をお持ちの方には別に紹介不要?…お持ちでなくても不要??
 『骨盤部照射では、下腹部皮膚をほぼ露出した状態で患者の皮膚マーキングを元に治療寝台上でのセットアップを行うことが少なくない。正確な放射線治療実施に必要とはいえ、下半身を連日露出するのは、患者の立場からは羞恥心など精神的苦痛を少なからず感じるものである。また、病状によっては着衣などに体液が付着し、治療寝台が汚染される恐れもある。当院で昨年からオゴー先生らが開発した乳癌術後放射線治療用病衣「マンマスーツ」を導入した所、乳癌患者や治療担当放射線技師らに大変好評で、骨盤部での術衣も欲しいという現場の要望があった。そこでがん放射線療法看護認定看護師ら当院放射線治療部門スタッフと意見交換し、某株式会社と○×骨盤部治療用トランクスを共同試作したので紹介する。ディスポーザプルの紙製で、腹側と両側の3ヶ所がマーキング確認のため開閉できるようになっている。本年5月に院内採用承認を得たばかりであるが、セットアップの精度面、コスト面の評価に加え、今後使用される症例に着用感想のアンケート調査を併せて発表する予定である。調査項目は「着心地」「デザイン性」「耐久性」「着衣、セットアップの煩雑感」「羞恥感」』

 最大のポイントは「放射線治療の時に極力下腹部を隠せる」こと。以下、骨盤部放射線治療用病衣→「穴あきパンツ」としました。
 穴あきパンツ、普通にありそうなんですけど少なくとも私はこれまでみたことなかったんですよね。きっと実物があったほうがいいだろうと、ポスター会場には穴あきパンツも展示してみました。ブログでも実物の写真があったほうがわかりやすいと思うのですが、試作品の段階なので念のため公開は控えておきます。

 アンケート調査結果ですが、たまたまご高齢の男性患者さんが多かったからか「別に恥ずかしくないから着ない」とか「めんどくさいから途中から着るのをやめた」というご意見もございました。もともとこのパンツは女性患者さんを主たるターゲットに立案したのですが、プロトタイプとはいえ今後いくつか改良が必要かもしれません。
 もう少しアンケート集積を重ねて、来年どこかで第2報を報告できればと思ってます。

 ポスター会場では、一部の看護師さんから「これ、欲しいよね」っていう嬉しいささやき声も聞こえました。看護師さんたちに見て評価してもらいたかったので、ひそかにうれしかったです。
 穴あきパンツ、近いうちに製品化できて、多くの患者さんに喜んでもらえるといいなぁ。

 学会の前夜祭では、穴あきパンツ製作のきっかけとなったマンマスーツを開発されたオゴー先生にもお会いできました。そして、美味しい赤ワインの力も借りて、先生が開発の際にご苦労された経験などいろいろなお話を伺えました。
 「これからの放射線治療は、治療だけでなく、がん患者さんに対するアメニティ向上にも積極的に力を入れていくべきですよね!」などとほざく私の偉そうな気分をより高揚させていただける、とても実りある対話のひと時でした。オゴー先生、どうもありがとうございました。


 ポスター発表を聴きに来てくれた看護師さんたちに着衣デモもありか?と、発表当日はスーツの下に穴あきパンツとオヤジの地肌を隠すためのランニング用タイツを履いていきました。午後の発表だったので、景気づけと緊張軽減のため、昼食で軽く一杯ひっかけつつ…

 が、顔を赤らめながらドキドキの発表現場にいたのは真面目なこわい顔した男性(たぶん放射線腫瘍医や医学物理士さんたち)がほとんど。会場はあまりに場違いな空気が充満していたので、別の意味で恥ずかしくなり結局出さずじまいで終わってしまいました。


 結果的にですが10月の青森はさすが朝晩の冷えこみが強く、ランニング用タイツはモモヒキとして大変役に立ちました。


【2013/10/22 21:33】 | 放射線治療:支持療法・アメニティ
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 一昨日から今日まで3日間、日本放射線腫瘍学会第26回学術大会が青森市で開催されました。大会長である弘前大放射線科学講座 高井良尋教授のご高配で学会前日の会長招宴(前夜祭)から参加させていただき、諸事情で昨日まで青森に滞在しました。
 前夜祭会場の「ねぶたの家ワ・ラッセ」の大展示場には大型ねぶたが多数飾られていました。私ははじめて実物をみましたが、それはそれは壮観でした!

 で、今回の学会で私が注目した分野(?)の一つが「看護師さん」でした。


 看護の資格を持つ個人が自主的に加入し運用する日本最大の看護職能団体である(←そのままHPより引用)日本看護協会では、国民への質の高い医療の提供を目的に専門看護師・認定看護師などの資格認定制度も運営されています。
 放射線治療分野でも、がん放射線療法看護認定看護師という放射線治療を受ける患者さんの看護に特化した分野が平成22年に新しく制定されました。うちの病院にも1名優秀な認定看護師さんがいらっしゃいます(ごまはすってません)。放射線治療の効果を最大限に得るために、放射線療法の治療中に生じる患者さんの身体、心理、社会的問題の解決を支援し、長期にわたる治療を患者さんが主体的に継続しながら完遂できるよう専門的知識と技術でサポートしてくださるので、私たち放射線腫瘍医も日頃大変助けてもらっています(ごまはすってません)。


 学会初日のアフタヌーンセミナーでは、「放射線治療におけるチーム医療―東北大学病院の現状と今後の展望」と題した医師、認定看護師双方の立場からの報告がありました。 
 演者の看護師さんは耳鼻科病棟所属だそうで、頭頸部がん患者さんを入院看護している立場からのご発表でした。頭頸部がんでは治療効果を高めるために抗がん剤と放射線治療を同時に行うことが標準ですが、皮膚・粘膜炎やそれに伴う栄養低下、唾液分泌障害など、患者さんによってはかなりつらい副作用も伴ってしまいます。
 さすがは東北大らしく、医師・看護師だけでなく歯科処置・胃ろうなどからの栄養管理・嚥下などのリハビリ・精神ケアなど、多職種チーム医療として頭頸部がん治療の支援をなされているというご発表を拝聴し、いろいろな面で参考になりました。

 ただ最後に認定看護師さん自身が「放射線治療がどこにどのように照射されているのかがわかりにくい」という問題提起もされていました。


 昨日の2日目は午前に看護系のポスター発表がありました。
 今回の学会では、以前と比べて客観的な評価・解析を交えた心身のケアサポートに関するご発表が多くなってきた印象を持ちました。やはり認定看護師制度の効果が出てきているのかな?看護セッションの座長を勤められた某先生も「看護師さん達が堂々と質疑応答を繰り広げるようになったのは目から鱗でした。」とおっしゃっていました。フロアでは皮膚炎や粘膜炎、唾液腺障害などの身体的影響に対する処置についても積極的な意見交換がなされていました。
 ただ、ここでも同じように「放射線治療がどこにどのように照射されているのかがわかりにくいのが身体的処置で悩むところ」との意見が出ていました。○×大学とか△□がんセンターといった有名な施設の(おそらく認定)看護師さんから。
 ある看護師さんからは「きちんとしたCT読影の教育を受けてないから、(治療計画)CT画像を見た瞬間に引いちゃいます」という意見もでていました。


 昨今の複雑化した高精度放射線治療(IMRTやらIGRTやら粒子線治療やら)は他科の医者にもわかりにくいという話を耳にすることが少なくありません。いや、以前から病巣設定や線量分布図など放射線治療計画自体が一部ブラックボックス化していて、放射線腫瘍医(や診療放射線技師・医学物理士さん)以外の医療者にはわかりにくい環境にある施設が実は多いだろうと思っています。がん放射線療法看護認定看護師さんですら…
 「放射線治療計画なんて放射線腫瘍医に全部お任せ」っておっしゃる他科の先生も少なくないでしょうが…?

 うちの病院でも医者同士の治療検討会、医者と看護師を含めたコメディカルとのカンファレンスなどは行っていますが、他科の先生や看護師さんたちと放射線治療計画上の照射野や線量分布を「きちんと」確認できているとは正直断言できません。今回の学会では、看護師さんたちともさらに一歩踏み込んだ診療・ケアができるような仕組み・教育体制を改めて見直すべきだと教えていただきました(もちろん他科のお医者さんに対しても)。


 本当は今日最終日の午後にあったシンポジウム「放射線治療における看護職の役割と今後の展望」も参加してみたかったのですが、私が病棟待機番でやむなく断念。うちの認定看護師さんにどんなシンポジウムだったのか、明日(以降)聞いてみたいと思っています。




【2013/10/20 19:27】 | 放射線治療:支持療法・アメニティ
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 少し前の外来で放射線治療中のある患者さんが、照射部位のヒリヒリと軽い痛痒さを訴え始めたので、リンデロンVG軟膏というステロイド軟膏を処方しようとしました。すると、その患者さんから「持っているからいらない」とご返答が。
 よく聞くと「うちの犬にもらった同じやつが家にある」と…

 「でも、それは転用だから」というも、「いらない」と拒絶され…
 結局、前から使っていた別のタイプの軟膏で経過観察とし、その後もさほど増悪なく予定の放射線治療が完了しました。


 放射線皮膚炎にステロイドなんか使わないで!っていうお医者さんもいらっしゃるかもしれませんが、日焼け程度に赤くなって痒いとかヒリヒリするなどの自覚症状を改善する時は結構効果あるので、私は使っちゃうほうです。ただれとか感染とかがある時には控えますけど。
 ちなみに私は照射開始時からの皮膚炎予防の投薬はしません。これも話題にするといろいなご意見が出てきて面白そうですが、今回のブログでは深入りしません。

 で、その患者さんに対して私から「じゃ、犬のやつを使ってね」とはもちろん(表向き)絶対言えませんでした。
 でも、もしかして使われちゃってたのかなぁ?その後も皮膚炎はそんなに悪くならなかったし…

 ちなみにうちにも(ヒト用の)軟膏が数本あって、どれが誰のか私には区別困難です。うちの犬に湿疹が出たら使ってみるか?

 私は人間以外の動物については詳しくないのですが、犬や猫も人間と同じ薬を使うことが多いらしいです。まあ、解剖学的には似たような構造をしているし、薬の開発をする時はまずは動物たちに毒見させているから、量の調整は別としても人間サマと同じ薬を使ってしかるべきなんでしょうけどね。

 と思いつつも、やっぱり「犬のリンデロンねぇ…」でした。
 ちなみに医者が人間の患者さんに処方した薬も、他人への無断転用は法律で認められていません。全く同じ薬でも薬局で買ったものは、誰が服用しても(つまり他人に渡しても)原則問題にはならないらしいです。


 法律は守らなければいけませんよね?


【2013/08/31 22:40】 | 放射線治療:支持療法・アメニティ
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