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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 病院を移籍しておよそ2か月が経過しました。ブログ更新、すっかりご無沙汰になっていました。前回更新後も歓送迎会や懇親会などがいろいろあり、いささか胃もたれ(と懐具合)が気になる昨今です。

 初の粒子線治療、初の新幹線通勤、初の東京診療など、50歳を超えたオヤジ放射線腫瘍医にはあまり慣れない環境が続いております。もっとも、若くやる気ある先生方が多い施設なので、肉体的負担は(朝が早く遠距離通勤が多く夜の会合が多いことを除いて)そんなではないのですが…。

 そもそも粒子線治療は(来年度からの先進医療絡みで)ようやく国内で多施設臨床試験の計画がいくつか進んでいる状態らしく、過去の医学論文をちらちらながめてもX線治療のような標準的といえる治療法がまだきちんと定まっていません。ということで、良くも悪くも各施設・担当医の裁量権にある程度任せられているような印象です。X線治療しか知らず経験の乏しい新人の私は、正直頭の中がまだまだ整理しきれておりません。
 もっとも、X線治療においても(抗がん剤や手術にしても)診療ガイドラインというのはあくまで限られた患者さんに該当する標準的な診療内容を示しているに過ぎず、例えば高齢者とか再治療など幾多もある例外患者さんのご意向を踏まえたうえで各担当医の裁量権に委ねられている診療というのも多々あるわけですが…。

 (せいぜい四半世紀の限られた経験しか私もありませんが)施設によって、いや各科・各担当医によって、裁量権というか診療スタンスに関する根拠度・イケイケ度というのは全然違います。生存率といった医学的な客観数値で表現しがたいこの辺の違いは、がん診療に限ってはいるものの各診療科と横断的に交流できる放射線治療科ならでは味わえる印象・感覚なのかもしれません。各施設の治療件数やスタッフ数も診療レベルある程度示唆するものではありますが、当然それだけではありません。
 現在私が所属している施設は、年配の先生方も多いのですがどちらかというといろいろな面で「元気」です。民間病院だからかな?そしてうちの科は特に若くて元気な先生が多いです。ちなみに、実はまもなく新人の私が最年長になってしまいます(笑)

 粒子線治療を受けられる患者さんの層(という表現は不適切か…)も一般的なX線治療患者さんとは「異質」な印象です。約300万円を実費で支払う、または先進医療保険特約に加入しているという点で、すでにバイアスがかかっているからでしょうか?
 保険外の高額診療というのは、本来の診療以外のプレッシャーもどことなく感じてしまいます。


 仮面をかぶった(つもりの)状態で、老いも若きもいろいろな方からいろいろと学ばせていただいております。


 医学論文も書くように言われています…ブログ更新すら滞っているのに(苦笑)。でも、慣れてきたらもう少し投稿数を増やせそうな気はします。


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【2015/08/30 23:31】 | 放射線治療:一般
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通りすがり
放射線診断の方は物理や数学に明るくなくても
大丈夫みたいですが腫瘍医でバリバリやるには
やっぱり物理と数学に詳しくないと厳しいでしょうか?

通りすがりさんへ
JIN
機器など医学物理系研究を医師としてしたいから詳しい方が良いでしょうが、腫瘍医であっても臨床医なら算数くらいで充分です。むしろ文系に明るい方が役立つ気がします。でも学会員をみわたすと物理や数学が得意そうな先生は多いですね。


通りすがり
お礼遅くなり申し訳ありません。
算数レベルで良いとは意外です。
ありがとうございました。

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 最初の原稿提出後2か月以上も過ぎて私の所に戻ってきた総説原稿の再校正をし、郵送し返しました、という内容のブログを先月下旬に投稿しました。

 が!出版社の方に校正原稿をお送りしてまだ2週間ちょっとしか経過していないのに、なんと昨日きちんと製本された医学雑誌を出版社さんから献本で届けていただきました。

 投稿先は放射線科系の日本語の医学雑誌で、タイトルはブログ通り「筋層浸潤性膀胱がんの化学放射線治療」。真面目なお医者さんたち向けに堅苦しい文章で書いてます。引用文献は全部で40以上も載せましたし、原著は一通り目を通しました。

 でも正直、自分としてはブログ3部作のほうがわかりやすい内容のような気はします(などと書いてはいけないのです)が…。
 http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-89.html
 http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-90.html
 http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-103.html


 私、以前の職場の上司のご指令で数年前に自施設の膀胱癌の放射線治療成績をまとめて研究会で発表したり、学会でも教育講演などという大役を仰せつかったりもしましたが、膀胱癌の放射線治療の論文をまともに書くのは(ここだけの話)実は初めてのことでした。
 
 つまり、処女作がいきなり総説でした。


 処女作、英語ではa maiden work

 『 “maiden”は「初めての」という意味で「男性経験がない女性」も指す。“virgin”は「混じりけのない、純粋な」という意味で 、男女の区別はない言葉。高齢の知り合いは修道女を「童貞さん」と呼んでいた。(Yahoo知恵袋より抜粋)』。
 (私と違って)英語に詳しい方なら常識かもしれないプチ雑学でした。特に深い意味はございませんので、あしからず。


 以前に教育講演を担当させていただいた時にも感じましたが、総説などというたいそうな文章を他人さま(しかも専門のお医者さんたち)に読んでいただくというのは、結構プレッシャーにはなるけれど実は自分が一番勉強になるようです。

 このブログでこれまで「〇✕がんの放射線治療」みたいな正統派っぽい各論は(ネットを見ればいろいろ書いてあるし、あえて)あまり書いてきませんでした。が、来年からは『小学生でもわかる放射線治療』みたいな投稿をチャレンジしてみてもいいかな?などと少し考えたりしています。
 書くは易しでハードルは結構高そうですが、今後の診療の一助にもなりそうですし…。

 登場人物は「主人公ドクターJIN、博学センムリ爺、素直な女の子ミキちゃん、お馬鹿でお調子者の男の子ヨシキくん、健診オタクのカツオ先輩、食べるの大好きカツマタ社長、劣等生だけどたまにキラリと光る発言をする研修医タケちゃん、ほか」って構成にしようかという話にごく内輪でしています(おふざけが入っていて申し訳ございません)。

  「無理なく、でも数年後には書籍化」という目標設定で…


 話をはじめに戻しますが、雑誌って原稿さえできていれば製本として仕上がるの、むちゃくちゃ速いんですね。


【2014/12/11 01:27】 | 放射線治療:一般
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 緊急照射はスタッフがそれなりにいるがん拠点病院のうちでも大変です。まして、そうでない地方施設での対応は至難かもしれません。私、そういう施設でも何年も仕事をさせていただきました。ただ、単なる綺麗ごとのボランティアやスタッフの時間を搾取する半強制労働では長期間続きがたいものがあります。
 患者さんのためにという理想論やべき論を書籍やネットや講演などで語る都会の大学病院やがんセンターでしか常勤で仕事をしたことない偉い先生方がいますが、実感としてどこまでわかっているのかなと思うことがままあります。ま、これは緊急照射に限った話ではありませんね。

 とはいえ、何らかの対応策を検討し、無理なく可能な範囲から始めることが求められる時代になってきているのも確かなようです。何を今ごろ、普通の企業では当たり前だ!という反論も出そうです。

 施設内の既存のメンバーで調整対応が可能ならそれで頑張る(もちろん代休やお手当などの待遇改善付きで)というのはもちろん一つの手です。

 それ以外に個人的に思いつく対策案を以下に挙げてみます。他にもいろいろな意見はあると思いますので、機会がありましたら是非ご教示くださいませ。スタッフの給与や代休に関してもとても大事な課題ですが施設毎に方針が様々ありそうなので、あくまで労働としてどう対応するといいだろうという点に絞らせていただきます。

1.各地域で緊急照射病院の輪番制をとる。あるいはがん拠点病院が代表して地域患者さんを受け入れる。
  ただし、がん緊急の患者さんを他施設まで搬送するというのはかなりハードルが高いです。しかも放射線治療が可能な施設なのに他の病院までわざわざ緊急搬送するのは心情的に…というのは前回も書きました。  

 その後の患者さんの全身管理をどうするかという課題はあります。当日に緊急1回照射したらまたお戻りいただくという手もありますが、何時間もかけて来院された後にまた同じ時間かけて戻るというのはたしかに大変です。
 現在、厚生労働省からがん拠点病院に緊急緩和ケア病床を推進という話が出ています(平成25年9月5日 緩和ケア推進検討会第二次中間とりまとめ(報告書))。ここが受け皿になるという手はありそうですが、やはり各施設・診療科間や患者さんサイドとの連携が課題です。これも緊急照射だけの問題ではありません。

2.各地域で決めた休日当番の放射線腫瘍医や放射線技師さんが該当病院まで出張支援する。
 あるいはネットを使い放射線腫瘍医が遠隔で放射線治療計画を行うという方法もあります。その施設の主治医や救急担当医が診察をし、情報共有しながら放射線治療を施行すればいい。
 常勤の放射線腫瘍医がおらず週に1-2回非常勤出張支援でやりくりしている病院、常勤医が1人(以上)いても学会出張などで不在となる日がある病院では、平日日中ですら緊急照射対応が難しくなります。

 しかし、少なくとも放射線技師さんはその施設の担当の方が行ったほうが良いでしょうね。放射線技師さんは機械の操作は使い慣れた施設のスタッフでないと事故のもとです。ただ、そうなると前回も触れたとおりで院内での業務不平等が発生しがちです。

3.標準的な対応の参考になるよう緊急照射ガイドラインを作成する。一つの目安があると現場としては助かる部分もあります。
 緊急照射は治療精度より時間との戦いが重要です。基本、後遺症が出るような総線量ではないので、(多少)広めでアバウトな治療設定は許容されます。むしろ下手に時間をかけすぎるとデメリットの方が大きくなる恐れが高まります。

 対象疾患や治療法を具体的にどう規定するか、世界的に見てもなかなかエビデンスといえるものがまだない領域です。また、対応力に地域間・施設間格差がありすぎます。文書化は簡単ではないかもしれません。
 もちろん放射線治療以外の緊急治療もあり、整形外科や脳外科など他学会との共同検討も必要なのでしょう。


 さしあたりこんな所でしょうか。


 先日の「休日照射・緊急照射」を主題とした研究会では、3つのカテゴリーに分けた課題がおよそ明確になりました。

1.緊急照射:他職種連携を含めた時間の勝負
2.休日照射:長期連休の対応
3.平日早朝夜間照射:就労支援対策

 いずれもスタッフの人員整備が一番の課題で、個人的に思いつく対応策はこれまでにあげた課題を含め重複する部分もありますが、休日照射や平日早朝夜間照射についてはまた別に話題に取り上げてみたいと思います。お国や上司などからがん拠点病院として試行を打診されていることもありまして、休日・平日早朝夜間照射も前向きな検討が求められる時代になってきました。

 今回の研究会では時間的制約もあり「どこもなかなか大変だよね」という問題抽出で終了し、いささか物足りなさを感じました。「はてさて、ではどうしたら?」という『具体的な対策』を日本放射線腫瘍学会あたりでいろいろ検討しないといけなさそうな内容かもしれません。

 もしかして私は平社員だから知らないだけで、すでに検討されてます??


 このあと研究会の発表報告文書を提出しないといけないのですが、このブログを使って書けそうです(笑)。ただ、今回の3つと以前の休日照射2つ、全部で5つのブログ約10000字(+α)を指定の2000字程度に減量しなければいけません…


【2014/10/26 23:48】 | 放射線治療:一般
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 放射線治療担当技師さんの現状の休日体制について

 ごく一部の大病院のように放射線治療部門と診断部門の技師さんたちがたくさんいて組織図上でも両所属が別れているならば、両方で病院夜間休日当番をそれぞれ組むのは比較的容易かもしれません。
 しかし、普通の病院では一つの放射線技師部門として診断と治療をある期間固定しながらローテーションするのが一般的です。そして夜間や休日は交代で1~2人体制で出勤や待機をします。うちの病院もそうですが、放射線技師さんが全員で10~20数人程度しかいないので月に何回か時間外当番となります。
 そして普通は救急外来や病棟患者さんの放射線検査業務で手一杯という状態が日常茶飯事です。そんな中で当番技師さんを緊急照射に駆り出すのはなかなか難しいものです。無理強いすれば様々なスタッフから非難ごうごう間違いなしです。下手をすれば医療事故の原因にもなり得ます。

 治療部門の規模が小さな施設だと1-2名の放射線技師さんだけで治療装置を担当している所が結構あります。1-2名の治療担当技師さんだけで夜間休日当番態勢というのは現実的に厳しいです。診断部門と比べて明らかに不平等な待遇です。時間外待機料無しなんていうブラック系病院は、いまだにとても多いようですし。。。(病院から呼ばれて業務をしたらもちろん時間外手当はありますが)。
 ちなみにうちの病院は数名の治療担当放射線技師さんがいらっしゃるので恵まれています。申し訳ございません。

 前回ブログで休日照射を多数行っていると紹介したOdette Cancer Center (Canada)の休日体制は、なんと放射線腫瘍医1名、診療放射線技師2名、全員が治療専属です。日本の中規模一般病院の平日通常業務並みです!
 こんなことを日本で普通に行っている施設ってあるのかなぁ?

 前回ブログ投稿の後、他の科の先生から「某病院でのかつての経験では、休日緊急照射の装置操作は医師一人で行っていました。放射線科医って、MRI、CTも撮影できて、照射装置も一人でできるんだと、尊敬、感銘を受けました。」というお話を伺いました。たしかに医者は放射線機器の操作・撮影が法的に可能です。医師免許って(ほぼ)なんでもありです。
 開業医さんでもご自身が放射線検査の撮影をなさっている所もありますね。看護師さんらしき人が撮影している診療所もあるらしいですが。。。駄目ですよ!

 しかし昔と違って、医師がなんでも装置を扱える時代ではなくなってきています。システムが高度化しすぎていて、中途半端な操作はかえって危険です(前回も書きました)。

 
 他の病院でがんによる緊急症状になった患者さんの対応について

 うちの病院には、緊急照射を必要としそうなMSCC(悪性腫瘍による脊髄圧迫)疑いのため放射線治療機器を有しない他院から救急車などで緊急搬送される方が年に数例います。
 手術の適応があるかどうかを含め、整形外科の先生方同士が連絡して転院という形をとっていただくことが多いのですが、在宅がん緩和ケアで療養中の方や状態的に明らかに全身麻酔手術は無理そうな方の場合、主治医の先生からうちの放射線治療科へ緊急照射の直接依頼が来ることもあります。もちろんそのような場合でも、MRIなどの検査結果を踏まえ来院後に整形外科の先生らにも相談をして手術か緊急照射か(経過観察か)を診断します。

 うちの病院ではその後のリハビリを含めて暫定入院される場合もあれば、1回照射で当日そのままお帰りいただく(ご依頼元の病院・施設に戻る)場合もあります。整形外科などの先生がたのご尽力もあって受け入れ体制は整備されていると思いますが、放射線治療装置を有するどこの病院でもそうかというと私の知る限りそうではありません。

 治療担当放射線技師さんのマンパワー問題と同様に、そもそも放射線腫瘍医がいない施設が少なからず存在することも大きな問題点です。がん診療連携拠点病院という各地域でがん医療の中心を担うべき中核施設ですら、常勤の放射線腫瘍医が不在という所がまだまだあります。
 日本放射線腫瘍学会による2010 年定期構造調査報告(第1報)では、アンケートに協力した全国の放射線治療施設の半数近くが常勤の(必ずしも専門医ではない)放射線腫瘍医が不在か1人の常勤医しかいないと回答していました。残念ながら今もその状況は劇的に改善していないと思われます。

 放射線腫瘍医不在の施設で緊急照射を行う体制をきちんと整えるのはなかなか難しいと思います。代わりに他科の先生が緊急照射の準備を行うことも不可能ではありませんが、中途半端な操作はかえって危険です(何度も繰り返して申し訳ございません)。

 とはいえ、放射線治療装置がある施設から緊急照射を行っている別の施設へわざわざ転院というのも患者さんや身内の方がたからすれば素直にご納得しがたい部分はあるでしょうね。


 慢性的なスタッフのマンパワー不足、放射線治療分野では緊急照射においても深刻な問題です。


(今回は現場の医療者側の目線中心に書いてしまいました…まだ終わりません)


【2014/10/15 21:28】 | 放射線治療:一般
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 今月下旬に開催される放射線治療の某研究会で「休日照射・緊急照射」が主題テーマとなりました。私も演題発表担当の一人に任命され、現在スライド準備中です。

 「休日照射」と「緊急照射」

 似て非なる、現場的にはそれぞれなかなか難しい問題がいろいろとある、そして全国的にも施設によって方針がかなり異なるだろうデリケートなテーマだと思います。当番世話人の先生はアンケート調査を実施されていて(うちの施設も協力)、研究会でご発表予定とのこと、とても興味深いです。


 休日照射については以前のブログで投稿したことがあります。「大型連休における照射について(1)(2)」。せっかくですし今回のスライド発表ではこれも再利用する予定です(笑)。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-29.html
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-30.html

 もう一つのテーマである緊急照射ですが、「平日の時間外または休日(つまり通常の業務時間外)に、がんによる緊急症状に対して臨時に行う放射線治療」のことをさします(定義は私見)。今回のブログでは、緊急照射についてうちの施設での体制や課題を中心にまとめてみることにしました。


 私が今の病院に着任してから3年余り経つのですが、休日に緊急照射依頼があったのは1例です。平日午後~夕方に飛び込みで緊急照射依頼があったのは平均すると月1例程度(なぜか金曜が大半)、スタッフのご協力を仰いでその日の夜までに緊急照射を行いました。
 依頼のほとんどが悪性腫瘍による脊髄圧迫(Malignant Spinal Cord Compression:以下MSCC)でした。

 下半身マヒなどがあっという間に進行し、がん患者さんの生活の質を永久的に著しく低下させてしまうおそれがあるMSCC。放射線治療計画ガイドライン2012年版(日本放射線腫瘍学会編)ではマヒなどの症状が出たらできるだけ早く治療開始することが重要と書かれています。
 完全マヒになったら2日以内に緊急照射を行わないと回復する見込みはほぼ無いと報告されています。
Loblaw DA, et al. JCO 1998; 16: 1613-1624
 また、患者さんの状態が良ければ手術をした後に放射線治療を行ったほうが治りは良いとも報告されています。
Patchell RA. Lancet 2005; 366: 643-648

 MSCCについては、また改めてブログにしてみたいと思います。


 どんながんによる症状を緊急照射の対象にすべきか、実はきちんと定まっていないようです。でも、MSCCは第1選択です。肺がんなどで上半身が浮腫んでしまう上大静脈症候群も緊急性が高い病状で、他にも脳転移や出血や閉塞なども対象になりえます。

 緊急照射に関連する論文報告って世界的に見ても(意外に)とても少ないようです。

 2年間でなんと161例もの休日緊急照射を行ったOdette Cancer Center (カナダ)からの報告では、MSCCを含む脊椎病変が70%、脳転移が15%、上大静脈症候群を含む胸部病変が10%と、この3部位で緊急照射の大半を占めていたそうです。年間新患数が5200件もある施設なので、多い施設でもその数分の一しかない日本とは単純な比較はできませんが、個人的におよその傾向は合っているような気がします。
Mitera G et al. Curr Oncol. 2009; 16: 55–60


 時間外緊急照射となると、スタッフの人員整備が大きな問題です。どの業界でもきっと同じでしょう。

 うちの施設で緊急照射に対応するスタッフ。放射線腫瘍医は病棟待機が誰か1人いるのでその人が対応することになります。放射線部門外来看護師さんは放射線部全体の待機がいます。でも(忙しくなければ)救急または該当患者さんの病棟看護師さんにお手伝いしていただくことも一応可能です。
 診療放射線技師さんは診断部門と兼務の(というかほとんど診断の)時間外待機技師さんがいます。ただ、実は全員が治療装置を扱えるわけではありません。逆にCTやMRIを操作できない技師さんというのもいます。これは私の知っている施設ではほとんどがそうかもしれません。

 「なぜみんな操作ができないのか?」、「なぜきちんと治療待機担当を作らないのか?」というご意見もあろうかと思います。でも、昨今の放射線装置はどれも特殊すぎて普段扱っていない技師さんに機械の操作をいきなりお願いすることは正直容易ではありません。数年も使用していない、あるいは使ったことのないコンピューターや携帯電話をいきなり使えと言われても無理なのと似たようなことです。治療装置などは中途半端な操作はかえって危険を伴います。
 幸い(?)今の所、うちの治療担当技師さんたちは近隣に住む方々が多いので全員が週末2日間も連絡つかないという事態はまずありません(絶対ではないでしょ?と言われればそうですが…)。

 3年半で1回行った休日緊急照射は5月の連休ど真ん中のことでした。たまたま私が当番の時だったのですが、当番の診療放射線技師さんが少し前まで放射線治療担当だった方でラッキーでしたし、また放射線治療担当の技師さんも一人休日の中お手伝いに来てくれました。

 たまたまでは?と言われればそうだったかもしれません…。


(さらに続きます)


【2014/10/13 22:31】 | 放射線治療:一般
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 4月からうちの病院に放射線治療担当の新人医学物理士さんが1人着任しました。

 なんと医学物理士さん2人体制となります!しかも、2人とも診療放射線技師兼務ではなく、医学物理士「専従」です。うちの病院の組織図では医師や診療放射線技師とは別に独立した医療安全管理部の所属となります。
注:専従=就業時間の少なくとも8割以上、当該療法に従事していること

 昨年度、医学物理士常勤増員枠についてご理解・ご尽力いただきました上層部の先生方、事務系の担当者の方々、この場をお借りして改めて御礼申し上げます。


 医学物理士とは、『放射線を用いた医療が適切に実施されるよう、医学物理学の専門家としての観点から貢献する医療職のことです。(京都大学医学部放射線治療科さんのHPから引用)』

 欧米の放射線治療業務の現場では、放射線腫瘍医は治療範囲や放射線量の決定(と大事な患者さんの診察)を行い、放射線治療計画の作成や検証は医学物理士さんが、そして毎日の照射は診療放射線技師さんが担当する、というのが一般的のようです。医者が「ここにあるがんにこのくらいの量を照射してね」とお願いし、医学物理士さんがコンピュータで最適なシミュレーションを作ってくださったのを医者と一緒に「これがいいね」って確認し、放射線技師さんが患者さんにばっちり正確に毎日放射線をあてていただき、医者や看護師さんが「体調はいかがですか?」と定期的に診察、といった感じでチーム診療を行います。
 特にIMRT(強度変調放射線治療)や定位放射線治療といった高精度放射線治療は専門職種としての医学物理士さんの存在なくして実施してはダメ、と書いても過言ではありません(ですよね?)。私もすっかり頼りにしています。

 でも日本では医学物理士さんが行うべき業務を、放射線腫瘍医や診療放射線技師さんたちが兼務している施設がまだまだ多いのが現状だと思います。過重労働の面でもこのような職場環境は好ましくないのですが、いろいろな課題があり、なかなか…


 医学物理士発祥の地アメリカでは、医者と対等に共に放射線治療計画内容を検討しあう、医療の本質にかかわる重要な役割・責務を担っているそうなので、待遇面(≒収入)も良いらしいです。中には独立開業して多施設の放射線治療検証を(遠隔などで)支援している方々もいらっしゃいます。また、放射線治療分野の医療機器系の研究・開発も医学物理士さんたちが中心になって、いろいろな最先端放射線治療技術を世に送り出しています。

 残念ながら日本では医学物理士はまだ国家資格にはなっていません。医学物理士認定機構など専門家の諸先生方のご尽力により諸外国同様に修士以上の学位保持者に受験資格が引き上げられ、健保委員の諸先生方のご尽力により病院の診療報酬上も優遇されるようになってきて、徐々にその立場や存在価値は認知されてきています。でも、いざ病院常勤枠での雇用となると、特に公的機関では「前例がない」というお役所側の決まり文句が厚い壁として立ちはばかります。他の交渉事でもよくあることですが…
 うちの施設ではその厚い壁をご理解ある上層部の先生方のおかげで見事に打ち破れました(3年くらい前)。そして今回は「常勤増員枠」を新たに獲得していただきました。
 本当にありがとうございます。

 ついでに書くと、ポストだけでなく待遇面(≒お給料)でも「前例がない」という壁があります。(諸事情で具体的には書けませんが)これはうちではまだ解決しきれていない案件です。
 しかし先日、某有名公的病院では医学物理士さんとしての別枠給与体系を確立されたという耳寄り情報を知りました。私もお知り合いになれた先生方が診療されている病院ですので、今後の待遇改善のためにその辺のお話はいずれゆっくりお伺いしたいな~と思っております。
 できればプロ野球観戦でもしながら…


 専従の新人医学物理士さん、うちの病院へようこそ!

 より安全で安心な、そしてがん患者さんにとって心身とも優しい良質な放射線治療をご提供できるよう、ともに精進いたしましょう。


(今回の投稿はJASTRO Newsletter vol.108「病院における医学物理士のポストについて」を参考・一部引用させていただきました)



【2014/04/04 20:02】 | 放射線治療:一般
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 先日、私がこのブログを始めたばかりの時の「膠原病と放射線治療」をみて質問をくださった患者さんがいらっしゃいました。若いころから全身性エリテマトーデス(SLE)を闘病中の方ですが、最近になって早期乳癌の温存手術をうけ「術後照射を行う予定ですが、照射によりどのようなリスクがあるでしょうか(いわゆる一般的な放射線の副作用と別に考えられること)」とのことでした。

 そこで、匿名性を鑑み、また自分の頭の整理も兼ねて、SLEの方に放射線治療を行った主な報告を参考に、その(2)を書いてみることにしました。諸事情で最近ブログ更新が滞っていたことも一つの理由ではありますが…
 なお、他の専門家チェックが入っていない町医者ブログである点はご承知いただきたく存じます。


 最新版の乳癌診療ガイドライン治療編には「膠原病を合併している患者に対して全乳房照射は勧められるか」とのCQ(臨床上の疑問点)があり、その返答として「活動性の強皮症やSLEを合併している患者には基本的には勧められない」とあります。
 解説ではその理由として「急性期および晩期有害事象が強く出る可能性があるので…」と記されています。ただ、『具体的に』どんな副作用が『どのくらいの頻度で』起きる可能性があるのかについてはあまり触れられていません。
 そこで、まずはSLEを中心に膠原病患者さんに対する放射線治療の副作用に関する主な論文報告を、一般の方向けになるよう配慮したつもりの簡単なリストにしてみました。調べた限り、臨床試験は一つもないようでした。

【急性有害事象(放射線治療中の副作用で(原則)『治る』)】
・ミシガン大学(全73例、内SLE13例):2008年Cancer
    SLEで強めが多かった(29%、リスク約2倍。乳房では25%)
・メイヨークリニック(SLEのみ21例):2008年IJROBP
    全員が予定の放射線治療を終了。21%が強め(Grade3のみ)
・他の報告では普通の患者さんと比べ、副作用出現頻度に明らかな差はなさそう
・「強め」とは主に回復可能な照射中の皮膚炎の赤みやびらん。どれも致命的な急性有害事象は報告されてない

【晩期有害事象(放射線治療終了後に出てくる後遺症)】
・マサチューセッツ総合病院(全209例、SLEは29例):1997年JCO
    慢性関節リウマチ以外の膠原病で多かった(21%、リスク3.5倍)
    強い(Grade3)後遺症SLEで17%
        (乳房とも関連?しそうなのは骨髄炎1例のみ。ただし顎)
・ミシガン大学
    SLEで強めが多かった(35%、リスク約8倍も乳房では「0%」)
・メイヨークリニック
    28%(5例)に強い(Grade3以上)後遺症
    乳房も関係しそうなのは皮膚・軟部組織の線維化(≒硬くなる)1例のみ
・乳房で致命的な後遺症はどれも報告なさそう
・生命も脅かしかねない後遺症(Grade4)は数%以下、骨盤部や脳神経で頻度が多め。骨盤部などで腸閉そくや粘膜潰瘍・瘻孔が、脳神経では壊死や麻痺が報告されている。致死例(Grade5)はまれのよう。
・有害事象と線量の関係も結論は出ていない(乳癌ガイドライン記述のまま)

 日本放射線腫瘍学会の主に医師向けにJournal Clubという海外論文を紹介するコーナーがあり、唐澤久美子先生が「膠原血管病患者での放射線療法」というレビュー論文をご紹介されています。大変参考になる論文解説で、一般の方もご覧いただけます。
http://www.jastro.or.jp/journalclub/detail.php?eid=00039

 以上、ざっくり書くと『SLEの方に照射をしたら強い副作用の出る確率は通常の数倍だけど、それでも3~4人に1人くらい。しかも乳房照射なら、治療中の炎症が強くなったり後で硬くなったりするかもしれないけれど、命にかかわるものはまずなさそう』とのまとめになるでしょうか。

 既出の日本の乳癌診療ガイドラインは「患者数が少なく、強いエビデンスとはなりにくいが、かつて予想されたほど危険ではないにしても」との但し書きの上で「活動性の強皮症やSLEを合併している患者には基本的には勧められない。」という記載になっています。  
 昔はSLE患者さんほぼ全員に対して、照射したら大変なことが起きるんじゃないか?と戦々恐々としていたのですが、案外そうでもなかったようです。まあ、これはあくまで医者目線…強い副作用割合が通常より高いことは確かですし。
 なお、これら海外の報告をそのまま日本人にあてはめてもいいかどうかは正直わかりません。また、残念ながら日本のSLE(だけでなく膠原病)の患者さんに対する放射線治療の影響に関するまとまった英論文はまだありませんでした。


 次に放射線治療範囲について。乳房温存照射そのものをするかどうかは、前回ブログで触れたので省きます。

 放射線治療計画ガイドラインによると、乳房温存照射では患側乳房全体を照射範囲に含めることが標準となっています。しかし、「基本的には照射は勧められない」とまで書かれてしまっている方々に(同意があるとはいえ)勇気をもって照射するならば、「治療範囲、手加減しなくて大丈夫?」という素朴な疑問もわいてくるかもしれません。少なくとも私は、自分が患者ならそう思います。

 これまでの臨床報告からSLEによる放射線治療後の重い後遺症はどちらかというと腸、脳、肺など内臓系に出る割合が多いようです。実際の所、乳房温存術後照射を標準治療で計画すると、右側では肺や肝臓の、左側では肺や心臓、胃の一部にも照射されてしまうことがあります。
 現在さほど活動性のSLEがなければ(これも曖昧…)標準治療通りの照射範囲設定を選択するかもしれませんが、活動性のSLEで後遺症の心配要素が少なくない場合には考えものです。手術で癌を切除した部分や病理(がん細胞の顕微鏡)結果によりますが、他の内臓を(ほとんど)照射範囲に含めないよう、がんがあった乳房領域中心に少し照射範囲を絞り込み(つまり無理に全乳房照射としない)、他臓器へのリスクを最小限にするというのも一つの手なのかもしれません。

 がんの再発は生命に直結する危険を伴いますが、照射後の後遺症は患者さんを一生悩み苦しませてしまう可能性もあります。
 前回も最後に書きましたが、癌が良くなる確率と重篤な副作用の危険度を両天秤にかけて、我々と患者さんとが共に腹をくくって選択するしかない、というスタンスで相談させていだたくのですが、いまだ難しい課題です。


 専門家からいろいろな異論・反論もあろうかと存じますが、あくまで私見としてご理解いただければ幸いです。患者さんや主治医との相談で個別検討しています。

 以上、Mさんへ…私も大変勉強になりました。


【2013/12/14 00:54】 | 放射線治療:一般
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 施設によっては、長期連休による放射線治療効果への影響を考慮して、日々の1回線量を調整したり1日2回照射法(加速過分割照射など)にしたりと、連休前に治療が終了するよう臨機応変にやや定型的ではない対応をとることがあります。
 ある先生方からは、「標準治療から少し逸脱しているのでは?」と指摘されるかもしれません。たしかにそれも否定はできないのですが、全く何も考慮していないよりはまだマシかも、と個人的には思っています。ただ、さじ加減の程度は医師による個人差がそれなりにありそうですけれど。

 抗がん剤治療でも、患者さんの状態によっては通常量の何割か減らして投与などという「さじかげん」をしている先生方は少なくありませんね。標準治療からかなり逸脱しているケースも時に耳にしますし…。
 おっと、抗がん剤の投与量に関するお話は私の専門外ですし、今日はこれだけにしておきます。

 理想的には祝日は1日も休まず平日扱いで治療を行うということになるのでしょうが、現実的にはなかなか難しい部分があります。こんなことを書くと「患者さんの立場に立っていない!」と怒りの言葉をいただきそうです。

 しかし、どんどん高度化する放射線治療装置を扱える専門の放射線技師さんの人員確保や他の放射線部門も含めた休日当番体制、人の命を預かる精密治療機器の電源立ち上げから始まる種々の調整など、その施設で可能な体制を個別に構築せざるを得ないというのが現場の実情かと思います。
 常勤放射線腫瘍医が不在な病院では、放射線技師さんだけで休日照射を施行するというのは、もし治療途中で患者さんが急に体調不良になった時の対応など安全管理面を中心にいろいろな課題があります。休日当番の放射線治療専門ではない他の診療科医師が対応することになるのでしょうが…?

 病棟スタッフ数が制限された看護師さんによる放射線治療室への患者搬送にも問題点があります。外来照射患者さんは比較的元気なので、医療者側の「手間」はかかりません。「あの人、最近見かけないけど、病気で体調でも悪いのかしらね?」という病院の外来待合でのご老人たちの会話、なんていう笑えない話もあるくらいです。
 そもそも入院照射患者さんは原則体調が良くないからいるわけで、病室から放射線治療室まで車椅子やベッドで搬送する必要がある患者さんは少なくありません。中には遠方で通院できないからという理由で入院されている方もいますけれど。
 一般に、休日の病棟看護体制は平日より看護師数が少なく設定されていて、自力移動が困難な放射線治療患者さんを多く抱える所では、移送に伴い病棟そのものが手薄になり安全管理面での不安が生じます。

 あくまで医療者側の現状・課題だけを考慮した場合、治療日の規定を数値で明示した全国共通の休日照射ガイドラインを作成するのはなかなか困難かもしれません。

 以上、たぶん医療者目線で申し訳ございません。私は当時の研究班メンバーでも何でもなく、あくまで今の個人的な見解です。


 ちなみに今度の年末年始休暇は見事に9連休。さて、どうしたものか?と今から少し頭を悩ませています。
 連休をどう遊んで過ごすか、という意味ではなく…。



(2012.12.xx facebookより加筆修正)


【2013/04/29 19:08】 | 放射線治療:一般
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 明日からゴールデンウィークですね。

 今年は連休の真ん中に平日が3日もあって、現在放射線治療を受けられている患者さん(や我々)にとっては例年より治療休止期間が少なく済みそうでやや都合の良い日程です。
 その3日間も休みとして大型連休化している企業も多々あることでしょう。なんとなく羨ましい気もしますが、私は人混みへわざわざ外出するのはあまり好きなほうではないですし、子供たちもそれぞれ予定があるので、個人的には「まあ、いいか」と思っています。


 うちの病院では以前から、大型連休対策として院内各部門のご協力を賜り、必要に応じて臨時休日照射日を設けています。また、主治医や患者さんご本人と相談して病状的に許容と判断し連休明けから照射を開始することにしたり、逆に連休前に終了できるような照射法を採用したりしています。
 全国の放射線治療施設でも、大型連休の時には施設毎に様々な対応がとられていると聞きます。


 現広島大学放射線治療科教授の永田靖先生が研究班代表者として2004年の日本放射線腫瘍学会(JASTRO)誌にご発表された『休日照射に関するJASTROガイドラインの作成』という論文があります。公表から数年が経過しましたが、今でも日本の休日照射に関する唯一の目安だと思います。
 ちなみに、ある先生から伺いましたが、この論文はJASTRO公式のガイドラインにはなっていないようです。まあ、そもそもガイドライン自体が自主基準であり、法的な強制力を持つものではないらしいのですが。

 この報告でも記されていますが(添付写真)、扁平上皮癌(主な頭頚部癌を代表として肺癌、食道癌、子宮頸癌など)を放射線治療だけで根治治療を行った場合に、予定の照射期間が延びると治療効果が低下する恐れがあることが知られています。総治療期間に2週間以上の違いがあると生存率にも差が出るという信頼性の高い海外の報告もあります。

休日照射

 ここで気をつけたいのは、2週間で差があるからといっても13日間の休止なら大丈夫で14日間だと駄目ということではなく、2週未満と2週以上で治療患者さんの集団を分けたら「統計学的な数字の差が出た」だけのこと。13日間と14日間の休止の比較というのは1日だけ休止と予定通り治療の差と(およそ)同じ1日の違いであり、集団として見ると日に日に少しずつ影響が出る可能性があるということのようです(個々について厳密なことはわかりません)。

 これは他の治療成績を評価する際も同様で、最近では福島原発の低線量被曝でも似たような議論がなされています(○○ベクレル以上とか)。抗がん剤と一緒に放射線治療を行うとその差ははっきりしなくなり、逆に治療中の副作用が増強される影響を緩和するために、放射線治療を途中で1-2週休止するメニューをあえて選択している臨床試験すらあります。

 一方で、乳がんの術後予防照射や前立腺がんなどは連休による治療中断の影響が出にくいので対応は「施設に委ねる」(事実上許容)、となっています。とはいえ、前立腺がんでも1日遅延するだけでホンの少しですが治療効果(生存率ではなく腫瘍マーカー)に影響が出るかもしれない、とする報告も最近ではみられます。

 大型連休による放射線治療効果の影響を考慮して、連休期間中に休日照射日を設ける施設があり、また放射線治療に限らず病院全体で大型連休期間中に平日体制を何日か採用する施設もあります。通常でも土曜日を平日診療としている施設もあります。


 頑張って何日か休止日を減らせば問題ないのか。休日照射を1日追加努力するだけでも許容できるものか。中途半端な連休をはさんだ治療を避けるために、年明けから治療を開始するほうがよいとも聞きますが、逆に治療開始が遅くなることに関してどこまで許容されるものなのか。私の知る限りこれらもあまり明確ではありません(ちなみに、乳がん術後照射の開始目安時期に関してはガイドラインに記載があります)。


(まだ続くので、Part2へ…後日)


【2013/04/26 00:23】 | 放射線治療:一般
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 私はまもなく医者になって4半世紀になろうとしていますが、これまで放射線治療装置を新規導入したばかりの施設のお手伝いをすることが何度かありました。

 1月に書いたブログ「放射線治療は病院の看板になる?」でも触れましたが、放射線治療装置というのは初期導入費用が何億円もかかる代物です。通常、公立病院では税金の使い方の都合上で一括払いが多いようですが、民間病院では銀行からの借り入れやリースでの分割払いの利用が多いかもしれません。民間は赤字になれば経営破たんに即つながりますから、患者さん確保を含めて「機器代の回収」におのずと力が入りますし、スタッフの給与にも反映することがあります。
 もちろん公立病院でも経営改善・集客を職員に呼び掛けますが、はっきり言えば患者数が増えようが減ろうが、新しい技術を取り入れようが今まで通り「普通の」ことをしていようが、公務員なので給料への反映はほとんどありません。かえって忙しくなるだけで「損」と思うスタッフも少なくないという話も、現場では時に耳にします。

 以前、ある公立病院で特殊放射線治療システムを新規導入したことがあったのですが、その病院の当時の開設者が導入に積極的で、私の医局の元上司らと機種選定を進めていました。しかし、現場のスタッフ(の一部)にその情報があまり伝わっていなかったことや公立病院にありがちな仕事が増えることに対する「損」の意識があったことで、装置稼働前から上層部と現場の温度差がありました。
 私は新しい装置が導入されてから診療支援をさせていただくことになったのですが、一部の放射線技師スタッフの意欲が乏しく、それだけならいいのですが向上心あふれる若手放射線技師たちの意欲・希望すら摘んでいました。私は何度かキレ(そうになり)ましたが若手のやる気に支えられてその最新装置を使った放射線治療を提供してきました。
 しかし、新たな医師が着任するや装置稼働率がとたんに低下し、せっかくの高精度装置もほぼ「遺跡」と化してしまいました。

 新規導入したはいいけれど予算の都合できちんとした保守契約(毎年の機器メンテナンス代)が結べなくなったり、常勤医がいなくなったりやる気のない医者が着任したりしてせっかくの装置が宝の持ち腐れになってしまうケースは少なくありません。装置そのものがないとどうにもなりませんが、機器を購入した時点から体制が代わっても運用可能な人的・金銭的環境整備も同じように重要です。まあ、道路などの公共事業に比べればもしかするとたいしたことない無駄遣いなのかもしれませんが、私の知る限りでももったいない事例は少なくありません。血税を使ってですから。
 今後、普及が期待される公的な粒子線施設計画も同じことが起きなければいいのですが。。。

 また、隣の病院に凄い放射線治療装置や備品が埋もれているのがわかっていても、自分の施設では使えず指をくわえてみているしかない(借りられない)なんてこともありました。転院して治療を受けてもらえばいいのですが、その施設での受け入れ態勢が必ずしも整っているわけではなかったりすることもあります。
 公私施設に関係なく、装置の共用が可能となる方法・手続きってあるのかな?どなたかご存じでしたら教えてください。


 実は現在、うちの病院では新しい放射線治療装置を増設中です。つまり、私はまた立ち上げ屋です(笑)。

 そして一昨年に着任する以前から遺跡化している設備や機器がいくつかあり、まだ再生可能なものが少なくありません。マシンタイムやスタッフ数など利用したくてもその時その時に様々な制約があったり、担当されていた諸先生方、放射線技師さんたちの諸般の事情があったりして、だんだん遺跡化してしまったようです。正直、たしかに現在の照射件数と機器台数では、フル稼働は困難かもしれません。
 人命を預かる高度な医療システムなので、精度を維持するにも当然お金がかかります。保守契約や維持管理費やマンパワーなどが整わず今後も潜在能力を充分に発揮できない可能性もあります。
 ただ、新しい治療装置が入るとともにスタッフの増員が決まっていますし、既存装置にも少し余裕ができそうなので、可能な限り復元できるよう関係部門といろいろな調整や確認作業をしているところです。

 新しい装置が稼働したり埋蔵文化財の復元が成功したら、可能な範囲でこのブログでもご紹介できればいいなと思っています。でも、そうすると私の所属が完全にバレますね…。



【2013/03/04 00:43】 | 放射線治療:一般
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