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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 今日は北海道から研修医の先生がうちの施設見学にいらっしゃいました。来年からは放射線科を志望とのことで、うちの施設も選択肢らしいです。参考までに若いお医者さんに対する給料をはじめとした福利厚生、うちは結構良いらしいですよ!

 うちの施設見学を希望された理由は(以前見学にいらっしゃった方にお薦めいただいたこともあるそうですが)そうそうたる最先端放射線治療装置が揃っているという点。陽子線、サイバーナイフ、ガンマナイフ、(まもなくTrue beam)、そしてBNCT…(手前味噌ですが)世界最高峰と自画自賛できるスペックです。私が学生・研修医で放射線治療科を検討していたらやっぱり一度は見学に来ると思います。

 日中は副センター長らの案内で施設見学をしていただき(私は外来診療…ごめんなさい)、夜は施設内のフレンチレストランで懇親会が催されました。もちろんゴチです!実は病院持ち…(笑)

 ぶっちゃけ書けば、放射線治療を希望されるのならうちの科に就職していただき、いろいろな経験を是非していただきたい所ではあります。が、やっぱり最終的にはご自身が何をしてみたいかでしょう。
 指導者の責務というのも初期の医師にはある程度重要な要素だろうとは思いますが、最も大事なのは本人が仕事を楽しめるかどうかでしょう。これはどんな職種にも相通じることですよね?「楽しむ」という表現は語弊があるかもしれませんが、今の仕事を楽しむ(=言い換えればやる気や前向きな)意識が乏しい先生が担当になってしまった患者さんは傍から見ていても可哀想です。医者の「やる気」というオーラ、がんという死を意識せざるを得ない方々はおそらく敏感に察知するだろうと思います。
 甘いと言われるかもしれませんが、治療成績などのエビデンスなんかより医者が発する「気」というものが患者さんの信頼感や安心感に最も寄与するのだろうと私は思っています。カリスマ医師(と評判の方々)は直接お会いするとそういったオーラが満ち満ちているように思います。往々にして押しつけ医療になりがちではありますけど、患者さんとウマが合えばそれで良し。

 もちろん何となく診療ではないエビデンスも大事です。


 見学に来られた先生、月並みですが、ご自身で良かれと思う選択をなさってください。そして楽しく悩みながら善きお医者さんになってください。もしうちを選択されたら、来年よろしくね。

 まだまだ私も頑張ります!


2016/07/29
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【2016/07/29 23:55】 | 放射線治療:よもやま話
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 先日のことですが、お知り合いの放射線腫瘍医から10年くらい前の経験談を伺いました。その先生が当時在籍されていた病院でのことでした。

 早期乳がんで乳房温存手術を受けた後に放射線治療科外来で術後照射を行っていた患者さんが、同時期に乳がん手術で有名な他院から術後照射目的で紹介された別の患者さんと、毎日通院で治療をして顔を合わせているうちにお知り合いになりました。話がはずみ、ある時に外来のトイレでお互いの乳房の状態を見せ合うことになり、他院から来た患者さんからこう言われたそうなのです。

 「私のおっぱいは成功、あなたのおっぱいは失敗作ね」
 
 私のお知り合いの先生は、心が傷ついたその患者さんから放射線治療科外来診察室で「失敗」についていろいろな相談を受けたそうです。


 いきなり10年も前の乳腺外科の患者さんの話題を出し、申し訳ありません。当時と今とでは、外科手術の内容や診療体制などはだいぶ変わってきています。
 この話題をfacebookに出した時、大学時代の同級生の外科医から『「外科の中の乳腺分野」で、手術も「乳房取るだけだから研修医の手術」なんて言われていた時代もあったそうなのですが、今や外科から独立した乳腺科であり全く違います。』とのご指導も受けてしまいました。

 全くその通りです。


 放射線腫瘍医は、患者さんの診察の時にいろいろな外科医が執刀した手術後の傷口付近の皮膚全体の形やバランス(以下、『出来栄え』とあえて表現します)を拝見させていただく機会がよくあります。
 
 乳腺外科ご専門の先生のおっぱいの『出来栄え』は総じて綺麗です。乳腺外科と他の外科医の『出来栄え』はけっこう違います。もちろん、腹、胸、首、腕など部位が違えば単純な比較をしてはいけないわけですけれど…。

 同じ領域の外科医間でも『出来栄え』は違います。単に外科医の腕の差だけでなく、『出来栄え』に対する意識の差もあるように感じます。
 もちろん身体の中の執刀医と皮膚の縫合医が違うこともあるでしょう。ですが、その外科チームの診療スタンスといいますか、手術そのものの評価が『出来栄え』から垣間見えるようにも感じています。いささか評判が優れない外科医やチームの『出来栄え』の傾向はやっぱり…

 あくまで個人的印象です。


 私たち放射線腫瘍医は、術後照射などの際に照射範囲の皮膚が放射線治療可能な状態なのか?放射線治療によって皮膚炎が生じてきていないか?放射線皮膚炎の程度はどうなのか?を診察でまじまじと確認しますから、自然と『出来栄え』も気になります。
 いろいろな外科医による『出来栄え』を最も意識して比較しているのが、もしかしたら放射線腫瘍医なのではないかと思っています。

 同じ科の手術や回診ならまだしも、同じ病院内でも別の科の外科医同士でお互いの担当患者さんたちの術後皮膚の『出来栄え』をまじまじ確認しあうことって、あまりないのではないでしょうか?学会の発表などは「綺麗」な写真が多いですし。

 腫瘍内科の先生方もいろいろな外科医による『出来栄え』を確認できる機会は多いかもしれませんが、「まじまじ」とはみないのではないでしょうか?間違っていたらごめんなさい。
 
 麻酔科も術後すぐの『出来栄え』をみる先生方は見ているでしょうが、むしろ手術室の看護師さんのほうがよくみているかもしれません。
 でも、手術室では他院の外科医の『出来栄え』まではみられません。


 手術切除部位や腫瘍のサイズによっても『出来栄え』は違ってくるでしょう。お知り合いの形成外科の先生によると、いくら手術の上手な先生が『気合いを入れて縫合しても肥厚性瘢痕をゼロには出来ません。やはり患者自身の創治癒能力に起因することが大です。腕の差ではないことの方が多い』のだそうです(そのまま引用させていただきました)。
 同じ外科医がやっても個々の症例により『出来栄え』のばらつきは出てしまうのも、正直やむを得ない所があります(と患者さんは思わないわけですが…)。

 あくまで医療者目線です。


 手術後の美容面も重視される時代になってきたとはいえ、『出来栄え』の優劣は生死に直接かかわる部分ではなく、よっぽどひどい状態でなければ医療の質を問われることは少ないかもしれません。

 とはいえ、いまだに患者さん同士の「成功、失敗」という時代は続いているようです。術式が同じでも、当の患者さんにとっては直接見て比較すれば歴然とした違いと不快を感じてしまいます。

 『出来栄え』の評価は、残念ながら芸術的な主観的な要素が強いところです。これまでも客観評価の試みはなされているようですが、なかなか簡単ではなさそうな気がします。私は専門家ではないし不用意なコメントはよろしくありませんね。興味深い論文報告などがあったら教えてください。


 最後に

 つい私は、『出来栄え』から目に見えない身体の中の術後の状態を勘繰ってしまいます。一事が万事?…もちろん患者さんには言いません。知らぬが仏という言葉もあります。

 あくまで個人的印象です。


 デリカシーに欠ける表現が多かったかもしれません。おわび申し上げます。




 PS:文脈とは全然関係ないのですがどうも堅苦しい投稿ばかりなので、うちの犬たちの写真をこれからたまに挿し入れようかと思っています。


【2015/04/22 18:58】 | 放射線治療:よもやま話
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 病院には中央診療部門というのがあります。各科のお医者さんからご依頼があって診療サポートをする部門のことです。具体的には、病理科、麻酔科、放射線診断科、そして放射線治療科(など)のことをさします。
 病理科は各診療科の先生方から細胞検査などを依頼され、がんなどかどうかを診断する部門です。麻酔科は外科の先生方の手術を全身麻酔などを行ったり神経ブロックをはじめとする疼痛緩和などを担う部門です。放射線診断科はCTなどのX線検査やPET検査、あるいはMRI検査などの画像診断を行ったり、血管造影検査や治療を行う部門です。そして放射線治療科は各診療科の先生方からご相談をいただいたがん患者さんの放射線治療を請け負う部門です。

 放射線治療科を受診される患者さんは、たいてい事前に他の診療科で諸検査をうけ、がんという確定診断がなされたうえで、放射線治療はどうでしょうかと「医者から」紹介をうけます。つまり、どこそこの調子が悪いから、あるいはがん検診で異常を指摘されたからと患者さんが自ら放射線治療科を最初に受診されることはまずありません。
 もちろん、以前に放射線治療を受けられた後も放射線治療科で経過観察を行っている患者さんの場合はその限りではありませんが。


 少し話題がそれますが、西洋医学におけるがんの3大治療とは、手術、抗がん剤、そして放射線治療をさします。手術と放射線治療はがんに対する局所療法であり、抗がん剤は基本的に全身療法です。また、手術は身体にメスを入れる(観血的な)治療、抗がん剤と放射線治療は身体を切らない(非観血的な)治療です。
 最近のがん治療では、この3大治療などをより良く組み合わせたいわゆる集学的治療を行う試みが多くなされています。その際、診療ガイドラインや過去の臨床試験などの報告などを元にキャンサーボードなどで各診療科の先生方がいろいろな相談をしながら、そして患者さんのご希望などももちろん踏まえたうえで治療方針を決定します。

 早期がんなどで定型的な治療内容がガイドラインで決まっているような場合は基本的にさほど議論にならずに治療が始められます。しかし、がんの再発転移や珍しいがんやご高齢者など患者さんの一般状態が芳しくない場合などは、手術・抗がん剤・放射線治療の選択、そしてそもそもがん治療をすべきか否かの判断が医者の中でも意見が一致しない場合が少なからずあります。

 以前のブログで「抗がん剤と放射線治療の併用で気をつけたほうがいいと思ってること(2)」というのを書いたことがあります。その一部を以下に再度抜粋引用します。
 『放射線腫瘍医側に関しても「主治医(各診療科の専門の先生)のご依頼だから」と安易に同時併用を承認している話を聞くことがあります。でも実は、相手の診療科の先生も「放射線腫瘍専門医もOKしてくれているし」とか「たぶん大丈夫でしょう」という意識を持っている恐れがあったりします。ちなみに、これまで私が化学療法の内容照会でお問い合わせし、そうお答えになった先生は何人かいらっしゃいました。そのような確認をしなければ、両者ともに責任転嫁状態で抗がん剤という猛毒が根拠あいまいなまま患者さんに投与されたことになっていたわけで…。』
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-21.html

 大学病院とかがんセンターのような大規模施設だと放射線腫瘍医も複数名所属しており、また研究教育機関ということもあっていろいろながんの臨床試験とか各種がんの治療方針の院内基準がある程度定まっているので、キャンサーボードなどの検討会でも比較的まともで対等な議論がなされやすいように思います。

 しかし一方、例えば放射線腫瘍医が一人しかいないような中規模(地方)一般病院ですと相手診療科の先生方もがん専門とは限りません。顔の見えすぎる数少ない医局人数なので、お互いの診療スタンスや主張が食い違うと、そしてそれが繰り返されると双方の人間関係にもひびが入る可能性が、なんてこともありえます。実は私も何度かそういう経験(≒けんかもどき)をしたことがあります。命がかかった患者さんの治療方針なのでやむを得ないのですが、言い方の問題もあったかなあと(今でも)思いつつ…。
 理解ある先生だとそういったことはまずないのですが、『重鎮のような有名な先生が意外にくせ者(自分の思いつき指示)だったりすることもあります。(前述のブログより引用)』。もちろん私自身に言い聞かせるつもりで書いています。

 チーム医療として治療方針を決める際に患者さん本位というのは第1だと当然思うわけですが、中央診療部門で自ら入院患者さんを管理していないと、意見交換の場で「主」治医にはなりにくいことが実際にはありえます。依頼医側の方針が根拠の乏しい診療をしていることをきちんと指摘できればいいわけですが、こちらもそれなりの準備をしていないといけませんし。
 あえてそこまでしなくても「仲良く主治医の先生の方針に従っていればいいじゃない」という放射線腫瘍医も実際にはいらっしゃいます。どちらかというと(表面上)人付き合いがいい、あるいはおとなしい(≒人との会話そのものが得意でない)放射線腫瘍医によくみられる傾向のようです。
 私のまわりではそういう先生を「あてや」っていうことがあります。相手に言われるがまま放射線治療を行う(=放射線をあてる)、思考停止したような先生のことです。でも、さすがに専門医がそれじゃいけませんよね?

 逆に、実は誠実で気まじめな放射線腫瘍医って一匹狼的な方が多い気がします。多種多様の外科内科医と長年やりあう…いや、議論を重ねるとそうなっていくのかもしれません。


 もちろん、超人格者だって少なくないはずです、きっと。
私も見習わないと…


【2014/12/09 00:40】 | 放射線治療:よもやま話
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 ここ最近、うちの施設では院内外から毎週のように緊急照射依頼があります。先週は1週間で4例も。
 不謹慎で申し訳ございませんが、続く時ってなぜか続くようです。場の流れがあるかのように。緊急照射ではありませんが、めったに経験しないがんの患者さんの放射線治療依頼が続けて2~3人続くこともこれまで何度か経験しました。しかもその後はそのがんの照射依頼がピタッと途絶えてしまい。せっかくいろいろ調べたのに…もちろん、その時に出会ったご依頼患者さんたちのために調べているわけですが。


 昨日も夕方に緊急照射のご依頼があり、段取りに手慣れた(?)うちの治療スタッフの迅速な連携と協力のもとで主治医の先生からあった最初の電話から2時間弱で緊急照射を行いました。治療スタッフのみなさん、いつもありがとうございます。

 ここ数日で急に身体の自由が利きにくくなり救急車で来院された患者さん。諸検査の結果を複数診療科の先生方と協議のうえ、患者さんご本人とも相談し当日の緊急照射とあいなりました。
 その患者さん、実は何年も闘病生活を送られ手術経験は数回ある(ベテランの)方なのですが、今回はおそらく初めて経験される身体の自由が思うように効かない状態でした。しかもベッド上安静で、いきなり勧められたのは(いくらご説明をしたとはいえ)何をされるのかおそらく見当がつきにくいであろう人生初の放射線治療。当然のことながらかなり不安があった様子にお見受けしました。
 
 ともあれ緊急照射は無事終了しました。放射線治療装置からベッドに移られた後、「人事を尽くしておりますし、良い経過になることを信じましょう」と私がお話しすると、「ありがとうございました」と患者さんのお礼の言葉とともに私に右手を差し出されました。


 緊急照射というのは突然の臨時依頼に対し治療スタッフの迅速な協力があって実現するものです。私一人(≒医者だけ)で到底できる治療ではありません。本当であれば関係スタッフ全員と握手が交わせればもっとよかったのでしょうが、時間的制約など諸事情でなかなか全員が揃うことは簡単ではありません。また、患者さん自身も冷静に治療をお受けしているわけではないことが多々あります。治療が終り落ち着いた気分の時にようやくきっとそういう気分になれるのでしょう。


 ということで、今日はみんなを代表して私が握手に応じさせていただきました。力強い握手でした。とてもうれしそうな表情に感じました。患者さんご自身も、お礼だけじゃなく「きっとよくなる」と決意表明をするような気分だったのかな?
 後日また再診で体調を伺う予定です。スタッフ一同で今日より回復していることをお祈りしております。

 最後にもう一度。スタッフのみなさん、いつも迅速で効率よい緊急照射のご対応、ありがとうございます。もちろん普段の業務にも大変感謝しております。

 
 ブログ(文章)って面と向かってはなかなか照れくさくて言いにくいことも気軽に書けていいですね。


【2014/11/27 01:28】 | 放射線治療:よもやま話
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 唐突ですが、こうみえて実は私、女性の涙に弱いんです。最近も外来診療でそんな機会を3度経験いたしました。


その1

 これまでの手術や放射線治療などで皮膚の創や色の変化が(あくまで医者目線ですが少し)残ってしまった女性患者さん。「こんな姿になってしまうなんて…」と涙を流されました。

 上品なご婦人で、旦那さんも相当な役職につかれています。これまでいろいろ悩まれて治療を選択され、私が担当だった放射線治療前のご説明でもその後の影響について長い時間をかけていろいろ相談しました。
 しかしいざ目に見える影響が残ってしまうことは「想像できませんでした」。

 治療後の個々の正確な容姿を事前に映像でお示しすることは残念ながらまだ無理です。だからといって、治療前の説明で(もっとグロイ)副作用の映像を全員にお見せすることが良いとは正直思わないのですが…。

 治療開始時の同意書に副作用の説明文が書いてあっても、なるべく普通の言葉でお伝えするよう心がけても、放射線治療そのものを経験したことのない一般の方がいきなり専門的な内容を「理解」するのはなかなか難しいようです。まして、がんという病状を知ってしまった後ですから、普段通りに冷静に話を聞ける状況ではないでしょうし。

 「身体の痛みよりも、外見の変化のほうが患者に苦痛をもたらす」。以前にこのブログで引用させていただきました。アピアランスケアで「隠す」ことはできても消えない心の傷。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-79.html

 『か〇は女性の命』、デリカシーに欠ける私にはいまだ難しい領域です。


その2

 進行がんで完治は難しい女性患者さん、初診でご相談中に「どうもありがとうございます」と涙を流されました。

 今の所、なんの症状もなくお元気、頭も聡明なご高齢の方です。
 遠方のご家族が他院での特殊治療を積極的に勧めていますが、ご本人は乗り気ではありません。治療をするとそれなりの副作用がでそうですが、病気が縮小・消失する可能性もなくはないです。そして、他院で治療した後の不安もありました。

 (症状が出てからの)緩和的放射線治療も含め時間をかけお話を伺うと、少し安心されたのかお付き添いのご婦人とお二人で(たぶん)感謝の涙がこぼれてきました。本当にただお話を聞いていただけで(少しだけ私もお話しま)したが、飛び入り受診で最後の外来患者さんだったこともあり、ゆっくりお話をする時間が確保できたのもよかったかもしれません。

 辛い気持ちはたくさんあるでしょうから不謹慎なのですが、正直私も嬉しかったです。

 実は昔はなかったのですが、齢を重ねてきたからかこういう時たまに「もらいそう」になってしまうことがあります…


その3

 がんの緩和的放射線治療の患者さんの準備中、奥様とこれからの相談をしたら「もう自宅に戻したくない」と涙を流されました。

 長い夫婦関係や闘病介護はいろいろ大変だったとのことで、今回の入院を契機に気持ちが解放されたようです。お話をしばし伺いました。一通りお話をされた後は笑顔に。

 でも患者さんはできれば自宅に帰りたい。

 その後も奥様とお話をしてもやはり気持ちは変わらず、お互いの気持ちのズレを修正するのはかなり敷居が高そうです。がん緩和ケアチームなど多職種が関わり、より良き方向を今も模索中です。


 外来診察室などでご対面中に眼がうるうるされている方は(男性も)少なくないです。診察後に別のところで涙を流される方々もすごく多いことと思います。感情に流されないよう気をつけているつもりです。もちろん男女差別をするつもりなど毛頭ございません。

 でも、こうみえて実は私、女性の涙に弱いんです。


 別の形で私自身が本当に泣かされたことも何度かあります。そのお話はまた別の機会に…


【2014/11/11 00:28】 | 放射線治療:よもやま話
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 先週末、某大学放射線科の同門会(OBや現役医局員らの集まり)がありました。私、2つの放射線科同門会への参加資格を有していますが、今回は私の卒業大学のほうでした。
 年1回、この時期に開催されます。

 例年通り今年も1次会は初めに勉強会・総会。昨年度大学院を卒業し学位(博士)を取得した先生がたの発表、海外留学した先生や関連病院の近況報告などを拝聴しました。その後、みんなで記念撮影をして懇親会へ。通常ここまでは出席者全員が参加します。
 懇親会の後、会場を移して2次会へ。こちらは参加者が(元)教授先生とか各病院の部長さんとか新入医局員さんになることが多く、参加平均年齢はぐっと上がります。
 反西洋医学系の某サイトで「医者の平均年齢は50才なかば」なんて記事を最近見かけましたが、この会に参加しているといったいどこの話?って感じがします。還暦過ぎた先生方も多くの方がお元気です。身体も胃袋も頭も口もみ~んな元気!

 放射線科って長寿の診療科なのか? もしかして放射線ホルミシス効果??


 さて、本題に入ります。

 2次会の宴もたけなわのところでご年配の大先輩からスピーチがあり、なんとも驚きの放射線治療現場での逸話を2つご披露いただきました。

 以下にご紹介いたします。なお、2次会の席でしばし飲食した時の記憶をたどって書いているので、私の思い込みが(もしかしたらかなり)入っちゃっているかもしれない点はご容赦ください。

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【逸話その1】

 その昔、鼻の横にある副鼻腔にでてきたがんに、顔の正面から放射線治療を行っていた患者さんがいました。放射線治療開始から数週間経過すると、なにやら頭のてっぺんの一部髪の毛が抜けてきた。明らかに放射線があたっているような脱毛の所見です。

 「そんなはずはない。確認してこい」と上司の先生。

 当時はコバルト60というガンマ線源を使って放射線治療を行うテレコバルト装置が主流でした。この装置、コバルト線源から出るガンマ線の量がだんだん少なくなってくるので、状況によっては1ケ所照射するのに数十分もの長時間を要することがあったようです。

 さっそく確認に行った所、患者さんの治療位置合わせはきちんとなされているし、放射線治療も予定通りに進められていました。しかし、いざ治療が始まってしばらくするとその患者さんの目がうつらうつらしてきました。

 みなさんも電車の中などでつい寝てしまったことはないでしょうか。座りながらうたたねすると無意識のうちにこっくりこっくり頭が前後や左右に揺れてきます。そのうち完全に後ろのガラスに頭をくっつけたまま熟睡したり、たまたま隣に座っていたあかの他人の肩によりかかってしまったり。

 そう、その患者さんも最初は同じ姿勢でじっと座っていたのですが(当時の照射装置は座って治療ができたんですね!これはこれで一部の患者さんにとってはすごく楽:写真は医用画像電子博物館HPから借用)、時間が経つにしたがって頭がこっくりこっくりしはじめ、しまいに頭を完全に前に垂れながら寝てしまったのです。もともとは顔の前方から放射線を照射していましたが、寝たことにより元の顔の位置に来た垂れた頭のてっぺんにずっと照射されてしまっていた。当時は部屋から出てもドアにロックがかかっているわけでもなく監視モニターもなかったので、きちんと確認するまでわからなかったようです(今なら大問題です)。
 毎回同じように気持ちよく寝てしまったのでしょうね。その結果、想定外の頭に部分脱毛が起きてしまったというわけ。

 がんのある場所とは全く別の方向に放射線治療! これでは治りません…


 なお今は、きちんと頭を支えて位置がずれない治療補助具を使っている(はずだ)から大丈夫です。

http://www.jira-net.or.jp/vm/data/1951000003/1951000003_all.html




【逸話その2】

 その昔、お腹に放射線治療を行っていた高齢の男性患者さんがいました。当時の装置は皮膚表面の放射線量が今よりずっと多かったので、数週間経過すればお腹の皮膚が日焼けのように赤くなり下痢などの症状も強く出やすかったそうです。しかし、その方は放射線治療が進んでも皮膚炎も起きないしケロッとしている。なんかおかしい。

 「そんなはずはない。確認してこい」と上司の先生。

 高齢の男性ってすぐに尿意をもよおしトイレが近くなることが多いですよね。長時間のバス移動などはかなりつらく、普段からオムツ着用されている方もいます(私はまだ大丈夫そうです)。しかもお腹に放射線治療をしていると、腸や膀胱の粘膜炎が進んでさらにトイレが近くなることがよくあります。

 (繰り返しになりますが)当時は1カ所照射するのに数十分もの長時間を要することがあったようです。患者さんの治療位置合わせはきちんとなされているし、放射線治療も予定通りに進められていました。しかし、いざ治療が始まってしばらくするとその患者さんは身体をモゾモゾしはじめました。

 そしてなんとあろうことか、放射線治療のまっ最中に自分で勝手に治療台から降りてトイレへ用足しに行ってしまったのです。当時は部屋から出てもドアにロックがかかっているわけでもなく監視モニターもなかったので、きちんと確認するまでわからなかったようです(今なら大問題です)。
 放射線は患者さんがいなくても出続けていましたから、毎回トイレに行っていたことにより実照射時間はかなり短くなった。しかも自分で勝手に治療台を降りて勝手に戻っているからもともとの正しい位置に照射されているわけがない。だから副作用が少なかったし、皮膚の影響もほとんど出なかった。

 がんのある場所とは全く別の場所に放射線治療! これでは治りません…


 なお、今の時代は、治療中に身体が動いてないか確認する監視モニターなどが操作室にある(はずだ)から大丈夫です。

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 これらは今年50才を迎えた私が医者になる前、たった○○年くらい前の実話です(記憶が間違ってなければ)。わずか数㎜の治療精度を学会で熱く議論する、そして放射線治療の危機管理体制を様々な面から整備する現在からは、とても考えられないお話です。

 なんとものどかな、いやはや凄い時代だったのですね。


 大先輩、昔の貴重な情報をご教示賜り、まことにありがとうございました。二度とそのようなことが起きないよう、私たちも充分留意いたします。


【2014/10/29 19:23】 | 放射線治療:よもやま話
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 昨日もまた雪が降り交通網が乱れる中、うちの病院で年1回の院内フォーラム(各部署の研究・調査などの発表会)が無事開催されました。

 今回のフォーラムでは朝一番のセッションで私の発表が組まれていたのですが、前日からの予報が暴風雪で自宅も病院も駐車場が大変なことになりそうだったし、電車も使えないだろうし、そして何よりソチオリンピック男子フィギュアフリーを深夜に観たかったので(羽生君、金メダルおめでとう!)、遅刻しないように院内の「簡易仮眠室」で過ごしました。

 羽生君の金メダルが決まり気分が高揚してなかなか寝つけないでいたら、外では重機を使って病院の駐車場の除雪作業が始まってました。明け方にまた積もってはいましたが、除雪してなかったら院内駐車場はきっとアウトだったでしょう。
 深夜の作業、寒いなか大変ご苦労様でした!


 今回の私の発表演題名は「診療報酬から見た最近の外部放射線治療実績」でした。

 約1年前のこのブログでも触れましたが、最近の放射線治療分野の診療報酬(=国が決めたお値段)は、お役人様方と交渉される先生方のご尽力のおかげで改定毎に右肩上がりとなっています。
 そのおかげで、高額で購入・維持費が大変な放射線治療機器にもかかわらず、普通に1日20名以上の患者さんを治療すれば病院として充分採算が見込める部門になりました。来年度からの改定で放射線治療部門はほぼ横ばいのようですが、全体がマイナス査定ということを考慮するとぜいたくは言えませんかね?

 現在の病院に着任してまもなく3年になるのですが、病院全体の医業収益に占める自部門の割合・立ち位置を改めて確認し(、そして病院スタッフにも示し)たかったのと、今後の放射線治療機器更新の際の資料にもなればと思いまして、今回の発表をしました。
 調査結果ですが、近隣施設に新たな放射線治療装置が導入された年などを除き、ここ数年はやはりうちの病院も放射線治療部門は右肩上がりの収益増でした。今後は単価もお高めなIMRTなどの高精度放射線治療を積極的に導入する方針なので、さらに収益は増加しそうです。具体的な数字を書くと問題になりそうなので、ここでは伏せておきます。
 私以外の演題は、研究とか治療成績とか取り組みとか「学術的」なものばかりで、いささか浮いている感もありましたが、座長の先生から「こういう内容の学会もあるから、充分学術的ですよ」とサポートコメントをいただきました。恐れ入ります。


 医業収益を増やすということは、その分患者さんに経済的負担がかかってしまうことになるわけで、そこは気が引ける所です。ただ、世界に冠たる社会主義制度とも例えられる国民皆保険に守られた日本の医療を取り巻く環境(≒製薬・医療機器業界)は欧米型の資本主義であり、高度な医療技術・物品を導入するためには一般の企業同様に設備投資など相応にかかってしまいます。また、先ほども触れましたが高精度照射は治療内容の品質がより高く準備にも手間暇を要する分、1回単価が割高に設定されています。
 「収益」とか「採算」などという文言にはいささか抵抗もありますが、病院経営も正直ボランティアだけでは成り立たないところがありますし、ここはどうしても無視できません。

 今回は発表時間の制約で収益面のみとなりましたが、来年のフォーラムでは支出や労働力、各機器の売り上げ状況なども含めた評価を発表するつもりです。

 ざっとシミュレーションしてみると今の所黒字のようだし、「儲かりそうだから、さらに良い装置を買ってください!」って病院の上層部にアピールするために…不謹慎ですか?申し訳ございません。


 「よい」医療を取り入れるのって、お金がかかるんだよなぁ。


【2014/02/16 14:00】 | 放射線治療:よもやま話
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 昭和の時代は(いや、平成になってからも)、今のようながん告知は一般的でなく、またきちんとした緩和ケア病棟や在宅緩和診療体制も整備されていませんでした。なので、当時は放射線治療病棟が今の緩和ケア病棟に近い役割も果たしていたそうです。「放射線治療科病棟でお亡くなりになられた患者さんが大学病院内の霊安室に4名続けて運ばれ、ベッドを連ねたこともあった」と、ある先輩放射線腫瘍医から伺ったこともあります。
 そこまでではないですが、私が放射線腫瘍医になりたてで(20年くらい前)某病院に下っ端勤務をした時は、30床以上ある放射線治療科病棟の半数くらいが進行・末期がん患者さんで、私一人で毎月何枚も死亡診断書を記載したこともありました。

 また、私が某大学の放射線科に入局した頃の放射線治療計画(=医者が行う準備)と言えば、一枚の位置決めX線写真を撮影し、出てきたフィルム上に色鉛筆でささっと照射範囲の印をつける程度で、早ければ1患者数分で完了したものでした。中には正方形や長方形に曲げられた針金を患者さんの皮膚の上にポンと置き、「このあたりでよろしく!」と印をつけて終了、という計画をしていたひどい(?)施設もありました。
 治療に用いる放射線の量も、手計算(≒電卓程度)で済んでしまうようなものでした。前述の放射線治療準備が終わったらそのまま治療装置に移動して放射線治療を開始、なんてことも日常茶飯事。

 今から思えば、全てが簡易で大雑把。コンピュータなど必要ない(というか存在しない)マクロでアナログの世界。文系要素の色濃かった放射線治療科の時代でした…古き良き時代?


 ところが今は、慢性の全国的な放射線腫瘍医の人手不足と業務過多などで、病棟患者を持た(→て?)ずに外来診療に限定している放射線腫瘍医が少なくありません。時代の流れで多くの施設で高額放射線治療機器の整備(だけ)は着々と進み、たった一人あるいは非常勤医師だけで診療せざるを得ない施設もかなりあります。

 IMRTに代表される高精度放射線治療の総業務量は昔とは雲泥の差となり、何台も並んだコンピュータの前で医者が黙々と作業する時間は劇的に増えました。
 まず治療の準備として撮影した数十枚以上のCTやMRI、時にはPET画像をモニターで綿密にチェックし、がんやそれに関係する標的、守るべき多くの正常臓器を治療計画コンピュータソフト上で丁寧に描く必要があります。さらに放射線治療の量(線量分布)も複雑な計算をコンピュータで行った後に、専門の人間の目で入念な二重の確認をする必要があります。その後には放射線技師さんらが(業務時間外まで)時間をかけて、正しく放射線があたっているかの実測検証作業もあります。
 これら一連の業務は、全部で早くても数時間、IMRTといった大がかりなものだと数日以上の準備期間を要します。このようにして1日何人もの患者さんの準備を日々行っています。他科の先生方と同様に、何十人もの新患・外来診察をしたり、各種症例検討会に参加したり、などももちろんあります。

 昔とは正反対、コンピュータまみれ、ミクロでデジタルの世界です。たまに、自分の仕事はコンピュータ屋なのか?と錯覚しそうな時もあります。


 他科のお医者さんたちや一般の方々からみたら賛否様々なご意見があろうかと思いますが、そんな状況なので、全がん患者さんのおよそ30%にも関与している数少ない放射線腫瘍医が「全ての方々」を主治医として入院管理することはほぼ不可能だと思います。
 ちなみに今、私の所では放射線治療装置がない他院からのご紹介や緩和照射について一部患者さんの入院管理を主に担当させていただいております。もちろん、放射線治療科としてどの疾患のどんな患者さんを自分の病棟で診るか、いやそもそも診られるか、といった方針は施設ごとで大きく異なってきます。


 私が経験してきたここ20年余りを振り返ってみても、放射線治療の職場環境は大きく様変わりしました。

 理系(とオタク系)の世界にどっぷりはまってしまいがちな昨今の放射線治療科ではありますが、文系(と芸術系)もつつがなくできるよう臨床医として成長・勉強を続けて切磋琢磨せねば!と、いまだ自らに言い聞かせています。


 たまには湯船につかってリラックスもしつつ…


【2014/02/04 00:32】 | 放射線治療:よもやま話
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 STAP細胞で一躍時の人となった小保方晴子さん。リケジョ(理系女子)という言葉もメディアを賑わせています。彼女の画期的な大発見はもちろんのこと、そこに至るまでに人一倍の努力を重ねてきたと報道されている研究に対する姿勢と努力もお見事です。

 小保方さんは入浴中のくつろいでいる時にアイデアが閃いたとTV報道されていました。iPS細胞の山中さんもそうらしい?リラックスした時間ってやっぱり大切なのでしょう。そういえば、アルキメデスの原理発見も入浴時に閃いたという逸話がありましたね。あれは、風呂に入った瞬間でしたっけ?
 最近、シャワーを浴びるだけのことが多かった私ですが、湯船でくつろぐ回数をもっと増やそうかなぁ。「お前、実験なんてしてないだろ!」ですか?まあ、その通りですが。

 とりあえず、日々の出来事に対し常に問題・疑問の意識を持ち、言われるがまま、なんとなくといった思考停止状態に陥らないようには気をつけないと。いつ何時、どんな発見があるかわかりませんから。チャンスの女神は前髪しかない、ともいいますし。
 ここだけの話なのですが、実はだんだん少なくなってきていて…無くなる前につかんでおきたい所です(笑)


 で、リケジョ

 医学部受験も多くの大学で理系科目が主であり、また現在の(西洋)医学というのは科学的根拠を重視していますから、女医さんもリケジョでしょうね。
 というか、男女関係なく医者の思考・成育環境というのは基本的に理系です。しかしながら、がんの臨床現場では文系要素もすごく重視されてきます。ちなみにここでの「理系」とは科学的根拠(エビデンス)に基づく医療=エビデンスベイストメディシン;Evidence-based medicine (EBM)、「文系」とは患者さんやご家族の希望・価値観を重視した医療=ナラティブメディシン;Narrative (-based) medicineのこと。私なりの言いかえなので、どうかあしからず。

 がんの三大治療は、手術、抗がん剤(化学療法)、放射線治療です。どの治療法も理系が原則になりますし、どの診療科でも文系は大切です。

 しかし、それぞれの分野の医者集団の傾向はいささか違うような印象が私にはあります。放射線腫瘍医は多くのコンピュータに囲まれた職場環境ということもあってか濃い理系、化学療法医は進行・再発がん患者さんを多く診療されるからでしょうか緩和医療にも造詣の深い先生が多数いらっしゃって文系、そして外科医は総じて体育会系、といった感じです。
 もちろん外科医でも化学療法医でも、文系も理系も芸術系も得意な方は多数いらっしゃいますし(実際に趣味の世界を超えた作家や画家、音楽家の方もいます)、放射線腫瘍医も然り、です。なお、これはエビデンスのない田舎の町医者のなんとなくですし、さして深い意味はないつもりなので、その点はどうぞご容赦ください。

 ちなみに緩和医は芸術的要素の強い文系、でしょうか?癒しの音楽療法がありますし、宗教的アプローチもあります。また緩和の先生方のご講演や論文やメディア記事、ブログやFacebook投稿などを拝見すると、そして常に死の臨床に接しておられるからか、皆さん大変感受性の豊かな文章表現と上手な語り、感心させられることしばしばです。

 実は、昔の放射線腫瘍(治療)科はどちらかというと文系に近い診療科でした。少なくとも私が見聞きした限りでは、ですが。


(まだあるのですが、続きはその2としました)


【2014/02/02 23:03】 | 放射線治療:よもやま話
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 私が放射線腫瘍医になって間もない頃のこと。

 今ではちょっと難しい「大胆な」放射線治療を実践されていた上司の先生がいらっしゃいました。そして、その影響が疑われる合併症を抱えた方を何人か病棟や在宅で診たこともあります。
 やはり後遺症というのは患者さんにとって心身ともにとてもつらいものです。医者もつらいです。


 しかし、ある日の往診のこと、おそらく後遺症で寝たきりになってしまったある患者さんが、若かりし頃の私にこうおっしゃってくださったことがあります。「今、私は放射線治療の後遺症で大変ですが、そのおかげでがんが治って生きているわけですから、治療してくれた(上司の)先生にはとても感謝しています」

 最近では、晩期障害(後遺症)を極力出さないような臨床試験の結果などを元にした標準治療が、いろいろな診療ガイドラインに記されています。それを逸脱することはタブーとして絶対にしない先生もおられます。たぶん、それが普通なのかもしれません。

 しかし、患者さんによっては後遺症覚悟の標準治療を超える選択を希望される場合もありえます。

 もちろん、思いつきの何となく医療はよろしくないです。「診療ガイドラインというのは、主流からはずれて我流になりがちな治療にブレーキをかける役割が大きい」という意見は、全くその通りです。
 この患者さんのような綺麗事で終わらないケースも当然あります。不幸にして寿命を縮める結果となった場合などにはご遺族から訴訟のリスクはもちろんあるわけで、決して薦められるものではないと思います。


 でも、その方と出会って以来、患者さんご本人が充分ご納得いただけるのならそういう治療も選択肢の一つになるのかもしれないとも意識するようになりました。もちろん、お互いの信頼関係をある程度は築いた上で。


 その設定限度(さじかげん)が医者によってかなり異なるため、ある病院では非常に苦慮しましたが…



(2012.5.xx Facebookより改変引用)


【2013/07/16 23:59】 | 放射線治療:よもやま話
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