今の陽子線治療施設に移籍して、本日で一年が経過しました。時の経つのは早いものです。
陽子線の特徴、なんとなくわかってきました。X線より正常部分の被ばくを抑え身体に優しい放射線治療とか、がん病巣の照射量が上乗せでき治療効果も高まる(可能性)とか、以前から文言としてはいろいろ伺っておりましたが、やはり現場で実際の患者さんを直接診療させていただくと違いますね。百聞は一見に如かずです。
陽子線治療はおそらくX線治療の「次世代の」放射線治療ですし、JASTROの皆さんもぜひ一度は早めに経験なさってみてはいかがでしょう? ちなみに今回のJASTRO Newsletter裏表紙にはうちの放射線腫瘍医募集広告も掲載されています(笑)
ということで、今回のブログでは陽子線治療に関する私なりの印象を思いつくままに以下箇条書きしてみることにしました。
1.陽子線治療の線量分布はやっぱりX線治療より総じて良いです。特に局所進行肺癌や肝胆腫瘍は予想以上に使える印象です。III期肺癌(や進行食道癌)で縦隔リンパ節がごろごろしていたり(右)肺下葉病変で照射野変更時に脊髄を外すと肺V20が35%を軽く超えてしまったり、正常の心臓や肝臓線量ががっちり入ってしまったりするケース、放射線腫瘍医なら誰しも治療計画の難しさを経験されているのではないでしょうか?やむを得ず総線量を減らさざるをえなかったりGTVすら照射野を削らなければならない照射設定、まれならずありますよね。陽子線治療だとそのストレスがほぼなくなり、ばっちり照射できます!
I期肺癌でも間質性肺炎例はX線の定位放射線治療よりずっと安全にご提供できそうです。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27090216
もっとも、RTOG0617や今年のASCO報告のようにIII期非小細胞肺癌ではいくら局所照射を頑張っても生命予後には寄与しないかもしれない可能性はあるのですが…。
また、全頸部照射のような広い照射野など実はIMRTの方が適している場合もあったりします。施設、装置によって微妙に対応が変わるようです。これはX線治療でも同じですね。
2.陽子線治療を受けられる方々は地元の症例が多いです。これはどの粒子線治療施設でもそのようなのですが、現場の医者から治療方針として粒子線が選択提示されるかどうかが大きな要素のようです。入院や外来通院するにも自宅からの距離というのはもちろん大きな因子となりますが、やはり医者の説明の仕方で全然違うようです。
粒子線治療はまだまだエビデンスが十分でなく、診療ガイドライン至上主義の先生方からは「選択肢に挙げられない」とのご意見を少なからず伺います。現在、先進医療として(うちの施設を含めた)粒子線治療グループがいろいろな多施設共同臨床試験などを計画している最中ではありますが、それらの結果(や海外の報告)が出るまで診療ガイドラインには反映されにくいのも確かではあります。
でも、目の前の患者さんはそれまで待てません。そして、自分の担当患者さんにはEBMを優先される医者もいざ自分が患者になったら陽子線を選択肢としてお考えになるだろうとも思います、きっと。あまり余計なことを書くと、JASTROの一部先生方に叱られそうですが…
3.先進医療保険特約加入者や実費お支払い可能者は思いのほかいらっしゃるようです。社長とか先生とか、やっぱりある程度の資産をお持ちの方は多いようですが。ちなみに銀行ローンなどでの分割支払いも条件によっては可能です。
300万円、決して安くはありませんが、自動車1台分の値段と同じと考えれば、命や後遺症の値段として高いかどうか、人それぞれで見解が異なります。担当医が勝手に「お高い治療」と決めつけるのはおかしいことです。
昨今の分子標的治療は月に300万円もします。それをずっと投与し続けたら…。もちろん保険収載されているので、1人の患者さんご自身の自腹金額としてはずっと安価ですが、それを日本国民全員で負担しているわけでして。
4.自分(か家族)の意思で受診される方が多いです。裏を返せばなかなか個性的な方も多いのですが、総じて医者お任せ的でない方が多い気がします。お金のことは触れましたが、高額ということを除けば陽子線治療がX線治療に劣ることはほぼありません。
陽子線治療の最大の利点は、従来のX線治療より後遺症を含めた副作用のリスク面で明らかに優れていることが多い点だと私は思っています(全部変わらないなら300万円も出す価値はありませんよね)。また、そこを最優先に期待され受診される方も少なくありません。患者さんたちは生存率といった医学者目線のエビデンスだけで治療選択をなさっていません。
自分の身体は自分で守る、自分で決める。これはがん治療においても、とても大事な要素の一つだと思います。
5.そして最後に。うちの施設の売りの一つは、放射線治療科として自ら病棟管理をし、場合によっては化学療法や緩和ケアも含めた主治医になれることでしょう。他の診療科の請負(≒あてや)だと、チーム医療とはいえどうしても最終方針は主治医のご意向を優先せざるを得ない部分が少なくありません。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-107.html
自らが主治医になるとその点の対応はしやすいですし、また治療以外の深いったいろいろなお話も多々しやすくなります。個人的には、自然治癒力のお話とか補完代替療法の相談もベッドサイドで積極的にできるようになりました。もちろんご本人のご意向を優先し下手な誘導はしておりませんし、具体的なお薦め(≒商売)もしていません。
でも、がん患者さんの大半が関心を持つこれら領域を話題にさせていただくと、より親身ながん診療がしやすくなる印象です。
陽子線治療、なかなか面白いです。

陽子線の特徴、なんとなくわかってきました。X線より正常部分の被ばくを抑え身体に優しい放射線治療とか、がん病巣の照射量が上乗せでき治療効果も高まる(可能性)とか、以前から文言としてはいろいろ伺っておりましたが、やはり現場で実際の患者さんを直接診療させていただくと違いますね。百聞は一見に如かずです。
陽子線治療はおそらくX線治療の「次世代の」放射線治療ですし、JASTROの皆さんもぜひ一度は早めに経験なさってみてはいかがでしょう? ちなみに今回のJASTRO Newsletter裏表紙にはうちの放射線腫瘍医募集広告も掲載されています(笑)
ということで、今回のブログでは陽子線治療に関する私なりの印象を思いつくままに以下箇条書きしてみることにしました。
1.陽子線治療の線量分布はやっぱりX線治療より総じて良いです。特に局所進行肺癌や肝胆腫瘍は予想以上に使える印象です。III期肺癌(や進行食道癌)で縦隔リンパ節がごろごろしていたり(右)肺下葉病変で照射野変更時に脊髄を外すと肺V20が35%を軽く超えてしまったり、正常の心臓や肝臓線量ががっちり入ってしまったりするケース、放射線腫瘍医なら誰しも治療計画の難しさを経験されているのではないでしょうか?やむを得ず総線量を減らさざるをえなかったりGTVすら照射野を削らなければならない照射設定、まれならずありますよね。陽子線治療だとそのストレスがほぼなくなり、ばっちり照射できます!
I期肺癌でも間質性肺炎例はX線の定位放射線治療よりずっと安全にご提供できそうです。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27090216
もっとも、RTOG0617や今年のASCO報告のようにIII期非小細胞肺癌ではいくら局所照射を頑張っても生命予後には寄与しないかもしれない可能性はあるのですが…。
また、全頸部照射のような広い照射野など実はIMRTの方が適している場合もあったりします。施設、装置によって微妙に対応が変わるようです。これはX線治療でも同じですね。
2.陽子線治療を受けられる方々は地元の症例が多いです。これはどの粒子線治療施設でもそのようなのですが、現場の医者から治療方針として粒子線が選択提示されるかどうかが大きな要素のようです。入院や外来通院するにも自宅からの距離というのはもちろん大きな因子となりますが、やはり医者の説明の仕方で全然違うようです。
粒子線治療はまだまだエビデンスが十分でなく、診療ガイドライン至上主義の先生方からは「選択肢に挙げられない」とのご意見を少なからず伺います。現在、先進医療として(うちの施設を含めた)粒子線治療グループがいろいろな多施設共同臨床試験などを計画している最中ではありますが、それらの結果(や海外の報告)が出るまで診療ガイドラインには反映されにくいのも確かではあります。
でも、目の前の患者さんはそれまで待てません。そして、自分の担当患者さんにはEBMを優先される医者もいざ自分が患者になったら陽子線を選択肢としてお考えになるだろうとも思います、きっと。あまり余計なことを書くと、JASTROの一部先生方に叱られそうですが…
3.先進医療保険特約加入者や実費お支払い可能者は思いのほかいらっしゃるようです。社長とか先生とか、やっぱりある程度の資産をお持ちの方は多いようですが。ちなみに銀行ローンなどでの分割支払いも条件によっては可能です。
300万円、決して安くはありませんが、自動車1台分の値段と同じと考えれば、命や後遺症の値段として高いかどうか、人それぞれで見解が異なります。担当医が勝手に「お高い治療」と決めつけるのはおかしいことです。
昨今の分子標的治療は月に300万円もします。それをずっと投与し続けたら…。もちろん保険収載されているので、1人の患者さんご自身の自腹金額としてはずっと安価ですが、それを日本国民全員で負担しているわけでして。
4.自分(か家族)の意思で受診される方が多いです。裏を返せばなかなか個性的な方も多いのですが、総じて医者お任せ的でない方が多い気がします。お金のことは触れましたが、高額ということを除けば陽子線治療がX線治療に劣ることはほぼありません。
陽子線治療の最大の利点は、従来のX線治療より後遺症を含めた副作用のリスク面で明らかに優れていることが多い点だと私は思っています(全部変わらないなら300万円も出す価値はありませんよね)。また、そこを最優先に期待され受診される方も少なくありません。患者さんたちは生存率といった医学者目線のエビデンスだけで治療選択をなさっていません。
自分の身体は自分で守る、自分で決める。これはがん治療においても、とても大事な要素の一つだと思います。
5.そして最後に。うちの施設の売りの一つは、放射線治療科として自ら病棟管理をし、場合によっては化学療法や緩和ケアも含めた主治医になれることでしょう。他の診療科の請負(≒あてや)だと、チーム医療とはいえどうしても最終方針は主治医のご意向を優先せざるを得ない部分が少なくありません。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-107.html
自らが主治医になるとその点の対応はしやすいですし、また治療以外の深いったいろいろなお話も多々しやすくなります。個人的には、自然治癒力のお話とか補完代替療法の相談もベッドサイドで積極的にできるようになりました。もちろんご本人のご意向を優先し下手な誘導はしておりませんし、具体的なお薦め(≒商売)もしていません。
でも、がん患者さんの大半が関心を持つこれら領域を話題にさせていただくと、より親身ながん診療がしやすくなる印象です。
陽子線治療、なかなか面白いです。

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今月からうちの施設でも同じ県内の大学病院さんで治療を受けられる小児がん患者さんの陽子線治療を担当させていただくこととなりました。
以前のブログでもご紹介しましたが、陽子線治療はこの4月からついに小児がん限定で保険診療が可能となりました。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-147.html
はじめに陽子線治療の利点を簡単にご説明します。放射線治療で一般に用いられるX線というのは、身体に入る表面付近の照射エネルギーが最も強く、X線が深く進むにつれ徐々に弱くなりつつ最後は身体の反対側まで突き抜ける性質があります。一方で陽子線は、身体に入る表面付近の照射エネルギーは比較的弱く、ある深さに到達すると突然最大エネルギー部分(ブラッグピーク:Bragg peak) が現れ、さらにそのピークを過ぎると急に陽子が組織内で止まり、その先の被ばくはほぼ0に抑えることができるという特徴的な性質を有しています。この特徴を活かして治療したい部分にブラッグピークの位置を合わせれば、がんに集中して強い放射線を照射し、周囲の正常部分の損傷は劇的に減らせる利点があります。
言葉だけの説明では難しかったでしょうか…?
小児がんはきちんと治療すればしっかり治る病状が多く、一方で成長障害や二次発がんといった将来への影響も成人のがんよりかなり慎重に考慮しなければなりません。そのため、がんのタイプ毎に全国共通の臨床試験という形で登録され、治療内容もほぼ統一されているそうです。ちなみに小児がんに対する放射線治療は、一部疾患を除き手術や抗がん剤で縮小・消失させた後の残存がん病巣を対象とし、およそ規定された照射線量や範囲で行われることが多いです。
ただ、従来のX線治療だと先ほど書いた「身体の反対側まで突き抜ける性質」などのため病巣近くの正常組織への被ばくがそれなりの割合で発生してしまい、がんが治癒した後に低身長や変形といった骨の成長障害や脳の発育機能障害や二次発がんなどの後遺症が問題とされてきました。
今回の小児がんに対する陽子線治療の保険適応で特に期待されることは、ブラッグピークという特徴を活かしがん病巣に集中照射することで、将来起こりうる正常臓器の成長・機能障害や二次発がんを極力抑えることができたり、従来のX線では正常組織の副作用・後遺症が強く出て放射線治療そのものが困難な巨大腫瘍でも強い放射線量を照射できることです。
もちろん、成人のがんでも陽子線治療は同じような治療内容のX線治療より副作用をほぼ確実に減らせますし、巨大ながんに対しても有効です。ただ、残念ながら現時点ではまだ充分な国内治療成績が出せていないという主な理由で厚生労働省さんからの適応承認が得られず、この4月からは条件付きで引き続き先進医療が可能となりました。
とはいえ、高額というお金の問題を除けば陽子線治療はX線治療と同等以上の優れた放射線治療です。実際に陽子線治療の診療をたずさわらせていただいてそう実感します。陽子線とX線の違い(私がこれまで感じた臨床上の利点、欠点など)についてはいずれまた別の機会で触れてみたいと思います。
さて、小児がん患者さんに対する陽子線治療の臨床運用なのですが、いざ始めるとなるといろいろな課題も挙がってきました。
第一の課題は、特に幼児の場合は正確な位置に動かず陽子線治療を行うため全身麻酔を毎回要することです。通常のX線治療でも同様なのですが、麻酔科の先生方のご協力が不可欠になります。そうでなくても通常の手術などご多忙な麻酔科の先生方に遠路陽子線治療部門まで毎日足を運んでいただき、麻酔導入から照射中の麻酔維持管理、そして照射後の覚醒と、1人の症例につき毎回1時間前後は要する麻酔をかけていただくのは(傍から見ていても)とても大変な業務負担です。しかも一連の治療で平日毎日、数週間もかかります。とはいえ、私たち放射線腫瘍医が見よう見まねで簡単にできる診療行為ではなさそうです。
うちの麻酔科の先生がたには打ち合わせの段階からとても前向きにご協力をいただいており、感謝の限りです。どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます。
第二の課題はうちの施設の場合ですが、大学病院入院治療中の方を毎回送迎する形で陽子線治療を行う必要があります。施設間の距離がそれなりにありますので、患者さんやご家族はもちろん、送迎スタッフも毎日となるとなかなか大変です。今の所は自動車で毎回送迎をさせていただく形で運用開始しています。
うちの施設に特殊な小児がんを専門とされる常勤のお医者さんがいらっしゃって入院管理していただければ良いのですが、マンパワーや診療体制の問題もあり難しい現状です。また、小児がん治療は大学病院のような専門施設で診療を集約化した方がやはり安全かつ効率的なのだそうです。今後予想される県外施設からご紹介の方に関しても、大学病院の先生方に入院管理していただきながら陽子線治療を行うことになりそうです。
退院が可能な一般状態であれば、遠方の方でも近隣施設に宿泊しながら通院治療も選択肢になるでしょう。ちなみにうちの陽子線治療施設の隣には病院系列の「無料温泉大浴場付き」宿泊施設が併設されています。各部屋バリアフリーの綺麗なフローリングで自炊可能なIH調理器や冷蔵庫なども付いた出来たてビジネスホテル的な宿泊施設です。なんと一泊三千円(お食事別)!
その他の課題…ですが(企業秘密もちょっと絡んできそうので)今回は触れないでおきます。
大学病院の諸先生方を筆頭にいろいろな方々に引き続きご指導を賜りつつ、今後も必要に応じていろいろなカイゼンをしながら、安全かつ適切な小児がんの陽子線治療をスタッフ一同でご提供していく所存です。私、施設長ではないのですが代理コメントということでご容赦ください。
治療初日に際しては国立成育医療センターさん関連の緒先生方にもわざわざ足を運んでいただき、現場ご指導や施設内での特別講演も拝聴させていただきました。まことにありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
また、大学病院さんと陽子線治療連携業務をさせていただくことを機に、うちの施設も日本小児がん研究グループ(JCCG)の会員施設登録(放射線治療のみ)申請をすることになりました。こちらはおそれ多くも私が施設研究責任者で登録させていただくことになりました。こちらもどうぞよろしくお願い申し上げます。

以前のブログでもご紹介しましたが、陽子線治療はこの4月からついに小児がん限定で保険診療が可能となりました。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-147.html
はじめに陽子線治療の利点を簡単にご説明します。放射線治療で一般に用いられるX線というのは、身体に入る表面付近の照射エネルギーが最も強く、X線が深く進むにつれ徐々に弱くなりつつ最後は身体の反対側まで突き抜ける性質があります。一方で陽子線は、身体に入る表面付近の照射エネルギーは比較的弱く、ある深さに到達すると突然最大エネルギー部分(ブラッグピーク:Bragg peak) が現れ、さらにそのピークを過ぎると急に陽子が組織内で止まり、その先の被ばくはほぼ0に抑えることができるという特徴的な性質を有しています。この特徴を活かして治療したい部分にブラッグピークの位置を合わせれば、がんに集中して強い放射線を照射し、周囲の正常部分の損傷は劇的に減らせる利点があります。
言葉だけの説明では難しかったでしょうか…?
小児がんはきちんと治療すればしっかり治る病状が多く、一方で成長障害や二次発がんといった将来への影響も成人のがんよりかなり慎重に考慮しなければなりません。そのため、がんのタイプ毎に全国共通の臨床試験という形で登録され、治療内容もほぼ統一されているそうです。ちなみに小児がんに対する放射線治療は、一部疾患を除き手術や抗がん剤で縮小・消失させた後の残存がん病巣を対象とし、およそ規定された照射線量や範囲で行われることが多いです。
ただ、従来のX線治療だと先ほど書いた「身体の反対側まで突き抜ける性質」などのため病巣近くの正常組織への被ばくがそれなりの割合で発生してしまい、がんが治癒した後に低身長や変形といった骨の成長障害や脳の発育機能障害や二次発がんなどの後遺症が問題とされてきました。
今回の小児がんに対する陽子線治療の保険適応で特に期待されることは、ブラッグピークという特徴を活かしがん病巣に集中照射することで、将来起こりうる正常臓器の成長・機能障害や二次発がんを極力抑えることができたり、従来のX線では正常組織の副作用・後遺症が強く出て放射線治療そのものが困難な巨大腫瘍でも強い放射線量を照射できることです。
もちろん、成人のがんでも陽子線治療は同じような治療内容のX線治療より副作用をほぼ確実に減らせますし、巨大ながんに対しても有効です。ただ、残念ながら現時点ではまだ充分な国内治療成績が出せていないという主な理由で厚生労働省さんからの適応承認が得られず、この4月からは条件付きで引き続き先進医療が可能となりました。
とはいえ、高額というお金の問題を除けば陽子線治療はX線治療と同等以上の優れた放射線治療です。実際に陽子線治療の診療をたずさわらせていただいてそう実感します。陽子線とX線の違い(私がこれまで感じた臨床上の利点、欠点など)についてはいずれまた別の機会で触れてみたいと思います。
さて、小児がん患者さんに対する陽子線治療の臨床運用なのですが、いざ始めるとなるといろいろな課題も挙がってきました。
第一の課題は、特に幼児の場合は正確な位置に動かず陽子線治療を行うため全身麻酔を毎回要することです。通常のX線治療でも同様なのですが、麻酔科の先生方のご協力が不可欠になります。そうでなくても通常の手術などご多忙な麻酔科の先生方に遠路陽子線治療部門まで毎日足を運んでいただき、麻酔導入から照射中の麻酔維持管理、そして照射後の覚醒と、1人の症例につき毎回1時間前後は要する麻酔をかけていただくのは(傍から見ていても)とても大変な業務負担です。しかも一連の治療で平日毎日、数週間もかかります。とはいえ、私たち放射線腫瘍医が見よう見まねで簡単にできる診療行為ではなさそうです。
うちの麻酔科の先生がたには打ち合わせの段階からとても前向きにご協力をいただいており、感謝の限りです。どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます。
第二の課題はうちの施設の場合ですが、大学病院入院治療中の方を毎回送迎する形で陽子線治療を行う必要があります。施設間の距離がそれなりにありますので、患者さんやご家族はもちろん、送迎スタッフも毎日となるとなかなか大変です。今の所は自動車で毎回送迎をさせていただく形で運用開始しています。
うちの施設に特殊な小児がんを専門とされる常勤のお医者さんがいらっしゃって入院管理していただければ良いのですが、マンパワーや診療体制の問題もあり難しい現状です。また、小児がん治療は大学病院のような専門施設で診療を集約化した方がやはり安全かつ効率的なのだそうです。今後予想される県外施設からご紹介の方に関しても、大学病院の先生方に入院管理していただきながら陽子線治療を行うことになりそうです。
退院が可能な一般状態であれば、遠方の方でも近隣施設に宿泊しながら通院治療も選択肢になるでしょう。ちなみにうちの陽子線治療施設の隣には病院系列の「無料温泉大浴場付き」宿泊施設が併設されています。各部屋バリアフリーの綺麗なフローリングで自炊可能なIH調理器や冷蔵庫なども付いた出来たてビジネスホテル的な宿泊施設です。なんと一泊三千円(お食事別)!
その他の課題…ですが(企業秘密もちょっと絡んできそうので)今回は触れないでおきます。
大学病院の諸先生方を筆頭にいろいろな方々に引き続きご指導を賜りつつ、今後も必要に応じていろいろなカイゼンをしながら、安全かつ適切な小児がんの陽子線治療をスタッフ一同でご提供していく所存です。私、施設長ではないのですが代理コメントということでご容赦ください。
治療初日に際しては国立成育医療センターさん関連の緒先生方にもわざわざ足を運んでいただき、現場ご指導や施設内での特別講演も拝聴させていただきました。まことにありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
また、大学病院さんと陽子線治療連携業務をさせていただくことを機に、うちの施設も日本小児がん研究グループ(JCCG)の会員施設登録(放射線治療のみ)申請をすることになりました。こちらはおそれ多くも私が施設研究責任者で登録させていただくことになりました。こちらもどうぞよろしくお願い申し上げます。

昨日、地元のがんプロフェッショナル養成基盤推進プラン(以下、がんプロ)の4大学合同学生セミナーにお招きいただき、陽子線治療の教育講演なるものを担当させていただきました。ブログでも書いておりますように陽子線治療の臨床経験はまだ1年に満たない私ですが、僭越ながら講師をさせていただきました。
陽子線治療の講演は初めてでした。
がんプロというのは『手術療法、放射線療法、化学療法その他のがん医療に携わるがん専門医療人を養成する大学の取組を支援することを目的』として『複数の大学がそれぞれの個性や特色、得意分野を活かしながら相互に連携・補完して教育を活性化』するために平成25年度から全国各地域で実施されているものです(『』内は文部科学省HPより引用)。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/1314727.htm
当然、今回のがんプロセミナーの参加者も最新の医学研究をなさっておられる各大学の新進気鋭の若い先生方ばかり、しかも前列には国公立4大学の名の知れた担当教授が勢ぞろい。
そんな中、私は陽子線治療に関する講演は人生初、作成スライドも新作ばかりだったので、緊張感満載の発表でした。
私の講演タイトルは「陽子線治療の現状と臨床試験を軸とした今後の可能性」、今回のセミナーを主催された大学の先生のご要望をふまえて決まりました。
前回のブログで『小児がんの陽子線治療の保険適応が決定したようです!(中略) 数年前から粒子線グループの先生方が集まって厚生労働省の担当の方々とも相談しながら国内外に粒子線治療の安全性・有効性を示すため臨床試験をはじめとするいろいろな準備をしています。』と書きました。
その後も頻回に開催されている各施設の担当放射線腫瘍医が一同に会した粒子線治療会議でいろいろな準備が着々と進んでおりまして、およそできあがった各臨床試験のプロトコール概要やコンセプトをいくつかご紹介させていただきました。
タイムリーに進められている内容(案)が参考資料としていろいろあったので、正直助かりました(笑)
今年1月14日に開催された第38回先進医療会議で報告された粒子線治療の取り扱いが厚生労働省HPに掲載されたPDFに記されています。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000109281.pdf
粒子線治療の先進医療関連の各臨床試験プロトコールについてはまだ公開されていないのですが、それ以外の各がん種でも来年度からは粒子線治療が日本放射線学会作成の全国統一治療方針で診療が行われる予定です。その概要は上記PDFに70ページ以上をかけて公表されています。
今回の教育講演は全部で30分とかなり限られていた(し、加速器BNCT治験の話題も少し紹介したかった)ので、逆に臨床試験以外の統一治療方針の紹介は今回の講演ではほとんど省かざるをえませんでした。
別の機会があったら、臨床試験以外の統一治療方針スライドもお披露目できるかもしれません…もしあれば、ですが。
来年度からは全国統一治療方針の他にも粒子線治療を実施するうえで以下の新たな施設要件を満たすことが必要になりそうです。これも上記PDFに詳細が記載されていますが、その要件を私なりに簡単にまとめてみました。
1. 粒子線治療専門スタッフ数の充足
2. キャンサーボードの整備
3. 学会指定の共通粒子線治療同意説明書等の使用
4. 粒子線治療例を学会へ全例登録
5. 学会による定期的な施設訪問調査、施設からの定期報告
全例登録はなかなか大変そうですが、他はうちの施設に関してはなんとかなりそうです…たぶん。
陽子線治療は装置そのものがだんだん改良され、また小型化も進んでいます。昨年12月には台湾で今のX線治療室にも設置できそうな小型陽子線治療装置が世界で初めて導入されたことが報道されました。
http://www.iba-protontherapy.com/proteusone-0#8299
この辺も話題提供としてご紹介させていただきました。
以上、客観的な臨床効果確認のため多施設臨床試験が進められていること、陽子線治療装置の改良や小型化が進んでいることなど、近い将来X線治療に変わりうると期待されている陽子線治療の現状についてのご紹介講演をさせていただきました。
ほとんどが新しく作ったスライドばかり、私もいろいろ勉強になりました。
実は来月も日本放射線腫瘍学会主催の看護師さん向けの放射線治療セミナーの講師を担当させていただきます。私の担当は放射線治療の基礎と緩和的放射線治療総論です。このブログで紹介した話題もいくつかパクろうかと思ってます…自分で書いたものだからパクるとは言わないですかね?
会費がなんと一人〇千円もするセミナー、予定定員は300名。きっとまた緊張感満載の講演となることでしょう…
私、看護師さん向けのセミナー講師も初体験です。
陽子線治療の講演は初めてでした。
がんプロというのは『手術療法、放射線療法、化学療法その他のがん医療に携わるがん専門医療人を養成する大学の取組を支援することを目的』として『複数の大学がそれぞれの個性や特色、得意分野を活かしながら相互に連携・補完して教育を活性化』するために平成25年度から全国各地域で実施されているものです(『』内は文部科学省HPより引用)。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/1314727.htm
当然、今回のがんプロセミナーの参加者も最新の医学研究をなさっておられる各大学の新進気鋭の若い先生方ばかり、しかも前列には国公立4大学の名の知れた担当教授が勢ぞろい。
そんな中、私は陽子線治療に関する講演は人生初、作成スライドも新作ばかりだったので、緊張感満載の発表でした。
私の講演タイトルは「陽子線治療の現状と臨床試験を軸とした今後の可能性」、今回のセミナーを主催された大学の先生のご要望をふまえて決まりました。
前回のブログで『小児がんの陽子線治療の保険適応が決定したようです!(中略) 数年前から粒子線グループの先生方が集まって厚生労働省の担当の方々とも相談しながら国内外に粒子線治療の安全性・有効性を示すため臨床試験をはじめとするいろいろな準備をしています。』と書きました。
その後も頻回に開催されている各施設の担当放射線腫瘍医が一同に会した粒子線治療会議でいろいろな準備が着々と進んでおりまして、およそできあがった各臨床試験のプロトコール概要やコンセプトをいくつかご紹介させていただきました。
タイムリーに進められている内容(案)が参考資料としていろいろあったので、正直助かりました(笑)
今年1月14日に開催された第38回先進医療会議で報告された粒子線治療の取り扱いが厚生労働省HPに掲載されたPDFに記されています。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000109281.pdf
粒子線治療の先進医療関連の各臨床試験プロトコールについてはまだ公開されていないのですが、それ以外の各がん種でも来年度からは粒子線治療が日本放射線学会作成の全国統一治療方針で診療が行われる予定です。その概要は上記PDFに70ページ以上をかけて公表されています。
今回の教育講演は全部で30分とかなり限られていた(し、加速器BNCT治験の話題も少し紹介したかった)ので、逆に臨床試験以外の統一治療方針の紹介は今回の講演ではほとんど省かざるをえませんでした。
別の機会があったら、臨床試験以外の統一治療方針スライドもお披露目できるかもしれません…もしあれば、ですが。
来年度からは全国統一治療方針の他にも粒子線治療を実施するうえで以下の新たな施設要件を満たすことが必要になりそうです。これも上記PDFに詳細が記載されていますが、その要件を私なりに簡単にまとめてみました。
1. 粒子線治療専門スタッフ数の充足
2. キャンサーボードの整備
3. 学会指定の共通粒子線治療同意説明書等の使用
4. 粒子線治療例を学会へ全例登録
5. 学会による定期的な施設訪問調査、施設からの定期報告
全例登録はなかなか大変そうですが、他はうちの施設に関してはなんとかなりそうです…たぶん。
陽子線治療は装置そのものがだんだん改良され、また小型化も進んでいます。昨年12月には台湾で今のX線治療室にも設置できそうな小型陽子線治療装置が世界で初めて導入されたことが報道されました。
http://www.iba-protontherapy.com/proteusone-0#8299
この辺も話題提供としてご紹介させていただきました。
以上、客観的な臨床効果確認のため多施設臨床試験が進められていること、陽子線治療装置の改良や小型化が進んでいることなど、近い将来X線治療に変わりうると期待されている陽子線治療の現状についてのご紹介講演をさせていただきました。
ほとんどが新しく作ったスライドばかり、私もいろいろ勉強になりました。
実は来月も日本放射線腫瘍学会主催の看護師さん向けの放射線治療セミナーの講師を担当させていただきます。私の担当は放射線治療の基礎と緩和的放射線治療総論です。このブログで紹介した話題もいくつかパクろうかと思ってます…自分で書いたものだからパクるとは言わないですかね?
会費がなんと一人〇千円もするセミナー、予定定員は300名。きっとまた緊張感満載の講演となることでしょう…
私、看護師さん向けのセミナー講師も初体験です。
『がん粒子線治療、全額保険適用へ 小児と骨、有効性確認で厚労省
2016年1月14日 20時06分
厚生労働省の先進医療会議は14日、医療費の一部で保険適用が認められているがんの粒子線治療について、小児がんの陽子線治療と手術が難しい骨のがんの重粒子線治療は有効性が示されたとして、全額の保険適用が適当だとの意見をまとめた。
対象の粒子線治療は、中央社会保険医療協議会(中医協)の議論を経て、4月から保険適用となる見通し。
日本放射線腫瘍学会は昨年12月、頭頸部のがんや、大きさが5センチ以上の大きな肝がん、手術が難しい肺がんについても、全額を保険適用にするよう求めていたが、先進医療会議は有効性がまだ明確ではないとして、保険適用を見送った。』(共同通信記事)
http://this.kiji.is/60324149722120192?s=f
昨日の先進医療会議で小児がんの陽子線治療、骨のがんの重粒子線治療の保険適応が決定したようです!
限られた疾患とはいえ、日本放射線腫瘍学会をはじめとする多くの先生方が、そしてもちろん患者さんたちが待望していた粒子線治療の保険診療がついに日本で初めて承認されることになります。日本の放射線治療の歴史の中でも画期的なことだと思います。
小児腫瘍以外の陽子線治療について来年度以降にどのような診療が可能になるかまだはっきりしていませんが、数年前から粒子線グループの先生方が集まって厚生労働省の担当の方々とも相談しながら国内外に粒子線治療の安全性・有効性を示すため臨床試験をはじめとするいろいろな準備をしています(私も今年度からメンバーに加えていただきました)。その具体的な内容は正式に決定してから(公表されてから)ブログでも話題にさせていただくつもりですが、会議やメール議論で中心となって活動されている先生方はとても大変そうです。うちの施設でもいろいろな準備にとりかかっています。
いずれは今のX線治療に置き換わり、がん放射線治療の主軸になる可能性が高い粒子線治療。多くの方がより効果的でより副作用の少ない放射線治療がより安価で受けられるような時代が少しでも早く来ることを期待し、もちろんうちの施設・スタッフもご協力をさせていただきます。
まずは良かった良かった。
2016年1月14日 20時06分
厚生労働省の先進医療会議は14日、医療費の一部で保険適用が認められているがんの粒子線治療について、小児がんの陽子線治療と手術が難しい骨のがんの重粒子線治療は有効性が示されたとして、全額の保険適用が適当だとの意見をまとめた。
対象の粒子線治療は、中央社会保険医療協議会(中医協)の議論を経て、4月から保険適用となる見通し。
日本放射線腫瘍学会は昨年12月、頭頸部のがんや、大きさが5センチ以上の大きな肝がん、手術が難しい肺がんについても、全額を保険適用にするよう求めていたが、先進医療会議は有効性がまだ明確ではないとして、保険適用を見送った。』(共同通信記事)
http://this.kiji.is/60324149722120192?s=f
昨日の先進医療会議で小児がんの陽子線治療、骨のがんの重粒子線治療の保険適応が決定したようです!
限られた疾患とはいえ、日本放射線腫瘍学会をはじめとする多くの先生方が、そしてもちろん患者さんたちが待望していた粒子線治療の保険診療がついに日本で初めて承認されることになります。日本の放射線治療の歴史の中でも画期的なことだと思います。
小児腫瘍以外の陽子線治療について来年度以降にどのような診療が可能になるかまだはっきりしていませんが、数年前から粒子線グループの先生方が集まって厚生労働省の担当の方々とも相談しながら国内外に粒子線治療の安全性・有効性を示すため臨床試験をはじめとするいろいろな準備をしています(私も今年度からメンバーに加えていただきました)。その具体的な内容は正式に決定してから(公表されてから)ブログでも話題にさせていただくつもりですが、会議やメール議論で中心となって活動されている先生方はとても大変そうです。うちの施設でもいろいろな準備にとりかかっています。
いずれは今のX線治療に置き換わり、がん放射線治療の主軸になる可能性が高い粒子線治療。多くの方がより効果的でより副作用の少ない放射線治療がより安価で受けられるような時代が少しでも早く来ることを期待し、もちろんうちの施設・スタッフもご協力をさせていただきます。
まずは良かった良かった。
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