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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 すでにご存じの方は多いかと思いますが、4月からついに放射線治療が緩和ケア病棟の包括払いからの除外項目となります!

 とても長い文書ですが来年度の診療報酬改定項目で、p.202-203 「緩和ケア病棟における在宅療養支援の充実」に『入院中の放射線治療を別に算定できることとする』という文言が新設 されました。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000111307.pdf

 これで保険診療で認められている放射線治療は全て出来高算定となります(追記:転移性骨腫瘍に対するメタストロン®:ストロンチウム-89など核医学系の一部放射性同位元素治療を除く)。こんな大事な話題を発表から1ヵ月以上もブログの話題にせず放置していました。
 申し訳ございません。


 去年の今頃、『緩和ケア病棟で緩和的放射線治療を行うと「損をする」?』と題したブログを書いておりました。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-126.html
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-127.html
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-132.html

 ブログ記載の繰り返しになりますが、
『放射線治療というのはDPCの対象外、追加料金でオーダーできる出来高算定設定の特別治療です。つまり「一般病室に」入院していようが、外来通院であろうが、セットメニューとは別料金設定(つまり放射線治療を行った分だけDPC料金に上乗せ請求が可能)となっています。
 一方で、「より高額な」緩和ケア病棟入院料が算定されている患者さんは一般病棟のDPCとは別扱いで、放射線治療も出来高算定ではなく包括化されています。』

 今月まで。
 

 以前、NPO法人HOPE★プロジェクト理事長である桜井なおみさんから、次のようなお話を伺ったことがありました。
 『緩和ケア病棟への入院に際し、化学療法や放射線治療の併用は行わない旨の同意書を提出するケースがあり、患者、家族から相談を受けます。診断時からの緩和ケアという言葉ばかりで、実際には患者さんや家族からツライ、ツライ決断でしたと涙されることが多々あります。ご遺族の声で一番トラウマになっているのです、この署名。』
 ちなみにHOPE★プロジェクトさんのビジョンは「私たちは、がんサバイバーのみならず、ハンディキャップを負う全ての人々を受け入れ、力づける一方、 それぞれが生きる意欲や能力を十分に発揮できる協働・共生型社会の建設に貢献します。」
 素晴らしいご活動だと思います。

 緩和ケア病棟への入院に際し、そのような同意書にサインをしなければ利用できないなどという明確な法的規制は(たぶん)なく、単に病院側の勝手なローカルルールでしょう。ですが、順番待ちでようやく転科転院できるようになった多くの方にとっては、やむを得ずその病棟の方針に従わざるを得ないのだろうと思います。

 その大きな理由の一つであっただろう月150万円の包括分からすればたった8万円の放射線治療代。4月からようやくその敷居が外されます。
 それでも放射線「治療」はしないと相変わらず考え続ける緩和の先生もいらっしゃるかもしれません…。緩和ケアの先生方が以前からよく言われていた「緩和と治療の間の線引き」というものを緩和ケアの先生方自身も是非しないでほしいものです。

 そして、この改定をご覧になってまさか「緩和ケア病棟の患者さんまで手を広げる(照射人数を増やす)のは自分の首を絞めるようなもの」みたいなご発言をなさる放射線腫瘍専門医はいらっしゃらないであろうと信じたい所です。

 
 いやしかし、(こんな遅れての投稿にはなりましたけど)個人的な念願の一つがついに叶いました。日本放射線腫瘍学会健保委員の先生方、本当にありがとうございました!
 

 PS:残念ながら私が現在所属する病院って緩和ケア病棟がないんですよね。

 ちょっと遠めなのですが、緩和ケア病棟はあるけど放射線治療設備のない病院からの緩和的放射線治療ご依頼を待つばかり。施設移動、やっぱり大変かなあ…?


20160321
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【2016/03/21 01:12】 | 緩和的放射線治療
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 がん放射線治療看護セミナー、無事終了しました。

 今回のメインテーマは緩和的放射線治療。前からセミナー開催要望の多かったテーマだったそうです。

 初の地方開催だったそうなのですが、なんと定員300名満員御礼!しかも、北は北海道から南は沖縄まで、熱心な看護師さんたちがご参加してくださったとのこと。中には会費を払って参加しているお知り合いのお医者さんまでいて、びっくりの盛況でした。

 私の担当は、緩和的放射線治療の基礎知識。実は1か月前に提出した配布資料では放射線生物関係のお話まで触れると時間的に厳しいかなと省いていたのですが、講師間での打ち合わせで「ぜひ分割照射についても触れて」というご意見があり、急遽スライドを追加することになりました。ということで、なんだかんだで合計100枚近くに…制限時間50分(笑)。
 でも、2日前に自分の病院で病棟の看護師さんたちと予行演習をさせていただいたおかげで事前に課題がいくつか抽出でき、なんとか制限時間内に終了することができました。

 緩和ケア関連の看護師さんが結構参加なさっているという情報もいただいていたので、特に放射線治療の基礎部分に関してなるべくわかりやすく理屈でなく「イメージ」を大切に…という点を意識してお話をさせていただきました。
 普通にやったらスライド1枚30秒の講演。絶対に終わらないので、配布資料はあくまで参考に追加スライド中心の講演になってしまいました。申し訳ございません。このブログをご覧いただければ書いてある内容を中心にお話はしたのですが、放射線生物関係は(私があまり得意でないこともあり)まだほとんど書いていません。

 ということで、(間に合わなくて)半分以上配付テキストに載せてなかった放射線生物関係のお話は、近いうちにブログでまとめてみようと思います。

 まだセミナーのアンケート結果を伺ってはいないのですが(楽しみでもあり不安でもあり…)、ありがたいことに「それなりにわかりやすかった」というご感想を何名かの方からいただき、初の看護セミナーでしたがとりあえず安堵しています。


 懇親会では地元のスタッフの方々といろいろな情報交換ができました。後日「二次会」を開催しましょうというお約束もできました。始まるまでは緊張のセミナーでしたが、終わってみるとけっこう楽しい一日でした。


 私、看護師さんや学生さんへの講義はけっこう好きかもしれません。一般市民公開講座も好きです。お声がかかれば是非喜んでまた担当させていただきたいものです。
 お医者さん向けのお堅いえびでんす講義はそんなに好きじゃありません…

 来年度は久しぶりに職場近くの看護学校の講義も担当させていただくことになっています。せっかく作った今回のスライド、活用させていただきます。

20160313

【2016/03/13 22:25】 | 緩和的放射線治療
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お疲れ様でした
浅見
新潟から参加させていただきました。放射線治療外来での勤務を続けたいと思い、一つも聞きのがものかと1番前で聞いていましたが、ずっと笑っていたように思います。先生のブログを教えていただいてよかったです。ゆっくりと読ませてもらいます。ありがとうございました。

Re: お疲れ様でした
JIN
浅見さん、セミナーの内容は(放射線生物以外)ほとんどこのブログのパクリです(笑)。他にもお話したいパクリはいろいろあったのですが、時間がありませんでした。どうぞお暇な時にご一読くださいませ。

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 昨年の秋のことですが、ターミナルケア関連の某会が開催している市民公開セミナーにお招きいただき、緩和的放射線治療について講演をさせていただく機会がありました。

 講演終了後ほどなくして事務局の方よりセミナー講演要旨の執筆ご依頼が届きました。今月下旬までに提出とのことで当時は「まだまだ余裕!」と思っておりましたが、あっという間に気づけば〆切間近…この癖、いけませんね。

 先ほど初稿を書き終えました。

 で、せっかくだからブログに転用させていただきました。会報にも著作権問題はきっとないだろうとは思うのですが、原稿提出前の著作権フリーの私のブログ掲載なのでどうかお許しください。また、内容的に変な箇所や誤字脱字などがございましたら、どうぞご教示いただければ幸いです。修正して事務局さんへメール添付させていただきます。
 ***以下、白黒・文字サイズ統一で提出します。
 
****************************

 緩和的放射線治療という言葉をご存じでしょうか?少ない線量の放射線治療でがんのつらい症状がやわらぐことがあるのです。

 放射線治療は手術、化学療法とならぶがん治療の3本柱の1つで、「切らずに治す」が売り文句です。近年の科学技術やコンピュータの進歩のおかげで、小さながんに対するピンポイントの定位放射線治療、病巣の形に合わせて精密に狙う強度変調放射線治療(IMRT)、来年度から小児がんと手術困難な骨軟部腫瘍でついに保険適応となった粒子線治療、新たな臨床研究が始まったホウ素中性子捕捉療法(BNCT)など、いろいろな高精度放射線治療が登場してきました。

 がんを治そうとする放射線治療を根治的放射線治療(または根治照射)といいます。いろいろな対策をしても副作用で患者さんに我慢を強いてしまう場合が時にあります。一方、緩和的放射線治療(または緩和照射)は無理せずがんの症状を楽にすることを主眼にしています。
 緩和的放射線治療の期間は、①初診日に終了可能な1回、②なるべく短期に数回、③日本の放射線腫瘍医が好む2週で10回、④長期的な病状コントロールや根治も視野に入れた場合は1か月程度、が標準的です。早い時期の症状改善率にはほとんど差がなく、いろいろな要素で適切と判断される治療方針が選択されます。

 緩和的放射線治療対象の代表格である骨転移の痛みに対する効果は証明されています。痛い部分やタイプなどで効果に幅はありますが、痛みが楽になるのはおよそ3人に2人、痛みがほぼ消失するのはおよそ3人に1人と報告されています。骨折予防やしびれなどの神経症状改善にも効果が期待されます。そして、鎮痛剤はあくまで対症的に痛みをやわらげるだけですが、緩和的放射線治療は一部であっても根本的にがんをたたくことで痛みの元が良くなります。
 中長期的には結構高額な医療用麻薬などの減量で経済的負担も減ります。なにより、病状が進行すればどんどん量が増えてしまう鎮痛剤と違い、患者さんは「治している」実感が得られ気持ちの支えにもなります。
 これって、とても大事なことですよね!

 他にも脳転移による神経症状、がんからの出血、がんによる気管・血管圧迫など、全身のいろいろな症状に効果があります。できれば症状が軽いうちに治療をした方が望ましいのですが、特にがんによる脊髄圧迫で下半身まひや排便排尿障害が出現した場合は目安として発見後48時間以内に緊急放射線治療を行うことが薦められています。症状が完成してしまうと治りにくくなってしまうからです。
 脊椎転移患者さんに以下のような症状が出現したらできるだけ早くかかりつけの医療機関に相談するとよいでしょう。
1.夜、眠れないほどの背中の強い痛み
2.横になったり、立ち上がったり、重いものを持ったときに強くなる背中の痛み
3.背中に始まり、胸・腹・あるいは手足まで達する痛み
4.手足に力が入りにくい、しびれる
5.急に出にくくなったお小水やお通じ

(NICEガイドライン訳:国立がんセンター東病院中村直樹先生資料借用改変)

 緩和ケアもターミナルケアも言葉としてあり、緩和照射もありますがターミナル(終末期)照射は聞いたことがありません。がん患者さんは亡くなられる2ヵ月くらい前から急に身体機能が低下することが多いです。緩和的放射線治療の効果が現れるのは治療後数週してからが多く、全身状態の問題などもあり、がん終末期は緩和的放射線治療の対象となる病状は少ないというのが一つの理由なのかもしれません。
 ただし、終末期であっても腫瘍からの出血など数日以内に症状改善が見込める病状もあります。

 緩和的放射線治療はがんの緩和医療においてあくまで一つの治療選択肢ではありますが、いろいろな面で心身の癒しとなる患者さん本位の放射線治療なのです。
(愛知がんセンター中央病院名誉院長森田先生のご投稿より引用改変)
http://www.com-info.org/ima/ima_20110831_morita.html



【2016/02/20 11:20】 | 緩和的放射線治療
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 先週末、母校のがん緩和ケア研修会にお招きいただき、緩和的放射線治療の講演なるものを担当させていただきました。ブログでも書いておりますように地元を離れてまだ1年に満たない私ですが、僭越ながら講師をさせていただきました。

 母校での講演は初めてでした。
 
 今回は母校の大学なのでいちおうジャケットとネクタイで正装し気を引き締めて訪問させていただきました。母校を退職したのは20世紀のことなのですっかりアウェー気分でしたが、別に仲が悪いというわけではありません…少なくとも私の方は。深いイミはございません。

 この緩和ケア研修会ですが、厚生労働省からの通達を受けて、日本緩和医療学会が…凝縮して書くと「全国のがん拠点病院はPEACE資料などを使って医療者向け緩和ケア研修会を開催してね」といった感じです。正確には(お堅い文章ですが)過去のブログをご参照いただければ。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-143.html

 やはり、今回の研修会も(お知り合いの)お医者さんがたくさん参加されていました。というか、今回はなんと受講者全員が医師または歯科医師さんでした!
 大学教授クラスの重鎮も何名かいらっしゃいました。

 「へ~、この先生もこの研修会をまだ受けていらっしゃらなかったのか~」と思いつつ、短い休憩時間に諸先生方と軽くご挨拶させていただきました。

 以前のブログでも少し触れましたが、『平成29年6月までにがん診療において,がん患者の主治医や担当医となる者の 9 割以上が緩和ケア研修を修了することが必須となります。もし,緩和ケア研修の修了率が達成できなければ,がん診療連携拠点病院としての指定要件から外れる』(引用)そうです。
http://www.huhp.hokudai.ac.jp/hotnews/files/00000400/00000403/news_sn_010.pdf

 この規定を厳密に受け止めると、出入りが激しい多くの若手医師を抱える大学病院はとても大変です。事実上不可能ではないかという意見もあるようです(ルールですが)。母校の大学もこれまでは年に1回の開催だったようですが、来年度は年に何回か実施しないといけないとお考えのようです。

 ということは、もしかして私も母校での講義が年に何回かできるのか?

 光栄なことです。

 もっとも、来年度からの緩和ケア研修会でPEACEの緩和的放射線治療関連スライドがバッサリ削除されてしまったという悪い噂も聞こえてきましたが…本当かな??今の所、日本緩和医療学会HP上で結構な量であるPEACEプロジェクトの講義用スライド集の中に、補助として緩和的放射線治療の講義用スライドもいくつか混ざっていますけど。
http://www.jspm-peace.jp/data/v3_a/M-3_%E3%81%8C%E3%82%93%E7%96%BC%E7%97%9B%E3%81%AE%E8%A9%95%E4%BE%A1%E3%81%A8%E6%B2%BB%E7%99%82.pdf

 もし本当なら日本放射線腫瘍学会を挙げて抗議してもらうよう理事の先生に要望書でも出そうか。JASTROのみなさま、どう思われますか?


 で、今回の私の講義ですが、昨年に担当させていただいた古巣病院の講義で30分枠しかないのに途中からご年配の先生方のまぶたがとても重そうでしたので、ご年配の先生方の睡眠導入剤にならないよう久しぶりに講義スライドを少し修正してまいりました。

 少しは見直し効果があったのか、今回は古巣の時よりは撃沈している先生は少なかったようです(平均年齢層は今回の方が若めでしたが)。ただ、聴講している体勢がいつもとちょっと違った方々が多かったです。これは他の講師の方々とお昼休憩をしている時にも話題になりました。
 いつもの研修会では、聴講しているうちに(疲れてくると)肩肘ついて聴くか両手を机の上に組んで前かがみにうとうとする方が多いのですが、今回は逆エビ反りのような格好で椅子に背中を乗せた方が多かったようです。年齢的にお腹の脂肪が多かったからか、お偉い…
 
 余計なことを書くと講師として今後呼んでいただけなくなるかもしれないから、止めておきます。

 以上、母校での貴重な体験でした。


  来月も日本放射線腫瘍学会主催の看護師さん向けの放射線治療セミナーの講師を担当させていただきます。私の担当は放射線治療の基礎と緩和的放射線治療総論です。このブログで紹介した話題もいくつかパクろうかと思ってます…自分で書いたものだからパクるとは言わないですかね?

 スライドハンドアウトは提出しました。後はいかに私の担当50分間起きて聴いていていただけるよう発表用スライドに手を加えるかが課題。得意技、ないし。でも、熱心な看護師さんたちばかりだからきっと大丈夫でしょう。起きたばかりの朝一ですし、きっと…。

 私、看護師さん向けのセミナー講師も初体験です。


 実は、今回のブログは以前のブログ投稿をかなりコピペして書きました。もうしわけございません。でも、(希少な)ブログ熟読者でなければわからなかったですよね?
 もともと自分で書いたブログですし、査読のあるような投稿論文ではないので出版社の著作権も発生しないでしょうから、問題ないとは思うのですが…。

 「学ぶ」という言葉は「真似ぶ」と同じ語源らしいです。
http://gogen-allguide.com/ma/manabu.html

20160218

【2016/02/18 18:20】 | 緩和的放射線治療
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 先日、ある癌患者さんのご家族が某サイトで以下の『 』内の投稿をなさっていたのを拝見いたしました。僭越ながら匿名で一部抜粋引用させていただきます。

『放射線の副作用って半端無いですね。先月主人の〇癌が転移している腰椎の痛みが酷くなり、緩和ケアとしての放射線をすることになりました。
説明では治療の放射線とは違い、線量が低いので副作用は殆ど出ません。と言われました。
一回30グレイ(→おそらく3グレイです)を平日連続10回行いました。
段々元気が無くなり食欲が落ちていきました。
終わって1週間位経つ頃から下痢と吐き気で何も食べられなくなりました。
漢方薬もサプリも何も飲めなくなりました。
薬だけは必死に飲んでいましたが、何か飲むと直ぐにトイレに駆け込む毎日でした。
終了から2週間が過ぎやっと少し食べれるようになってきました。まだトイレとはお友達ですが。
話には聞いていましたが治療の為の放射線はもっと高い線量なのでこんなものでは無いんでしょうね。
本当に恐ろしい治療だと思います。
肝心の緩和はまだ効果を実感出来てい無いようです。効き目はゆっくり出てくるそうです、
こんな辛い思いをしているんですから早く痛みだけでも無くなって欲しいです。』

 投稿された方へなんとコメントしたらいいか、私には具体的な言葉が思い浮かびませんでした。余計な言葉はかえって不快な気分にさせてしまうかもしれませんし…。
 

 日本の放射線腫瘍医の多くが日常診療において参考にする放射線治療計画ガイドライン2012年版((株)金原出版)という書籍があります。我々の教科書みたいなものです。およそ4年に1度改定され、現在は2016年版の製作中らしいです。

 このガイドラインの「緩和II骨転移」という項目の合併症欄に『照射部位に応じて,粘膜炎,皮膚炎,腸炎,骨髄抑制などが起こり得るが,概して軽微である』という記載があります。

 さりげなく『概して』と書いてあります。

 各種診療ガイドラインのこういったさりげない形容詞って、実はけっこう押さえておかなければならない大事なポイントだったりします。本当は具体的にきちんと長々書いてほしい所なのですが、紙面・文字数に限りがあるためやむなく簡単な一言だけで終わってしまっている場合も少なくないようです。

 でも、ガイドライン作成委員のような専門家でない一般のお医者さんたちが読むと、こういう大事な部分は文字として見えていてもきちんと意識されず、『副作用は軽微』だけが記憶されてしまったりします。


 冒頭の方の正確な放射線治療範囲はSNSの情報だけなのでわかりませんが、腰椎ですから腹部への放射線治療です。

 代表的な骨転移への照射方法としてこのガイドライン「緩和II骨転移」の最初の図に隣接腰椎3つ分が含まれた照射範囲が示されています。おそらくこの方の照射範囲もガイドラインに準拠していたのでしょう。もしかすると複数骨転移のため腰椎全体に照射せざるを得ない広い設定だったかもしれません。


 『線量が低い』緩和的放射線治療で問題になるのは、放射線治療開始から終了して数週までのいわゆる急性期の副作用だと思います(再照射は除く)。腹部への照射ですと照射開始直後に吐き気をもよおすことがある放射線宿酔、放射線治療が進んでから徐々に出現する可能性がある食欲不振や下痢・腹痛といった放射線胃腸炎が代表的な副作用です。

 放射線宿酔については、去年のブログでも少し触れましたが、優れた吐き気止めの効果があるカイトリルという(お高めの)薬が数年前に保険適応となりました。…しかし、未だ他科の先生方には充分認知されていない印象も受けます。専門家である放射線腫瘍医がサポートすべきでしょう。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-68.html

 放射線胃腸炎は治療開始2週前後ごろから自覚されることが多いようです。一方、骨転移などへの緩和的放射線治療は標準的には治療期間が数日から2週程度なので、照射終了時ころから副作用が出現し始めることが少なくありません。冒頭で引用させていただいた方は典型的な症状発現と経過です。

 腰椎骨転移に対する『線量が低い』3グレイ10回の緩和的放射線治療であっても、放射線に敏感な(場所によっては胃や)腸にそれなりに照射されます。中には主治医らの意向で抗がん剤をいっしょに投与しながら緩和的放射線治療を行っているケースも見受け、デリケートな胃腸粘膜への副作用が増強される恐れもあります。


 『概して』の例外にあたるであろう腰椎(腹部)は、他部位の骨転移よりも慎重に検討・設定すべき部位だと個人的には思っています。


(長くなったので、その2へ…)


【2015/10/05 19:42】 | 緩和的放射線治療
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 では、緩和ケア病棟における他の医療費はどうでしょうか?

 サンドスタチンという注射薬があります。「進行・再発がんの緩和医療における消化管閉塞に伴う消化器症状の改善」という適応症。腸閉塞症状をやわらげる薬というのは少ないので、サンドスタチンは現場でよく使用されています。

 この薬、とっても高額で1日1万円前後も使います。症状が安定しなければ継続して投与しなければいけませんから、1ヶ月間毎日投与すればサンドスタチンのお薬代だけで月30万円くらい確実に「損」をします。緩和ケア病棟入院料は月総額150万円ですから、全体の20%です。
 今の消費税率よりはるかに高いです!

 鎮痛剤の医療用麻薬だって安くはありません。投与量にもよりますが、1日数千円以上することはざらですから、麻薬だけで1か月だと数万円以上となります。それ以外の鎮痛補助薬のお薬代も上乗せされてきます。


 では、緩和的放射線治療における病院の「損」って何でしょうか?ちなみに一連の治療で8万円なので月総額150万円の5%強となります。
 今より安い一昔前の消費税率くらいです。

 ようやく本題です!


 緩和的放射線治療でかかる諸経費は以下の3つだと思います。

1.初期設備投資
 放射線治療装置は超高額です。が、そもそも一般病室や外来患者さん用にすでに買ってあるものだから緩和ケアへの特別な影響はありません。サンドスタチンや鎮痛剤みたいに全ての患者さんで確実に病院から製薬会社他へ高額な薬代が病院外へ出ていくこともありません。

2.日々の装置稼働費用
 (お薬みたいにむちゃくちゃ高くない)電気代は少しだけかかります。他は、たま~に使うかもしれない身体の固定具や身体につけるインク代くらいでしょうか(これらも通常照射で使用する物品です)?
 もちろん、何万円もしません。

3.人件費他
 医療者の労働も滅多に依頼がないボランティアだと思えばタダで…入院費がそもそもお高い包括代金設定だし(ダメですか?)。

 つまり、月に8万円する緩和的放射線治療における病院の実質的な「損」(病院の持ち出し=自腹)というのは日々の電気代くらいなのです。


 中には日本緩和医療学会ご所属の放射線腫瘍専門医でも、「緩和ケア病棟の患者さんまで手を広げる(照射人数を増やす)のは自分の首を絞めるようなもの」みたいなご発言をなさる方もいらっしゃいます。

 しかし、私が知っている地域では、緩和ケア病棟から週に何人も毎週照射依頼されるご施設さんを知りません。日本の他の地域でもそんな噂を聞いた施設はございません(あるのかもしれませんが、ごく稀でしょう)。
 常勤の緩和ケア医師がいらして、毎週のように院内緩和ケアチームのカンファレンスで緩和的放射線治療の適否を相談させていただいているうちの病院も、緩和ケア病棟から緩和的放射線治療患者さんのご依頼があるのは年に数例程度です(少なすぎますか…?)。私個人の経験からすれば、放射線治療新患年数百例のうちの緩和ケア病棟数例で自分の首を絞めるほどのつらさを感じたことはまずございませんでした。

 むしろ、辛い症状が治療後にやわらいで患者さんたちから「ありがとう」と感謝されることが多いのは緩和的放射線治療で、診療放射線技師さんや看護師さんたちを含めとてもやりがいを感じます(のはず)。

 そして幸いなことに、ご理解ある今の病院上層部から「損をするから緩和ケア病棟の患者さんの照射を止めるように」という指令を受けたことを私は一度もございません。ご依頼患者さんがあまりに多くなったらわかりませんけど…


 「緩和ケア病棟だけ放射線治療包括問題」を数年前に知った私は、この保険請求の件について有名な日本緩和医療学会の某先生に質問をさせていただいたことがありました。

 某先生からのご回答では『平成24年度(前々回)の診療報酬改定に際し、緩和ケア病棟入院中患者の放射線治療に関わる診療報酬を包括外にとの提言も含めていろいろな交渉が行われ、その結果として包括入院料の大幅アップが実現した』(改変一部引用)とのことでした。
 つまり、診療報酬改定で包括全体の大幅増収となったし、放射線治療も改めて交渉しなくても包括のままで良さそう、という見解のようなのです。とても大変であろうお役人さんたちとの診療報酬改定の交渉の場に立たれている緩和関係の健保委員さんたちのお立場なら普通の見解だろうと思います。

 しかし、実際の緩和ケア病棟の現場では、こういった診療報酬改定の交渉経緯が充分に反映されていないように感じました。私が意識して見聞きする限りでは「今だに」緩和的ケア病棟での放射線治療は損とか、一般病室に再転科は?という話が出てきますので…。


 また同じような時期に、日本放射線腫瘍学会の何人かの有名な先生方にも、緩和ケア病棟入院患者の放射線治療包括問題について質問したことがあります。すると、健保委員の某先生を含め緩和ケア病棟入院患者の放射線治療包括問題をご存じの方はいらっしゃらず、口々に「一般病棟と同じDPC包括外の出来高算定では?」と勘違いしておられました。

 その後、健保委員の先生らのご尽力のおかげで緩和ケア病棟入院患者の放射線治療包括問題も健保委員会の議題の一つとなり、平成26年度(前回)の診療報酬改定では日本医学放射線学会と日本放射線腫瘍学会からの要望「緩和ケア病棟入院料の包括から放射線治療が除外されること」が正式に要望される運びとなりました。

 残念ながら前回改定での要望実現とはなりませんでしたが、日本放射線腫瘍学会の健保委員の先生方も継続課題の一つと認識してくださっていて、次の診療報酬改定に向けて今もいろいろな情報収集や議論が行われているようです。

 次回の診療報酬改定で「緩和ケア病棟入院料の包括から放射線治療が除外されること」が実現するよう、町医者として陰ながら切に願っております。


 健保委員の先生方、頑張ってくださ~い!



【2015/05/19 21:47】 | 緩和的放射線治療
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 東北大学緩和ケア看護学分野の先生方が、最近の緩和ケア(病棟)の現状について興味深い2つの論文報告をなさっています。

 1つ目はタイトル「本ホスピス緩和ケア協会の調査データからみた緩和ケア病棟の現況」という佐藤一樹先生の論文で、『緩和ケア病棟の平均在院日数の中央値は年々徐々に少なくなってきていて2009年度で39日だった』という記載(一部改変)があります。つまり、半数近くの方がおよそ1か月以内の入院期間(で多くの方々がお亡くなりになってしまう)ということです。
http://www.hospat.org/assets/templates/hospat/pdf/hakusyo_2012/2012_2_1.pdf

 このようなデータもおそらく参考にして、(その1)でも書いた通り日本緩和医療学会の健保委員ら関係各位のご尽力のおかげで、平成26年度の診療報酬改定で緩和ケア病棟入院料が見直されました。施設基準を満たした病棟なら最初の30日間は1日49260円、入院継続した翌月の30日間は1日44120円、以降は1日33840円の診療報酬を請求できるようになり、以前より入院料の大幅アップが実現しました。
https://clinicalsup.jp/contentlist/shinryo/ika_1_2_3/a310.html
 

 2つ目はタイトル「データでみる日本の緩和ケアの現状」という宮下光令先生の論文で、『緩和ケア病棟の苦痛症状として多いのが有痛性骨転移で入院患者さん全体の66.5%(約3人中2人)を占めていた』という記載(一部改変)があります。
http://www.hospat.org/assets/templates/hospat/pdf/hakusyo_2013/2013_2_1.pdf

 1か月以内に寿命をお迎えになられるかもしれないと(何らかの推測を理由に医療者側が勝手に予後)予測する終末期の方々に対しては、以下の点で有痛性骨転移に対する緩和的放射線治療を行う事そのものの意義が問われるような場合が少なからずあると思います。

1. 緩和ケア病棟に入院される段階ですでに何らかの発症があり、放射線治療を行うことそのものが時間や苦痛など様々な負担を逆にかけてしまう恐れがあること
2. 全身状態があまり良くないことが多く、治療終了後1~2週までに放射線宿酔(悪心嘔吐)や皮膚炎や粘膜炎といった急性期の副作用を「元気な」患者さんたちと比べ強めに自覚される、あるいは体調そのものを悪化させてしまうかもしれないこと
3. 除痛効果が出始める数週後は、病状そのものの進行で全身状態がかなりまいってしまい照射部分だけの症状の問題ではなくなる時期になってしまうかもしれないこと

 もちろん、悪性腫瘍による脊髄圧迫で下半身マヒが急速に進行したり、腫瘍出血による強い貧血がすすんだりといった緊急的な治療を要する方々にとっては、仮に残された予後が数日~数週と予測されていても、他に適した治療選択肢がなく「今」とても困っている症状を和らげるために緩和的放射線治療を行うのは、これまた治療行為そのものがデメリットにならなければ実施する意義は大いにあります。

 緩和的放射線治療というのは個々の放射線腫瘍医の考え方・経験による違い(腕の差)がとても出てくる分野だと私は思っていますが、一方で誰が設定しても多少なりとも緩和的放射線照射後の副作用が出てしまうこともあります。


 さすがご専門の緩和ケア科の先生方はそのあたりをよくご存じです。また、麻薬をはじめとする多種多様な鎮痛剤の調整もお上手です。「無理に」緩和的放射線治療を行わず身体的・精神的苦痛をやわらげることができればそれが一番です。


 とはいえ、専門の緩和ケア医だとしても進行がん患者さんの予後予測をピタリと当てるなどということは今の医学では不可能であり、またおこがましいことでもあると思います。

 また、麻薬をはじめとする痛み止めの薬は決して安くなく、一般によく処方される徐放製剤の麻薬(1日1~2回で済むタイプ)だけで安くても月に万円単位の薬価になります。既出の通り、緩和ケア病棟の平均在院日数は1か月強ですが、数か月単位で経過するかもしれない患者さんにとって毎月の、しかも痛みが強いときは大量になってしまう鎮痛剤その他のお薬代はチリも積もれば、でバカになりません。そして、除痛目的の緩和的放射線治療で鎮痛剤などを減量できれば、包括請求である緩和ケア病棟入院料に占める中長期的なお薬代の節約にもつながります。


 そんなことを書きつつ、緩和的放射線治療だって短期的にはお安い治療ですよとはなかなか言えません。(以前のブログでも書きましたが)日本の放射線腫瘍医が大好きな10回分割照射だと余裕で総額10万円以上はかかってしまいます。
 でも、痛みを和らげることが主目的の1回照射なら全部で8万円ですみます(それでも安くはないですが…)。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-121.html
 
 前回ブログ(その1)でも触れましたが、緩和ケア病棟入院料は例外的に放射線治療も含まれた1日定額お高め設定となっています。
 緩和ケア病棟に1か月間入院され1回の緩和的放射線治療を行った方の場合は、1か月総額150万円≒49260円x30日の保険請求額(バイキング料金)の中に最低で一連8万円もの緩和的放射線治療代金(シェフこだわり食材費)が含まれることになります。

 一部緩和ケア科の先生方がおっしゃっているように、ここまで読むと緩和ケア病棟入院患者さんに緩和的放射線治療を行うのは病院として何となく「損をする」気分になってしまいそうですよね。

 だからといって、緩和ケア病棟に入院の患者さんたちに対する緩和的放射線治療は8万円「損をするから(なかなかできない)」と思ったり、わざわざ一般病室に再転科して8万円分「出来高払いになるように」緩和的放射線治療を行ったりするのには、個人的にはやっぱり違和感があります。

 まあ、人件費や諸経費がかかる以上は病院経営をしなければならず、きれい事だけでは済まないお金の話なのですけれど…その1でも、似たようなことを書きました。


(さらに続く…その3はちょっとデリケートなお話に)


【2015/05/15 18:49】 | 緩和的放射線治療
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 今年度はうちを含めて近隣で緩和ケア科関連の(たぶん)明るい話題が多いです。隣町の病院では新たに緩和ケア病棟が開業、別の病院では新しい緩和ケアの先生がご着任されました。大学病院も新しい体制になるようです。
 そしてうちの病院でも、長年お仕事をなさってくださった緩和ケア科の科長先生が惜しまれながら昨年度いっぱいでご退職されてしまったのですが、代わりに新しい科長先生がまもなく着任されます。私と同じ職場でお仕事するのはおよそ1か月なのが残念です…

 長年の間、緩和ケアの医師不足、病床不足だったうちの地域なので、緩和ケアを必要とするがん患者さんたちにとっていろいろ選択肢が広がるのはとても良いことだと思います。


 一方で、ピースハウス病院という日本初の独立型ホスピスが経営不振で昨年度に閉鎖(休止)という悲しいニュースも少し前に報道されました。
http://www.peacehouse.jp/

 ホスピスや緩和ケア病棟というのは総合病院に併設されている場合が多いようです。そして、以前は医療材料費などの高騰に比べ診療報酬の設定が厳しく、病院全体としては赤字採算部門で他の診療などから補てんすることが少なくなかったようです。
 平成24年度からの診療報酬改定で緩和ケア病棟入院料(1日につき)が見直され、入院料の大幅アップとなりました。日本緩和医療学会の健保委員ら関係各位のご尽力のおかげです。

 人件費や諸経費がかかる以上は経営をしなければならず、きれい事だけでは済まないお金の話は医療であっても同じです。


 病院収益のお話を少し続けます。

 一般的に、救急疾患も扱うような総合病院では、入院日数に応じた1日あたり定額報酬を算定するDPC制度を採用しています。

 DPCとはDiagnosis Procedure Combinationの頭文字、つまり Diagnosis(診断)とProcedure(治療・処置)のCombination(組み合わせ)の略称で、日本語では診断群分類別包括制度といいます。
 DPCは、「病名(診断)」と 「サービス(治療・処置)」の組み合わせによって、さまざまな状態の患者さんを分類する方法です。患者さんから請求できる診療報酬(支払額)が、病名によっていろいろなセット価格となっています。入院したときにのみ対象となり、外来治療は出来高払い(実施した分が全部売り上げになる)です。

 出来高払いによる過度な診療漬けと医療費請求を避けるために平成15年度から国内で段階的に採用されてきた制度です。普通は「余計な」検査や治療さえしなければ、病院側が損をしないような料金設定になっています。

 何やら難しい説明になってしまいましたが、DPCとはいろいろなセットメニューが定額で選べるバイキング料理みたいなイメージと思っていただければよいでしょうか?普通はお店(病院)が赤字を出しにくいような各種バイキング(DPC)の料金設定になっています。一部追加料金でオーダーできる料理(診療行為)も認められています。
 ただ、例えば料理人のこだわりが強すぎて高価な食材をたくさん使ったりすると、経費がかさんでお店が損をしてしまうことがあります。

 ピースハウス病院さん、こだわりもたくさんあったのでしょうね…


 放射線科関連ですと、放射線の諸検査もDPC対象であり、多くの病院では(節度ある範囲で)なるべく入院前に外来で一通りの検査をします。特にPET検査は高額なので、入院中の多くの患者さんに行ってしまうと病院経営上はとても損失を被ります。

 実は放射線治療というのはDPCの対象外、追加料金でオーダーできる出来高算定設定の特別治療です。つまり「一般病室に」入院していようが、外来通院であろうが、セットメニューとは別料金設定(つまり放射線治療を行った分だけDPC料金に上乗せ請求が可能)となっています。


 一方で、「より高額な」緩和ケア病棟入院料が算定されている患者さんは一般病棟のDPCとは別扱いで、放射線治療も出来高算定ではなく包括化されています。

 ということで(?)、緩和ケア病棟に入院の患者さんたちに対する緩和的放射線治療は「損をするから(なかなかできない)」という声を担当のお医者さんたちから伺ったり、わざわざ一般病室に再転科して「出来高払いになるように」緩和的放射線治療を行ったりする場合があるようです。


 では、緩和ケア病棟の患者さんに緩和的放射線治療を行うことはそんなに「損をする」ものなのでしょうか?

(続く)


【2015.5.19修正】
緩和ケア病棟入院料(1日につき)が見直された診療報酬改定は前回(平成26年度)からではなく前々回の平成24年度からで、修正いたしました。前回も増額変更はありました。

【2015/05/13 18:51】 | 緩和的放射線治療
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 痛みを伴う骨転移に対する緩和的放射線治療について全国の放射線腫瘍医へ実施した「先生なら何回照射を選びますか?」というアンケート調査の結果を、現国立がん研究センター東病院の中村直樹先生が有名な国際放射線腫瘍学会誌へ論文としてご投稿なさっています。

 予想通りの結果でしたが、日本の放射線腫瘍医の3人に2人が10回(計30Gy)を選択していたそうです(ケースによって少しバラつきあり)。なお、過半数を占めた10回を除くと1回も5回もその他も少数意見としてほぼ均等に分散していました。

Nakamura N et al: Patterns of practice in palliative radiotherapy for painful bone metastases: a survey in Japan. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 83: e117-20, 2012

 10回(2週間)という治療回数(期間)、短いようでがんの病状が進んでしまった方々にとってはけっこう長いです。国立がん研究センター某病院の先生から伺ったコメントを引用させていただくと、『結局3か月で天寿を全うされた場合、10回(≒2週間)の治療期間はその人の人生の1/6を占める(≒奪ってしまう)可能性』があります。

 片や、全身状態がかなり悪化してしまって骨転移への放射線治療を行うことそのものがその方の負担になるにもかかわらず、標準治療をかなり超えて何週間もかけて照射範囲のがん細胞を叩くことだけを主眼としたかのような放射線腫瘍医もいらっしゃるようです。医師の指示通りにがんばらせたのに、痛みがやわらぐ効果がようやく出そうな時期である一連の照射終了直後にお亡くなりになられてしまい、いったい何のために誰のために放射線治療を行ったのだろうか?そんな経過を伝え聞くこともあります。

 もちろん正確な予後予測などというおこがましいことは現状の医学では不可能ですし、担当医と治療を受けられた方が治療方針を相談された結果なのかもしれませんが…。


 私が以前担当させていただいた方で、1回照射の提示が精神的な逆効果になってしまった方もおられました。過去に別部位へ1か月半かけて分割照射したことがあった方で、今回は痛みを伴う骨転移に対する緩和的放射線治療のご依頼でした。全身に多発転移もあり一般状態はあまりよくなかったこともあって1回照射をお勧めしたのですが、「これまで分割照射していたのに、今回は1回なのですね。もう私はそういう状態なのですね」とボソッと呟かれました。

 逆に、国立がん研究センター某病院の先生の経験談では、1回だけの緩和的放射線治療の説明をなさったところ「1回で済むなんて、サイコーです!」と口に出して大いに喜ばれた方もいらっしゃったそうです。

 緩和的放射線治療に限ったことではありませんが、医療者の話し方で、患者さんの体調で、同じ治療内容なのに相手の受け止め方は大きく変わってしまうことがまれならずあります。私が説明をした時は直接お話をなさらず、あとで看護師さんへ本音を話してくださった方もいらっしゃいました。私の説明の仕方が悪いのかもしれません…。

 緩和的放射線治療を毎日受けにくることそのものが、がんと向き合う心の支えになっていらっしゃる方も少なくないだろうと思います。


 1回と10回の放射線治療比較話ばかりでしたが、5回の分割照射だって選択肢としてあります。それ以外の回数だって状況によっては当然ありです。

 骨転移に対する緩和的放射線治療は「みなさんしてるから10回」で終わるエスニックジョークでは決してありません。


 最後に打算的なお話を。

 現行の保険診療では、一部例外を除き入院患者さんであっても放射線治療を行った回数分だけ病院収益が増える出来高払い制度となっています。
 例外は緩和ケア病棟に入院されている患者さんへの緩和的放射線治療で、これだけ包括払い(過少診療を行えば行うほど病院が儲かる)制度です。緩和ケア科の先生方のきっとごく一部だろうとは思うのですが、緩和ケア病棟入院中に緩和的放射線治療をすると「損をする」と躊躇されている方もいらっしゃるようです…(このお話はまた改めて)。

 なので10回のほうが(少し)儲かります。昨年度の診療報酬改定でようやく短期照射の診療報酬が改善されましたが、臨床試験で効果がほぼ同等と示されている5回(1回4Gy)と10回(1回3Gy)の放射線治療実施収益格差はいまだ2倍あります。いろいろな患者さんの負担を減らすために工夫して短期の緩和的放射線治療を選択すると、病院収益は減ってしまいます。
 もっとも、治療装置一台当たりの照射人数が多すぎる施設では、スタッフの業務負担も鑑みて短期照射の選択を多くすることもあるらしいですが。

 お金と労働の問題も無視はできません。



 有痛性骨転移に対する緩和的放射線治療、何回に設定するのがより適切だろう?

 いろいろなことを考慮すればするほど悩んでしまいます。

 「(所詮は姑息だし)みなさんしてるから10回」、日本の放射線腫瘍医のこんな感じの発言にはいささか辟易している昨今です。




【2015/04/11 18:09】 | 緩和的放射線治療
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 各国の国民性や民族性を端的にあらわすような話によって笑いを誘うジョークのことをエスニックジョークと呼ぶそうです。「沈没船ジョーク」というのが有名で、Wikipediaにも以下のように紹介されています。

 『様々な民族の人が乗った豪華客船が沈没しそうになる。それぞれの乗客を海に飛び込ませるには、どのように声をかければいいか?

ロシア人(海の方を指して)「あっちにウォッカが流れていますよ」
イタリア人「海で美女が泳いでいます」
フランス人「決して海には飛び込まないでください」
イギリス人「こういうときにこそ紳士は海に飛び込むものです」
ドイツ人「規則ですから飛び込んでください」
アメリカ人「今飛び込めば貴方はヒーローになれるでしょう」
中国人「おいしい食材が泳いでいますよ」
日本人「みなさん飛び込んでいますよ」
韓国人「日本人はもう飛び込んでいますよ」』

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%B9%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%AF

 他人の行動を見て自分も同じ様に行動してしまう主体性の少なさが典型的な日本人なのだそうです。正直、私も気にします…


 話変わって、痛みを伴う骨転移への緩和的放射線治療

 緩和的放射線治療の総治療回数としては、1回(8Gy)、5回(1回4Gy)、10回(1回3Gy)の3つがよく採用されます。患者さんによって、また放射線腫瘍医によって、それ以外の治療回数を採用する場合もありますが、現在の世界標準はこの3つでしょう。
 これまで多くの臨床試験で、骨転移によるつらい痛みをやわらげる効果にこの3つによる違いはないことが証明されています(文献提示は省きます)。

 緩和的放射線治療後に除痛が持続する期間や病的骨折をおこす危険度など、痛みの改善以外の骨に関する症状(骨関連事象)については、1回照射よりも5~10回に分割照射したほうが少し良さそうという報告もあります(でも5回と10回で違いがあるわけではないです)が、いろいろな臨床試験をまとめて統計的に評価した信頼度の高い最近のメタ解析報告では、実はそれらも差がないという結果でした。
Chow E et al: Update on the systematic review of palliative radiotherapy trials for bone metastases. Clin Oncol 24 :112-24, 2012

 1回線量が多い8Gyのような短期間照射だと、照射部位の腫瘍破壊が一気に起きて骨折したり身体に穴が開いたりなどの重い副作用が出やすくなりそうだから嫌という(先入観を持っている)放射線腫瘍医もいらっしゃいます。しかし、そもそも骨転移に対する緩和的放射線治療の報告はどれも総回数(線量)が少ないからか大きな後遺症はまず起きないようだということが、多くの臨床試験からも示されています(文献提示は省きます)。
 もっとも、放射線感受性の良い一部のがん、例えば悪性リンパ腫では4Gyに減らした1回照射だけでも症状緩和効果が得られると、放射線治療計画ガイドライン2012などでも明示されています。そのような方にあえて8Gyで「無理する」必要はないかもしれません。


 最近では、定位放射線治療や強度変調放射線治療(IMRT)、そして粒子線治療といった高精度放射線治療を用い、これまでのようなそもそも低線量の緩和的放射線治療とは一線を画す臨床的有効性を示唆する報告が増えてきています。とても注目される分野ではあるのですが、(少なくとも日本では)まだ標準治療といえる段階に至っていません。
 なので、今の日本の保険診療上、骨転移に対する高精度放射線治療はかなり制限があります。

 そのような方々に対し、自由診療として100万円以上全額自己負担で高精度治療をご提供しているご施設もあります。ほとんどのご施設は国が正式に認可した放射線治療装置を使って診療を行っていますが、有名芸能人の方が広告塔のようになって業界内でもベールに包まれた高精度放射線治療を実施していらっしゃるご施設もあるらしいです。そんなに優れた放射線治療装置ならみんなのために是非とも情報公開していただき、私も患者さんに紹介させていただきたい所なのですが…

 これ、現場的には解釈がかなりデリケートな部分ですし、話が脱線しそうなので、ここまでにします。

(その2へ)



【2015/04/09 12:48】 | 緩和的放射線治療
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