G-CSF適正使用ガイドラインで「推奨グレードD:放射線同時併用化学療法施行時、縦隔領域が照射内に含まれる場合は、G-CSF使用は推奨されない」としている根拠の論文はたった一編です(+1992年ASCO発表要約で未論文化報告の計2つ)。1995年に発表された小細胞肺がんSWOG第III相試験の230例で、しかも使用されたのは国内未承認薬GM-CSF製剤、縦隔に化学放射線療法したら「血小板が減少」したという内容でした。
Bunn, et al. JCO 1995; 13: 1632-41
ASCOガイドライン2004&2006でも「G-CSFと化学放射線療法同時併用は避けるべき」となっていたのですが、これも同じ報告をよりどころにしているようです。
縦隔照射でなくても特に抗がん剤と併用した場合では血小板は減少することがあります。骨盤照射のほうが照射範囲や骨髄機能的には影響が大きいはずです。
基礎データ系でG-CSFと放射線治療の併用では肺臓炎が起きやすいという噂もあるようなのですが、G-CSFそのものが肺臓炎リスクを高める薬剤だと報告されています。これは(GEMとかタキサン系などの)抗がん剤単独治療でも起きえます。もちろんその発症頻度が問題なわけですが、臨床報告レベルではあまり信頼性の高い肺臓炎の報告はみつけられませんでした(あったら教えてください)。
G-CSF製剤投与を必要とする発熱性好中球減少症(febrile neutropenia;FN)をきたしそうな縦隔の化学放射線療法同時併用するがんとして、小細胞肺がん(CDDP+VP-16)や非小細胞肺がん(CBDCA+PTXなど)、食道がん(CDDP+5Fu)などが挙がります。
FNが発症しそうなGrade3-4の好中球減少(かFNを発症してしまった場合)は、治療的投与として「照射を休止していればG-CSF同時併用ではない」という言い訳(?)ができるかもしれません。これまでのG-CSF製剤は血中半減期がとても短いので投与当日に放射線治療を併用しなければ問題ないのでは?とお知り合いの専門家の先生もおっしゃっていましたし。
しかし、縦隔の化学放射線療法同時併用で持続型G-CSF製剤(ジーラスタ)を予防的投与となるとそうはいきません。
ジーラスタをあえて予防的に使わなければいいことなのかもしれませんが、初回抗がん剤投与時に好中球減少が出現してしまった後の2回目の抗がん剤投与では、主治医の先生とともにかなり悩みそうです。
また、前述のASCOガイドラインでも「初回化学療法投与時の予防的G-CSFは特別な場合(化学療法により感染性の合併症がおきるリスクファクターをもった患者)を除き推奨できない」と示されていますし、初回からジーラスタを投与することはほぼ無いのでしょう(?)。
これはあくまで個人的意見ですが、実際にG-CSF製剤を投与しても(その影響かはわかりませんが)命をおびやかすような血小板減少などは(もし減少しても輸血などを施行すれば)まず起きないのでは?という印象もあります。
ちなみに、2011年にSWOGを追試するような小細胞肺がん化学放射線同時併用(CDDP+VP-16)のPhase II報告が英国グループから出ました。全症例数は38例と少ないですが、G-CSF同時併用をするとやはり血小板は減少していたようです(なんでだろ?)。しかし重症肺臓炎はなかったようですし、血小板減少も「G-CSF禁忌」とするほどの影響はなかったようです。この論文によると、現在は第III相試験を行っているらしく、その結果が注目されます(よね?)
Sheikh H, et al. Lung Cancer 2011; 74: 75-79
肺がんの放射線治療で有名な米国の放射線腫瘍の某先生は「G-CSFなんて気にしなくてもいい」ようなことをおっしゃっていたそうです。有名な専門家のコメントって実は診療ガイドラインの客観評価の目安であるエビデンスレベルとしては一番信頼度が低いとされていますが…。偉い先生の感想なんてあまりあてにはなりませんよ、って意味。
もっとも、このG-CSF適正使用診療ガイドラインが世に出る何年も前から普通に気にせず肺がんや食道がんの化学放射線同時併用療法でG-CSFも同時に使われていた同じ職場の諸先生方の診療をみていて「大丈夫だろ」といまだに信じている私の経験よりは重みがあるのでしょう。
頭頸部がんでも肺尖部に少しだけ照射されるようなケースでタキサン系抗がん剤が同時併用されるレジメではどうなのか?とか、今後話題(≒問題)になってきそうな気もします。現時点で頭頸部がんの化学放射線療法同時併用でタキサン系は標準レジメンにはなっていないのですが、国内外の学会報告だけを見ても普通に併用している施設って少なくないようですし。
それが良いかどうかは別として。
これもジーラスタをあえて予防的に使わなければいいことなのかもしれませんが…。
今回の投稿における私にとって一番のポイント(というか不満な点)は、臨床試験(しかもSWOG&ASCO)の結果は重いとはいえ、輸血を含めた抗がん治療の支持療法がかなり進歩してきた現在においても 20年くらい前のたった一つの論文報告だけでガイドラインにグレードDと書かれてしまうのは正直いかがなものか ということでした。タイトルで書いてましたね。
今後出てくる(かもしれない)臨床試験の報告を含め、化学放射線療法同時併用の際にG-CSFを(どのように?)使うことによる好中球回復の利点と、放射線併用による(?)副作用をきちんと評価していくことが今後求められる課題なのかなと思います。
とはいえ、私自身がグレードDに反論できるような臨床試験を計画しているわけでなく(申し訳ございません)、やっぱり現時点では安全第一に(縦隔への)化学放射線同時併用と安易なジーラスタ投与は控える対応をすべきなのでしょう。
ということで、放射線腫瘍医として対応がいささかやっかいな薬剤だなという気がしています…田舎の町医者の印象は別として。
Bunn, et al. JCO 1995; 13: 1632-41
ASCOガイドライン2004&2006でも「G-CSFと化学放射線療法同時併用は避けるべき」となっていたのですが、これも同じ報告をよりどころにしているようです。
縦隔照射でなくても特に抗がん剤と併用した場合では血小板は減少することがあります。骨盤照射のほうが照射範囲や骨髄機能的には影響が大きいはずです。
基礎データ系でG-CSFと放射線治療の併用では肺臓炎が起きやすいという噂もあるようなのですが、G-CSFそのものが肺臓炎リスクを高める薬剤だと報告されています。これは(GEMとかタキサン系などの)抗がん剤単独治療でも起きえます。もちろんその発症頻度が問題なわけですが、臨床報告レベルではあまり信頼性の高い肺臓炎の報告はみつけられませんでした(あったら教えてください)。
G-CSF製剤投与を必要とする発熱性好中球減少症(febrile neutropenia;FN)をきたしそうな縦隔の化学放射線療法同時併用するがんとして、小細胞肺がん(CDDP+VP-16)や非小細胞肺がん(CBDCA+PTXなど)、食道がん(CDDP+5Fu)などが挙がります。
FNが発症しそうなGrade3-4の好中球減少(かFNを発症してしまった場合)は、治療的投与として「照射を休止していればG-CSF同時併用ではない」という言い訳(?)ができるかもしれません。これまでのG-CSF製剤は血中半減期がとても短いので投与当日に放射線治療を併用しなければ問題ないのでは?とお知り合いの専門家の先生もおっしゃっていましたし。
しかし、縦隔の化学放射線療法同時併用で持続型G-CSF製剤(ジーラスタ)を予防的投与となるとそうはいきません。
ジーラスタをあえて予防的に使わなければいいことなのかもしれませんが、初回抗がん剤投与時に好中球減少が出現してしまった後の2回目の抗がん剤投与では、主治医の先生とともにかなり悩みそうです。
また、前述のASCOガイドラインでも「初回化学療法投与時の予防的G-CSFは特別な場合(化学療法により感染性の合併症がおきるリスクファクターをもった患者)を除き推奨できない」と示されていますし、初回からジーラスタを投与することはほぼ無いのでしょう(?)。
これはあくまで個人的意見ですが、実際にG-CSF製剤を投与しても(その影響かはわかりませんが)命をおびやかすような血小板減少などは(もし減少しても輸血などを施行すれば)まず起きないのでは?という印象もあります。
ちなみに、2011年にSWOGを追試するような小細胞肺がん化学放射線同時併用(CDDP+VP-16)のPhase II報告が英国グループから出ました。全症例数は38例と少ないですが、G-CSF同時併用をするとやはり血小板は減少していたようです(なんでだろ?)。しかし重症肺臓炎はなかったようですし、血小板減少も「G-CSF禁忌」とするほどの影響はなかったようです。この論文によると、現在は第III相試験を行っているらしく、その結果が注目されます(よね?)
Sheikh H, et al. Lung Cancer 2011; 74: 75-79
肺がんの放射線治療で有名な米国の放射線腫瘍の某先生は「G-CSFなんて気にしなくてもいい」ようなことをおっしゃっていたそうです。有名な専門家のコメントって実は診療ガイドラインの客観評価の目安であるエビデンスレベルとしては一番信頼度が低いとされていますが…。偉い先生の感想なんてあまりあてにはなりませんよ、って意味。
もっとも、このG-CSF適正使用診療ガイドラインが世に出る何年も前から普通に気にせず肺がんや食道がんの化学放射線同時併用療法でG-CSFも同時に使われていた同じ職場の諸先生方の診療をみていて「大丈夫だろ」といまだに信じている私の経験よりは重みがあるのでしょう。
頭頸部がんでも肺尖部に少しだけ照射されるようなケースでタキサン系抗がん剤が同時併用されるレジメではどうなのか?とか、今後話題(≒問題)になってきそうな気もします。現時点で頭頸部がんの化学放射線療法同時併用でタキサン系は標準レジメンにはなっていないのですが、国内外の学会報告だけを見ても普通に併用している施設って少なくないようですし。
それが良いかどうかは別として。
これもジーラスタをあえて予防的に使わなければいいことなのかもしれませんが…。
今回の投稿における私にとって一番のポイント(というか不満な点)は、臨床試験(しかもSWOG&ASCO)の結果は重いとはいえ、輸血を含めた抗がん治療の支持療法がかなり進歩してきた現在においても 20年くらい前のたった一つの論文報告だけでガイドラインにグレードDと書かれてしまうのは正直いかがなものか ということでした。タイトルで書いてましたね。
今後出てくる(かもしれない)臨床試験の報告を含め、化学放射線療法同時併用の際にG-CSFを(どのように?)使うことによる好中球回復の利点と、放射線併用による(?)副作用をきちんと評価していくことが今後求められる課題なのかなと思います。
とはいえ、私自身がグレードDに反論できるような臨床試験を計画しているわけでなく(申し訳ございません)、やっぱり現時点では安全第一に(縦隔への)化学放射線同時併用と安易なジーラスタ投与は控える対応をすべきなのでしょう。
ということで、放射線腫瘍医として対応がいささかやっかいな薬剤だなという気がしています…田舎の町医者の印象は別として。
スポンサーサイト
持続型G-CSF製剤(商品名:ジーラスタ®)がまもなくうちの病院でも採用されそうです。この薬剤、抗がん剤の副作用対策に役立つ良いお薬ではあるのですが、放射線腫瘍医として対応がいささかやっかいだなという気が個人的にしています。
G-CSF:顆粒球コロニー刺激因子(かりゅうきゅうコロニーしげきいんし、granulocyte-colony stimulating factor)とは、サイトカインの一種で好中球(細菌や真菌類を飲み込んで殺菌を行うことで、感染を防ぐ役割を果たす白血球の1種類)の産出促進や機能を高める作用がある。英語の略号でG-CSFと表記することが多い。 (Wikipediaより一部改変引用)
抗がん剤治療の種類によっては身体の骨髄も強いダメージを受け、数日~数週すると体調に支障をきたしうる血液中の白血球や赤血球、血小板などの減少(いわゆる骨髄抑制)が起きてきます。G-CSF製剤とは、減少した血液中の白血球の1種である好中球の数を回復させる高価なお薬のことで、国内でもバイオ後続品と呼ばれるものを含め何種類かの医薬品が承認販売されています。
今回採用予定のジーラスタ®は『がん化学療法による好中球減少症の治療に用いられるG-CSFの一つ「フィルグラスチム」をペグ化した、持続型のG-CSF製剤です。がん化学療法による好中球減少症に対して、ジーラスタ®はがん化学療法1サイクルに1回の投与で、フィルグラスチム連日投与に劣らない効果を発揮することから、医療上の簡便性に優れ、特に、患者さんの投与負担軽減や外来化学療法後の通院負担軽減に寄与できることが期待されています。また、ジーラスタ®を好中球減少症の発症前に投与することで、好中球減少症による感染症発症リスクを低減し、がん化学療法の投与量やスケジュール遵守が可能となるといった、医療上のメリットも期待されています。』(協和発酵キリン株式会社さんHPのニュースリリース2014年9月26日分から引用)
http://www.kyowa-kirin.co.jp/news_releases/2014/20140926_01.html
従来のG-CSF製剤というのは、通常は抗がん剤投与後しばらくして好中球減少症となった「後に」速やかな回復をめざした「治療的」投与をしています。一方、ジーラスタでおそらく最も期待されている効果というのが抗がん剤投与後の好中球減少症の「発症前に」投与、具体的には毎回の抗がん剤投与翌日にジーラスタを「予防的」投与することで抗がん剤の副作用リスクを減らします。
問題の一つは薬価。なんとこの薬1回投与だけで106660円もするそうです(もちろん抗がん剤その他は別費用)。骨髄抑制(好中球減少)が強く出る可能性が高い抗がん剤治療を行う際に安心ですが、入院で抗がん剤治療を行う場合は定額制の包括払いになるので病院経営上はなかなか厳しいという意見もあるようです。
外来治療だとしても、病院会計窓口で患者さんが知らずに支払い伝票を見たらびっくりして「オシッコちびりそう」な値段だ、と某先輩ドクターが申しておりました…。
ジーラスタの保険適応ですが「がん化学療法による発熱性好中球減少症の発症抑制」、全部のがんが対象になっています。でも、国内で行われた第II-III相臨床試験は「乳がん」「悪性リンパ腫」、つまり放射線治療との同時併用をすることがまずない疾患だったようです。
毒性を確認する第I相臨床試験は肺がんが対象でしたが、少数例で抗がん剤だけの試験でもちろん放射線治療の同時併用はしていません。
http://www.info.pmda.go.jp/shinyaku/P201400119/230124000_22600AMX01304_A100_1.pdf
で、ここからが私がなぜ「いささかやっかいだ」などと冒頭に書いたか。
G-CSF適正使用診療ガイドラインというのが日本癌治療学会から発行されています。ネット上で無料公開されています。
http://www.jsco-cpg.jp/guideline/30.html
その中に 「放射線を併用して化学療法を行う際や,単独で放射線療法を施行する際に,G-CSF を投与してよいか?」というCQ (Clinical Question:臨床での質問) があり、「推奨グレードD:放射線同時併用化学療法施行時、縦隔領域が照射内に含まれる場合は、G-CSF使用は推奨されない」 という記載があります。
つまり グレードD=使っちゃダメ! ということです。ご存じでしたか?
ちなみに「推奨グレードC1:放射線療法施行時、好中球減少症により、放射線照射の遅延が長引くと予測される場合にG-CSFの治療的投与を考慮しても良い」とあります。つまり 「放射線治療単独ならまあいいでしょう」 ということのようです。
(その2に続く)
G-CSF:顆粒球コロニー刺激因子(かりゅうきゅうコロニーしげきいんし、granulocyte-colony stimulating factor)とは、サイトカインの一種で好中球(細菌や真菌類を飲み込んで殺菌を行うことで、感染を防ぐ役割を果たす白血球の1種類)の産出促進や機能を高める作用がある。英語の略号でG-CSFと表記することが多い。 (Wikipediaより一部改変引用)
抗がん剤治療の種類によっては身体の骨髄も強いダメージを受け、数日~数週すると体調に支障をきたしうる血液中の白血球や赤血球、血小板などの減少(いわゆる骨髄抑制)が起きてきます。G-CSF製剤とは、減少した血液中の白血球の1種である好中球の数を回復させる高価なお薬のことで、国内でもバイオ後続品と呼ばれるものを含め何種類かの医薬品が承認販売されています。
今回採用予定のジーラスタ®は『がん化学療法による好中球減少症の治療に用いられるG-CSFの一つ「フィルグラスチム」をペグ化した、持続型のG-CSF製剤です。がん化学療法による好中球減少症に対して、ジーラスタ®はがん化学療法1サイクルに1回の投与で、フィルグラスチム連日投与に劣らない効果を発揮することから、医療上の簡便性に優れ、特に、患者さんの投与負担軽減や外来化学療法後の通院負担軽減に寄与できることが期待されています。また、ジーラスタ®を好中球減少症の発症前に投与することで、好中球減少症による感染症発症リスクを低減し、がん化学療法の投与量やスケジュール遵守が可能となるといった、医療上のメリットも期待されています。』(協和発酵キリン株式会社さんHPのニュースリリース2014年9月26日分から引用)
http://www.kyowa-kirin.co.jp/news_releases/2014/20140926_01.html
従来のG-CSF製剤というのは、通常は抗がん剤投与後しばらくして好中球減少症となった「後に」速やかな回復をめざした「治療的」投与をしています。一方、ジーラスタでおそらく最も期待されている効果というのが抗がん剤投与後の好中球減少症の「発症前に」投与、具体的には毎回の抗がん剤投与翌日にジーラスタを「予防的」投与することで抗がん剤の副作用リスクを減らします。
問題の一つは薬価。なんとこの薬1回投与だけで106660円もするそうです(もちろん抗がん剤その他は別費用)。骨髄抑制(好中球減少)が強く出る可能性が高い抗がん剤治療を行う際に安心ですが、入院で抗がん剤治療を行う場合は定額制の包括払いになるので病院経営上はなかなか厳しいという意見もあるようです。
外来治療だとしても、病院会計窓口で患者さんが知らずに支払い伝票を見たらびっくりして「オシッコちびりそう」な値段だ、と某先輩ドクターが申しておりました…。
ジーラスタの保険適応ですが「がん化学療法による発熱性好中球減少症の発症抑制」、全部のがんが対象になっています。でも、国内で行われた第II-III相臨床試験は「乳がん」「悪性リンパ腫」、つまり放射線治療との同時併用をすることがまずない疾患だったようです。
毒性を確認する第I相臨床試験は肺がんが対象でしたが、少数例で抗がん剤だけの試験でもちろん放射線治療の同時併用はしていません。
http://www.info.pmda.go.jp/shinyaku/P201400119/230124000_22600AMX01304_A100_1.pdf
で、ここからが私がなぜ「いささかやっかいだ」などと冒頭に書いたか。
G-CSF適正使用診療ガイドラインというのが日本癌治療学会から発行されています。ネット上で無料公開されています。
http://www.jsco-cpg.jp/guideline/30.html
その中に 「放射線を併用して化学療法を行う際や,単独で放射線療法を施行する際に,G-CSF を投与してよいか?」というCQ (Clinical Question:臨床での質問) があり、「推奨グレードD:放射線同時併用化学療法施行時、縦隔領域が照射内に含まれる場合は、G-CSF使用は推奨されない」 という記載があります。
つまり グレードD=使っちゃダメ! ということです。ご存じでしたか?
ちなみに「推奨グレードC1:放射線療法施行時、好中球減少症により、放射線照射の遅延が長引くと予測される場合にG-CSFの治療的投与を考慮しても良い」とあります。つまり 「放射線治療単独ならまあいいでしょう」 ということのようです。
(その2に続く)
筋層浸潤性膀胱がんの膀胱温存療法で投与される抗がん剤はシスプラチンがお薦めとなっています。
これまでいろいろな臨床試験が報告されていますが、最も系統的に研究を進めているのが世界的に有名な放射線腫瘍グループであるRTOG(Radiation Therapy Oncology Group)の一連の臨床試験でしょう。RTOGもシスプラチンが中心で、準備段階を含めると筋層浸潤性膀胱がんの温存療法だけで10以上の臨床試験が行われています。
シスプラチンに他の薬を足して効果がどうかという臨床試験も世界中でいろいろ行われていますが、どの組み合わせが一番かというのはまだ定まっていないようです。
なお、このRTOG試験を参考にする際、気をつけなければいけない点が二つあると思います。
一つは、同一グループなのにそれぞれの臨床試験が「かなり」違う治療内容に設定されていることです。ここでは詳細は省きますが、抗がん剤の投与法はもとより放射線治療の内容(分割照射法、総線量、照射野設定など)も相当なばらつきがあります。
もう一つは、抗がん剤+放射線治療同時併用の途中で2 - 4週程度もお休み期間があることです。その時に膀胱内視鏡を使った中間評価をして、もしがんが残っていた場合には救済手術(膀胱全摘術)に方針が変更されます。その割合はなんと全体の1/3近くにもなります。
シスプラチンという抗がん剤は尿といっしょに身体の外に出される薬なので、腎機能が悪い患者さんには投与困難です。そういう方には、最近イギリス(BC 2001試験)から報告されたマイトマイシンCと5-Fu(フルオロウラシル)の組み合わせが代役になりそうです。でもこれ、日本人での効果や副作用はまだよくわかりません。
James ND et al. N Engl J Med 366: 1477-1488, 2012
他にパクリタキセル、ジェムシタビン、トラスツズマブといった最近の薬を使った報告も出てきましたが、まだいずれも臨床試験での実験的な段階です。
そして、シスプラチンを中心とした抗がん剤と、シスプラチンを除く抗がん剤を比較した筋層浸潤性膀胱がん温存療法の第III相試験の論文報告もまだありません。
_______________________
【Weblio辞書より(勝手に改変)】
第I/II相(臨床)試験
【仮名】だい1/だい2そうりんしょうしけん
新しい治療の安全性、使う量、治療効果を調べる臨床試験。
第III相(臨床)試験
【仮名】だい3そうりんしょうしけん
新しい治療を受けたヒトの結果と、標準治療を受けたヒトの結果を比較する研究(例えば、どちらの結果で生存率が良いか、あるいは副作用が少ないか)。大部分の場合、第I相および第II相試験でも効果がみられると思われる治療のみ、第III相試験へと移行する。第III相試験は通常数百人レベルで行われる。
_______________________
日本では、カテーテル(細い管)を主に足の付け根の動脈から膀胱近くの血管まで挿入し直接がんへ集中的に抗がん剤を注射する、いわゆる動注化学療法と放射線治療の組み合わせが一部の施設で積極的に行なわれています。治療効果が良いという報告はいくつかでているのですが、治療内容はそれぞれかなり異なります。
臨床試験として動注化学療法の安全性や有効性を証明した報告はなく、また実は海外では動注化学療法そのものの報告が少ないです。今後、積極的に行っている日本の施設を中心に筋層浸潤性膀胱がんに対する動注化学療法+放射線治療をきちんと臨床試験として検証する必要があるように思います。
筋層浸潤性膀胱がんに対し放射線治療を始める前にがんを小さくするため、あらかじめ抗がん剤をしばらくの期間投与する導入化学療法という方法もあり、行うか否かを比べた第III相試験は2つあります。どちらもシスプラチン、メソトレキセート、ビンブラスチン3剤を組み合わせたCMV(進行膀胱がんに対する抗がん剤単独治療として代表的なM-VACからアドリアマイシンを除いたメニュー)なのですが、治療成績に差はでませんでした。そして、副作用が強かったため途中で中止になってしまった試験(RTOG 89-03)もありました。
また10年ほど前には、導入化学療法後の手術(膀胱全摘術)を含めた10の臨床試験、全2688症例の大規模な解析報告(メタアナリシス)が発表されました。全体としては導入化学療法群で行わない群と比し10年生存率が約5%改善していたのですが、放射線治療群にかぎってみると残念ながら有意差はみられませんでした。
Lancet 361: 1927-1934, 2003
ということで、筋層浸潤性膀胱がんに対する膀胱温存療法としての導入化学療法の有効性は現時点では確立されていません。
進行・転移性膀胱がんに対する代表的な抗がん剤治療として、国内外の診療ガイドラインでは先ほど示したM-VAC、近年ではGC(ジェムシタビン、シスプラチン)が推奨されています。しかし先に触れた通り、筋層浸潤性膀胱がんに対する抗がん剤と放射線治療の一般的な組み合わせはアドリアマイシンを省いたCMV、またはジェムシタビン単剤(これも実験的段階)などであり、M-VACまたはGCといった「抗がん剤単独での通常投与量」で放射線治療との同時併用が採用された「まともな」臨床試験の論文報告はありません。
どのがん治療においても共通することでしょうが、診療ガイドラインに「抗がん剤と放射線治療の同時併用が推奨」と書かれていても、『抗がん剤単独での治療内容を安易に放射線治療との同時併用に転用するのは良くありません』。
でも、学会などで報告を見聞きする限り、いまだに安易に(?)抗がん剤単独での治療内容(投与量はあまり根拠なく減らしているようですが)と放射線治療を同時併用している施設って稀ならずあります。
以上、まとめると
1.膀胱内視鏡切除(TURBT)後の放射線治療+シスプラチン(+α?)の同時併用がお薦め
2.腎機能低下例にはマイトマイシンC+5-Fuも選択肢(?) その他の薬はまだ研究段階
3.動注化学療法は臨床試験のエビデンスがない
4.導入化学療法の有効性は確立されていない
5.抗がん剤単独レジメを安易に放射線治療と同時併用するのは慎むべき
筋層浸潤性膀胱がんに対する膀胱温存療法に関連したきちんとした第III相試験はとても少なく(たぶん世界でこれまで5つ)、シスプラチン中心とはいえさまざまな膀胱温存療法が報告されていて、標準治療が定まっているとはいえません。また、日本では動注療法を行う施設も少なくなく、施設ごとに違う内容の抗がん剤と放射線治療の同時併用を実施しているのが現状のようです。
(さらに続く、放射線治療編…)
これまでいろいろな臨床試験が報告されていますが、最も系統的に研究を進めているのが世界的に有名な放射線腫瘍グループであるRTOG(Radiation Therapy Oncology Group)の一連の臨床試験でしょう。RTOGもシスプラチンが中心で、準備段階を含めると筋層浸潤性膀胱がんの温存療法だけで10以上の臨床試験が行われています。
シスプラチンに他の薬を足して効果がどうかという臨床試験も世界中でいろいろ行われていますが、どの組み合わせが一番かというのはまだ定まっていないようです。
なお、このRTOG試験を参考にする際、気をつけなければいけない点が二つあると思います。
一つは、同一グループなのにそれぞれの臨床試験が「かなり」違う治療内容に設定されていることです。ここでは詳細は省きますが、抗がん剤の投与法はもとより放射線治療の内容(分割照射法、総線量、照射野設定など)も相当なばらつきがあります。
もう一つは、抗がん剤+放射線治療同時併用の途中で2 - 4週程度もお休み期間があることです。その時に膀胱内視鏡を使った中間評価をして、もしがんが残っていた場合には救済手術(膀胱全摘術)に方針が変更されます。その割合はなんと全体の1/3近くにもなります。
シスプラチンという抗がん剤は尿といっしょに身体の外に出される薬なので、腎機能が悪い患者さんには投与困難です。そういう方には、最近イギリス(BC 2001試験)から報告されたマイトマイシンCと5-Fu(フルオロウラシル)の組み合わせが代役になりそうです。でもこれ、日本人での効果や副作用はまだよくわかりません。
James ND et al. N Engl J Med 366: 1477-1488, 2012
他にパクリタキセル、ジェムシタビン、トラスツズマブといった最近の薬を使った報告も出てきましたが、まだいずれも臨床試験での実験的な段階です。
そして、シスプラチンを中心とした抗がん剤と、シスプラチンを除く抗がん剤を比較した筋層浸潤性膀胱がん温存療法の第III相試験の論文報告もまだありません。
_______________________
【Weblio辞書より(勝手に改変)】
第I/II相(臨床)試験
【仮名】だい1/だい2そうりんしょうしけん
新しい治療の安全性、使う量、治療効果を調べる臨床試験。
第III相(臨床)試験
【仮名】だい3そうりんしょうしけん
新しい治療を受けたヒトの結果と、標準治療を受けたヒトの結果を比較する研究(例えば、どちらの結果で生存率が良いか、あるいは副作用が少ないか)。大部分の場合、第I相および第II相試験でも効果がみられると思われる治療のみ、第III相試験へと移行する。第III相試験は通常数百人レベルで行われる。
_______________________
日本では、カテーテル(細い管)を主に足の付け根の動脈から膀胱近くの血管まで挿入し直接がんへ集中的に抗がん剤を注射する、いわゆる動注化学療法と放射線治療の組み合わせが一部の施設で積極的に行なわれています。治療効果が良いという報告はいくつかでているのですが、治療内容はそれぞれかなり異なります。
臨床試験として動注化学療法の安全性や有効性を証明した報告はなく、また実は海外では動注化学療法そのものの報告が少ないです。今後、積極的に行っている日本の施設を中心に筋層浸潤性膀胱がんに対する動注化学療法+放射線治療をきちんと臨床試験として検証する必要があるように思います。
筋層浸潤性膀胱がんに対し放射線治療を始める前にがんを小さくするため、あらかじめ抗がん剤をしばらくの期間投与する導入化学療法という方法もあり、行うか否かを比べた第III相試験は2つあります。どちらもシスプラチン、メソトレキセート、ビンブラスチン3剤を組み合わせたCMV(進行膀胱がんに対する抗がん剤単独治療として代表的なM-VACからアドリアマイシンを除いたメニュー)なのですが、治療成績に差はでませんでした。そして、副作用が強かったため途中で中止になってしまった試験(RTOG 89-03)もありました。
また10年ほど前には、導入化学療法後の手術(膀胱全摘術)を含めた10の臨床試験、全2688症例の大規模な解析報告(メタアナリシス)が発表されました。全体としては導入化学療法群で行わない群と比し10年生存率が約5%改善していたのですが、放射線治療群にかぎってみると残念ながら有意差はみられませんでした。
Lancet 361: 1927-1934, 2003
ということで、筋層浸潤性膀胱がんに対する膀胱温存療法としての導入化学療法の有効性は現時点では確立されていません。
進行・転移性膀胱がんに対する代表的な抗がん剤治療として、国内外の診療ガイドラインでは先ほど示したM-VAC、近年ではGC(ジェムシタビン、シスプラチン)が推奨されています。しかし先に触れた通り、筋層浸潤性膀胱がんに対する抗がん剤と放射線治療の一般的な組み合わせはアドリアマイシンを省いたCMV、またはジェムシタビン単剤(これも実験的段階)などであり、M-VACまたはGCといった「抗がん剤単独での通常投与量」で放射線治療との同時併用が採用された「まともな」臨床試験の論文報告はありません。
どのがん治療においても共通することでしょうが、診療ガイドラインに「抗がん剤と放射線治療の同時併用が推奨」と書かれていても、『抗がん剤単独での治療内容を安易に放射線治療との同時併用に転用するのは良くありません』。
でも、学会などで報告を見聞きする限り、いまだに安易に(?)抗がん剤単独での治療内容(投与量はあまり根拠なく減らしているようですが)と放射線治療を同時併用している施設って稀ならずあります。
以上、まとめると
1.膀胱内視鏡切除(TURBT)後の放射線治療+シスプラチン(+α?)の同時併用がお薦め
2.腎機能低下例にはマイトマイシンC+5-Fuも選択肢(?) その他の薬はまだ研究段階
3.動注化学療法は臨床試験のエビデンスがない
4.導入化学療法の有効性は確立されていない
5.抗がん剤単独レジメを安易に放射線治療と同時併用するのは慎むべき
筋層浸潤性膀胱がんに対する膀胱温存療法に関連したきちんとした第III相試験はとても少なく(たぶん世界でこれまで5つ)、シスプラチン中心とはいえさまざまな膀胱温存療法が報告されていて、標準治療が定まっているとはいえません。また、日本では動注療法を行う施設も少なくなく、施設ごとに違う内容の抗がん剤と放射線治療の同時併用を実施しているのが現状のようです。
(さらに続く、放射線治療編…)
5月連休明けのことですが、なぜか田舎の町医者あてに放射線科関連の某雑誌から「筋層浸潤性膀胱がんの化学放射線治療」の総説執筆依頼状が届きました。これまでそんなものを書いたことはございません。
尿を一時的にためる臓器である膀胱粘膜の外壁にある平滑筋にまでがんが及んでしまった状態を「(筋層)浸潤性膀胱がん」といいます。膀胱にがんがとどまってはいるものの、残念ながら早期がんの扱いにはなりません。
一昨日が最初の原稿提出締切日でしたが、なんとか間に合いました。この後、専門の先生方による厳しいチェックがきっとたくさん入った修正原稿がそのうち私の所に戻ってきて、何回かのダメ出しを食らいつつ、数か月後にはめでたく医学雑誌に掲載となるはずです(たぶん)。
同業者の方々におかれましては、もし私の拙文をご覧になる機会がございましたらどうか暖かい目でお読みいただければ幸いです。もちろん日本語です。
しかし、締切日の直前までなかなかやる気がわいてこない性格は昔から変わらずで、我ながら困ったものです。
ということで、筋層浸潤性膀胱がんの放射線治療についてせっかくいろいろ調べたし、(かなり修正して)ブログ風に書き直してみることにしました。
****************************
筋層浸潤性膀胱がんに対する第一選択の治療は、手術で膀胱を全部取ってしまうこと(膀胱全摘術)とされます。膀胱温存療法といって抗がん剤+放射線治療で膀胱を残したまま治す方法もあるのですが、現時点では「有効ではあるけれど手術に勝るわけではなく、また再発した後の治療で困ることもあるので、治りそうな患者さんに限定しましょう」というのが世界中の膀胱がん専門医たちの意見です。
で、膀胱内視鏡でがんをなるべく切除(低侵襲手術)をしたあとに抗がん剤+放射線治療を同時併用するのが膀胱温存療法の一番のお勧め方法とされます。
しかし実は、筋層浸潤性膀胱がんに対する抗がん剤+放射線治療(膀胱温存療法)を膀胱全摘手術と「きちんと比べた」臨床試験というのはこれまで一度も報告されていません。
他のがんでも同じで、手術と(抗がん剤+)放射線治療の治療効果を「きちんと」比べた臨床試験の報告って、世の中にびっくりするくらい存在しないんです。
例えば手術可能な子宮頸がんの抗がん剤+放射線治療。国内外から手術に匹敵する治療効果が数多く報告され、がんが治ったかどうかを評価するうえで最も信頼度が高い『生存率に実質上は差がありません』。しかし、手術とのきちんとした比較試験がほとんど無いため「日本のガイドライン」では過去の治療件数やガイドライン担当委員が多い手術のほうが優先順位の高い書き方になっています。
ちなみに日本で最近、早期食道がんや早期肺がんで手術と(抗がん剤+)放射線治療をきちんと比較するという臨床試験が進められています。これはかなり画期的な臨床試験だと思います。
はたして今後どのような結果が出てくる。。。結果、出るだろうか?
さらに書くと、手術または放射線療法(つまり何らかの西洋医療を施す)をする群となにも治療しない(有名な近藤某先生が勧めるがん放置療法のような)群をきちんと比べた臨床試験というのも私が知っているかぎりですが無さそうです。筋層浸潤性膀胱がんもしかり。
あえて比べるまでもなくその差歴然で治療したほうが優っている、人体実験である臨床試験がそもそも成り立たない、などというのが大多数の専門医の意見のようです。ただ、その辺をきちんと示さない限り、「〇✕と闘うな」「△□不要論」といった反西洋医療派を納得させることはできないのかもしれません。もっとも、データの解釈についてもいろいろな見解があり、結局はこれまで通り平行線の議論をたどるかもしれません。
いや、もしかして(普通の西洋医学者にとって)非常識でびっくりするような結果が出たりして??
これ以上はここで深入りしないことにしておきます。
さて、筋層浸潤性膀胱がんに対する抗がん剤+放射線治療と放射線治療単独の治療成績を比較した最も信頼度が高いとされる第III相試験報告というものは過去に2つだけあります。いずれも骨盤内無病生存率、つまり放射線治療を行った部分からのがんの再発は抗がん剤+放射線治療群のほうが統計学的に有意に少なく優れた治療と評価されています。
1) Coppin CM et al. J Clin Oncol 14: 2901-2907, 1996
2) James ND et al. N Engl J Med 366: 1477-1488, 2012
でも、実はこの2つの第III相試験、どちらの報告も抗がん剤上乗せ効果による生存率の改善は示されませんでした。そして、どちらも副作用は多めでした。
しかしそれ以外の多くの報告で、放射線治療単独は生存率を含めた治療成績が劣っているため標準的な膀胱温存療法としては推奨されないと国内外の膀胱がん診療ガイドラインには明記されています。
これは抗がん剤と一緒にしない治療が全く効果ないという結果というわけでは決してありません。両者を比べたら何人かに一人くらいの差で抗がん剤+放射線治療のほうが数字上は良さそうだったということにすぎません。もちろん、その数字の差は大きいのですけれど。
そして、実際に個々の患者さんに当てはめる場合は、副作用がどうかとか、年齢や体調がどうかとか、身体を傷つける治療を患者さんがどこまで希望されるかとか、別のいろいろな問題も加えて検討する必要がでてきます。
どんながんの治療でも共通することですけどね。
(長いので今日はとりあえずここまでにします)
尿を一時的にためる臓器である膀胱粘膜の外壁にある平滑筋にまでがんが及んでしまった状態を「(筋層)浸潤性膀胱がん」といいます。膀胱にがんがとどまってはいるものの、残念ながら早期がんの扱いにはなりません。
一昨日が最初の原稿提出締切日でしたが、なんとか間に合いました。この後、専門の先生方による厳しいチェックがきっとたくさん入った修正原稿がそのうち私の所に戻ってきて、何回かのダメ出しを食らいつつ、数か月後にはめでたく医学雑誌に掲載となるはずです(たぶん)。
同業者の方々におかれましては、もし私の拙文をご覧になる機会がございましたらどうか暖かい目でお読みいただければ幸いです。もちろん日本語です。
しかし、締切日の直前までなかなかやる気がわいてこない性格は昔から変わらずで、我ながら困ったものです。
ということで、筋層浸潤性膀胱がんの放射線治療についてせっかくいろいろ調べたし、(かなり修正して)ブログ風に書き直してみることにしました。
****************************
筋層浸潤性膀胱がんに対する第一選択の治療は、手術で膀胱を全部取ってしまうこと(膀胱全摘術)とされます。膀胱温存療法といって抗がん剤+放射線治療で膀胱を残したまま治す方法もあるのですが、現時点では「有効ではあるけれど手術に勝るわけではなく、また再発した後の治療で困ることもあるので、治りそうな患者さんに限定しましょう」というのが世界中の膀胱がん専門医たちの意見です。
で、膀胱内視鏡でがんをなるべく切除(低侵襲手術)をしたあとに抗がん剤+放射線治療を同時併用するのが膀胱温存療法の一番のお勧め方法とされます。
しかし実は、筋層浸潤性膀胱がんに対する抗がん剤+放射線治療(膀胱温存療法)を膀胱全摘手術と「きちんと比べた」臨床試験というのはこれまで一度も報告されていません。
他のがんでも同じで、手術と(抗がん剤+)放射線治療の治療効果を「きちんと」比べた臨床試験の報告って、世の中にびっくりするくらい存在しないんです。
例えば手術可能な子宮頸がんの抗がん剤+放射線治療。国内外から手術に匹敵する治療効果が数多く報告され、がんが治ったかどうかを評価するうえで最も信頼度が高い『生存率に実質上は差がありません』。しかし、手術とのきちんとした比較試験がほとんど無いため「日本のガイドライン」では過去の治療件数やガイドライン担当委員が多い手術のほうが優先順位の高い書き方になっています。
ちなみに日本で最近、早期食道がんや早期肺がんで手術と(抗がん剤+)放射線治療をきちんと比較するという臨床試験が進められています。これはかなり画期的な臨床試験だと思います。
はたして今後どのような結果が出てくる。。。結果、出るだろうか?
さらに書くと、手術または放射線療法(つまり何らかの西洋医療を施す)をする群となにも治療しない(有名な近藤某先生が勧めるがん放置療法のような)群をきちんと比べた臨床試験というのも私が知っているかぎりですが無さそうです。筋層浸潤性膀胱がんもしかり。
あえて比べるまでもなくその差歴然で治療したほうが優っている、人体実験である臨床試験がそもそも成り立たない、などというのが大多数の専門医の意見のようです。ただ、その辺をきちんと示さない限り、「〇✕と闘うな」「△□不要論」といった反西洋医療派を納得させることはできないのかもしれません。もっとも、データの解釈についてもいろいろな見解があり、結局はこれまで通り平行線の議論をたどるかもしれません。
いや、もしかして(普通の西洋医学者にとって)非常識でびっくりするような結果が出たりして??
これ以上はここで深入りしないことにしておきます。
さて、筋層浸潤性膀胱がんに対する抗がん剤+放射線治療と放射線治療単独の治療成績を比較した最も信頼度が高いとされる第III相試験報告というものは過去に2つだけあります。いずれも骨盤内無病生存率、つまり放射線治療を行った部分からのがんの再発は抗がん剤+放射線治療群のほうが統計学的に有意に少なく優れた治療と評価されています。
1) Coppin CM et al. J Clin Oncol 14: 2901-2907, 1996
2) James ND et al. N Engl J Med 366: 1477-1488, 2012
でも、実はこの2つの第III相試験、どちらの報告も抗がん剤上乗せ効果による生存率の改善は示されませんでした。そして、どちらも副作用は多めでした。
しかしそれ以外の多くの報告で、放射線治療単独は生存率を含めた治療成績が劣っているため標準的な膀胱温存療法としては推奨されないと国内外の膀胱がん診療ガイドラインには明記されています。
これは抗がん剤と一緒にしない治療が全く効果ないという結果というわけでは決してありません。両者を比べたら何人かに一人くらいの差で抗がん剤+放射線治療のほうが数字上は良さそうだったということにすぎません。もちろん、その数字の差は大きいのですけれど。
そして、実際に個々の患者さんに当てはめる場合は、副作用がどうかとか、年齢や体調がどうかとか、身体を傷つける治療を患者さんがどこまで希望されるかとか、別のいろいろな問題も加えて検討する必要がでてきます。
どんながんの治療でも共通することですけどね。
(長いので今日はとりあえずここまでにします)
前回投稿から1か月以上経過…
田舎の町医者なのに先月は毎週のように学会や研究会で遠出出張がありました(留守番の先生、申し訳ございません)。リアルタイムに日記を書かないと記憶が薄れてしまうけれど先送り、そろそろ旬が過ぎそう(というか記憶の限界)なので備忘録がてら久しぶりの投稿です。
先月の12~13日に東京で開催された第38回日本頭頚部癌学会に私も参加してきました。そして今回は珍しく演題発表までしちゃいました。
それはさておき、今回もっとも気になっていたのが、「臨床使用が始まって1年経過した頭頸部がんに対するセツキシマブと放射線治療の同時併用療法(以下、セツ照射)、各施設からどのような臨床報告がなされるのだろうか」という点。ブログで勝手に(3)まで書いておりましたし。
2日間にわたった学会で、セツ照射の発表は口演、ポスターをあわせて10演題以上もあり、気づけばうちの病院に所属されていた先生も演題発表をなさっていました。
特に初日のBRT(Bio-Radiation療法)セッションに多くが集中していたので、もちろん私も聴講。
事前に演題の抄録集に(行きの電車の中で)目は通していたので心の準備はできていたのですが、各施設の報告はどれも私の予想通り…いや、それ以上だったかな。
放射線治療との併用で起きるセツ自体の皮膚炎上乗せ効果はもちろんのこと、大半の施設の報告で提示された粘膜炎などの写真も、私が診察した数例の患者さんたち同様にかなり症状が目立つもの(Grade3以上)ばかりでした。症例によってはBRT終了後数週間も症状が遷延するらしいですし。
多くの症例を治療している頭頸部がん治療で有名な大規模施設では、治療中の皮膚ケアや栄養管理などいわゆるがんの支持療法がチームとして組織として治療早期からしっかり対応されています。そんな施設ですら(だから?)、粘膜炎がひどいBRTの栄養管理には胃瘻造設が必要といった報告が続きました。
標準治療である抗がん剤(シスプラチン)と放射線同時併用の支持療法と何ら変わらないじゃないですか!
また、大変気になったのが以前のブログにも書いた間質性肺炎の副作用でした。まだ多くの施設の発表がおよそ10例前後の初期経験でしたが、命にかかわる間質性肺炎症例との報告がちらほら。全部あわせた頻度としてはそれなりの症例数になります。
放射線治療との併用例で多いような個人的印象もありましたが、因果関係あるのだろうか?
当初「副作用が少なくて抗がん剤ができない高齢者を含めた患者さんに使いやすい」という触れ込みとはかなりかけ離れた初期臨床報告ばかりでした。
そういえば先日、私が乗り合わせたある乗り物の車中で、後ろに座っていた某有名大学と某がんセンター頭頚部外科の中堅先生方の雑談がたまたま聞こえてきました(耳をダンボにはしてましたけど…)。
「高齢者のBRT、全身管理が大変だし投与しにくいよね」
「高齢者のBRT、安全性の確認が全然足りないよね」
同意見です。高齢者への「安易な」セツ照射同時併用はすべきではないと個人的には思っています。
放射線治療との併用では頭頸部がんが初めての国内承認だし、各施設での市販後調査や副作用に対する啓蒙をもっとしっかりしたほうがいいのではないのかなあ?
セツの開発治験などを実施されてきたご経験豊富な施設の先生方は、どのようなお考えでいらっしゃるのだろう?
田舎の町医者なのに先月は毎週のように学会や研究会で遠出出張がありました(留守番の先生、申し訳ございません)。リアルタイムに日記を書かないと記憶が薄れてしまうけれど先送り、そろそろ旬が過ぎそう(というか記憶の限界)なので備忘録がてら久しぶりの投稿です。
先月の12~13日に東京で開催された第38回日本頭頚部癌学会に私も参加してきました。そして今回は珍しく演題発表までしちゃいました。
それはさておき、今回もっとも気になっていたのが、「臨床使用が始まって1年経過した頭頸部がんに対するセツキシマブと放射線治療の同時併用療法(以下、セツ照射)、各施設からどのような臨床報告がなされるのだろうか」という点。ブログで勝手に(3)まで書いておりましたし。
2日間にわたった学会で、セツ照射の発表は口演、ポスターをあわせて10演題以上もあり、気づけばうちの病院に所属されていた先生も演題発表をなさっていました。
特に初日のBRT(Bio-Radiation療法)セッションに多くが集中していたので、もちろん私も聴講。
事前に演題の抄録集に(行きの電車の中で)目は通していたので心の準備はできていたのですが、各施設の報告はどれも私の予想通り…いや、それ以上だったかな。
放射線治療との併用で起きるセツ自体の皮膚炎上乗せ効果はもちろんのこと、大半の施設の報告で提示された粘膜炎などの写真も、私が診察した数例の患者さんたち同様にかなり症状が目立つもの(Grade3以上)ばかりでした。症例によってはBRT終了後数週間も症状が遷延するらしいですし。
多くの症例を治療している頭頸部がん治療で有名な大規模施設では、治療中の皮膚ケアや栄養管理などいわゆるがんの支持療法がチームとして組織として治療早期からしっかり対応されています。そんな施設ですら(だから?)、粘膜炎がひどいBRTの栄養管理には胃瘻造設が必要といった報告が続きました。
標準治療である抗がん剤(シスプラチン)と放射線同時併用の支持療法と何ら変わらないじゃないですか!
また、大変気になったのが以前のブログにも書いた間質性肺炎の副作用でした。まだ多くの施設の発表がおよそ10例前後の初期経験でしたが、命にかかわる間質性肺炎症例との報告がちらほら。全部あわせた頻度としてはそれなりの症例数になります。
放射線治療との併用例で多いような個人的印象もありましたが、因果関係あるのだろうか?
当初「副作用が少なくて抗がん剤ができない高齢者を含めた患者さんに使いやすい」という触れ込みとはかなりかけ離れた初期臨床報告ばかりでした。
そういえば先日、私が乗り合わせたある乗り物の車中で、後ろに座っていた某有名大学と某がんセンター頭頚部外科の中堅先生方の雑談がたまたま聞こえてきました(耳をダンボにはしてましたけど…)。
「高齢者のBRT、全身管理が大変だし投与しにくいよね」
「高齢者のBRT、安全性の確認が全然足りないよね」
同意見です。高齢者への「安易な」セツ照射同時併用はすべきではないと個人的には思っています。
放射線治療との併用では頭頸部がんが初めての国内承認だし、各施設での市販後調査や副作用に対する啓蒙をもっとしっかりしたほうがいいのではないのかなあ?
セツの開発治験などを実施されてきたご経験豊富な施設の先生方は、どのようなお考えでいらっしゃるのだろう?
ここ1年で実際にセツキシマブと放射線治療(以下、セツ照射)を同時併用した頭頸部がん患者さんを数名診察させていただきましたが、副作用対策はなかなか大変だと感じます。
セツの副作用や標準的な対策については、アービタックス適正使用ガイド第1版‐頭頸部癌‐に詳しく記され、前回ブログで紹介した国内外の臨床試験論文についても概要が解説されています。
http://file.bmshealthcare.jp/bmshealthcare/pdf/guide/EB-HN-guide-1212.pdf
セツの副作用としては、注射している時に起きる可能性がある infusion reaction(いわゆるアレルギー発作)や「にきび」様皮疹の頻度が多く、また特徴的です(適正使用ガイドにも最初に紹介)。
アレルギー発作が起きる頻度はステロイドなどの予防薬をいっしょに使えば少なくなりますが、それでも入院が必要になりそうな重症発作(CTCAE ver4でGrade3以上)は1%程度でステロイドを使わないと1~5%もあるのだそうです。放射線科領域ですと造影CT検査などで使用するヨード造影剤のアレルギー発作がよく知られていますが、最近の非イオン性ヨード造影剤は特に予防薬を使わなくても重症副作用がおきる割合は全体の0.1%以下、昔よく使用され副作用が出やすかったイオン性造影剤ですら1%以下でした。それよりセツのほうが多そうなので、要注意です。
「にきび」様皮疹は薬が効きそうな人に出やすいそうです。そして皮疹が悪化しないようにするためには治療開始時からの日々のこまめな皮膚ケアが推奨され、ステロイド外用剤などが有効だそうです。
しかし、これまでたいしたお肌のお手入れなどしたことがない男性患者さんなどからすれば、セツ投与期間中に皮膚ケアを何か月(何年?)も続けるというのは、いやそもそもこれまで経験ない全身皮疹と毎日お付き合いしなければならないというのは、自分のためとはいえ、また効果がありそうな証拠とはいえ、心身ともに相当な負担だと思います。
そういえば横浜の某医院でアトピー性皮膚炎用の「漢方クリーム」と虚偽広告したステロイド入り軟膏による集団被害が報道されていましたね。軟膏とはいえステロイド長期連用、要注意です。
セツ照射同時併用は、照射範囲の(特に「にきび」様皮疹部の)皮膚炎や口腔粘膜炎も患者さんによってはシス同時併用並みに強い症状が出現します。食べられないくらいの粘膜炎で胃ろうや高カロリー点滴の補助が必要になるケースは、前回紹介した日本人の臨床試験通りで結構いるように思われます。特に高齢者ですとかインスリンが必要な糖尿病や体力低下などがある患者さんに対しては、実感としても同時併用はなかなか負担が大きいように思います。
適正使用ガイドの添付文書に、高齢者への投与については「一般に高齢者では生理機能が低下しているので、患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること」とだけ記載があります。ちなみに前回触れた頭頸部がんセツ照射併用の国内臨床試験の年齢上限は81才(中央値67才)でした。
しかし、予備体力が低下している高齢者は、食が細くなるだけで一気に体調を崩す恐れがあります。高カロリー点滴は心肺機能にも負担をかけますし、むくみやすくなりますし…。高齢者に対するセツ照射同時併用、要注意です。
皮膚炎やアレルギー発作と同レベルの頻度で(0.5~10%とかなり幅はありますが)呼吸困難を呈する間質性肺炎や下痢なども記されていますし、それらより頻度は少ないものの心不全なども記されています。使用上の注意として「慎重投与」項目にも挙げられています。
こういった注意事項はどの抗がん薬剤でもたいてい似たような記載がなされています。しかし、全体としての発症頻度は少なくとも、症状が出てしまった患者さんにとってはすでに確率は関係なく自分の命にもかかわる大問題となります。ほかの副作用が有名なだけに忘れられがちな呼吸困難や心不全兆候の確認、要注意です。
1年前のブログで「ちゃんと体調管理できない病院でセツを使われるのも何となくちょっと心配だよね」と書きましたが、今は「何となくちょっと」を消したい気分です。
適正ガイドにも最初に赤字で、『緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤が適切と判断される症例についてのみ投与して下さい』としっかり書いてありますし。「十分」と「適切」の定義が曖昧な点は気になりますが…
以上、いろいろ書いてしまいました。
ここ大事な点ですが、「セツは進行頭頸部がん治療の有効な選択肢の一つ」であることに異を唱えるつもりではございません。あくまで個人的な実感としてセツ照射併用は当初予想より副作用があるっていう印象をブログにしようと思っただけです。(がん治療に限りませんが)どの治療を選択するかは、治療効果と副作用、がんの病状や進み方、そして患者さんの体調・希望などの兼ね合い(総合評価)で決まりますし。ついでに書くと(なかなか数値化できない)医者の知識や腕もあり…
日本人に対して文章化されたセツ照射の使用報告はまださほど出ていないようなので、セツ照射の初期報告がなされそうな(私も参加予定の)来月の日本頭頸部癌学会、要注意(チェック?)です。
セツ照射患者さんをそんなに診ているわけではない町医者の投稿ですので、問題点などございましたらどうかご教示ください。
セツの副作用や標準的な対策については、アービタックス適正使用ガイド第1版‐頭頸部癌‐に詳しく記され、前回ブログで紹介した国内外の臨床試験論文についても概要が解説されています。
http://file.bmshealthcare.jp/bmshealthcare/pdf/guide/EB-HN-guide-1212.pdf
セツの副作用としては、注射している時に起きる可能性がある infusion reaction(いわゆるアレルギー発作)や「にきび」様皮疹の頻度が多く、また特徴的です(適正使用ガイドにも最初に紹介)。
アレルギー発作が起きる頻度はステロイドなどの予防薬をいっしょに使えば少なくなりますが、それでも入院が必要になりそうな重症発作(CTCAE ver4でGrade3以上)は1%程度でステロイドを使わないと1~5%もあるのだそうです。放射線科領域ですと造影CT検査などで使用するヨード造影剤のアレルギー発作がよく知られていますが、最近の非イオン性ヨード造影剤は特に予防薬を使わなくても重症副作用がおきる割合は全体の0.1%以下、昔よく使用され副作用が出やすかったイオン性造影剤ですら1%以下でした。それよりセツのほうが多そうなので、要注意です。
「にきび」様皮疹は薬が効きそうな人に出やすいそうです。そして皮疹が悪化しないようにするためには治療開始時からの日々のこまめな皮膚ケアが推奨され、ステロイド外用剤などが有効だそうです。
しかし、これまでたいしたお肌のお手入れなどしたことがない男性患者さんなどからすれば、セツ投与期間中に皮膚ケアを何か月(何年?)も続けるというのは、いやそもそもこれまで経験ない全身皮疹と毎日お付き合いしなければならないというのは、自分のためとはいえ、また効果がありそうな証拠とはいえ、心身ともに相当な負担だと思います。
そういえば横浜の某医院でアトピー性皮膚炎用の「漢方クリーム」と虚偽広告したステロイド入り軟膏による集団被害が報道されていましたね。軟膏とはいえステロイド長期連用、要注意です。
セツ照射同時併用は、照射範囲の(特に「にきび」様皮疹部の)皮膚炎や口腔粘膜炎も患者さんによってはシス同時併用並みに強い症状が出現します。食べられないくらいの粘膜炎で胃ろうや高カロリー点滴の補助が必要になるケースは、前回紹介した日本人の臨床試験通りで結構いるように思われます。特に高齢者ですとかインスリンが必要な糖尿病や体力低下などがある患者さんに対しては、実感としても同時併用はなかなか負担が大きいように思います。
適正使用ガイドの添付文書に、高齢者への投与については「一般に高齢者では生理機能が低下しているので、患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること」とだけ記載があります。ちなみに前回触れた頭頸部がんセツ照射併用の国内臨床試験の年齢上限は81才(中央値67才)でした。
しかし、予備体力が低下している高齢者は、食が細くなるだけで一気に体調を崩す恐れがあります。高カロリー点滴は心肺機能にも負担をかけますし、むくみやすくなりますし…。高齢者に対するセツ照射同時併用、要注意です。
皮膚炎やアレルギー発作と同レベルの頻度で(0.5~10%とかなり幅はありますが)呼吸困難を呈する間質性肺炎や下痢なども記されていますし、それらより頻度は少ないものの心不全なども記されています。使用上の注意として「慎重投与」項目にも挙げられています。
こういった注意事項はどの抗がん薬剤でもたいてい似たような記載がなされています。しかし、全体としての発症頻度は少なくとも、症状が出てしまった患者さんにとってはすでに確率は関係なく自分の命にもかかわる大問題となります。ほかの副作用が有名なだけに忘れられがちな呼吸困難や心不全兆候の確認、要注意です。
1年前のブログで「ちゃんと体調管理できない病院でセツを使われるのも何となくちょっと心配だよね」と書きましたが、今は「何となくちょっと」を消したい気分です。
適正ガイドにも最初に赤字で、『緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤が適切と判断される症例についてのみ投与して下さい』としっかり書いてありますし。「十分」と「適切」の定義が曖昧な点は気になりますが…
以上、いろいろ書いてしまいました。
ここ大事な点ですが、「セツは進行頭頸部がん治療の有効な選択肢の一つ」であることに異を唱えるつもりではございません。あくまで個人的な実感としてセツ照射併用は当初予想より副作用があるっていう印象をブログにしようと思っただけです。(がん治療に限りませんが)どの治療を選択するかは、治療効果と副作用、がんの病状や進み方、そして患者さんの体調・希望などの兼ね合い(総合評価)で決まりますし。ついでに書くと(なかなか数値化できない)医者の知識や腕もあり…
日本人に対して文章化されたセツ照射の使用報告はまださほど出ていないようなので、セツ照射の初期報告がなされそうな(私も参加予定の)来月の日本頭頸部癌学会、要注意(チェック?)です。
セツ照射患者さんをそんなに診ているわけではない町医者の投稿ですので、問題点などございましたらどうかご教示ください。
前回、「半世紀だし半生記の反省期」などというオヤジ文章を書いた手前、これまで投稿した自分のブログをなんとなく見直してみました。
だんだん以前に自分が何を書いたか忘れつつある時期に突入しており…
およそ1年前に、セツキシマブ(以下、セツ)という薬と放射線治療について、自分なりの疑問点をいくつか挙げた投稿をしたことがあります。
その後、うちの病院でも何人かの患者さんに放射線治療との組み合わせでセツを投与しました。正確には、頭頸部がんを積極的に治療している同じ職場の先生がたが主治医として処方され、私は併診です。
今回は、この1年間に自分が診察させていただいた患者さんたちを振り返り、またごく最近の報告にも少し目を通したうえで、(いつものことですがあくまで個人的な)今の印象を「その2」として書いてみることにしました。まあ、他の理由もありますが。
局所進行頭頸部がんの治療は、手術以外に、シスプラチン(以下、シス)という抗がん剤と放射線治療の同時併用が世界標準の治療法と評価されています。しかし実際の所、比較的若くて腎臓など身体も元気な患者さんでないと治療は難しいですし、そういう方々であっても治療中のいろいろな副作用が結構強く出現してかなりへばることが少なくありません。多くの患者さんが咽頭粘膜炎によるのどの痛みなどで水もなかなか飲めなくなるから、一時的胃瘻など別の形でしっかりとした栄養管理をせざるを得なくなります(もちろん医療用麻薬を含めた痛み止めもしっかり使います)。
手術と違って放射線治療は「切らずに治す」「身体にやさしい治療」と一般に言われるものの、あくまで「手術に比べれば」という但し書きがつくだけであって、頭頸部がん患者さんにとっては抗がん剤と放射線治療の同時併用もかなりしんどい影響が治療中に、そして治療が終わった後にもいろいろと生じえます。
一方で、およそ1年半前に保険収載となり、日本でも日常診療で使用可能となった頭頸部がんに対するセツと放射線治療は、「抗がん剤と放射線治療の同時併用のようなひどい副作用はなくて大丈夫ですよ!」といった触れ込みや噂が(少なくとも私の所には)入ってきたように思い出されます。
国内承認に至ったのは、日本の有名所数施設が局所進行頭頸部がんに対するセツと照射の同時併用臨床試験で安全性を確認したのを踏まえてのことらしいです。で、その結果を示した医学論文が去年の3月、つまり私がブログを書いた翌月に医学雑誌に掲載されていました。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23479383
セツと放射線治療は同時が良いって示した有名なBonner先生たちの臨床試験の報告(NEJM2006、Lancet2010)と同じようなメニューで「日本人に対する安全性と有効性」を確かめた臨床試験の報告です。
論文の結論は「日本人でも安全に実施できました(私の和訳)」でした。
でも、その内容をよくみると治療中の副作用も全然無視できず、かなり強いとされるGrade3-4の皮膚炎(触ると出血しやすいくらいのただれ以上)が27%、粘膜炎(食べられないくらい辛くて高カロリー点滴などが必要になるレベル以上)に至ってはなんと73%もでていたそうです。ちなみにこの臨床試験を行ったのは、強い副作用が出ても全身管理をしっかり行える(はずの)全国有数の施設ばかりです。
そんな施設なら、仮に強い副作用が出ても無事回復して「安全に治療できる」と思います。でも、普通の(?)病院でそういう強めの副作用が3人に2人以上も出るというのは、耳鼻科にしても放射線治療科にしても診療体制が必ずしも充分とはいえないでしょうから、正直大変かな?って気もします。
また、この臨床試験ではBonner試験でも何割かの患者さんに用いられた「照射は首全体に1.8Gy/日を週5日全6週間+6週の後半2週間余はがんにしぼって1.5Gy/日を1回追加して計1日2回朝夕」という後半1日2回(朝夕)照射法(Concomitant Boost、加速過分割照射)を採用しています。ここでの1日2回法というのは総治療期間を短くして予定線量を照射するため、実は放射線治療だけの場合でも治療中の皮膚炎や粘膜炎は普通の1日1回法(1.8~2Gy/日の通常分割照射)より強くなります。頭頸部がん領域では、抗がん剤との同時併用は副作用が強すぎるため慎重に、とも言われています(放射線治療単独ならお勧め)。
ちなみに去年開催された日本放射線腫瘍学会学術大会のシンポジウムの質疑応答で、この件に関するフロアからの質問に対し日本の頭頸部がんの主導的立場でいらっしゃる先生が「(臨床試験は1日2回法ですが)患者さんの身体の負担を考慮すると1日1回法で治療したほうがいいかもしれません」とご回答されていました。
ということで、うちの病院ではセツと放射線治療の同時併用は1日1回照射法を採用しているのですが、それでも(当初の個人的予想以上に)副作用が強く現れる患者さんがいらっしゃいます。
長くなってきたので、次回へ…
だんだん以前に自分が何を書いたか忘れつつある時期に突入しており…
およそ1年前に、セツキシマブ(以下、セツ)という薬と放射線治療について、自分なりの疑問点をいくつか挙げた投稿をしたことがあります。
その後、うちの病院でも何人かの患者さんに放射線治療との組み合わせでセツを投与しました。正確には、頭頸部がんを積極的に治療している同じ職場の先生がたが主治医として処方され、私は併診です。
今回は、この1年間に自分が診察させていただいた患者さんたちを振り返り、またごく最近の報告にも少し目を通したうえで、(いつものことですがあくまで個人的な)今の印象を「その2」として書いてみることにしました。まあ、他の理由もありますが。
局所進行頭頸部がんの治療は、手術以外に、シスプラチン(以下、シス)という抗がん剤と放射線治療の同時併用が世界標準の治療法と評価されています。しかし実際の所、比較的若くて腎臓など身体も元気な患者さんでないと治療は難しいですし、そういう方々であっても治療中のいろいろな副作用が結構強く出現してかなりへばることが少なくありません。多くの患者さんが咽頭粘膜炎によるのどの痛みなどで水もなかなか飲めなくなるから、一時的胃瘻など別の形でしっかりとした栄養管理をせざるを得なくなります(もちろん医療用麻薬を含めた痛み止めもしっかり使います)。
手術と違って放射線治療は「切らずに治す」「身体にやさしい治療」と一般に言われるものの、あくまで「手術に比べれば」という但し書きがつくだけであって、頭頸部がん患者さんにとっては抗がん剤と放射線治療の同時併用もかなりしんどい影響が治療中に、そして治療が終わった後にもいろいろと生じえます。
一方で、およそ1年半前に保険収載となり、日本でも日常診療で使用可能となった頭頸部がんに対するセツと放射線治療は、「抗がん剤と放射線治療の同時併用のようなひどい副作用はなくて大丈夫ですよ!」といった触れ込みや噂が(少なくとも私の所には)入ってきたように思い出されます。
国内承認に至ったのは、日本の有名所数施設が局所進行頭頸部がんに対するセツと照射の同時併用臨床試験で安全性を確認したのを踏まえてのことらしいです。で、その結果を示した医学論文が去年の3月、つまり私がブログを書いた翌月に医学雑誌に掲載されていました。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23479383
セツと放射線治療は同時が良いって示した有名なBonner先生たちの臨床試験の報告(NEJM2006、Lancet2010)と同じようなメニューで「日本人に対する安全性と有効性」を確かめた臨床試験の報告です。
論文の結論は「日本人でも安全に実施できました(私の和訳)」でした。
でも、その内容をよくみると治療中の副作用も全然無視できず、かなり強いとされるGrade3-4の皮膚炎(触ると出血しやすいくらいのただれ以上)が27%、粘膜炎(食べられないくらい辛くて高カロリー点滴などが必要になるレベル以上)に至ってはなんと73%もでていたそうです。ちなみにこの臨床試験を行ったのは、強い副作用が出ても全身管理をしっかり行える(はずの)全国有数の施設ばかりです。
そんな施設なら、仮に強い副作用が出ても無事回復して「安全に治療できる」と思います。でも、普通の(?)病院でそういう強めの副作用が3人に2人以上も出るというのは、耳鼻科にしても放射線治療科にしても診療体制が必ずしも充分とはいえないでしょうから、正直大変かな?って気もします。
また、この臨床試験ではBonner試験でも何割かの患者さんに用いられた「照射は首全体に1.8Gy/日を週5日全6週間+6週の後半2週間余はがんにしぼって1.5Gy/日を1回追加して計1日2回朝夕」という後半1日2回(朝夕)照射法(Concomitant Boost、加速過分割照射)を採用しています。ここでの1日2回法というのは総治療期間を短くして予定線量を照射するため、実は放射線治療だけの場合でも治療中の皮膚炎や粘膜炎は普通の1日1回法(1.8~2Gy/日の通常分割照射)より強くなります。頭頸部がん領域では、抗がん剤との同時併用は副作用が強すぎるため慎重に、とも言われています(放射線治療単独ならお勧め)。
ちなみに去年開催された日本放射線腫瘍学会学術大会のシンポジウムの質疑応答で、この件に関するフロアからの質問に対し日本の頭頸部がんの主導的立場でいらっしゃる先生が「(臨床試験は1日2回法ですが)患者さんの身体の負担を考慮すると1日1回法で治療したほうがいいかもしれません」とご回答されていました。
ということで、うちの病院ではセツと放射線治療の同時併用は1日1回照射法を採用しているのですが、それでも(当初の個人的予想以上に)副作用が強く現れる患者さんがいらっしゃいます。
長くなってきたので、次回へ…
緩和ケア領域でもアカシジアの出やすい薬は多数あります。抗うつ剤とか抗精神病薬とか麻薬系鎮痛剤とか。前回も書きましたが、不眠や徘徊や不穏の原因にもなりうるものらしいです。
「がんだから」とか「高齢だから」とかと決めつけないほうがいいみたいです。薬の影響って意外にありますから。自省を込めて、です…
専門でない私が書くのも大変恐縮なのですが、さすが緩和ケア科の先生方はみなさんアカシジアをよくご存知です。
一方、一般診療科の先生方は言葉を聞いたことはあっても、アカシジア(を含めた錐体外路症状)をさほど意識せずに「がんの症状だから」とか「抗がん剤の副作用だから」と思い込んでいるケースって実は少なくないかもしれません(確固たる根拠はありません)。
まあ私もそんなおバカ臨床医だった(過去形にさせてください…)わけですが、自分がアカシジア様症状を呈して以降は、「たかがプリンぺラン、されどプリンぺラン」と意識するようになりました。
が、その後もプリンぺランやノバミンの錠剤内服で明らかなアカシジアを疑う症例を私は経験したことはありません。私と同様にプリンぺラン注射剤で数例アカシジアを疑う症例は何例かいましたが。(偉そうに書きましたが)もし夜間不眠などで見逃している症例があったらごめんなさい。
だから個人的にはプリンぺランの注射はそんなに好きじゃありません。筋注は2mlで量が多くて痛いし…。もちろん吐き気はとてもつらいので、必要なら処方いたします。
抗がん剤ほどの頻度ではないものの、放射線治療の時も放射線宿酔で吐き気をもよおす方が時にいらっしゃいます。
放射線宿酔については、「国立がん研究センターがん対策情報センターHP 放射線治療を受ける方へ」に『消化器への照射以外の場合でも、照射開始後数日間に食欲低下や嘔気・嘔吐が出現する場合もありますが、出現頻度としてはまれです。放射線宿酔の場合は、通常2~3日で症状は軽快します。』との説明が掲載されています。
なぜ放射線治療初期に放射線宿酔が起きやすいのかはっきりしたことは証明されていませんが、放射線治療に伴う過酸化物質やアレルギー物質の発生が関係しているのでは?という推測もされているようです。
抗がん剤と同様に放射線宿酔は、以前はプリンぺランやノバミンでの吐き気対策が中心でした。
最近になって抗がん剤の吐き気止めに大変効果のあるカイトリル(一般名グラニセトロン)というお薬が「放射線照射に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)」についても国が投与を承認しました。
これって、他科の先生方にはまだ充分知れわたっていないですか?
実際の所、放射線宿酔が出現する頻度というのはそう多くないので、照射範囲が広い患者さんや以前放射線宿酔を経験したことのある患者さん以外に、放射線宿酔予防に最初からカイトリルを投与する医者はあまりいないかもしれません(少なくとも私の知っている範囲ですが)。
たいていは軽い吐き気の症状が出てから処方をする(と思っている)のですが、実はカイトリルって結構高価です。プリンぺランの100倍くらいします。以前、同僚の先生が外来でカイトリル錠を数日分(?)処方した時のお会計伝票をみた患者さんから「びっくりした。なんでお値段が高い薬ってきちんと説明してくれなかったの?」と苦情を申し立てられたことがありました。
なので、やっぱり安価なプリンぺラン錠を出す場合もそれなりにあります。ただ、凄く効く人ってそんなに多くない…気がするんですけど、どうですか?
ちなみにカイトリルがアカシジアの症状をきたすことは(まず)ないらしいです。
(どうでもいいことですが)私のことを書くと、自分の二日酔いに対してもプリンぺラン錠が明らかに効いたことはありません。自分に注射したのはあの時だけです。薬が効かない体質なのか、「そもそも」の問題なのか?
五苓散、柴苓湯、因陳五苓散、など漢方薬が二日酔いに効果的なこともあるようですが、個人的には五十歩百歩かな。ウコンもシジミもカプサイシンも何度か試したことはあります…
カイトリルは抗がん剤も照射もしていないから保険適応がありませんし。でも、はたして(私の)二日酔いに効くのだろうか?
そういえば先日、『「どんなに二日酔いがつらくても人は結局また酒を飲む!!」との米大学調査結果』という記事を目にしました。つらい二日酔いは次の飲酒の機会に対し、ごくごく控えめにしか影響しないことがわかったそうです。
http://irorio.jp/sousuke/20140305/118045/
なるほど~! わかっていても同じことを繰り返すのは、ただのおバカってことでしょうね。どうも私のまわりには少なくないようです…
類は友を呼ぶ、ですか?
ということで、タイトルの「アカシジアと放射線宿酔」、つながりはほとんどなかったですね。共通項はプリンぺランってだけでした。
マ イーヤー ソンもしてないし…どうも、失礼いたしました。
「がんだから」とか「高齢だから」とかと決めつけないほうがいいみたいです。薬の影響って意外にありますから。自省を込めて、です…
専門でない私が書くのも大変恐縮なのですが、さすが緩和ケア科の先生方はみなさんアカシジアをよくご存知です。
一方、一般診療科の先生方は言葉を聞いたことはあっても、アカシジア(を含めた錐体外路症状)をさほど意識せずに「がんの症状だから」とか「抗がん剤の副作用だから」と思い込んでいるケースって実は少なくないかもしれません(確固たる根拠はありません)。
まあ私もそんなおバカ臨床医だった(過去形にさせてください…)わけですが、自分がアカシジア様症状を呈して以降は、「たかがプリンぺラン、されどプリンぺラン」と意識するようになりました。
が、その後もプリンぺランやノバミンの錠剤内服で明らかなアカシジアを疑う症例を私は経験したことはありません。私と同様にプリンぺラン注射剤で数例アカシジアを疑う症例は何例かいましたが。(偉そうに書きましたが)もし夜間不眠などで見逃している症例があったらごめんなさい。
だから個人的にはプリンぺランの注射はそんなに好きじゃありません。筋注は2mlで量が多くて痛いし…。もちろん吐き気はとてもつらいので、必要なら処方いたします。
抗がん剤ほどの頻度ではないものの、放射線治療の時も放射線宿酔で吐き気をもよおす方が時にいらっしゃいます。
放射線宿酔については、「国立がん研究センターがん対策情報センターHP 放射線治療を受ける方へ」に『消化器への照射以外の場合でも、照射開始後数日間に食欲低下や嘔気・嘔吐が出現する場合もありますが、出現頻度としてはまれです。放射線宿酔の場合は、通常2~3日で症状は軽快します。』との説明が掲載されています。
なぜ放射線治療初期に放射線宿酔が起きやすいのかはっきりしたことは証明されていませんが、放射線治療に伴う過酸化物質やアレルギー物質の発生が関係しているのでは?という推測もされているようです。
抗がん剤と同様に放射線宿酔は、以前はプリンぺランやノバミンでの吐き気対策が中心でした。
最近になって抗がん剤の吐き気止めに大変効果のあるカイトリル(一般名グラニセトロン)というお薬が「放射線照射に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)」についても国が投与を承認しました。
これって、他科の先生方にはまだ充分知れわたっていないですか?
実際の所、放射線宿酔が出現する頻度というのはそう多くないので、照射範囲が広い患者さんや以前放射線宿酔を経験したことのある患者さん以外に、放射線宿酔予防に最初からカイトリルを投与する医者はあまりいないかもしれません(少なくとも私の知っている範囲ですが)。
たいていは軽い吐き気の症状が出てから処方をする(と思っている)のですが、実はカイトリルって結構高価です。プリンぺランの100倍くらいします。以前、同僚の先生が外来でカイトリル錠を数日分(?)処方した時のお会計伝票をみた患者さんから「びっくりした。なんでお値段が高い薬ってきちんと説明してくれなかったの?」と苦情を申し立てられたことがありました。
なので、やっぱり安価なプリンぺラン錠を出す場合もそれなりにあります。ただ、凄く効く人ってそんなに多くない…気がするんですけど、どうですか?
ちなみにカイトリルがアカシジアの症状をきたすことは(まず)ないらしいです。
(どうでもいいことですが)私のことを書くと、自分の二日酔いに対してもプリンぺラン錠が明らかに効いたことはありません。自分に注射したのはあの時だけです。薬が効かない体質なのか、「そもそも」の問題なのか?
五苓散、柴苓湯、因陳五苓散、など漢方薬が二日酔いに効果的なこともあるようですが、個人的には五十歩百歩かな。ウコンもシジミもカプサイシンも何度か試したことはあります…
カイトリルは抗がん剤も照射もしていないから保険適応がありませんし。でも、はたして(私の)二日酔いに効くのだろうか?
そういえば先日、『「どんなに二日酔いがつらくても人は結局また酒を飲む!!」との米大学調査結果』という記事を目にしました。つらい二日酔いは次の飲酒の機会に対し、ごくごく控えめにしか影響しないことがわかったそうです。
http://irorio.jp/sousuke/20140305/118045/
なるほど~! わかっていても同じことを繰り返すのは、ただのおバカってことでしょうね。どうも私のまわりには少なくないようです…
類は友を呼ぶ、ですか?
ということで、タイトルの「アカシジアと放射線宿酔」、つながりはほとんどなかったですね。共通項はプリンぺランってだけでした。
マ イーヤー ソンもしてないし…どうも、失礼いたしました。
トラックバック(0) |
カリメロ プリンペラン錠剤のんでアカシジアがでたことあります!
JIN カリメロさん、なるほど、プリンぺラン錠でもやっぱり起きるんですね…貴重な体験談をありがとうございます(返信遅くなり申し訳ございません)。
気をつけねば!
先日、地元のサイコオンコロジー研究会に参加し、某病院緩和科の先生が薬によるアカシジアの症例報告をなさっていました。YouTubeで公開されている海外の患者さんの典型的な症状を撮影した動画も供覧いただき、大変参考になりました。
アカシジア…静座不能症と訳されています。アカシジアなんて聞いたこともないって方、ごめんなさい。
精神科系の薬(とりわけ抗精神病薬)の服用中に起こることのある副作用で有名ですが、がん患者さんの吐き気止めとしてよく使う(そして夜間や休日などの臨時指示としても普通に第1選択にする)プリンぺラン(メトクロプラミド)やノバミン(プロクロルペラジン)という薬でも起こることがあります。
座ったままでじっとしていられず、そわそわと動き回るという特徴があるそうです。不眠や徘徊(はいかい)の原因の一つでもあるそうです。
平成22年に厚生労働省から「重篤副作用疾患別対応マニュアル アカシジア」ってPDFファイルが出ています。29ページもありますが、私が下手な解説をせずとも大変詳しくかつわかりやすく説明されています。他の鑑別なども書いてありますし、特に(詳しく知らない)医療従事者にはご一読をお勧めです。
http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1j09.pdf
日本緩和医療学会のPEACE PROJECT(緩和ケア継続教育プログラム)の緩和ケア研修会資料スライドにもアカシジアについて触れられていますが、ここまで詳しくはありません。
アカシジアの診断の一つにマイヤーソン徴候というのがあります。私は神経内科医ではないので(笑)、参考までにWikipediaの記事を改変して以下引用しておきます…文責はとれませんので、真面目な先生は教科書なりを見直してください。
『眉間をハンマーや指で軽く叩くと、正常では両側眼輪筋の収縮(まばたきのこと)が起こる。これを眉間反射(glabellar reflex)という。これを何度も行ううちに眼輪筋の収縮は弱くなり、数回のうちに収縮しなくなるのが正常の反応である。アカシジア(やパーキンソン病など)の場合はこの反射が亢進し、何度叩いても瞬目が起こるようになる。これをマイヤーソン徴候と呼ぶ。』
結構簡単な検査ですが、患者さん自身ではなく、患者さんに見えないように他人が眉間を軽くトントンと叩くことがポイントらしいです。
その昔、抗がん剤に対する吐き気止めはプリンぺランとかノバミンの大量投与(+ステロイド)くらいしかなかったため、医療者がアカシジアを経験する機会はそれなりにあったようです。それをアカシジアの症状と知っていたかどうかは別として。残念ながら、肝心の吐き気にはそれほど効果がありませんでした。
最近は他の強力な吐き気止めがいろいろ出てきたので、プリンぺランの大量投与をする機会は(おそらく)なくなりましたね。
でも実は、少量投与でも点滴静注後などでアカシジアの症状に出くわす可能性があります(前述の厚労省マニュアルにも書いてあります)。
私も以前、脱水と吐き気がひどく仕事に支障が出るということでプリンぺランを混ぜた点滴をしている最中に、急性のアカシジアが強く疑われる症例を経験したことがあります。
たかが田舎の放射線腫瘍医なのになんでアカシジアをわざわざここまで書くかといいますと、実はその症例って私だったからなのです…。前夜の飲酒後の胃腸症状がひどく、(仕事が進まず?)みかねた上司が私のために処置してくださった時のことでした。
プリンぺラン入りの点滴の最中に急に身体全体の皮膚がサワサワしてきて、「身の置き所がない」という異常感がありました。あまりに気持ちが悪くて上司に内緒で点滴を勝手に自己抜去してしまいました。
なんとも不良患者の典型例でした…
(長いので、また次回に。いつものことですがタイトルと内容の不一致、申し訳ございません)
アカシジア…静座不能症と訳されています。アカシジアなんて聞いたこともないって方、ごめんなさい。
精神科系の薬(とりわけ抗精神病薬)の服用中に起こることのある副作用で有名ですが、がん患者さんの吐き気止めとしてよく使う(そして夜間や休日などの臨時指示としても普通に第1選択にする)プリンぺラン(メトクロプラミド)やノバミン(プロクロルペラジン)という薬でも起こることがあります。
座ったままでじっとしていられず、そわそわと動き回るという特徴があるそうです。不眠や徘徊(はいかい)の原因の一つでもあるそうです。
平成22年に厚生労働省から「重篤副作用疾患別対応マニュアル アカシジア」ってPDFファイルが出ています。29ページもありますが、私が下手な解説をせずとも大変詳しくかつわかりやすく説明されています。他の鑑別なども書いてありますし、特に(詳しく知らない)医療従事者にはご一読をお勧めです。
http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1j09.pdf
日本緩和医療学会のPEACE PROJECT(緩和ケア継続教育プログラム)の緩和ケア研修会資料スライドにもアカシジアについて触れられていますが、ここまで詳しくはありません。
アカシジアの診断の一つにマイヤーソン徴候というのがあります。私は神経内科医ではないので(笑)、参考までにWikipediaの記事を改変して以下引用しておきます…文責はとれませんので、真面目な先生は教科書なりを見直してください。
『眉間をハンマーや指で軽く叩くと、正常では両側眼輪筋の収縮(まばたきのこと)が起こる。これを眉間反射(glabellar reflex)という。これを何度も行ううちに眼輪筋の収縮は弱くなり、数回のうちに収縮しなくなるのが正常の反応である。アカシジア(やパーキンソン病など)の場合はこの反射が亢進し、何度叩いても瞬目が起こるようになる。これをマイヤーソン徴候と呼ぶ。』
結構簡単な検査ですが、患者さん自身ではなく、患者さんに見えないように他人が眉間を軽くトントンと叩くことがポイントらしいです。
その昔、抗がん剤に対する吐き気止めはプリンぺランとかノバミンの大量投与(+ステロイド)くらいしかなかったため、医療者がアカシジアを経験する機会はそれなりにあったようです。それをアカシジアの症状と知っていたかどうかは別として。残念ながら、肝心の吐き気にはそれほど効果がありませんでした。
最近は他の強力な吐き気止めがいろいろ出てきたので、プリンぺランの大量投与をする機会は(おそらく)なくなりましたね。
でも実は、少量投与でも点滴静注後などでアカシジアの症状に出くわす可能性があります(前述の厚労省マニュアルにも書いてあります)。
私も以前、脱水と吐き気がひどく仕事に支障が出るということでプリンぺランを混ぜた点滴をしている最中に、急性のアカシジアが強く疑われる症例を経験したことがあります。
たかが田舎の放射線腫瘍医なのになんでアカシジアをわざわざここまで書くかといいますと、実はその症例って私だったからなのです…。前夜の飲酒後の胃腸症状がひどく、(仕事が進まず?)みかねた上司が私のために処置してくださった時のことでした。
プリンぺラン入りの点滴の最中に急に身体全体の皮膚がサワサワしてきて、「身の置き所がない」という異常感がありました。あまりに気持ちが悪くて上司に内緒で点滴を勝手に自己抜去してしまいました。
なんとも不良患者の典型例でした…
(長いので、また次回に。いつものことですがタイトルと内容の不一致、申し訳ございません)
放射線腫瘍医側に関しても「主治医(各診療科の専門の先生)のご依頼だから」と安易に同時併用を承認している話を聞くことがあります。でも実は、相手の診療科の先生も「放射線腫瘍専門医もOKしてくれているし」とか「たぶん大丈夫でしょう」という意識を持っている恐れがあったりします。ちなみに、これまで私が化学療法の内容照会でお問い合わせし、そうお答えになった先生は何人かいらっしゃいました。そのような確認をしなければ、両者ともに責任転嫁状態で抗がん剤という猛毒が根拠あいまいなまま患者さんに投与されたことになっていたわけで…。
○○大学病院だから大丈夫とか××センターの先生だからと鵜呑みにせず、自分自身であまり知識のない、あるいは経験のない薬剤と組み合わせで放射線治療を依頼された場合には、(当たり前だろと言われそうですが)可能な限り過去の報告を確認すべきだと思います。「その論文って改ざんでは?」とかまで考え出すと、何を信じていいのか全くわからなくなりますが。
重鎮のような有名な先生が意外にくせ者(自分の思いつき指示)だったりすることもあります。もちろん実臨床では、臨床試験のような細かな規定に合致して治療を行うことばかりではなく、臨機応変に対応せざるを得ないケースも正直ありえます。これについてはまた別の機会に独り言を…。
今は分子標的薬剤が次々と承認されるご時世です。これらも放射線治療の併用、特に臨床試験などで安全性の確認が充分になされていないものは仮に緩和照射であったとしても特に同時併用は慎重を期すべきです(と偉い先生方もよく言っておられます)。
本当は、どの施設・どの診療科でも個々のがん診療内容のダブルチェックがなされるべきなのでしょうが、必ずしも全例に行われているとは言えないのが現状です。運用面など課題は多々ありますが、本質的な診療内容確認に関する第三者機関の関与があってもいいのではないかと個人的には思っています。
繰り返しますが、プロとして仕事をしている(≒それなりのお金をいただいている)放射線腫瘍専門医ならば、「相手の言いなり」「なんとなく」の治療は避けるべきかと。よくわからない方針で依頼された症例がいたら、せめて要約だけでもいいから過去の報告を確認したほうがいい。たとえ依頼相手が各診療分野の専門医だとしても患者さんのために、そして自分のためにも。
ついでにあえて書くと、たとえ患者さんであっても自分の治療方針を医者に全て丸投げ任せきりというのはいかがなものかと思っています。素人だからわかるわけがないという意見はもちろんあるでしょうが、上記のようにいいかげんな医者に「なんとなく」設定されてしまうケースは少なくありません(たぶん)。
このご時世、セカンドオピニオン外来を利用する、自分でネットなど診療内容を自分なりに確認する、など自ら動いて確認を試みる手段はいろいろあります。もちろんセカンドオピニオンはあくまで参考意見で主治医に対する強制力はありませんし、ネット情報は過多で真偽もはっきりしないのが難点ではあります。とはいえ、がん治療というのは命がかかった人生の選択であるわけですから、治療をするかしないかという大きな選択を含めて、わかりにくいなりにも可能な限り自分で納得のいく調査をしたほうがいいと思っています。
申し訳ありませんが、かくいう私も最初からそんな風に考えていたわけではありません。これまで多くの患者さんや先生方から学ばせていただいた経験や知識を今の自分なりにブログとしてまとめたに過ぎません。また、「では、今お前は充分な対応ができているのか?」の問いに「はい」と言い切れる自信もぶっちゃけありません。
ただ、もしこれまでそう気づいていなかった、あるいは思っていても「なんとなく」続けてしまっていた医療者や患者さんがおられて、このブログが何らかの参考になるのであれば本望と思い、投稿いたしました。
忌憚なきご意見、お待ちしております。
○○大学病院だから大丈夫とか××センターの先生だからと鵜呑みにせず、自分自身であまり知識のない、あるいは経験のない薬剤と組み合わせで放射線治療を依頼された場合には、(当たり前だろと言われそうですが)可能な限り過去の報告を確認すべきだと思います。「その論文って改ざんでは?」とかまで考え出すと、何を信じていいのか全くわからなくなりますが。
重鎮のような有名な先生が意外にくせ者(自分の思いつき指示)だったりすることもあります。もちろん実臨床では、臨床試験のような細かな規定に合致して治療を行うことばかりではなく、臨機応変に対応せざるを得ないケースも正直ありえます。これについてはまた別の機会に独り言を…。
今は分子標的薬剤が次々と承認されるご時世です。これらも放射線治療の併用、特に臨床試験などで安全性の確認が充分になされていないものは仮に緩和照射であったとしても特に同時併用は慎重を期すべきです(と偉い先生方もよく言っておられます)。
本当は、どの施設・どの診療科でも個々のがん診療内容のダブルチェックがなされるべきなのでしょうが、必ずしも全例に行われているとは言えないのが現状です。運用面など課題は多々ありますが、本質的な診療内容確認に関する第三者機関の関与があってもいいのではないかと個人的には思っています。
繰り返しますが、プロとして仕事をしている(≒それなりのお金をいただいている)放射線腫瘍専門医ならば、「相手の言いなり」「なんとなく」の治療は避けるべきかと。よくわからない方針で依頼された症例がいたら、せめて要約だけでもいいから過去の報告を確認したほうがいい。たとえ依頼相手が各診療分野の専門医だとしても患者さんのために、そして自分のためにも。
ついでにあえて書くと、たとえ患者さんであっても自分の治療方針を医者に全て丸投げ任せきりというのはいかがなものかと思っています。素人だからわかるわけがないという意見はもちろんあるでしょうが、上記のようにいいかげんな医者に「なんとなく」設定されてしまうケースは少なくありません(たぶん)。
このご時世、セカンドオピニオン外来を利用する、自分でネットなど診療内容を自分なりに確認する、など自ら動いて確認を試みる手段はいろいろあります。もちろんセカンドオピニオンはあくまで参考意見で主治医に対する強制力はありませんし、ネット情報は過多で真偽もはっきりしないのが難点ではあります。とはいえ、がん治療というのは命がかかった人生の選択であるわけですから、治療をするかしないかという大きな選択を含めて、わかりにくいなりにも可能な限り自分で納得のいく調査をしたほうがいいと思っています。
申し訳ありませんが、かくいう私も最初からそんな風に考えていたわけではありません。これまで多くの患者さんや先生方から学ばせていただいた経験や知識を今の自分なりにブログとしてまとめたに過ぎません。また、「では、今お前は充分な対応ができているのか?」の問いに「はい」と言い切れる自信もぶっちゃけありません。
ただ、もしこれまでそう気づいていなかった、あるいは思っていても「なんとなく」続けてしまっていた医療者や患者さんがおられて、このブログが何らかの参考になるのであれば本望と思い、投稿いたしました。
忌憚なきご意見、お待ちしております。