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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 12月11~13日、パシフィコ横浜で日本放射線腫瘍学会第27回学術大会(大会長 北里大学医学部放射線腫瘍学 早川和重先生)が開催されました。私は職場の都合で残念ながら2日目の昼から出席でした(会長招宴、行きたかった~)。

 今回の私は、10月に投稿した「くるまいすとれっちゃーの初期使用経験」のポスター発表と「看護」ポスターセッション座長という大役、+会合3つが3日目の昼までに凝縮していました。今回参加の主目的の一つだった夜の会合は話が弾み、気づけばすっかり午前様でした(翌朝7:30からの会合はとてもつらかった)。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-94.html

 くるまいすとれっちゃーのポスター発表は、早朝の会合直後の「その他」セッションでした。去年この学会で発表した「穴あきパンツ」の演題も「その他」系でしたから2年連続。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-55.html
 「その他」系が私の専門分野っていうイメージ、同業者にも少し定着してきたかな?一部の先生方にはブログでもFBでもアピールしているし…


 話変わって、去年の学術大会で私が注目した看護セッション印象記のブログを一部、以下に引用します。
 『「放射線治療がどこにどのように照射されているのかがわかりにくいのが身体的処置で悩むところ」との意見が出ていました。○×大学とか△□がんセンターといった有名な施設の(おそらく認定)看護師さんから。
 ある看護師さんからは「きちんとしたCT読影の教育を受けてないから、(治療計画)CT画像を見た瞬間に引いちゃいます」という意見もでていました。』
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-54.html

 そのようなことを書いたからか(?)不肖私が座長を担当させていただいた看護のポスターセッションで、福島の南東北病院さんから自施設のがん放射線療法看護の実態調査についてとても興味深いご発表をなさっていました。『電子カルテで放射線治療計画画像が参照できることを知っているのは3人に1人(放射線治療科関連部署でも2人に1人)、治療計画を看護に利用しているのはわずか7人に1人』(抄録改変)だったそうです。
 7人に1人「も」、でしょうか…?

 あくまで個人的な印象ですが、おそらく国内の多くの施設は似たような状況かもしれないなと思いました。たぶんうちの病院も印象としてはそんな感じ(か、下手するともっと少ない?)…きちんと調査してはいませんが。

 今後の対策案として、南東北さんは『研修会などの実施』を挙げておられました。また別のポスターで、粒子線医療センターさんから『看護師の治療計画画像マニュアルの必要性』についてのご発表も貼ってありました(これは別件と重なり聴講できませんでした…)。

 看護師さんたちが“食べず嫌い(治療計画画像に対するアレルギー)”にならないよう、放射線治療計画画像(CTに線量分布図が載っている写真)を気軽に見られる環境作りも大事かもしれません。画像と線量分布さえ見慣れれば、放射線治療患者さんのケアなどにもより具体的なイメージがつかめるようになるはず。難しい画像診断や解剖はさておき、とりあえず自分が担当している科の放射線治療の副作用(特に皮膚炎、粘膜炎)に特化したCT画像や線量分布図の見方に慣れれば、そしてもちろん治療計画参照用のソフトウェアをざっくりと使えるように(≒開く気に)なれば。

 実はまもなくうちの病院で、電子カルテで放射線治療計画画像が「全部」参照できる放射線治療情報システム:治療RISを導入します。現在は、一部の治療計画画像をJPEGなどでキャプチャして電子カルテ:HIS(あるいは放射線情報システム:RIS)上で参照してもらっていますが(そういう施設が多いのでは?)、今度のシステムでは放射線治療計画装置そのものを電子カルテから覗きにいくことが可能になります。私たち放射線腫瘍医の手の内が全て暴露されちゃいます。

 操作方法や画像情報が多すぎて放射線治療スタッフ以外には逆に敷居が高くなってしまう恐れもあります。今回のご発表をみて、うちでも定期研修会でCT画像や線量分布図の見方をもっと知っていただけるような体制を整備しないといけないかなと学びました(看護師さんたちとの距離をいろいろな面でもっと縮めるためにも…笑)。

 さらにその副産物として、画像に慣れた看護師さんたちががん緊急である「MSCC」や転移などを見つけてくれる可能性が高まるかもしれません。いや、その前に発見しなくてはいけないですね。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-101.html
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-102.html

 看護師さんだけでなく他科のお医者さんにも…というか、実は私たちの描いた一番大事なGTVのダブルチェックを主治医の先生たちにもしていただけばということを期待した導入でもあり。(特にご年配の)お医者さんたちから「今さらそんなの、こっちも忙しいし先生たち専門の放射線腫瘍医に任せるよ」って言われるかもしれませんが…そんなことないですか?

 ということで、来年以降も「その他」系の発表演題が出せそうです。


 懇親会後の楽しすぎた夜の会合、途中から何を話したか記憶がいささか定かでないのですがポスター発表前にまゆ毛は剃られなかったようでホッとしました。とっても楽しい年下の(飲み)友達が増えました。

 是非、また! 今度は東京で? それとも地元で??


(PS:〇×がんの放射線治療…系のご発表も聴講しております!)


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【2014/12/15 08:05】 | 放射線治療計画
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 「筋層浸潤性膀胱がんの化学放射線治療」総説執筆依頼(その2)を書いてから2か月以上も経過してしまいました。実はすでに初稿を某出版社さんへ提出はしていたのですが、なかなか手元に戻ってこなかったのです。

 私も放射線治療を専門科として標榜しているとはいえ、査読という他の専門の先生方からの審査(≒ダメ出し修正)をいろいろ受けてからと思っておりまして(その1、その2も間違ったことは書いてないと信じているのですが…)。で、無事に先週郵送されてきて、おかげさまでほとんど修正することもなく再提出の運びとなりましたので、その3をブログ仕様で***以下に書いてみました。

 査読、されてたのかな…?


**********************

 筋層浸潤性膀胱がんに対する放射線治療をプランするうえで気をつけなければいけない、というか私にとって気になる定かでない点が2つあります。

(1)骨盤リンパ節領域を照射範囲に含めるべきか?
(2)膀胱の照射範囲をどうするか?



(1).筋層浸潤性膀胱がんは明らかな骨盤リンパ節転移が確認されない状態のことでもありますが、手術をしてみたら見えない顕微鏡レベルでのリンパ節転移が少なからず存在したことが大規模な手術結果から示されています。
Stein JP et al: World J Urol 24 :296-304,2006

 世界的に有名な放射線腫瘍グループであるRTOG(Radiation Therapy Oncology Group)の一連の化学放射線療法の臨床試験では、骨盤リンパ節領域への予防照射(=目に見えない小さな転移があるという前提で広い範囲に照射すること)が採用されています。なお、大半の臨床試験で『総腸骨動脈領域を除いた(いわゆる小骨盤)照射範囲を採用』している点には留意すべきです。

 一方、Fourth International Consensus Meeting on Bladder Cancerでは、照射範囲は全膀胱+2㎝としていて(これでも膀胱周囲の高危険リンパ節領域はある程度含まれます)、この照射野を採用したBC 2001試験では骨盤リンパ節再発がわずか5%ほどでした。
James ND et al:N Engl J Med 366:1477-1488,2012
 また膀胱に限局した照射野でも骨盤リンパ節再発に明らかな差はないとする単施設の第III相臨床試験も報告されています。
Tunio MA et al:Int J Radiat Oncol Biol Phys 82:e457-462,2012
 今年報告されたばかりの日本の全国調査(JROSG)でも、最初から膀胱限局照射野だった症例が全体の49%も占めていたにもかかわらず、骨盤リンパ節再発がわずか4例(0.25 %)かつ全てが照射野外でした。臨床試験ではありませんが、日本人でも骨盤リンパ節領域への予防照射が必須ではないことが示唆された報告です。
Maebayashi T et al:Jpn J Clin Oncol 44:1109-15,2014

 骨盤リンパ節再発ですら、まして生存率は…筋層浸潤性膀胱がんに対する骨盤リンパ節領域への予防照射の意義、実はまだはっきりしていないというのが現状のようです。


(2).一般に腹部への放射線治療を行う場合、放射線に敏感な小腸への総線量60Gy(以下1回2Gy換算)を超える照射(特に抗がん剤併用)は粘膜出血や穿孔のリスクが高まるとされ、臨床試験では50Gy程度に制約されることが多いようです。

 一方、筋層浸潤性膀胱がんに対する化学放射線療法では、小腸などを可能なら照射野外にという但し書きはあるものの国内外の診療ガイドラインでは膀胱への総線量を60~70Gyとしています。
 2009年にRTOG試験群で5年経過観察した骨盤内の晩期副作用報告がなされました。ほとんどの症例で全膀胱+2㎝マージンで総線量60Gy相当を超える同時併用化学放射線療法が行われましたが、重い症状であるグレード3(RTOGスコア)副作用は全体の約7%(尿路系5.7%、消化管1.9%)、腸管穿孔や壊死または膀胱を含めた命にかかわる出血などは0%でした。
Efstathiou JA:JCO 27:4055-4061,2009
 その他にも膀胱線量60Gy相当の照射がなされた報告はいろいろありますが、膀胱と小腸の位置関係から 2㎝マージンで小腸の一部が高線量域に含まれる症例は少なくないようです。しかし、小腸に関し重篤な晩期後遺症を大きく問題視した報告は私が調べた限り確認できませんでした。

 膀胱、小腸とも動く管腔臓器であり、正確で信頼できる耐容線量の評価はいまだ不充分(のよう)ですが、膀胱に限局した小さな照射野であれば小腸は60Gy程度の同時併用化学放射線療法でも許容されるのかもしれません(あくまで私見であり、実臨床においては慎重な対応をお願いいたします)。なお、最近のガイドラインでは骨盤照射54Gyとしているものもありますが、その根拠はあまり明確にされていないように思われます。

 今後は、画像誘導放射線治療(IGRT:Image-Guided RadioTherapy)を利用した高精度放射線治療や粒子線治療による照射範囲の縮小・治療成績向上が期待されています。なお、筋層浸潤性膀胱がんにおける放射線治療計画の輪郭描出など技術面の記載はオセアニア(FROGG)のガイドラインで比較的詳しく、こちらも参考にしていただければと思います。
Hindson BR et al:J Med Imaging Radiat Oncol 56:18-30,2012

*************************

 以上、2か月もブランクがありましたがブログ版3部作でした。

 筋層浸潤性膀胱がんの化学放射線療法って「長い治療休止期間がある」「抗がん剤の標準メニューが定まり切れてない」「日本だけは依然として動注が主役」「骨盤リンパ節への予防照射意義が不明確」「救済手術が前提」など不確定要素が多いです。
 これ、他のがんではあまりないことで、検討すべき課題がまだまだ多いようです。


 出版社に提出した原稿にはもっといろいろ書いたのですが、気になる点や追加・修正すべき点などございましたらどうぞご教示ください。今年度中に世に出るそうです。

 少し安堵。


【2014/11/23 23:12】 | 放射線治療計画
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 昨日は、前夜にあった医局ビールパーティーの影響が少なからず残る中、放射線治療大手の某社主催のユーザーミーティングに参加してきました。

 今回の企画、新しい放射線治療計画装置の使用体験会を兼ねたワークショップがなかなか面白かったです。私が以前ご厄介になったことのある施設からのご発表も多く、ぶっちゃけ参加しないわけにはいかない感もありましたが、それはそれとして(笑)。
 もちろん、うちの病院にも某社関連の放射線治療関連機器が導入されています。

 主催者側から事前に用意されていた乳がん温存手術症例に対する乳房への術後照射について、輪郭描出や計画作成などの大まかなシナリオに基づき代表の先生方が実際の使用感を確認し、他の参加者は前方スクリーン上の操作PC画面を見ながらリアルタイムで放射線治療計画プロセスの確認をするという、検討時間がたっぷり2時間近くも確保されたワークショップでした。「どうぞいつでも遠慮なく質問やコメントをどうぞ」という司会者の冒頭挨拶でスタートしました。


 乳房温存術後照射は日本の乳がん診療ガイドラインでも推奨と明記されている標準的治療法です。前立腺がんの根治照射と同様に、全国多くの施設で放射線治療症例のかなりの割合を占めています。標準的な放射線治療計画方法も放射線治療計画ガイドラインなどに記載されていて、患側乳房の四方に体表マークなどをつけたりCT上で乳房にみえる部分を囲んだりして放射線治療を行う範囲や放射線の分布図を作成します。
 乳房や周囲リンパ節領域のCTにおける囲み方・境界の定義は、RTOGという有名な放射線治療グループとしての合意指針が具体的な画像を含めて公開されていて、大変参考になります。
http://www.rtog.org/LinkClick.aspx?fileticket=vzJFhPaBipE=

 とはいえ、乳腺を「厳密に」囲もうとするとあいまいな点がいろいろあるような…。

 例えば、乳腺って画像上の端っていったいどこ? とか。

 形がしっかりした乳房だと体表での境でわかるのですが、かなりやせ形の方とかふくよかな方のようないわゆる皮下脂肪との境界が不明瞭な乳房の患者さんだとわかりにくい。以前、乳腺が得意な放射線診断の先生といっしょに調べたこともあるのですが、厳密な境界はよくわからない、という結論でした。きちんと示した論文があったら是非教えてください。

 もちろん、ガイドラインではその辺の曖昧さをふまえての範囲設定を規定しているし、昨日のユーザーミーティングでもあえて乳腺組織を囲まずに放射線治療計画を行っているという先生もいらっしゃるようでしたし(一つの目安としてあえて私は囲っていますが、もしかして希少?)、なんら問題はないわけですが。

 手術で摘出したがんの近くを腫瘍床といいます。この腫瘍床に顕微鏡レベルでがんの根っこが残ってしまったり、切除部位近傍までがん細胞があった場合などには、腫瘍床へ追加照射をしたほうが良いと言われています。
 腫瘍床の定義も乳房同様で厳密な範囲規定は難しく、通常は手術や診察・画像所見などを踏まえた担当医の総合判断で決定されます。施設によっては手術中に腫瘍床へ小さな金属マーキングを置いたりしています。

 温存術後照射を行う場合、目に見えるがんは手術で取り切れているので、ガイドライン上では「GTVは存在しない」とあります。しかし個人的には腫瘍床はがんがある(か極めて疑わしい)からGTVに相当するくらい危険な部分だと思っています。ちなみに全体の乳腺は領域なのでCTVです。
 GTVやCTVについては以前の拙ブログ「放射線治療計画のターゲットで思うこと (1)」もご参考にしていただければ…
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-26.html

 乳房への領域照射であり、たいていの場合はあえて腫瘍床の設定をしなくても大丈夫です。ただ、がんの局在が身体の正中寄りだったり外側縁(腋窩中線近く)だったりした場合の照射野設定時に「腫瘍床」としてある程度囲んでいた(=「見える化」した)ほうが、照射野辺縁に近すぎないか(照射野内にちゃんと含まれているか)をより正確に確認できると思っています。心配な場合は、照射野を微調整します。

 まあ、放射線腫瘍専門医なら腫瘍床をあえて「見える化」しなくてもきっと意識していらっしゃることだろうと思いますが(?)、『若い先生や学生さんなどに治療計画をしてもらうと、治療計画アニメーション画像だけになった段階でGTVもCTVもPTVも全て「横一線の意識」となってしまい、「がんが確実に存在する一番重要なGTV(ここでは腫瘍床)」が照射範囲から外れそうだったり線量分布(放射線の量)が一部甘かったりしてもあまり気にしなかったり』(以前の拙ブログ「放射線治療計画のターゲットで思うこと (1)」より引用)ということが時におきます。

 ということで、私は乳房温存照射の治療計画でも腫瘍床(や乳腺)を囲む派です。心臓や胃袋をなるべく照射野外にするのにも大変参考になりますし。


 2時間もあったので、放射線治療の線量分布についての設定やら体動やらの意見交換もできて、大変有意義なワークショップでした。私も(つらい二日酔いでしたが気力を振りしぼって)軽快な発言を心がけました。

 臨床試験やガイドラインなどのマクロ的検討が重要な点は論を待たないですが、多施設による個別の照射内容検討(各施設のやり方:工夫、お作法、治療方針、癖の比較)といったミクロ的検討会もやっぱり大事だなと、改めて感じた次第です。


 他の地域ではやっているのかな? 例えば、ネットを使った多地点放射線治療計画検討会とか。


【2014/08/03 17:16】 | 放射線治療計画
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 前回ブログで最後に触れた「初回の計画に追加プランをさらに作るなんて手間かかるし、きっと使わないプランだし、たぶん縮小するのに意味あるの?」について。

 たぶん一番問題なのが「たぶん縮小するのに...」の『たぶん』のところ。

 実際に放射線治療計画に携わったことのある方なら(きっと)全員分かることですが、最初のがんの大きさ・広がりで放射線治療を開始して、患者さんの望む通り、そして楽観的な医者の予測通りにがんが小さくなってくれればよいのですが、ほとんど変わらないということがあります。
 まれですが、逆に大きくなってしまうこともあります。この場合は残念ですが放射線治療によるがん縮小は難しいかもしれません。

 何となく初回の放射線治療計画をたてて治療を始め、いざ再治療計画CTを撮像してみると「う~ん、思ったよりもがんが小さくならなかったな~。追加治療でがんが照射範囲から外れたら治りが悪くなるし、(肺の副作用とか強くなりそうな)大きな照射範囲だけど仕方ないよね~」
 そんな医療者の会話を耳にすることもあります。


 放射線治療は一度始めてしまうと元には戻れません。『放射線治療開始時に』何となくではなく、具体的(=画像化)、客観的(=数値化)評価をし、さらにそれを踏まえて患者さんや担当医に説明できる情報を持っているかどうか、が大事だと思うのです。
 たいていのがんの臨床試験では、その症例を試験登録するため放射線治療計画段階で(肺のV20のような)様々な基準をクリアできているかどうか客観的評価を事前にきちんと確認しておかなければなりませんし、そうしないと臨床試験としての治療が開始できません。

 「普通の(=日常の)」放射線治療計画だって同じ。


 おそらく放射線治療専門医の先生方の多くは、きちんとこういった予測シミュレーションを立てて、あるいは豊富なご経験のもとでおよその数値を予測して設定されているのだと思うのですが、後者に関してはやっぱり「何となく」になりがちです。
 実際のところ、食道癌では合計予測シミュレーションをせずとも肺のV20はそこそこ無難な範囲に収まることが多いように思うのですが(心臓がうまく重なってくれることもありますが、最近は心臓被曝の後遺症も問題視されていますね)、右肺下葉の肺癌などは胸のリンパ節転移があったりすると「予想以上」に照射範囲がバカでかくなり(そのうえ呼吸性移動もあり。これも施設間格差が…いずれブログで)、予測合計プランを立ててみるといとも簡単に肺のV20が危険水域35%以上、下手すると超危険域40%に達してしまいます。
 前回も触れましたが、もちろん肺臓炎の原因は照射範囲だけではありません。抗がん剤の投与内容・量や患者さんの体質などにも左右されるわけですが。

 若い先生あるいは長年一人で業務を行っている地方病院の年配の先生の一部などは、最初から全体プランを具体的にシミュレーションしてみようかなどという「意識」そのものを持たれていない方も少なからずいらっしゃるのではないかと感じています。
 頭頸部や胸部など、プランを合計してみると結構意外なことが見えてくるケースもあります。およそのシミュレーションだし、何時間もかけてこだわった線量分布なんて作る必要はなく、ざっくりとした合計プランで充分だと思います。「時間がないから、めんどくさ~い」とも言われそうですが、多くは1件10分前後の追加時間で可能…たぶん。
 全例で途中変更するわけではありませんが、仮に変更を要する計画が1日6件あったら「1時間も」余計に業務時間が増えちゃいますか?

 ちなみに、最近は放射線治療計画内容をコンピュータで自動合算シミュレーションできる装置もいくつか市販されています。腫瘍の縮小や体形の変化に対する歪み補正ができるハイテク技術も搭載されているようですが、基本的には治療途中か終了後(つまり後付)の照射内容確認装置かと思います。私は一部のデモ機しか見たことありませんが、勘違いだったらごめんなさい。
 導入費用もかかりますので、ビンボー公立病院だとなかなかすぐに購入というわけにもいきません。


 『最終ゴールを設定し、最悪の事態を含めいくつかのパターンを想定しながら、ゴールから逆算して全体の計画をすすめる。』
 日本放射線腫瘍学会でははぐれ者の私が知る限りではございますが、学会や研究会などでこの辺を強調されているお話ってあまり聞いたことがありません…たぶん。

 「IMRTならそんな心配はないでしょ?」って質問、今回は抜きにしてください。全例にIMRTができるなら苦労しません。でも、IMRTだろうと基本的考え方は同じでしょ?


 長くなりました。

 なにやら偉そうに書きましたが、実は私も最初からやっていたわけではありません。そして、いろいろな先生方から教えていただいたお話や業務を自分なりにまとめたに過ぎません。

 いろいろなご意見があろうかとお察しいたしますが、非公式で日記みたいな思いつきブログです。どうかご容赦くださいませ。



 人生も一緒…私、逆算して考えるようになってきた年令です。


【2013/09/12 20:32】 | 放射線治療計画
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 またですが、去年facebookに書いた文章を、改変して以下に再掲します。昨日、なんとなくそんな気分の業務の日でしたので…
 

 放射線治療はがん病巣は治療範囲から外さずかつ正常臓器の後遺症(副作用)を極力出さない範囲で設定することが原則で、そのため放射線を身体の様々な方向から病巣を狙って照射をします。また、毎日の放射線治療が進むにつれて腫瘍の大きさなどが変化することが多く、正常組織の副作用を分散させるためにも、途中で1~2回程度の放射線治療内容設定し直しをすることが少なくありません。

 例えば胸部への放射線治療を行う場合ですが、特に治療後半年以内に起きる可能性がある放射線肺臓炎が晩期有害事象(後遺症)として問題となります。
 放射線肺臓炎を発症しやすいかどうかというのは個人差があり、またいろいろな原因があるとも推測されていますが、現時点で明らかに統計学的な差がありそうだと示されているのが、
(1) 元々間質性肺炎を持病とされている方かどうか、
(2)ある一定量以上の放射線があたる正常の肺の体積割合がどのくらいか、
のようです。

 前者はアレルギー的な要素も強く、放射線量の大小にかかわらず放射線治療自体を避けた方が無難とされますが、後者は治療範囲や総線量の設定によって変わります。具体的には総治療期間中に20グレイ(=X線なので20シーベルト)という量が肺全体の体積の何%に照射されるかが一つの指標となっています。
 同業者間では肺のV20などと表現しています。


 以前、某大学病院を訪問した時のことでした。

 ある若い女医さんが、食道癌の患者さんに対する胸部への再照射計画(治療の変更)作業をしていました。遠目からなんとなく眺めていたら、肺の後遺症が出そうないささか広めの照射範囲を設定していたように見えたので、計画作業の途中でしたが「合計の肺のV20はどうなりました?」とつい厚かましい質問をしてしまいました。
照射範囲を広く設定すればするほど正常肺の被曝線量域も広くなり、肺炎などの後遺症が出やすくなる恐れがあるからです。

 で、その若い先生(女医さん)のお返事は「まだ計算してません!」
たぶんですが、怒られちゃいました…。たぶんですが、そんな口調でした…。
 その先生の放射線治療計画で一番気になったのは、現在計画中の肺のV20ではなく治療計画の全体像をシミュレーションしたうえでのおよそのV20はどうだったのかな?ということでした。それを意識していなさそうだったので…。

 その時は、私も別のお仕事ですぐ席を外したためきちんと確認できなかったのですが、信頼できる主治医に後で二重チェックがなされていたようでした。
 他施設の具体的な個々の放射線治療計画について、他者がどうこういえる環境・風土(つまり「他施設の専門家」がチェックする仕組み)が整っていないのが日本の課題の一つだと思うのですが、それはまた別の機会にでも。


 添付写真はイメージ画像です。
 2つの異なるCT画像を正確に重ね合わせることがなかなか困難な現状では、その患者さんの放射線治療計画の全体像を確認、つまり悪い事態を含めて最終ゴールを予測するには、初回の治療計画で全体の計画をざっくりとで良いのでシミュレーションしてみるのが、ひとつの対応策になると思います。

 治療内容の途中変更時の計画CTでも検討可能ですが、たぶん腫瘍が縮小するし正常組織への悪い影響を予測するうえで、あとうまくいかなかった時に後戻りできないので、あまり適さないと思います。「初回の計画に追加プランをさらに作るなんて手間かかるし、どうせ使わないプランだし、たぶん縮小するのに意味あるの?」との反論が出そうですが、私の中では現状これが一番良い方法だと思っています。

 他職種の方々からみたら当たり前のような、でも意外にやってなかったりしそうな放射線治療計画の全体像に対する一つの考え方についての私見でした。


 でも、もっといい技があったら教えてください。



 まだ続きがあるのですが、(2)へ…


治療計画



【2013/09/11 00:56】 | 放射線治療計画
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 先日、うちの病院にダ・ヴィンチのデモ機が来て、私も遊ばせてもらいました。最新鋭の体感ゲーム機を操作しているみたいで、とても楽しかったです。噂によると外科系学会のブースでは順番待ちがあるそうですが、今回は結構空いてました。
 うちの病院の先生たちはあまり関心がないのか?それともすでにどこかで並んでお試し体験が終わっていた人たちばかりなのか??業務が忙しすぎて体感する時間などとても確保できなかったか???
 私の場合は下の先生が事前予約しててくれてたので、偉そうなことは書けないのですけれど…

【Wikipediaより引用】 
 ダ・ヴィンチ(da Vinci)とは、米国インテュイティヴ・サージカル社が開発したマスタースレイブ型内視鏡下手術用の医療用ロボットのda Vinci Surgical System(ダ・ヴィンチ・サージカルシステム、ダ・ヴィンチ外科手術システム)のこと。内視鏡下手術用ロボットの代表であり、患者への低侵襲な手術を可能にする。2000年7月にアメリカ食品医薬品局(FDA)より承認。日本では2009年に厚生労働省薬事・食品衛生審議会で国内の製造販売が承認された。日本では大阪市に本社を置く医療専門商社の株式会社アダチが総代理店を務める。


 ダ・ヴィンチの登場で、技術的には手術を遠隔操作でもできるような時代になりました。外科医ではないのでよくわからない部分がありますが、インターネットにつなげば誰でも操作ができてしまうので、遠方にいる有名な外科医、いや医師の名を借りた素人代行が手術をすることも物理的には可能です。
 まあ、実際のところ現行のダ・ヴィンチは手術室内でしか操作できない仕様になっているし、医療や倫理上の諸問題が多すぎて海外でも「遠隔」手術は行われていないとのことですが…。

 一方、インターネットや電話を利用した遠隔診療支援は、病理や放射線画像そして僻地診療での問診など診断部門ではすでに国内でも普及し、一部ビジネス化(クリニック開業など)しています。実は放射線治療計画も技術的にはコンピュータでの遠隔操作ができるので、遠隔放射線治療計画支援用の商品というものも国内販売されています。

 放射線治療計画を遠隔支援で行うことに関しては、医師法第20条 無診療治療等の禁止など、画像診断と同じレベルで扱うことが困難な部分があります。日本放射線腫瘍学会では平成22年に遠隔放射線治療計画ガイドラインを公認し、HP上でもPDFファイルをダウンロードできるようになっています。
http://www.jastro.or.jp/guideline/

 現状における日本の遠隔放射線治療計画支援というのは、今の所は非常勤支援施設に対する支援、または専門医ではない放射線腫瘍医に対する補助的支援が主体かと思われます。
 臨床試験などのデータ集積・解析、施設間の治療内容相互チェック、医療スタッフに対する教育・訓練を行うことも広義の遠隔放射線治療計画支援に含まれ、臨床試験でのデータ集積は最近オンライン登録もなされるようになってきています。直接患者さんの治療には影響しないし、診療内容の質的均てん化の面で今後が期待される部分です(と数年前から思いながらも、なかなか普及していないのですが…)

 
 いずれにせよ、コンピュータの裏で困っているのは生身の病んだ人間(患者さん)です。「コンピュータ(≒治療計画)は好きだけど人を診るのは嫌い」という若手放射線腫瘍医が増えないことを祈っている、PC操作がさほど得意でないオヤジ医師でした。



【追記】
「放射線腫瘍医を生めや増やせや」と日夜頑張っておられるJASTROの諸先生方には、最後の文章は不快かもしれません。「お前だって人がいなけりゃ困るだろ!」…その通りでございます。


【2013/05/19 00:01】 | 放射線治療計画
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 IMRTや粒子線治療といった高精度放射線治療は、がんに放射線を集中しやすい点で腫瘍縮小効果や副作用の軽減が期待されますし、論文やメディアなどでその有効性が多々報告されています。

 しかし、いくら優れものの放射線治療装置で技術的に正確な放射線治療が可能だとしても、そもそもの病気の部分がきちんと治療計画画像で捉えられていなければ(≒ターゲット設定が正確でなければ)、治療効果が不十分となりがち、いや逆に照射の切れ味が良いだけにかえって病巣辺縁から再発する危険が高まる恐れもあります。


 以前、某施設で施行された化学放射線療法の臨床試験に関連するご講演があり、「ターゲット設定にも放射線治療の施設間格差がある」と講師の先生がお話されていました。質疑応答で具体的な部分を質問させていただいた所、「きちんとした造影CTを撮影していても病巣の囲み方が施設ごとでかなり違った」そうなのです。
 詳細な放射線治療範囲に関する規定が定めてあって、かつ〇×大学とか△□がんセンターといった全国でも有名な施設の放射線腫瘍専門医ばかりが参加する臨床試験『であっても』バラつきが出るということは、普通の放射線治療ではもっと…?


 前立腺がんの放射線治療計画をする時に、通常は前立腺全体を治療範囲に設定します。前立腺は膀胱や直腸に挟まれたクルミ大の骨盤内臓器です。
 数年前ですが、九州の25名の放射線腫瘍医に同じ患者さんのCT上の前立腺を線で囲んでもらった調査結果を解析された九州大の中村先生から論文報告がありました。それによると、頭尾側長さで2倍以上(21~54mm)、体積に至っては4倍以上(23.8~98.3cm3)も医師間格差があるという結果だったそうです。また 治療医経験年数10年以上のベテラン医師ほど囲む範囲が広めだったとも報告されています(p=0.067)。

 繊細で丁寧と評判の(?)日本人医師たちなのに、比較的見分けやすいと思われていた前立腺(がんではなく臓器全体)の囲み『ですら』これだけの違いが出るのか!と 当時の私には結構衝撃的な報告でした。九州人がアバウトだとは思えませんし。ただ、MRIを参考にしていないこと、造影検査をしていない調査であること、2007年ごろと少し前であることから、今と状況は異なるかもしれません。
 当時の年配の先生がたはコンピュータ操作の不慣れや(悲しいかな他人事ではないのですが)老眼の影響で広く囲んでしまっていたのかもしれません。いずれにせよ専門の医師であっても囲いの格差は意外にあるかも、と改めて認識させられた論文でした。

 ちなみに外国からも似たような論文報告がでています。


 最近では、国内外の学会などから部位別の輪郭描出アトラスが論文として発表されるようになり、定型的なターゲット作成に関してはだんだん標準化されてきています。しかし、これも微妙にバラつきがあったりして、逆に頭を悩ませることがありますが…

 我々が時々参考にする教科書でも、著者によって結構ターゲットの囲み方が異なっていたりします。どの本のどの先生の、という具体的な内容はここでは(あえて)触れませんが、結構違います。几帳面な先生がいれば、大ざっぱな先生もいて…。CT治療計画世代の比較的年齢が若い先生ほど『丁寧』な印象です。

 研修医の先生は、そういったアトラスや教科書と治療計画CTとをにらめっこしながらそのまま「模写しています」。


 X線などを使った画像診断というのは未だにせいぜい数mmレベルのがん病巣の描出能力しかなく、しかもがん以外の変化、例えば炎症との鑑別も容易ではない場合が少なからずあります。MRIやPETなどで総合的に判断しますけど、現状の画像診断は病理検査(顕微鏡で細胞ががんなのかどうかを確認するやつ)の代わりにはまだなれません。
 機械の精度同様に病巣描出も厳密に行うべきなのですが、あまり厳密過ぎると却って仇となる(≒治療が失敗する)恐れもないとはいえません。豊富な経験に裏打ちされたPC操作に疎いご高齢の先生方の「こんな感じ~」的な囲みの方が、実は結果的に正しかったということも?

 私は一応、「きちんと」ターゲットを囲ったほうが確率的には局所制御率は高く副作用は少ないはず、と信じているほうなのですが…


放治教科書



【2013/04/25 00:11】 | 放射線治療計画
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 うちの科に今月から、大学人事による交代で新しい先生が着任されました。放射線腫瘍専門医の資格を持っていらっしゃるうえ、他県のがん専門病院勤務もご経験されているので、私にはとても勉強になりますし大変な戦力であります。今日もある患者さんの治療計画で、放射線治療すべき部位(ターゲット)について二人でいろいろ語りました。

 学会などでの情報交換というのは治療成績とか総論的な治療計画内容の話とか、具体性にいささか欠けた議論になりがちだと思っていますが、個々の患者さんの具体的な治療計画に関する専門医同士の情報交換というものは、また違った刺激や向上が得られます。
 踊る大捜査線での織田裕二さん演じる青島俊作の名セリフ「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」ってやつに相通じるものでしょうか(違うかな…?)

 そこで今日は(やっぱり以前のFBにも投稿した内容ではあるのですが)、これからのブログ投稿に向けての準備といいますか同業者以外へのイントロといいますか、放射線治療計画におけるターゲットについて、同業者から学び自分なりに感じてきたことを手短に『あえて』書かせていただこうと思います。
 
 とても偉そうな文章かもしれませんが、どうぞお許しくださいませ。


 最初に基礎情報として、CTを用いた一般的な放射線治療計画のターゲットの定義について、同業者以外の方々用に放射線治療計画ガイドライン2013:総論の一部を***間に改変引用させていただきます。これはあくまで用語の定義で、同業者には特におせっかいな記載ですが…。

********************************

 最初に治療計画コンピュータ上のCT画像で、ターゲットを決定します。写真のごとく、ターゲットはICRUレポート(JIS規格みたいなものと思って頂ければ…)に規定されている
・肉眼的腫瘍体積(GTV ; gross tumor volume)
・臨床標的体積(CTV ; clinical target volume)
・ITV(internal target volume)
・計画標的体積(PTV ; planning target volume)
に分けられます。

 GTVとは、画像や診察で確認できる腫瘍そのものを意味し(だからGTVだけT=tumor=腫瘍、他はtarget=標的)、これには原発巣、リンパ節あるいは遠隔転移巣が含まれ、GTVは原則『治すために絶対に治療範囲に含めなければいけません』。癌をとった後の術後照射などの場合は、GTVがないということもありえます。
 CTVとは、GTVおよびその周辺の顕微鏡的な進展範囲、あるいは所属リンパ節領域を含んだ照射すべき部分。「一部は目に見えてないけど小さな癌がとてもありそうな近隣の危険範囲」のことです。
 ITVとは、CTVに呼吸、飲み込み、心臓の拍動、胃腸の蠕動など、体内臓器の動きによる影響を含めた標的体積を意味します。「CTVは静止画像、ITVは動画」と思って頂ければいいかな?ここまでは「人間の身体の中」のお話でした。
 PTVとは、「身体の外でのズレ・誤差」のことで、毎回の照射における機械などの設定誤差を含めた標的体積を意味します。

 以上より、根治的な照射ではGTV ≦ CTV ≦ ITV < PTVの不等号は常に成立します。

放治GL総論より

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 放射線治療を志す若手の先生方ならこの定義はさすがに皆さん良くご存知でありますが、わかりました?


 ここから先は私個人のコメントです。

 特にGTVやCTVですが、「その中でも」優先順位設定というのがあると思います。放射線腫瘍医のお仕事として大事なポイントの一つでしょう。

 例えば、耳鼻科の癌ではなるべく臓器の機能温存(≒元のままに残すこと)が望まれますが、そこで原発巣とリンパ節転移は同じGTVでも扱い方が多少変わることがあります。原発巣はのどとか口の中とか、手術で摘出しまうと発声や飲食など後々の日常生活に大変不具合がでてしまうので『絶対』照射範囲に入れなければいけません。しかし首のリンパ節転移は正常組織の副作用、特に後遺症との兼ね合いなどで照射範囲から不幸にして外れてしまっても、その後に手術切除できれば生活の質に対する影響は少なめに済みます。
 もちろん、首のリンパ節転移に対する放射線治療がいい加減(悪い意味)でも良いとしているわけではありません。あくまで止むなくです。

 CTVも同じで、癌が絶対にあると確定している部分ではないとは言うものの本当にヤバそうな場所は何とか治療範囲に含めるようにすべきですし、逆に危険度の少ないところは優先順位で緩め設定も(止むなく)視野に入れることになると思います。
 で、絶対的なGTVよりはCTVは優先順位が落ちます。

 そんなの当たり前のことでしょ?とも言われそうな気がします。


 ところが、若い先生や学生さんなどに治療計画をしてもらうと、アニメーション画像だけになった段階でGTVもCTVもPTVも全て『横一線の意識』となってしまい、『癌が確実に存在する一番重要なGTV』が照射範囲から外れそうだったり線量分布(放射線の量)が一部甘かったりしてもあまり気にしなかったり、それほど気にしなくてもよさそうなPTVの分布に妙なこだわりをもって無駄な時間を費やしてしまうことがあります。
 臨床情報の確認も不十分なまま…。

 どうもコンピュータ操作にはまり込むと、放射線治療でどこを最も治さなければいけないのか、つまり画面の裏にいる実際の患者さんが本当に困っている、あるいはこれから困る病気の場所が見えにくくなってしまう傾向が、私の周りの一部(若手の)先生方に見受けられるような印象を持っています。

 「放射線治療計画はコンピュータゲームじゃないよ」が少しだけ私の口癖になってきました。


 IMRTなどで工夫すればそんな問題自体起きないよ、とおっしゃる一部の先生もいそうですが、それはまた別の問題ということでご容赦ください。


 一般の方にはやっぱり解りにくい文章だったでしょうか??


【2013/04/08 20:54】 | 放射線治療計画
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 母校である大学病院での定期診療支援が昨日で終わり、4月からは調べ物をする時などたま〜にしか大学病院に行かなくなります。業務内容は放射線治療計画支援が主体だったので、医学生さんと接する機会は正直あまりなかったのですが、来月からは若くて元気な医学生さんに会うことすら激減するので少しだけさみしい気もします。


 私は一昨年まで数年間、別の某大学の教官として医学生さんの実習指導をしてきました。そもそも大学教官は「教師」として雇用されていて、また「研究者」としても業績を重ねることが求められ、「医者」はついでにという感が正直なきにしもあらずの所があります。
 まあ、今日その話はさておいて…。

 医学部は卒業まで順調でも6年の学業期間を要しますが。最近の医学生さんは4年生で共用試験 (CBT:Computer Based Testing)なるものをクリアしてから、病院実習に入ることが一般的です。俗に「ポリクリ」とか「クリクラ(クリニカル・クラークシップ)」とかいうやつです。
 最初はグループ全員で現場「見学」的な要素が強い実習ですが、5年生の半ばからは希望の診療科を中心に個別の「体験」実習が主体となります。私が某大学在職の時は、医学生さんは4週間/講座、合計6ヶ月の期間で実習があり、我々の指導も連日続きました(さらに1学年下のグループも定期的に実習に来ます)。毎月5〜6人回ってくる医学生さんたちを放射線科は診断と治療に分けて、各教官が(治療部門は「治療スタッフ全員で」)個別指導をしていました。

 医者の教官にとっては病院の臨床(や、きっと普通の先生は当然研究も)しながらなので、これは結構長くて大変だった…最初に書いた通り、これが本来の業務なのですが…某大学着任当初はもう少し短かったのですが、いつの間にやら6ヶ月…。

 当時の私のBossの指導方針で、2週間のみ治療部門に回ってくる医学生さんには、放射線治療の面白さの一端を体感していただくため、実際の放射線治療で用いる放射線治療計画コンピュータ(以下、治療計画PCと仮称)を操作してもらうことを実習の主体にしていました。具体的には、放射線治療用に撮像されたCT画像を治療計画PCに転送し、専用の放射線治療計画用アプリケーション(以下、計画アプリ)を使って、我々が業務として行っている以下の操作を学生さんにもシミュレーションしてもらっていました。

 1. まずは計画アプリに取り込まれ写し出されたCT画像に、がん病巣はどれか、がんのありそうな危険範囲はどこか、また放射線治療を行う上で危険な正常臓器がどれか、お絵描きツールを使って各々を区別できるように色分けした線などで囲む(絵を書く)作業を行います。これは世に出回っている描画ソフトでの「お絵かき」と技術的には大して変わりませんし、(世界中の施設で主力として汎用されている計画アプリが入っただけで1台数百万〜数千万円もするPCなのに)フリーウェアのほうが操作性が優っていたりします。

 2. 続いて、「囲った絵」をみて、どの方向からどの範囲に放射線を照射したら、治療すべき範囲に充分な線量があたり、また危険臓器を極力被曝保護できるか、を計画アプリ上でいろいろとシミュレーションします。別の例えをするなら、地図の等高線(「山頂」は放射線がたくさん照射される高線量域で、「山裾」や「平野部」は正常臓器が主となる低線量域)を製作するといった感じです。これはPC好きの医学生さんなんかには(たぶん日本の放射線腫瘍医も少なからず)、ゲーム感覚で面白く結構ハマる要素を持っているようです。

 まず最初の数十分で治療計画PCの一連の取扱いについて、我々指導教官側がいっしょに見せて聞かせて触らせるのですが、その後は用意してある計画アプリの学生さん用マニュアル(研修医用に作成したものをさらに簡易にしたVersion)で、ある程度自由に操作をしてもらってました。もちろん医学生さんの行う計画はあくまでもシミュレーションです。当然実際の患者さんの放射線治療計画は、医局員である放射線腫瘍医が中心に行い、さらに複数の放射線腫瘍専門医や医学物理士さんのチェックも受けて決定しています。

 昨今の医学生さんたちは(当たり前なのかもしれませんが)アプリの操作に手馴れていて、早い学生さんだとたった半日で定型的な治療計画を仕上げ、2週間後の実習終了時には結構高度な「全脳全脊髄照射」や「マントル照射」なんかも作り上げてしまいました。また明らかにPC操作が得意ではなさそうな女学生さんでも、2週間もすれば「乳房温存照射」程度の計画でもそこそこ仕上げることができるようになります。

 これを体験してもらうと、我々のお仕事って「実は簡単?」と思われがちですが(正直私も学生さんたちの覚え方の早さには最初びっくりしました)、実は全然そうではないのだということが臨床経験を積めば積むほどほどわかってきます。放射線治療計画は、コンピューターゲームとは全く違うので…。とはいえ、医学生さんの関心を引くにはとても有効な実習法であったと今でも思っていますし、もしかすると某大学の放射線治療科に回ってきた医学生さんたちの実習直後のレベルは、そこらの研修医より上なのではないかとたまに思うこともありました。


 ただ、人間、時が経つとすぐに忘れてしまうというのは皆同じようで、すごいな〜と思っていた医学生さんでも改めて研修医になって修練に回ってきた時にはすっかり忘れていて、放射線治療計画の一連の指導を改めてその時に回ってきた医学生さんと一緒に教えなければいけないなんてこともよくありましたけれど…



(2012.8.xx facebookより加筆修正)


【2013/03/29 23:49】 | 放射線治療計画
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