緩和ケアのことを英語でpalliative care といいます(正確には英語を和訳して、緩和ケアですか?)。
がんによる症状緩和のための放射線治療も英語ではpalliative radiotherapyといいますが、昔から日本語では姑息照射とも表現されてきました。最近は、緩和照射のほうが多くなってきているとは思いますが、Googleで検索しても姑息照射は数多く出てきますし、結構多くの放射線治療科ホームページでも普通に姑息照射と紹介されています。
ちなみに「姑息」は以下のように示されています。
《「姑」はしばらく、「息」は休むの意から》一時の間に合わせにすること。また、そのさま。一時のがれ。その場しのぎ(コトバンクより引用)
そして、文化庁ホームページの連載、言葉のQ&Aでは、『姑息の意味』と題した次のような調査結果も示されています(一部改変)。
『「あんな汚ない手を使うなんて、彼は本当に姑息な男だ。」
このような場合の「姑息」は、「ひきょうな」といった意味で使われているようです。「国語に関する世論調査」でも「姑息」を「ひきょうな」という意味だと考えている人が多いことが分かりました。
しかも、本来の意味とされる「「一時しのぎ」という意味」と答えた人は2割に届かず、本来の意味ではない「「ひきょうな」という意味」と答えた人が7割を超えるという結果だったそうです。』
本来の意味はそうでなくても、一般の感じ方はやはり悪いイメージが付きまとう言葉であることだけは確かなようです。
http://www.bunka.go.jp/publish/bunkachou_geppou/2012_06/series_10/series_10.html
たしかに緩和照射というのは、原則がんを治す治療ではありません。根本的な解決をせずに、その場だけの一時しのぎをする治療だと指摘されれば、姑息照射という表現もまあ間違いではないのかもしれません。
でも、姑息って言葉、そうでなくても心身ともに辛い症状を有するがん患者さんに対して説明するのには適さないと思いませんか?
「(症状を)緩和照射しましょう」のほうがずっと優しいと思います。
残念ながら、放射線腫瘍医にも「緩和だから、時間かけないで」とお考えの方がいたりするようです。
もちろん、痛みなどで同じ体位を長時間(数分以上という意味)保つのがつらいがん患者さんが少なくないので、照射時間はなるべく短く負担なくする(=照射時間をかけない)ことが特に緩和照射においては強く求められます。でも、そういう意味ではなく「姑息なのだから、無駄な時間をかけずにささっと治療の準備を終えてね」と…
がんの治癒をめざす根治照射と違い、緩和照射は8Gyの1回とか30Gyの2週間といった少ない総線量でも効果に差がないとする臨床試験が多く報告されていて、いまのところ標準的な照射メニューとなっています。線量が少ないので、多少アバウトな治療でも副作用が出にくいケースが多く、治療計画自体の労力は少なく済むことは確かに多いかもしれません。
そういう先生たちも、きっと手を抜いていると言っているわけではないのでしょうが(?)、姑息って言葉自体がそれを(無意識に)連想してしまっているのではないかとつい勘繰ってしまいます。
逆に、予後が数週間しかなさそうな方に対して無理に1か月以上もかけて転移の「局所制御」をめざす先生もいらっしゃいます。これも時に理解に苦しむ場合があります。
今回これは深入りしないでおこ…
私のささやかな希望は姑息照射という言葉が使われなくなること。でも、がんによる苦痛の改善に大いに役立つ緩和照射はもっともっと普及してほしいと思っています。
だって、緩和ケアのことを姑息ケアなんて言わないでしょ?
がんによる症状緩和のための放射線治療も英語ではpalliative radiotherapyといいますが、昔から日本語では姑息照射とも表現されてきました。最近は、緩和照射のほうが多くなってきているとは思いますが、Googleで検索しても姑息照射は数多く出てきますし、結構多くの放射線治療科ホームページでも普通に姑息照射と紹介されています。
ちなみに「姑息」は以下のように示されています。
《「姑」はしばらく、「息」は休むの意から》一時の間に合わせにすること。また、そのさま。一時のがれ。その場しのぎ(コトバンクより引用)
そして、文化庁ホームページの連載、言葉のQ&Aでは、『姑息の意味』と題した次のような調査結果も示されています(一部改変)。
『「あんな汚ない手を使うなんて、彼は本当に姑息な男だ。」
このような場合の「姑息」は、「ひきょうな」といった意味で使われているようです。「国語に関する世論調査」でも「姑息」を「ひきょうな」という意味だと考えている人が多いことが分かりました。
しかも、本来の意味とされる「「一時しのぎ」という意味」と答えた人は2割に届かず、本来の意味ではない「「ひきょうな」という意味」と答えた人が7割を超えるという結果だったそうです。』
本来の意味はそうでなくても、一般の感じ方はやはり悪いイメージが付きまとう言葉であることだけは確かなようです。
http://www.bunka.go.jp/publish/bunkachou_geppou/2012_06/series_10/series_10.html
たしかに緩和照射というのは、原則がんを治す治療ではありません。根本的な解決をせずに、その場だけの一時しのぎをする治療だと指摘されれば、姑息照射という表現もまあ間違いではないのかもしれません。
でも、姑息って言葉、そうでなくても心身ともに辛い症状を有するがん患者さんに対して説明するのには適さないと思いませんか?
「(症状を)緩和照射しましょう」のほうがずっと優しいと思います。
残念ながら、放射線腫瘍医にも「緩和だから、時間かけないで」とお考えの方がいたりするようです。
もちろん、痛みなどで同じ体位を長時間(数分以上という意味)保つのがつらいがん患者さんが少なくないので、照射時間はなるべく短く負担なくする(=照射時間をかけない)ことが特に緩和照射においては強く求められます。でも、そういう意味ではなく「姑息なのだから、無駄な時間をかけずにささっと治療の準備を終えてね」と…
がんの治癒をめざす根治照射と違い、緩和照射は8Gyの1回とか30Gyの2週間といった少ない総線量でも効果に差がないとする臨床試験が多く報告されていて、いまのところ標準的な照射メニューとなっています。線量が少ないので、多少アバウトな治療でも副作用が出にくいケースが多く、治療計画自体の労力は少なく済むことは確かに多いかもしれません。
そういう先生たちも、きっと手を抜いていると言っているわけではないのでしょうが(?)、姑息って言葉自体がそれを(無意識に)連想してしまっているのではないかとつい勘繰ってしまいます。
逆に、予後が数週間しかなさそうな方に対して無理に1か月以上もかけて転移の「局所制御」をめざす先生もいらっしゃいます。これも時に理解に苦しむ場合があります。
今回これは深入りしないでおこ…
私のささやかな希望は姑息照射という言葉が使われなくなること。でも、がんによる苦痛の改善に大いに役立つ緩和照射はもっともっと普及してほしいと思っています。
だって、緩和ケアのことを姑息ケアなんて言わないでしょ?
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前回ブログで最後に触れた「初回の計画に追加プランをさらに作るなんて手間かかるし、きっと使わないプランだし、たぶん縮小するのに意味あるの?」について。
たぶん一番問題なのが「たぶん縮小するのに...」の『たぶん』のところ。
実際に放射線治療計画に携わったことのある方なら(きっと)全員分かることですが、最初のがんの大きさ・広がりで放射線治療を開始して、患者さんの望む通り、そして楽観的な医者の予測通りにがんが小さくなってくれればよいのですが、ほとんど変わらないということがあります。
まれですが、逆に大きくなってしまうこともあります。この場合は残念ですが放射線治療によるがん縮小は難しいかもしれません。
何となく初回の放射線治療計画をたてて治療を始め、いざ再治療計画CTを撮像してみると「う~ん、思ったよりもがんが小さくならなかったな~。追加治療でがんが照射範囲から外れたら治りが悪くなるし、(肺の副作用とか強くなりそうな)大きな照射範囲だけど仕方ないよね~」
そんな医療者の会話を耳にすることもあります。
放射線治療は一度始めてしまうと元には戻れません。『放射線治療開始時に』何となくではなく、具体的(=画像化)、客観的(=数値化)評価をし、さらにそれを踏まえて患者さんや担当医に説明できる情報を持っているかどうか、が大事だと思うのです。
たいていのがんの臨床試験では、その症例を試験登録するため放射線治療計画段階で(肺のV20のような)様々な基準をクリアできているかどうか客観的評価を事前にきちんと確認しておかなければなりませんし、そうしないと臨床試験としての治療が開始できません。
「普通の(=日常の)」放射線治療計画だって同じ。
おそらく放射線治療専門医の先生方の多くは、きちんとこういった予測シミュレーションを立てて、あるいは豊富なご経験のもとでおよその数値を予測して設定されているのだと思うのですが、後者に関してはやっぱり「何となく」になりがちです。
実際のところ、食道癌では合計予測シミュレーションをせずとも肺のV20はそこそこ無難な範囲に収まることが多いように思うのですが(心臓がうまく重なってくれることもありますが、最近は心臓被曝の後遺症も問題視されていますね)、右肺下葉の肺癌などは胸のリンパ節転移があったりすると「予想以上」に照射範囲がバカでかくなり(そのうえ呼吸性移動もあり。これも施設間格差が…いずれブログで)、予測合計プランを立ててみるといとも簡単に肺のV20が危険水域35%以上、下手すると超危険域40%に達してしまいます。
前回も触れましたが、もちろん肺臓炎の原因は照射範囲だけではありません。抗がん剤の投与内容・量や患者さんの体質などにも左右されるわけですが。
若い先生あるいは長年一人で業務を行っている地方病院の年配の先生の一部などは、最初から全体プランを具体的にシミュレーションしてみようかなどという「意識」そのものを持たれていない方も少なからずいらっしゃるのではないかと感じています。
頭頸部や胸部など、プランを合計してみると結構意外なことが見えてくるケースもあります。およそのシミュレーションだし、何時間もかけてこだわった線量分布なんて作る必要はなく、ざっくりとした合計プランで充分だと思います。「時間がないから、めんどくさ~い」とも言われそうですが、多くは1件10分前後の追加時間で可能…たぶん。
全例で途中変更するわけではありませんが、仮に変更を要する計画が1日6件あったら「1時間も」余計に業務時間が増えちゃいますか?
ちなみに、最近は放射線治療計画内容をコンピュータで自動合算シミュレーションできる装置もいくつか市販されています。腫瘍の縮小や体形の変化に対する歪み補正ができるハイテク技術も搭載されているようですが、基本的には治療途中か終了後(つまり後付)の照射内容確認装置かと思います。私は一部のデモ機しか見たことありませんが、勘違いだったらごめんなさい。
導入費用もかかりますので、ビンボー公立病院だとなかなかすぐに購入というわけにもいきません。
『最終ゴールを設定し、最悪の事態を含めいくつかのパターンを想定しながら、ゴールから逆算して全体の計画をすすめる。』
日本放射線腫瘍学会でははぐれ者の私が知る限りではございますが、学会や研究会などでこの辺を強調されているお話ってあまり聞いたことがありません…たぶん。
「IMRTならそんな心配はないでしょ?」って質問、今回は抜きにしてください。全例にIMRTができるなら苦労しません。でも、IMRTだろうと基本的考え方は同じでしょ?
長くなりました。
なにやら偉そうに書きましたが、実は私も最初からやっていたわけではありません。そして、いろいろな先生方から教えていただいたお話や業務を自分なりにまとめたに過ぎません。
いろいろなご意見があろうかとお察しいたしますが、非公式で日記みたいな思いつきブログです。どうかご容赦くださいませ。
人生も一緒…私、逆算して考えるようになってきた年令です。
たぶん一番問題なのが「たぶん縮小するのに...」の『たぶん』のところ。
実際に放射線治療計画に携わったことのある方なら(きっと)全員分かることですが、最初のがんの大きさ・広がりで放射線治療を開始して、患者さんの望む通り、そして楽観的な医者の予測通りにがんが小さくなってくれればよいのですが、ほとんど変わらないということがあります。
まれですが、逆に大きくなってしまうこともあります。この場合は残念ですが放射線治療によるがん縮小は難しいかもしれません。
何となく初回の放射線治療計画をたてて治療を始め、いざ再治療計画CTを撮像してみると「う~ん、思ったよりもがんが小さくならなかったな~。追加治療でがんが照射範囲から外れたら治りが悪くなるし、(肺の副作用とか強くなりそうな)大きな照射範囲だけど仕方ないよね~」
そんな医療者の会話を耳にすることもあります。
放射線治療は一度始めてしまうと元には戻れません。『放射線治療開始時に』何となくではなく、具体的(=画像化)、客観的(=数値化)評価をし、さらにそれを踏まえて患者さんや担当医に説明できる情報を持っているかどうか、が大事だと思うのです。
たいていのがんの臨床試験では、その症例を試験登録するため放射線治療計画段階で(肺のV20のような)様々な基準をクリアできているかどうか客観的評価を事前にきちんと確認しておかなければなりませんし、そうしないと臨床試験としての治療が開始できません。
「普通の(=日常の)」放射線治療計画だって同じ。
おそらく放射線治療専門医の先生方の多くは、きちんとこういった予測シミュレーションを立てて、あるいは豊富なご経験のもとでおよその数値を予測して設定されているのだと思うのですが、後者に関してはやっぱり「何となく」になりがちです。
実際のところ、食道癌では合計予測シミュレーションをせずとも肺のV20はそこそこ無難な範囲に収まることが多いように思うのですが(心臓がうまく重なってくれることもありますが、最近は心臓被曝の後遺症も問題視されていますね)、右肺下葉の肺癌などは胸のリンパ節転移があったりすると「予想以上」に照射範囲がバカでかくなり(そのうえ呼吸性移動もあり。これも施設間格差が…いずれブログで)、予測合計プランを立ててみるといとも簡単に肺のV20が危険水域35%以上、下手すると超危険域40%に達してしまいます。
前回も触れましたが、もちろん肺臓炎の原因は照射範囲だけではありません。抗がん剤の投与内容・量や患者さんの体質などにも左右されるわけですが。
若い先生あるいは長年一人で業務を行っている地方病院の年配の先生の一部などは、最初から全体プランを具体的にシミュレーションしてみようかなどという「意識」そのものを持たれていない方も少なからずいらっしゃるのではないかと感じています。
頭頸部や胸部など、プランを合計してみると結構意外なことが見えてくるケースもあります。およそのシミュレーションだし、何時間もかけてこだわった線量分布なんて作る必要はなく、ざっくりとした合計プランで充分だと思います。「時間がないから、めんどくさ~い」とも言われそうですが、多くは1件10分前後の追加時間で可能…たぶん。
全例で途中変更するわけではありませんが、仮に変更を要する計画が1日6件あったら「1時間も」余計に業務時間が増えちゃいますか?
ちなみに、最近は放射線治療計画内容をコンピュータで自動合算シミュレーションできる装置もいくつか市販されています。腫瘍の縮小や体形の変化に対する歪み補正ができるハイテク技術も搭載されているようですが、基本的には治療途中か終了後(つまり後付)の照射内容確認装置かと思います。私は一部のデモ機しか見たことありませんが、勘違いだったらごめんなさい。
導入費用もかかりますので、ビンボー公立病院だとなかなかすぐに購入というわけにもいきません。
『最終ゴールを設定し、最悪の事態を含めいくつかのパターンを想定しながら、ゴールから逆算して全体の計画をすすめる。』
日本放射線腫瘍学会でははぐれ者の私が知る限りではございますが、学会や研究会などでこの辺を強調されているお話ってあまり聞いたことがありません…たぶん。
「IMRTならそんな心配はないでしょ?」って質問、今回は抜きにしてください。全例にIMRTができるなら苦労しません。でも、IMRTだろうと基本的考え方は同じでしょ?
長くなりました。
なにやら偉そうに書きましたが、実は私も最初からやっていたわけではありません。そして、いろいろな先生方から教えていただいたお話や業務を自分なりにまとめたに過ぎません。
いろいろなご意見があろうかとお察しいたしますが、非公式で日記みたいな思いつきブログです。どうかご容赦くださいませ。
人生も一緒…私、逆算して考えるようになってきた年令です。
またですが、去年facebookに書いた文章を、改変して以下に再掲します。昨日、なんとなくそんな気分の業務の日でしたので…
放射線治療はがん病巣は治療範囲から外さずかつ正常臓器の後遺症(副作用)を極力出さない範囲で設定することが原則で、そのため放射線を身体の様々な方向から病巣を狙って照射をします。また、毎日の放射線治療が進むにつれて腫瘍の大きさなどが変化することが多く、正常組織の副作用を分散させるためにも、途中で1~2回程度の放射線治療内容設定し直しをすることが少なくありません。
例えば胸部への放射線治療を行う場合ですが、特に治療後半年以内に起きる可能性がある放射線肺臓炎が晩期有害事象(後遺症)として問題となります。
放射線肺臓炎を発症しやすいかどうかというのは個人差があり、またいろいろな原因があるとも推測されていますが、現時点で明らかに統計学的な差がありそうだと示されているのが、
(1) 元々間質性肺炎を持病とされている方かどうか、
(2)ある一定量以上の放射線があたる正常の肺の体積割合がどのくらいか、
のようです。
前者はアレルギー的な要素も強く、放射線量の大小にかかわらず放射線治療自体を避けた方が無難とされますが、後者は治療範囲や総線量の設定によって変わります。具体的には総治療期間中に20グレイ(=X線なので20シーベルト)という量が肺全体の体積の何%に照射されるかが一つの指標となっています。
同業者間では肺のV20などと表現しています。
以前、某大学病院を訪問した時のことでした。
ある若い女医さんが、食道癌の患者さんに対する胸部への再照射計画(治療の変更)作業をしていました。遠目からなんとなく眺めていたら、肺の後遺症が出そうないささか広めの照射範囲を設定していたように見えたので、計画作業の途中でしたが「合計の肺のV20はどうなりました?」とつい厚かましい質問をしてしまいました。
照射範囲を広く設定すればするほど正常肺の被曝線量域も広くなり、肺炎などの後遺症が出やすくなる恐れがあるからです。
で、その若い先生(女医さん)のお返事は「まだ計算してません!」
たぶんですが、怒られちゃいました…。たぶんですが、そんな口調でした…。
その先生の放射線治療計画で一番気になったのは、現在計画中の肺のV20ではなく治療計画の全体像をシミュレーションしたうえでのおよそのV20はどうだったのかな?ということでした。それを意識していなさそうだったので…。
その時は、私も別のお仕事ですぐ席を外したためきちんと確認できなかったのですが、信頼できる主治医に後で二重チェックがなされていたようでした。
他施設の具体的な個々の放射線治療計画について、他者がどうこういえる環境・風土(つまり「他施設の専門家」がチェックする仕組み)が整っていないのが日本の課題の一つだと思うのですが、それはまた別の機会にでも。
添付写真はイメージ画像です。
2つの異なるCT画像を正確に重ね合わせることがなかなか困難な現状では、その患者さんの放射線治療計画の全体像を確認、つまり悪い事態を含めて最終ゴールを予測するには、初回の治療計画で全体の計画をざっくりとで良いのでシミュレーションしてみるのが、ひとつの対応策になると思います。
治療内容の途中変更時の計画CTでも検討可能ですが、たぶん腫瘍が縮小するし正常組織への悪い影響を予測するうえで、あとうまくいかなかった時に後戻りできないので、あまり適さないと思います。「初回の計画に追加プランをさらに作るなんて手間かかるし、どうせ使わないプランだし、たぶん縮小するのに意味あるの?」との反論が出そうですが、私の中では現状これが一番良い方法だと思っています。
他職種の方々からみたら当たり前のような、でも意外にやってなかったりしそうな放射線治療計画の全体像に対する一つの考え方についての私見でした。
でも、もっといい技があったら教えてください。
まだ続きがあるのですが、(2)へ…

放射線治療はがん病巣は治療範囲から外さずかつ正常臓器の後遺症(副作用)を極力出さない範囲で設定することが原則で、そのため放射線を身体の様々な方向から病巣を狙って照射をします。また、毎日の放射線治療が進むにつれて腫瘍の大きさなどが変化することが多く、正常組織の副作用を分散させるためにも、途中で1~2回程度の放射線治療内容設定し直しをすることが少なくありません。
例えば胸部への放射線治療を行う場合ですが、特に治療後半年以内に起きる可能性がある放射線肺臓炎が晩期有害事象(後遺症)として問題となります。
放射線肺臓炎を発症しやすいかどうかというのは個人差があり、またいろいろな原因があるとも推測されていますが、現時点で明らかに統計学的な差がありそうだと示されているのが、
(1) 元々間質性肺炎を持病とされている方かどうか、
(2)ある一定量以上の放射線があたる正常の肺の体積割合がどのくらいか、
のようです。
前者はアレルギー的な要素も強く、放射線量の大小にかかわらず放射線治療自体を避けた方が無難とされますが、後者は治療範囲や総線量の設定によって変わります。具体的には総治療期間中に20グレイ(=X線なので20シーベルト)という量が肺全体の体積の何%に照射されるかが一つの指標となっています。
同業者間では肺のV20などと表現しています。
以前、某大学病院を訪問した時のことでした。
ある若い女医さんが、食道癌の患者さんに対する胸部への再照射計画(治療の変更)作業をしていました。遠目からなんとなく眺めていたら、肺の後遺症が出そうないささか広めの照射範囲を設定していたように見えたので、計画作業の途中でしたが「合計の肺のV20はどうなりました?」とつい厚かましい質問をしてしまいました。
照射範囲を広く設定すればするほど正常肺の被曝線量域も広くなり、肺炎などの後遺症が出やすくなる恐れがあるからです。
で、その若い先生(女医さん)のお返事は「まだ計算してません!」
たぶんですが、怒られちゃいました…。たぶんですが、そんな口調でした…。
その先生の放射線治療計画で一番気になったのは、現在計画中の肺のV20ではなく治療計画の全体像をシミュレーションしたうえでのおよそのV20はどうだったのかな?ということでした。それを意識していなさそうだったので…。
その時は、私も別のお仕事ですぐ席を外したためきちんと確認できなかったのですが、信頼できる主治医に後で二重チェックがなされていたようでした。
他施設の具体的な個々の放射線治療計画について、他者がどうこういえる環境・風土(つまり「他施設の専門家」がチェックする仕組み)が整っていないのが日本の課題の一つだと思うのですが、それはまた別の機会にでも。
添付写真はイメージ画像です。
2つの異なるCT画像を正確に重ね合わせることがなかなか困難な現状では、その患者さんの放射線治療計画の全体像を確認、つまり悪い事態を含めて最終ゴールを予測するには、初回の治療計画で全体の計画をざっくりとで良いのでシミュレーションしてみるのが、ひとつの対応策になると思います。
治療内容の途中変更時の計画CTでも検討可能ですが、たぶん腫瘍が縮小するし正常組織への悪い影響を予測するうえで、あとうまくいかなかった時に後戻りできないので、あまり適さないと思います。「初回の計画に追加プランをさらに作るなんて手間かかるし、どうせ使わないプランだし、たぶん縮小するのに意味あるの?」との反論が出そうですが、私の中では現状これが一番良い方法だと思っています。
他職種の方々からみたら当たり前のような、でも意外にやってなかったりしそうな放射線治療計画の全体像に対する一つの考え方についての私見でした。
でも、もっといい技があったら教えてください。
まだ続きがあるのですが、(2)へ…

うちの病院にもPETが導入されることになりました。上層部の先生は「長年欲しかった装置が手に入った」とおっしゃっているようです。
PET(ペット)とは「陽電子放射断層撮影」という意味で、Positron Emission Tomography(ポジトロン・エミッション・トモグラフィー)の略です。
PET検査はがんを検査する方法の一つ。放射線が出てくるように細工されたがん細胞に取り込まれやすい物質(FDG)を少しだけ静脈注射して、がんなどを発見する手がかりとなる写真を撮影します。
これまでうちの病院では、電話などで予約し院外紹介状を作成して、他の病院でPET検査を受けていただいていました。わざわざ出向いて検査を受けなければならない患者さんはもちろん、我々もいろいろ手間暇をかける必要があったのですが、ようやくがん患者さんの初診時全身検査や治療後の再発チェックに有力な武器が院内で使えるようになります!がん検診にも利用できますね。
放射線治療計画で利用できるような設定も頼んでます。
ところで、前回のブログで犬の軟膏のことを話題にしましたが、犬・猫に代表される愛玩動物のこともPETといいますね。
数年前のことになりますが、神奈川県の川崎市にある日本動物高度医療センターでPET(愛玩動物)に放射線治療を実施している現場を見学させていただいたことがあります。人間に使用する高精度な放射線治療計画装置やライナック(リニアックでもOK:笑)が設置されていて、毎回の放射線治療に数名の獣医師が関わって全身麻酔下で大がかりな放射線治療を行っていた光景にとてもびっくりしたものでした。
(麻酔はかけられませんが)「将来、私の転職先の一つになるかも?」って冗談半分に思ったものでした。そしたらその後、本当に定年退職されたあと動物病院に再就職された先輩某放射線腫瘍医がいるとの噂を耳にしました…
当時、日本動物高度医療センター川崎さんですら動物へのPET検査は行われていませんでしたが、「近い将来、導入予定」とは伺っていました。病院HPを拝見すると、今はPET検査を実施されているようですね。
普通の動物病院レベルではまだPET検査は普及していないようですが(高精度な放射線治療もしかり)、今後は地方の動物病院にも少しずつ設置されようになるかもしれません。まさか、うちの犬の検診で飼い主の私より先にPET検査、なんてことは…?
しかしPETにPET、すごい時代になったものです。
そのうちPETに粒子線治療、なんてことも。人間様と同額の実費300万円で!?
まあ、動物実験ではすでに粒子線治療を行ってますけどね。
PET(ペット)とは「陽電子放射断層撮影」という意味で、Positron Emission Tomography(ポジトロン・エミッション・トモグラフィー)の略です。
PET検査はがんを検査する方法の一つ。放射線が出てくるように細工されたがん細胞に取り込まれやすい物質(FDG)を少しだけ静脈注射して、がんなどを発見する手がかりとなる写真を撮影します。
これまでうちの病院では、電話などで予約し院外紹介状を作成して、他の病院でPET検査を受けていただいていました。わざわざ出向いて検査を受けなければならない患者さんはもちろん、我々もいろいろ手間暇をかける必要があったのですが、ようやくがん患者さんの初診時全身検査や治療後の再発チェックに有力な武器が院内で使えるようになります!がん検診にも利用できますね。
放射線治療計画で利用できるような設定も頼んでます。
ところで、前回のブログで犬の軟膏のことを話題にしましたが、犬・猫に代表される愛玩動物のこともPETといいますね。
数年前のことになりますが、神奈川県の川崎市にある日本動物高度医療センターでPET(愛玩動物)に放射線治療を実施している現場を見学させていただいたことがあります。人間に使用する高精度な放射線治療計画装置やライナック(リニアックでもOK:笑)が設置されていて、毎回の放射線治療に数名の獣医師が関わって全身麻酔下で大がかりな放射線治療を行っていた光景にとてもびっくりしたものでした。
(麻酔はかけられませんが)「将来、私の転職先の一つになるかも?」って冗談半分に思ったものでした。そしたらその後、本当に定年退職されたあと動物病院に再就職された先輩某放射線腫瘍医がいるとの噂を耳にしました…
当時、日本動物高度医療センター川崎さんですら動物へのPET検査は行われていませんでしたが、「近い将来、導入予定」とは伺っていました。病院HPを拝見すると、今はPET検査を実施されているようですね。
普通の動物病院レベルではまだPET検査は普及していないようですが(高精度な放射線治療もしかり)、今後は地方の動物病院にも少しずつ設置されようになるかもしれません。まさか、うちの犬の検診で飼い主の私より先にPET検査、なんてことは…?
しかしPETにPET、すごい時代になったものです。
そのうちPETに粒子線治療、なんてことも。人間様と同額の実費300万円で!?
まあ、動物実験ではすでに粒子線治療を行ってますけどね。
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