先日、緩和的放射線治療を終了して1か月後のAさんが、私の外来を受診されました。
ご年配ということもあってご本人が身体に負担のかかるがん治療を希望されず、無治療のまましばらく経過観察をされていた方でした。最近になってがんがだんだん大きくなってしまい痛みと腫瘍表面の皮膚に悪影響が出始めたので、主治医(というのだろうか?)から「症状のある部分に対する緩和的放射線治療はどうでしょうか?」と、今年の春にうちの科へ紹介となりました。
初診時はAさんご本人が放射線治療そのものに乗り気でなく、私のほうからは「症状を緩和する放射線治療という選択肢もありますよ」というご提案(+診察)だけで終わりました。しかし、だんだん症状が進んでしんどくなってきてしまったことから、後日改めてご本人から「副作用がない治療なら」とのご相談がありました。
どんな放射線治療にも副作用が「絶対」ないということは残念ながらありません。しかしAさんの病状は、症状のある腫瘍に限定した放射線治療であればまず大きな問題なく経過するだろうと充分予想されました。Aさんと私や看護師さんらでいろいろと相談し、Aさんからの「毎日の治療は気分的に大変だから、できれば休む日も時々つくってほしい」というご要望を踏まえ、外来通院で緩和的放射線治療を開始することになりました。
放射線治療は体調をみながら週3-4日を目標にしました。短期間での照射での設定にはしなかったですが、それはうまくいけば長期間の腫瘍制御も見込めそうな状態で、治療が順調に進んだ時のことも視野に入れたためです。
Aさん、最初は不安いっぱいのご様子でしたが、通院照射に少し慣れ治療を続けても大丈夫そうだとご実感されたらしきことや、(最大の目標であった)腫瘍による症状も経過とともに少しずつやわらいできて、少しずつ回数を延長し時々お休みを挟みながらも最終的にはなんとほぼ根治線量まで完遂できました。途中、軽い皮膚炎はみられましたが看護師さんとも相談しながらの皮膚ケアや投薬などでコントロールでき、今週の治療1か月後受診となった次第です。がんも順調に小さくなっていました。
放射線治療は、がんを治すための「根治照射」と、治らなくても今苦痛で困っている(あるいは近い将来困る可能性が高い)症状をやわらげる「緩和照射(=緩和的放射線治療)」の2つに大別されます。もちろん両方を兼ねるケースや、手術などの後の放射線治療という場合などもありますが。
治すことを目標とした根治照射の場合、治療を休止せずに患者さんも頑張って乗り切らなければという治療になることが原則です。根治を最優先した場合に予定以外の長い休止期間はがんに対する効果的に好ましくないからです(あるがんでは多くの臨床試験で統計上の違いが示されています)。放射線治療は身体に優しい治療と表現されますが、それはあくまで全身麻酔が必要で身体の一部をメスで切り取らなければならない手術と比べての話。治すためにと多少でも「無理」をするため、やっぱり何らかのけっこうしんどい副作用を伴ってしまう場合って実は少なくありません。
がんによる症状の緩和照射はそんなことありません。まずは副作用を含めて身体的な苦痛を減らすことが第1目標になります。がんによる症状緩和効果とご本人の体調や副作用やご希望などを比較検討し、いろいろ相談しながら放射線治療を続けるかどうかを判断していけばいい。治療スケジュール通りに進まなくても、Aさんのように休み休み行っても、途中でやめてもいい。Aさんのような順調な経過をたどる方々ばかりではないのでは?というご指摘もその通りなのですが、患者さんが身体の調子を感じながら続けるかどうかをある程度ご自身で選ぶことができます。
もちろんそのサポートには担当医や看護師さんなど医療者の知識・経験・対話力などが大きな比重を占めます。医療者としての力量差がかなり大きくでる部分だと思います。しかし、残念ながらその差はまだ客観的評価できていませんし(たぶん)、力量は私もいまだにそんなに自信ありません。
Aさんはこれからも今まで通りの経過観察を希望されていらっしゃるようですが、納得の上でのご自身の選択ですし、私はそれでOKだと思っています。
Aさん、「放射線治療してよかった。痛みも減ってすごく楽になりました。本当にありがとうございました。」とニコッと笑顔で診察室を退室されました。
私もとてもうれしかったです。
緩和的放射線治療、とてもやりがいを感じるこの頃です… 以前には感じなかったという意味では決してございません。
ご年配ということもあってご本人が身体に負担のかかるがん治療を希望されず、無治療のまましばらく経過観察をされていた方でした。最近になってがんがだんだん大きくなってしまい痛みと腫瘍表面の皮膚に悪影響が出始めたので、主治医(というのだろうか?)から「症状のある部分に対する緩和的放射線治療はどうでしょうか?」と、今年の春にうちの科へ紹介となりました。
初診時はAさんご本人が放射線治療そのものに乗り気でなく、私のほうからは「症状を緩和する放射線治療という選択肢もありますよ」というご提案(+診察)だけで終わりました。しかし、だんだん症状が進んでしんどくなってきてしまったことから、後日改めてご本人から「副作用がない治療なら」とのご相談がありました。
どんな放射線治療にも副作用が「絶対」ないということは残念ながらありません。しかしAさんの病状は、症状のある腫瘍に限定した放射線治療であればまず大きな問題なく経過するだろうと充分予想されました。Aさんと私や看護師さんらでいろいろと相談し、Aさんからの「毎日の治療は気分的に大変だから、できれば休む日も時々つくってほしい」というご要望を踏まえ、外来通院で緩和的放射線治療を開始することになりました。
放射線治療は体調をみながら週3-4日を目標にしました。短期間での照射での設定にはしなかったですが、それはうまくいけば長期間の腫瘍制御も見込めそうな状態で、治療が順調に進んだ時のことも視野に入れたためです。
Aさん、最初は不安いっぱいのご様子でしたが、通院照射に少し慣れ治療を続けても大丈夫そうだとご実感されたらしきことや、(最大の目標であった)腫瘍による症状も経過とともに少しずつやわらいできて、少しずつ回数を延長し時々お休みを挟みながらも最終的にはなんとほぼ根治線量まで完遂できました。途中、軽い皮膚炎はみられましたが看護師さんとも相談しながらの皮膚ケアや投薬などでコントロールでき、今週の治療1か月後受診となった次第です。がんも順調に小さくなっていました。
放射線治療は、がんを治すための「根治照射」と、治らなくても今苦痛で困っている(あるいは近い将来困る可能性が高い)症状をやわらげる「緩和照射(=緩和的放射線治療)」の2つに大別されます。もちろん両方を兼ねるケースや、手術などの後の放射線治療という場合などもありますが。
治すことを目標とした根治照射の場合、治療を休止せずに患者さんも頑張って乗り切らなければという治療になることが原則です。根治を最優先した場合に予定以外の長い休止期間はがんに対する効果的に好ましくないからです(あるがんでは多くの臨床試験で統計上の違いが示されています)。放射線治療は身体に優しい治療と表現されますが、それはあくまで全身麻酔が必要で身体の一部をメスで切り取らなければならない手術と比べての話。治すためにと多少でも「無理」をするため、やっぱり何らかのけっこうしんどい副作用を伴ってしまう場合って実は少なくありません。
がんによる症状の緩和照射はそんなことありません。まずは副作用を含めて身体的な苦痛を減らすことが第1目標になります。がんによる症状緩和効果とご本人の体調や副作用やご希望などを比較検討し、いろいろ相談しながら放射線治療を続けるかどうかを判断していけばいい。治療スケジュール通りに進まなくても、Aさんのように休み休み行っても、途中でやめてもいい。Aさんのような順調な経過をたどる方々ばかりではないのでは?というご指摘もその通りなのですが、患者さんが身体の調子を感じながら続けるかどうかをある程度ご自身で選ぶことができます。
もちろんそのサポートには担当医や看護師さんなど医療者の知識・経験・対話力などが大きな比重を占めます。医療者としての力量差がかなり大きくでる部分だと思います。しかし、残念ながらその差はまだ客観的評価できていませんし(たぶん)、力量は私もいまだにそんなに自信ありません。
Aさんはこれからも今まで通りの経過観察を希望されていらっしゃるようですが、納得の上でのご自身の選択ですし、私はそれでOKだと思っています。
Aさん、「放射線治療してよかった。痛みも減ってすごく楽になりました。本当にありがとうございました。」とニコッと笑顔で診察室を退室されました。
私もとてもうれしかったです。
緩和的放射線治療、とてもやりがいを感じるこの頃です… 以前には感じなかったという意味では決してございません。
スポンサーサイト
週末、東京で開催された放射線治療の臨床試験に関する会合に参加してきました。私は緩和医療系のメンバーに加えていただいております。
今回の会合では「(消化管を含む)腹部腫瘍からの出血に対する緩和的放射線治療」が今後の臨床試験の一案として候補に挙がりました。
胃がんや大腸がんは日本のがん罹患者数としてはとても多いがん種ですが、国内では(お医者の大好きな)エビデンスがあまりないということで放射線治療の対象となることがほとんどありませんでした。
「そもそも胃がんや大腸がんに放射線治療なんて効くの?」という日本の先生方はいまだに少なくありません。
実は30 年以上も前に、日本のある放射線治療の先生が手術困難な胃がんに対し化学放射線療法をして5年生存13%「も」得られたという報告をなさっています。 1982年の報告なのですが、いまだにたいていの欧米の教科書にその論文はしっかり引用されています。
Asakawa, Tohoku J Exp Med 1982; 137: 445-52.
直腸がんは欧米で術前放射線治療の臨床試験が数多く出ていて、有効であることが示されています。
胃がんに放射線治療が無効という「誤解」の原因 は、①胃がんは手術成績が良いこと、②胃粘膜が放射線に敏感なこと、③胃がん(腺がん)には放射線が効かないと(勝手に)多くの日本の医者が思い込んでいたこと、が主な理由のようです。
ようやく最近、術前化学放射線療法で、胃がんは主に慶応大さんが、大腸がんは主に北里大さんや東海大さんが、臨床試験レベルで放射線治療の有効性を示しています。しかし、緩和的放射線治療に関しては、臨床試験レベルでの証明という信頼度としての立ち位置はまだまだです。
消化管からの腫瘍出血に対し緩和的放射線治療に止血効果が「かなり」期待できるということは、放射線腫瘍医なら誰でも昔から知っている「事実」なのですが、正直言って日本ではまだ認知されていません。胃がんや大腸がんという腹部消化管原発であっても、効果は「かなり」期待できるのですが。「かなり」、数値で書くと60-90%という高率です。
海外の報告では胃がんでも大腸がんでも(止血目的の)緩和的放射線治療は高率に症状緩和効果が得られることが昔からいろいろ報告されています。もちろん副作用は少ないです。国内でも最近、静岡県立がんセンターさんや国立がんセンター中央病院さんなどから止血緩和照射は有効だったとする論文報告がなされています。もちろん副作用は少ないです。
Hashimoto, J Cancer Res Clin Oncol 2009; 135: 1117-23.
Asakura, J Cancer Res Clin Oncol 2011; 137: 125-30.
手術困難な進行胃がんや大腸がんに対し、抗がん剤や分子標的薬剤がエビデンスで固められたガイドライン上の「標準治療」であることに異論はございません。また、胃がんや大腸がんに放射線治療なんて無効という日本の伝統的「固定観念」を知識としていらっしゃる医療者の方々を含め、世間的に認知される為にはやはりきちんと臨床試験という形でデータを集積してそれなりの医学雑誌に発表する必要があるという意見もその通りかと思います。平均数か月の延命が得られる薬の治療で「引っ張る」のもエビデンス上は大事なのかもしれません。
しかし、がんからの出血を自覚(=自分で目の当たりに)させられたり輸血が必要になったりと患者さん自身が辛い症状に対する「局所対策」は、延命という数字上のエビデンスだけではない大事な部分であると思います。
この辺は医療者によっても考え方が大きく異なっていて、例えばうちの病院でも、積極的に緩和的放射線治療依頼をしてくださる先生もいれば、非常に消極的な先生もいます。どうやら副作用も気になるようで。抗がん剤のほうがひどいのに…。
他の臨床試験をしている都合上、放射線治療を排除していることもあるようです。臨床試験って制限がいろいろあって、「余計な」放射線治療を行うと対象から外れてしまうことがあるそうなのです。それって患者さん中心の医療ではないのですが…。
検討課題はいろいろあるのですが、日本の現状調査などを踏まえ、腫瘍出血に対する緩和的放射線治療が臨床試験という形で日本人に対する有効性を示せるようになればきっと苦痛から救われる方が多くなるはず、と期待。微力ながら私も協力させていただきます。
個人的なことで恐縮ですが、その昔、亡き義母に辛い思いをさせてしまったこともトラウマとしてあり…
しかし東京は暑かった。昼休みに食べた築地のお寿司(+α)は美味しかったけど。
今回の会合では「(消化管を含む)腹部腫瘍からの出血に対する緩和的放射線治療」が今後の臨床試験の一案として候補に挙がりました。
胃がんや大腸がんは日本のがん罹患者数としてはとても多いがん種ですが、国内では(お医者の大好きな)エビデンスがあまりないということで放射線治療の対象となることがほとんどありませんでした。
「そもそも胃がんや大腸がんに放射線治療なんて効くの?」という日本の先生方はいまだに少なくありません。
実は30 年以上も前に、日本のある放射線治療の先生が手術困難な胃がんに対し化学放射線療法をして5年生存13%「も」得られたという報告をなさっています。 1982年の報告なのですが、いまだにたいていの欧米の教科書にその論文はしっかり引用されています。
Asakawa, Tohoku J Exp Med 1982; 137: 445-52.
直腸がんは欧米で術前放射線治療の臨床試験が数多く出ていて、有効であることが示されています。
胃がんに放射線治療が無効という「誤解」の原因 は、①胃がんは手術成績が良いこと、②胃粘膜が放射線に敏感なこと、③胃がん(腺がん)には放射線が効かないと(勝手に)多くの日本の医者が思い込んでいたこと、が主な理由のようです。
ようやく最近、術前化学放射線療法で、胃がんは主に慶応大さんが、大腸がんは主に北里大さんや東海大さんが、臨床試験レベルで放射線治療の有効性を示しています。しかし、緩和的放射線治療に関しては、臨床試験レベルでの証明という信頼度としての立ち位置はまだまだです。
消化管からの腫瘍出血に対し緩和的放射線治療に止血効果が「かなり」期待できるということは、放射線腫瘍医なら誰でも昔から知っている「事実」なのですが、正直言って日本ではまだ認知されていません。胃がんや大腸がんという腹部消化管原発であっても、効果は「かなり」期待できるのですが。「かなり」、数値で書くと60-90%という高率です。
海外の報告では胃がんでも大腸がんでも(止血目的の)緩和的放射線治療は高率に症状緩和効果が得られることが昔からいろいろ報告されています。もちろん副作用は少ないです。国内でも最近、静岡県立がんセンターさんや国立がんセンター中央病院さんなどから止血緩和照射は有効だったとする論文報告がなされています。もちろん副作用は少ないです。
Hashimoto, J Cancer Res Clin Oncol 2009; 135: 1117-23.
Asakura, J Cancer Res Clin Oncol 2011; 137: 125-30.
手術困難な進行胃がんや大腸がんに対し、抗がん剤や分子標的薬剤がエビデンスで固められたガイドライン上の「標準治療」であることに異論はございません。また、胃がんや大腸がんに放射線治療なんて無効という日本の伝統的「固定観念」を知識としていらっしゃる医療者の方々を含め、世間的に認知される為にはやはりきちんと臨床試験という形でデータを集積してそれなりの医学雑誌に発表する必要があるという意見もその通りかと思います。平均数か月の延命が得られる薬の治療で「引っ張る」のもエビデンス上は大事なのかもしれません。
しかし、がんからの出血を自覚(=自分で目の当たりに)させられたり輸血が必要になったりと患者さん自身が辛い症状に対する「局所対策」は、延命という数字上のエビデンスだけではない大事な部分であると思います。
この辺は医療者によっても考え方が大きく異なっていて、例えばうちの病院でも、積極的に緩和的放射線治療依頼をしてくださる先生もいれば、非常に消極的な先生もいます。どうやら副作用も気になるようで。抗がん剤のほうがひどいのに…。
他の臨床試験をしている都合上、放射線治療を排除していることもあるようです。臨床試験って制限がいろいろあって、「余計な」放射線治療を行うと対象から外れてしまうことがあるそうなのです。それって患者さん中心の医療ではないのですが…。
検討課題はいろいろあるのですが、日本の現状調査などを踏まえ、腫瘍出血に対する緩和的放射線治療が臨床試験という形で日本人に対する有効性を示せるようになればきっと苦痛から救われる方が多くなるはず、と期待。微力ながら私も協力させていただきます。
個人的なことで恐縮ですが、その昔、亡き義母に辛い思いをさせてしまったこともトラウマとしてあり…
しかし東京は暑かった。昼休みに食べた築地のお寿司(+α)は美味しかったけど。
うちの病院で放射線治療計画CTを担当している診療放射線技師さんが、なんと今年秋のRSNA2014に演題アクセプトされました。しかも、筆頭演者(つまり代表者、英語で発表する人)!
おめでとうございます! すげー!!
RSNA=Radiological Society of North America、和訳だと「北米放射線学会」。世界最大の放射線医学関連の国際学会です。
毎年 11 月末から 12 月初めに1 週間くらいかけて、すごく寒い(らしい)シカゴで開催されます。世界中の放射線科医、物理士、放射線技師、企業の方々などなど、参加者は例年 6 万人前後にもおよぶ世界を代表する放射線診断系中心の巨大学会です。
私、実はRSNAに行ったことないので、聞いた話です…そして、もちろん私は今回も日本でお留守番かつお土産待ち(笑)
世界のRSNA、演題採択のハードルは結構高いらしいです。日本全国の放射線科医も、この学会に演題が採用されると祝賀モードです。
某大学では毎年の医局同窓会や忘年会で、「今年はRSNAに誰が何で演題採用!」って感じで教授がご挨拶の話題に必ずする、そんな一大イベントです。
ちなみに放射線治療系だと、米国放射線腫瘍学会(ASTRO)、 欧州放射線腫瘍学会 (ESTRO)が代表的な国際学会です。
見事採択の技師さんですが、実はうちの病院は少し前に中途採用された方です。以前勤務されていた病院の時から頑張っていたというCTの物理系研究発表で今回RSNAに採択されたそうです。
一般病院で仕事しながら研究も、立派です。
放射線治療計画CT担当では、なんかもったいない気がする頼りになる技師さん。私も爪の垢を…
そのうち祝賀宴会しないといけませんね、部長!
おめでとうございます! すげー!!
RSNA=Radiological Society of North America、和訳だと「北米放射線学会」。世界最大の放射線医学関連の国際学会です。
毎年 11 月末から 12 月初めに1 週間くらいかけて、すごく寒い(らしい)シカゴで開催されます。世界中の放射線科医、物理士、放射線技師、企業の方々などなど、参加者は例年 6 万人前後にもおよぶ世界を代表する放射線診断系中心の巨大学会です。
私、実はRSNAに行ったことないので、聞いた話です…そして、もちろん私は今回も日本でお留守番かつお土産待ち(笑)
世界のRSNA、演題採択のハードルは結構高いらしいです。日本全国の放射線科医も、この学会に演題が採用されると祝賀モードです。
某大学では毎年の医局同窓会や忘年会で、「今年はRSNAに誰が何で演題採用!」って感じで教授がご挨拶の話題に必ずする、そんな一大イベントです。
ちなみに放射線治療系だと、米国放射線腫瘍学会(ASTRO)、 欧州放射線腫瘍学会 (ESTRO)が代表的な国際学会です。
見事採択の技師さんですが、実はうちの病院は少し前に中途採用された方です。以前勤務されていた病院の時から頑張っていたというCTの物理系研究発表で今回RSNAに採択されたそうです。
一般病院で仕事しながら研究も、立派です。
放射線治療計画CT担当では、なんかもったいない気がする頼りになる技師さん。私も爪の垢を…
そのうち祝賀宴会しないといけませんね、部長!
先月参加した第19回日本緩和医療学会学術大会で、「転移性骨腫瘍カンファレンス~転移性骨腫瘍チームアプローチ~」というシンポジウムがありました。口演の指定演題が94題、ポスターの一般演題に至っては1030題もある今回の(→今回も?)巨大発表会のなかで、私が狙いを定めていたセッションの一つでした。
諸事情あって、今頃ようやく学会印象記。
しかし、2日間だけの学会で1000を超える演題数、さすがにいささか多すぎませんか?ざっとポスターを眺めるだけでも疲れましたし、気になる一般発表で演者に質問をしたくてもそんな時間すらありませんでした。う~ん、残念!
学会の代議員会などでも問題にはなっているのでしょうけど、改善要望だけは出してみようかな?
本学術大会のメインテーマが天才バカボンの「これでいいのだ」ということで、休憩時間の会場内にBGMとしてボサノバ風バカボンのテーマ曲が流れ、ほんわかした雰囲気の中でシンポジウムが始まりました。整形外科・リハビリテーション科・放射線治療科・緩和医療科、それぞれの立場でご専門の先生方から骨転移に対するチーム医療としての取り組みに関する様々な視点からの発表でしたが、骨転移キャンサーボードという多職種カンファレンスの有用性や、がんによる脊髄圧迫症状などに対する診療体制の工夫の話題が、個人的な関心を引きました。
数年前から、がん診療連携拠点病院の指定要件として、「がん患者の病態に応じたより適切ながん医療を提供できるよう、キャンサーボードを設置し定期的に開催すること」 の一文が記されています。キャンサーボードとは、いろいろな科の医師や看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなどの多職種医療スタッフが一同に介し、『診療科・部門の垣根を越えて』個々の患者の今後の診療について検討しあうミーティングのことです。
ちなみに、がん診療連携拠点病院とは『全国どこでも質の高いがん医療を提供することができるよう、全国397箇所の病院を指定しています(平成25年4月1日現在)。専門的ながん医療の提供、地域のがん診療の連携協力体制の構築、がん患者に対する相談支援及び情報提供等を行っています。』と、厚生労働省のHPより説明がなされています。がん診療連携拠点病院の整備要件について、今年は放射線治療部門を含めて具体的な指定項目が増え、施設によっては条件クリアが大変になりました。
で、うちの病院なのですが、いまのところ骨転移キャンサーボードという形での開催はしていません。あ、ちなみにうちの病院もがん診療連携拠点病院です。放射線治療装置を有していることが必須条件になっています。
キャンサーボードっていうと、臓器横断型という表現はしているものの、肺がんキャンサーボードとか胃がんキャンサーボードといった「臓器毎に分けた」多職種スタッフが個別症例の検討会をするイメージが私にはなんとなくあります(間違ってたらごめんなさい)。もちろん原発不明がんとか多重がんとか診療科の区別がしにくい疾患・病態もありますし、各臓器別診療カンファレンスとはきちんと分離して、そういったものを中心にキャンサーボードをしている施設もあるようです。
あくまで私が伝え聞いた範囲でのお話ですが、原発臓器毎のキャンサーボードで別個に骨転移症例の検討会をしている施設が多いように思いますし、うちもそうです。
ですが、骨転移ってすべてのがんから発症する可能性がある病状なので、各診療科主治医はもちろんですが、整形外科・リハビリ科・放射線腫瘍科&診断科・緩和科・看護師・薬剤師・ソーシャルワーカーさんなどがそれぞれの立場で意見を出しやすいという点では、臓器横断型という趣旨に比較的合致したキャンサーボードかもしれません(シンポジウムを聞いて、そう思いました…)。
骨転移キャンサーボードで個人的に思いついた課題を挙げてみるとすれば、がんの患者さんは骨転移「だけ」が問題ではないので、例えば症状のある脳転移も併発しているような骨転移以外の病状も含めた治療方針やリハビリテーションなどの検討を加える必要がある場合に、骨転移ばかりをまとめたキャンサーボードは「患者」横断型として少し扱いにくい側面も持ち合わせる可能性があるってことでしょうか?もちろん脳外科の先生も呼べばいいのでしょうけど…お忙しい先生方をその都度呼び集めるのって結構大変なのです。
(前回も触れましたが)骨転移へ放射線治療後のリハビリテーションも病状や社会復帰などの目標により多様性に富んだ領域です。
社会復帰を含めた骨転移照射後のリハビリって個人差が大きく、また骨転移患者さんに対するリハビリスケジュールって全国的にもいまだに標準的されていないので(「がんリハビリテーションガイドライン」より…日本リハビリテーション医学会ホームページで無料ダウンロード可)、患者さんに骨転移緩和照射の説明をする時によく悩みます。患者さんのリハビリ方針決定も、骨転移キャンサーボードのほうが症例や専門意見の集約ができて検討会としての実りは大きいかもしれません。
この辺は長くなりそうなので、また別の機会にします。
ちなみに、このガイドライン、(私にとっては)目から鱗の内容がたくさん書いてありました。まだご覧になってない同業者の方はご一読を。
はてさて、すでに骨転移キャンサーボードを実施している有名な専門施設では、具体的にはどんな感じで開催しているのだろう?近々、そんな某がんセンター放射線治療科の先生とお会いする機会があるので、今後のために直接お伺いしてみたいと思っています。
また、今月からはうちの病院で整形外科やリハビリテーション部の理学療法の先生方がもともと行っているリハビリカンファレンスというものに、遅ればせながら私も参加していろいろな意見交換をさせていただくことになりました。
うちの病院でも、いずれ骨転移キャンサーボードという形に発展すべきかどうかを視野に入れつつ…
「これでいいのだ」緩和学会のボサノバBGMシンポジウムでもう一つ話題にでていた、脊椎骨転移による脊髄圧迫症状などに対する診療体制の工夫については、秋に地元の某研究会でも主題に取り上げられるようですし、その時にでもブログにまとめてみようかと思っています。
(さらに続く予定…)
諸事情あって、今頃ようやく学会印象記。
しかし、2日間だけの学会で1000を超える演題数、さすがにいささか多すぎませんか?ざっとポスターを眺めるだけでも疲れましたし、気になる一般発表で演者に質問をしたくてもそんな時間すらありませんでした。う~ん、残念!
学会の代議員会などでも問題にはなっているのでしょうけど、改善要望だけは出してみようかな?
本学術大会のメインテーマが天才バカボンの「これでいいのだ」ということで、休憩時間の会場内にBGMとしてボサノバ風バカボンのテーマ曲が流れ、ほんわかした雰囲気の中でシンポジウムが始まりました。整形外科・リハビリテーション科・放射線治療科・緩和医療科、それぞれの立場でご専門の先生方から骨転移に対するチーム医療としての取り組みに関する様々な視点からの発表でしたが、骨転移キャンサーボードという多職種カンファレンスの有用性や、がんによる脊髄圧迫症状などに対する診療体制の工夫の話題が、個人的な関心を引きました。
数年前から、がん診療連携拠点病院の指定要件として、「がん患者の病態に応じたより適切ながん医療を提供できるよう、キャンサーボードを設置し定期的に開催すること」 の一文が記されています。キャンサーボードとは、いろいろな科の医師や看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなどの多職種医療スタッフが一同に介し、『診療科・部門の垣根を越えて』個々の患者の今後の診療について検討しあうミーティングのことです。
ちなみに、がん診療連携拠点病院とは『全国どこでも質の高いがん医療を提供することができるよう、全国397箇所の病院を指定しています(平成25年4月1日現在)。専門的ながん医療の提供、地域のがん診療の連携協力体制の構築、がん患者に対する相談支援及び情報提供等を行っています。』と、厚生労働省のHPより説明がなされています。がん診療連携拠点病院の整備要件について、今年は放射線治療部門を含めて具体的な指定項目が増え、施設によっては条件クリアが大変になりました。
で、うちの病院なのですが、いまのところ骨転移キャンサーボードという形での開催はしていません。あ、ちなみにうちの病院もがん診療連携拠点病院です。放射線治療装置を有していることが必須条件になっています。
キャンサーボードっていうと、臓器横断型という表現はしているものの、肺がんキャンサーボードとか胃がんキャンサーボードといった「臓器毎に分けた」多職種スタッフが個別症例の検討会をするイメージが私にはなんとなくあります(間違ってたらごめんなさい)。もちろん原発不明がんとか多重がんとか診療科の区別がしにくい疾患・病態もありますし、各臓器別診療カンファレンスとはきちんと分離して、そういったものを中心にキャンサーボードをしている施設もあるようです。
あくまで私が伝え聞いた範囲でのお話ですが、原発臓器毎のキャンサーボードで別個に骨転移症例の検討会をしている施設が多いように思いますし、うちもそうです。
ですが、骨転移ってすべてのがんから発症する可能性がある病状なので、各診療科主治医はもちろんですが、整形外科・リハビリ科・放射線腫瘍科&診断科・緩和科・看護師・薬剤師・ソーシャルワーカーさんなどがそれぞれの立場で意見を出しやすいという点では、臓器横断型という趣旨に比較的合致したキャンサーボードかもしれません(シンポジウムを聞いて、そう思いました…)。
骨転移キャンサーボードで個人的に思いついた課題を挙げてみるとすれば、がんの患者さんは骨転移「だけ」が問題ではないので、例えば症状のある脳転移も併発しているような骨転移以外の病状も含めた治療方針やリハビリテーションなどの検討を加える必要がある場合に、骨転移ばかりをまとめたキャンサーボードは「患者」横断型として少し扱いにくい側面も持ち合わせる可能性があるってことでしょうか?もちろん脳外科の先生も呼べばいいのでしょうけど…お忙しい先生方をその都度呼び集めるのって結構大変なのです。
(前回も触れましたが)骨転移へ放射線治療後のリハビリテーションも病状や社会復帰などの目標により多様性に富んだ領域です。
社会復帰を含めた骨転移照射後のリハビリって個人差が大きく、また骨転移患者さんに対するリハビリスケジュールって全国的にもいまだに標準的されていないので(「がんリハビリテーションガイドライン」より…日本リハビリテーション医学会ホームページで無料ダウンロード可)、患者さんに骨転移緩和照射の説明をする時によく悩みます。患者さんのリハビリ方針決定も、骨転移キャンサーボードのほうが症例や専門意見の集約ができて検討会としての実りは大きいかもしれません。
この辺は長くなりそうなので、また別の機会にします。
ちなみに、このガイドライン、(私にとっては)目から鱗の内容がたくさん書いてありました。まだご覧になってない同業者の方はご一読を。
はてさて、すでに骨転移キャンサーボードを実施している有名な専門施設では、具体的にはどんな感じで開催しているのだろう?近々、そんな某がんセンター放射線治療科の先生とお会いする機会があるので、今後のために直接お伺いしてみたいと思っています。
また、今月からはうちの病院で整形外科やリハビリテーション部の理学療法の先生方がもともと行っているリハビリカンファレンスというものに、遅ればせながら私も参加していろいろな意見交換をさせていただくことになりました。
うちの病院でも、いずれ骨転移キャンサーボードという形に発展すべきかどうかを視野に入れつつ…
「これでいいのだ」緩和学会のボサノバBGMシンポジウムでもう一つ話題にでていた、脊椎骨転移による脊髄圧迫症状などに対する診療体制の工夫については、秋に地元の某研究会でも主題に取り上げられるようですし、その時にでもブログにまとめてみようかと思っています。
(さらに続く予定…)
骨転移はどんながんでもきたす恐れのある病状です。近年のがん治療の進歩のおかげで延命効果が次々と報告されるようになり、結果として骨転移を発症する患者さんも年々増加傾向にあります。
骨転移で痛みや病的な骨折、脊髄神経損傷などがおきると、がん患者さんの生活の質が著しく低下してしまう可能性があります。
がんの骨転移による痛みをやわらげたり、がんに侵された部分の病的な骨折や近くにある神経圧迫などを防いだりと、放射線治療はがんによる骨転移の諸症状に対してとても有効な治療法の一つです。以前にも書きましたが、なにより決定的に痛み止めの薬と違う利点は、放射線治療である程度『腫瘍そのものの勢いを押さえる(≒縮小させる)』点、そして主治医側から見たらがんが完治せず根本的ではない局所治療(≒意味がない)と判断されていてもがん患者さんにとっては『治している実感が得られる』点です。
ちなみに日本放射線腫瘍学会2010 年定期構造調査報告によると、放射線治療実患者総数に対する骨転移患者さんの割合はおよそ13%前後、つまり7-8人に1人が骨転移に対する放射線治療患者さんでした。それでも他の先進諸国と比べるとまだまだ少ないそうなのですが…。
骨転移に放射線治療を行ってもがんで傷ついた骨が一瞬に回復するわけではない、という点は患者さん自身も私たち医療者側も充分気をつけなければなりません。がんの種類や骨転移の場所、病状にもよりますが、傷つき弱くなった骨が放射線治療後に再び石灰化して硬くなる(≒化骨化する)のは、経験的におよそ3か月以上はかかるように思います。がん細胞が邪魔をしている分だけ通常の骨折より回復が遅いのかもしれません。また、多くの場合で傷ついた骨が元の正常な形に戻るわけではありません。
一方で、骨転移による痛みというのは、早ければ放射線治療後1-2週くらいから和らぐことが少なくありません(なぜ痛みが放射線治療後早い時期に楽になるのか、いろいろな理由が推測されていますが、きちんと証明はされていません)。とても良いことなのですが、痛みが楽になってくると患者さんは当然身体を動かしたくなります。しかし、骨自体はまだ強度が不十分なままです。また逆に、骨転移により神経が圧迫されていたり、がんによる他の症状で身体の不自由さが残ってしまっていると、転倒などの危険はつきまといます。
除痛緩和的放射線治療を終了後せっかく痛みが楽になったのに、少し経過してから無理な体重負荷などで骨折をきたしてしまったため、もっとつらい状態にその後ずっと陥ってしまった患者さんも残念ながらいらっしゃいました。
患者さんの一般状態が許せば、骨転移に対しても外科的手術を行ったり、あるいは(ごく一部の)専門施設では骨セメント注入療法あるいはバルーン椎体形成術という特殊治療も行ったりするようです。ただ、現実問題としては(診療報酬とかマンパワーとか)なかなか難しい部分もあるようで、骨転移に対する積極的緩和治療としては放射線治療を選択する場合が多いようです…いや、放射線治療装置がない施設では放射線治療の選択肢すら考慮されないがん患者さんも少なからずいらっしゃるのですが…。
骨転移発症後のリハビリテーションも、病状や社会復帰などの目標により多様性に富んだ領域かと思います。骨折などのリスク回避は第一に重要なことなのですが、治療期間が長くなりすぎたりベッド上安静を保ちすぎたりすると筋力低下や特に高齢者では物忘れやせん妄を引き起こし、かえってその後の全身機能を低下させてしまう恐れもあります。
生命予後やがんの病状変化を視野に入れた、退院後のいろいろな生活環境も考慮しなければなりません。
「標準的」緩和的放射線治療「だけ」ならば、骨転移に限定した範囲で2週間で10回の照射設定であまり時間をかけずに1門か対向2門で「業務終了」です。もちろん1回、5回、それ以外の照射回数もありますが、アンケート調査結果では日本の放射線腫瘍医は10回治療が大好きみたいです。
しかし、標準的緩和的放射線治療以外の諸要素をさまざま考慮すると、放射線腫瘍医としても大変奥が深く、とても悩むのが骨転移の緩和的放射線治療だと思います。
私も恥ずかしながら、この頃になってようやくそれを強く実感するようになってまいりました。
(続く…)
骨転移で痛みや病的な骨折、脊髄神経損傷などがおきると、がん患者さんの生活の質が著しく低下してしまう可能性があります。
がんの骨転移による痛みをやわらげたり、がんに侵された部分の病的な骨折や近くにある神経圧迫などを防いだりと、放射線治療はがんによる骨転移の諸症状に対してとても有効な治療法の一つです。以前にも書きましたが、なにより決定的に痛み止めの薬と違う利点は、放射線治療である程度『腫瘍そのものの勢いを押さえる(≒縮小させる)』点、そして主治医側から見たらがんが完治せず根本的ではない局所治療(≒意味がない)と判断されていてもがん患者さんにとっては『治している実感が得られる』点です。
ちなみに日本放射線腫瘍学会2010 年定期構造調査報告によると、放射線治療実患者総数に対する骨転移患者さんの割合はおよそ13%前後、つまり7-8人に1人が骨転移に対する放射線治療患者さんでした。それでも他の先進諸国と比べるとまだまだ少ないそうなのですが…。
骨転移に放射線治療を行ってもがんで傷ついた骨が一瞬に回復するわけではない、という点は患者さん自身も私たち医療者側も充分気をつけなければなりません。がんの種類や骨転移の場所、病状にもよりますが、傷つき弱くなった骨が放射線治療後に再び石灰化して硬くなる(≒化骨化する)のは、経験的におよそ3か月以上はかかるように思います。がん細胞が邪魔をしている分だけ通常の骨折より回復が遅いのかもしれません。また、多くの場合で傷ついた骨が元の正常な形に戻るわけではありません。
一方で、骨転移による痛みというのは、早ければ放射線治療後1-2週くらいから和らぐことが少なくありません(なぜ痛みが放射線治療後早い時期に楽になるのか、いろいろな理由が推測されていますが、きちんと証明はされていません)。とても良いことなのですが、痛みが楽になってくると患者さんは当然身体を動かしたくなります。しかし、骨自体はまだ強度が不十分なままです。また逆に、骨転移により神経が圧迫されていたり、がんによる他の症状で身体の不自由さが残ってしまっていると、転倒などの危険はつきまといます。
除痛緩和的放射線治療を終了後せっかく痛みが楽になったのに、少し経過してから無理な体重負荷などで骨折をきたしてしまったため、もっとつらい状態にその後ずっと陥ってしまった患者さんも残念ながらいらっしゃいました。
患者さんの一般状態が許せば、骨転移に対しても外科的手術を行ったり、あるいは(ごく一部の)専門施設では骨セメント注入療法あるいはバルーン椎体形成術という特殊治療も行ったりするようです。ただ、現実問題としては(診療報酬とかマンパワーとか)なかなか難しい部分もあるようで、骨転移に対する積極的緩和治療としては放射線治療を選択する場合が多いようです…いや、放射線治療装置がない施設では放射線治療の選択肢すら考慮されないがん患者さんも少なからずいらっしゃるのですが…。
骨転移発症後のリハビリテーションも、病状や社会復帰などの目標により多様性に富んだ領域かと思います。骨折などのリスク回避は第一に重要なことなのですが、治療期間が長くなりすぎたりベッド上安静を保ちすぎたりすると筋力低下や特に高齢者では物忘れやせん妄を引き起こし、かえってその後の全身機能を低下させてしまう恐れもあります。
生命予後やがんの病状変化を視野に入れた、退院後のいろいろな生活環境も考慮しなければなりません。
「標準的」緩和的放射線治療「だけ」ならば、骨転移に限定した範囲で2週間で10回の照射設定であまり時間をかけずに1門か対向2門で「業務終了」です。もちろん1回、5回、それ以外の照射回数もありますが、アンケート調査結果では日本の放射線腫瘍医は10回治療が大好きみたいです。
しかし、標準的緩和的放射線治療以外の諸要素をさまざま考慮すると、放射線腫瘍医としても大変奥が深く、とても悩むのが骨転移の緩和的放射線治療だと思います。
私も恥ずかしながら、この頃になってようやくそれを強く実感するようになってまいりました。
(続く…)
前回投稿から1か月以上経過…
田舎の町医者なのに先月は毎週のように学会や研究会で遠出出張がありました(留守番の先生、申し訳ございません)。リアルタイムに日記を書かないと記憶が薄れてしまうけれど先送り、そろそろ旬が過ぎそう(というか記憶の限界)なので備忘録がてら久しぶりの投稿です。
先月の12~13日に東京で開催された第38回日本頭頚部癌学会に私も参加してきました。そして今回は珍しく演題発表までしちゃいました。
それはさておき、今回もっとも気になっていたのが、「臨床使用が始まって1年経過した頭頸部がんに対するセツキシマブと放射線治療の同時併用療法(以下、セツ照射)、各施設からどのような臨床報告がなされるのだろうか」という点。ブログで勝手に(3)まで書いておりましたし。
2日間にわたった学会で、セツ照射の発表は口演、ポスターをあわせて10演題以上もあり、気づけばうちの病院に所属されていた先生も演題発表をなさっていました。
特に初日のBRT(Bio-Radiation療法)セッションに多くが集中していたので、もちろん私も聴講。
事前に演題の抄録集に(行きの電車の中で)目は通していたので心の準備はできていたのですが、各施設の報告はどれも私の予想通り…いや、それ以上だったかな。
放射線治療との併用で起きるセツ自体の皮膚炎上乗せ効果はもちろんのこと、大半の施設の報告で提示された粘膜炎などの写真も、私が診察した数例の患者さんたち同様にかなり症状が目立つもの(Grade3以上)ばかりでした。症例によってはBRT終了後数週間も症状が遷延するらしいですし。
多くの症例を治療している頭頸部がん治療で有名な大規模施設では、治療中の皮膚ケアや栄養管理などいわゆるがんの支持療法がチームとして組織として治療早期からしっかり対応されています。そんな施設ですら(だから?)、粘膜炎がひどいBRTの栄養管理には胃瘻造設が必要といった報告が続きました。
標準治療である抗がん剤(シスプラチン)と放射線同時併用の支持療法と何ら変わらないじゃないですか!
また、大変気になったのが以前のブログにも書いた間質性肺炎の副作用でした。まだ多くの施設の発表がおよそ10例前後の初期経験でしたが、命にかかわる間質性肺炎症例との報告がちらほら。全部あわせた頻度としてはそれなりの症例数になります。
放射線治療との併用例で多いような個人的印象もありましたが、因果関係あるのだろうか?
当初「副作用が少なくて抗がん剤ができない高齢者を含めた患者さんに使いやすい」という触れ込みとはかなりかけ離れた初期臨床報告ばかりでした。
そういえば先日、私が乗り合わせたある乗り物の車中で、後ろに座っていた某有名大学と某がんセンター頭頚部外科の中堅先生方の雑談がたまたま聞こえてきました(耳をダンボにはしてましたけど…)。
「高齢者のBRT、全身管理が大変だし投与しにくいよね」
「高齢者のBRT、安全性の確認が全然足りないよね」
同意見です。高齢者への「安易な」セツ照射同時併用はすべきではないと個人的には思っています。
放射線治療との併用では頭頸部がんが初めての国内承認だし、各施設での市販後調査や副作用に対する啓蒙をもっとしっかりしたほうがいいのではないのかなあ?
セツの開発治験などを実施されてきたご経験豊富な施設の先生方は、どのようなお考えでいらっしゃるのだろう?
田舎の町医者なのに先月は毎週のように学会や研究会で遠出出張がありました(留守番の先生、申し訳ございません)。リアルタイムに日記を書かないと記憶が薄れてしまうけれど先送り、そろそろ旬が過ぎそう(というか記憶の限界)なので備忘録がてら久しぶりの投稿です。
先月の12~13日に東京で開催された第38回日本頭頚部癌学会に私も参加してきました。そして今回は珍しく演題発表までしちゃいました。
それはさておき、今回もっとも気になっていたのが、「臨床使用が始まって1年経過した頭頸部がんに対するセツキシマブと放射線治療の同時併用療法(以下、セツ照射)、各施設からどのような臨床報告がなされるのだろうか」という点。ブログで勝手に(3)まで書いておりましたし。
2日間にわたった学会で、セツ照射の発表は口演、ポスターをあわせて10演題以上もあり、気づけばうちの病院に所属されていた先生も演題発表をなさっていました。
特に初日のBRT(Bio-Radiation療法)セッションに多くが集中していたので、もちろん私も聴講。
事前に演題の抄録集に(行きの電車の中で)目は通していたので心の準備はできていたのですが、各施設の報告はどれも私の予想通り…いや、それ以上だったかな。
放射線治療との併用で起きるセツ自体の皮膚炎上乗せ効果はもちろんのこと、大半の施設の報告で提示された粘膜炎などの写真も、私が診察した数例の患者さんたち同様にかなり症状が目立つもの(Grade3以上)ばかりでした。症例によってはBRT終了後数週間も症状が遷延するらしいですし。
多くの症例を治療している頭頸部がん治療で有名な大規模施設では、治療中の皮膚ケアや栄養管理などいわゆるがんの支持療法がチームとして組織として治療早期からしっかり対応されています。そんな施設ですら(だから?)、粘膜炎がひどいBRTの栄養管理には胃瘻造設が必要といった報告が続きました。
標準治療である抗がん剤(シスプラチン)と放射線同時併用の支持療法と何ら変わらないじゃないですか!
また、大変気になったのが以前のブログにも書いた間質性肺炎の副作用でした。まだ多くの施設の発表がおよそ10例前後の初期経験でしたが、命にかかわる間質性肺炎症例との報告がちらほら。全部あわせた頻度としてはそれなりの症例数になります。
放射線治療との併用例で多いような個人的印象もありましたが、因果関係あるのだろうか?
当初「副作用が少なくて抗がん剤ができない高齢者を含めた患者さんに使いやすい」という触れ込みとはかなりかけ離れた初期臨床報告ばかりでした。
そういえば先日、私が乗り合わせたある乗り物の車中で、後ろに座っていた某有名大学と某がんセンター頭頚部外科の中堅先生方の雑談がたまたま聞こえてきました(耳をダンボにはしてましたけど…)。
「高齢者のBRT、全身管理が大変だし投与しにくいよね」
「高齢者のBRT、安全性の確認が全然足りないよね」
同意見です。高齢者への「安易な」セツ照射同時併用はすべきではないと個人的には思っています。
放射線治療との併用では頭頸部がんが初めての国内承認だし、各施設での市販後調査や副作用に対する啓蒙をもっとしっかりしたほうがいいのではないのかなあ?
セツの開発治験などを実施されてきたご経験豊富な施設の先生方は、どのようなお考えでいらっしゃるのだろう?
| ホーム |