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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 今日はほっとすることが2つありました。


 1つは地元の友人の奥さんの乳がん手術が無事に終了したこと。

 私は放射線腫瘍医なので、乳がん手術後の患者さんに接する機会が多いです。私と同世代の方々が乳がん好発年齢ということもあって、私の友人などの闘病話を伺う機会が徐々に増えてきました。
 
 友人の奥さんは最初に診断を受けたお医者さんから地元病院の治療を勧められたようですが、知り合いのつてで院長が健康本などで有名な東京の某クリニックでの治療かの選択で悩んだようです。

 人それぞれいろいろな考え方があると思いますが、個人的にはその施設でなければできない特殊な治療でなく標準的な(≒普通の)治療を行っている乳腺外科専門の先生がいらっしゃるなら地元のほうが楽じゃないかなあ?と思っています。
 身体が「楽」だし、気「楽」だし、身近な友人ができて「楽」しいし。

 もちろん知り合いが周りにいないほうが楽という方もいらっしゃるでしょう。遠方であっても今は通信手段を使って話ができますし、患者さん交流会などもあるでしょうし。
 でも、長い目で見たときに遠距離は負担になりますからね。有名だからって腕が…いや、相性が良いとは限らないし。

 で、お二人で熟考の末に地元で手術をうけることを選択され、今日の手術成功となりました…ま、そこも有名な病院なんですが。

 まずはよかったですね!


 2つ目は私の父が無事退院したこと。

 父の病気は命にかかわるものではなかったのですが、やはり入院して手術というのは高齢者には心身ともに大変です。母も健在なのですが父の入院は心配だったようで、最近の私のスマホには普段あまりない業務時間中の留守番電話が何度か入ってきました。

 実は父母とも数年前から我が家の近くに移住してきておりまして、今回入院したのは我が家から一番近い病院。しかも主治医は私の高校・大学の先輩。その点では私も「楽」でした。大変お世話になり、ありがとうございました。

 まずはよかったです!


 かんぱ~い!といきたいのはやまやまなのですが、今夜は病棟待機。明日の歓迎会(同じ病棟の他科のお医者さんが今月着任したので)まで我慢いたします。

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【2014/10/30 23:10】 | 普通の日記
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 先週末、某大学放射線科の同門会(OBや現役医局員らの集まり)がありました。私、2つの放射線科同門会への参加資格を有していますが、今回は私の卒業大学のほうでした。
 年1回、この時期に開催されます。

 例年通り今年も1次会は初めに勉強会・総会。昨年度大学院を卒業し学位(博士)を取得した先生がたの発表、海外留学した先生や関連病院の近況報告などを拝聴しました。その後、みんなで記念撮影をして懇親会へ。通常ここまでは出席者全員が参加します。
 懇親会の後、会場を移して2次会へ。こちらは参加者が(元)教授先生とか各病院の部長さんとか新入医局員さんになることが多く、参加平均年齢はぐっと上がります。
 反西洋医学系の某サイトで「医者の平均年齢は50才なかば」なんて記事を最近見かけましたが、この会に参加しているといったいどこの話?って感じがします。還暦過ぎた先生方も多くの方がお元気です。身体も胃袋も頭も口もみ~んな元気!

 放射線科って長寿の診療科なのか? もしかして放射線ホルミシス効果??


 さて、本題に入ります。

 2次会の宴もたけなわのところでご年配の大先輩からスピーチがあり、なんとも驚きの放射線治療現場での逸話を2つご披露いただきました。

 以下にご紹介いたします。なお、2次会の席でしばし飲食した時の記憶をたどって書いているので、私の思い込みが(もしかしたらかなり)入っちゃっているかもしれない点はご容赦ください。

*******************************

【逸話その1】

 その昔、鼻の横にある副鼻腔にでてきたがんに、顔の正面から放射線治療を行っていた患者さんがいました。放射線治療開始から数週間経過すると、なにやら頭のてっぺんの一部髪の毛が抜けてきた。明らかに放射線があたっているような脱毛の所見です。

 「そんなはずはない。確認してこい」と上司の先生。

 当時はコバルト60というガンマ線源を使って放射線治療を行うテレコバルト装置が主流でした。この装置、コバルト線源から出るガンマ線の量がだんだん少なくなってくるので、状況によっては1ケ所照射するのに数十分もの長時間を要することがあったようです。

 さっそく確認に行った所、患者さんの治療位置合わせはきちんとなされているし、放射線治療も予定通りに進められていました。しかし、いざ治療が始まってしばらくするとその患者さんの目がうつらうつらしてきました。

 みなさんも電車の中などでつい寝てしまったことはないでしょうか。座りながらうたたねすると無意識のうちにこっくりこっくり頭が前後や左右に揺れてきます。そのうち完全に後ろのガラスに頭をくっつけたまま熟睡したり、たまたま隣に座っていたあかの他人の肩によりかかってしまったり。

 そう、その患者さんも最初は同じ姿勢でじっと座っていたのですが(当時の照射装置は座って治療ができたんですね!これはこれで一部の患者さんにとってはすごく楽:写真は医用画像電子博物館HPから借用)、時間が経つにしたがって頭がこっくりこっくりしはじめ、しまいに頭を完全に前に垂れながら寝てしまったのです。もともとは顔の前方から放射線を照射していましたが、寝たことにより元の顔の位置に来た垂れた頭のてっぺんにずっと照射されてしまっていた。当時は部屋から出てもドアにロックがかかっているわけでもなく監視モニターもなかったので、きちんと確認するまでわからなかったようです(今なら大問題です)。
 毎回同じように気持ちよく寝てしまったのでしょうね。その結果、想定外の頭に部分脱毛が起きてしまったというわけ。

 がんのある場所とは全く別の方向に放射線治療! これでは治りません…


 なお今は、きちんと頭を支えて位置がずれない治療補助具を使っている(はずだ)から大丈夫です。

http://www.jira-net.or.jp/vm/data/1951000003/1951000003_all.html




【逸話その2】

 その昔、お腹に放射線治療を行っていた高齢の男性患者さんがいました。当時の装置は皮膚表面の放射線量が今よりずっと多かったので、数週間経過すればお腹の皮膚が日焼けのように赤くなり下痢などの症状も強く出やすかったそうです。しかし、その方は放射線治療が進んでも皮膚炎も起きないしケロッとしている。なんかおかしい。

 「そんなはずはない。確認してこい」と上司の先生。

 高齢の男性ってすぐに尿意をもよおしトイレが近くなることが多いですよね。長時間のバス移動などはかなりつらく、普段からオムツ着用されている方もいます(私はまだ大丈夫そうです)。しかもお腹に放射線治療をしていると、腸や膀胱の粘膜炎が進んでさらにトイレが近くなることがよくあります。

 (繰り返しになりますが)当時は1カ所照射するのに数十分もの長時間を要することがあったようです。患者さんの治療位置合わせはきちんとなされているし、放射線治療も予定通りに進められていました。しかし、いざ治療が始まってしばらくするとその患者さんは身体をモゾモゾしはじめました。

 そしてなんとあろうことか、放射線治療のまっ最中に自分で勝手に治療台から降りてトイレへ用足しに行ってしまったのです。当時は部屋から出てもドアにロックがかかっているわけでもなく監視モニターもなかったので、きちんと確認するまでわからなかったようです(今なら大問題です)。
 放射線は患者さんがいなくても出続けていましたから、毎回トイレに行っていたことにより実照射時間はかなり短くなった。しかも自分で勝手に治療台を降りて勝手に戻っているからもともとの正しい位置に照射されているわけがない。だから副作用が少なかったし、皮膚の影響もほとんど出なかった。

 がんのある場所とは全く別の場所に放射線治療! これでは治りません…


 なお、今の時代は、治療中に身体が動いてないか確認する監視モニターなどが操作室にある(はずだ)から大丈夫です。

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 これらは今年50才を迎えた私が医者になる前、たった○○年くらい前の実話です(記憶が間違ってなければ)。わずか数㎜の治療精度を学会で熱く議論する、そして放射線治療の危機管理体制を様々な面から整備する現在からは、とても考えられないお話です。

 なんとものどかな、いやはや凄い時代だったのですね。


 大先輩、昔の貴重な情報をご教示賜り、まことにありがとうございました。二度とそのようなことが起きないよう、私たちも充分留意いたします。


【2014/10/29 19:23】 | 放射線治療:よもやま話
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 緊急照射はスタッフがそれなりにいるがん拠点病院のうちでも大変です。まして、そうでない地方施設での対応は至難かもしれません。私、そういう施設でも何年も仕事をさせていただきました。ただ、単なる綺麗ごとのボランティアやスタッフの時間を搾取する半強制労働では長期間続きがたいものがあります。
 患者さんのためにという理想論やべき論を書籍やネットや講演などで語る都会の大学病院やがんセンターでしか常勤で仕事をしたことない偉い先生方がいますが、実感としてどこまでわかっているのかなと思うことがままあります。ま、これは緊急照射に限った話ではありませんね。

 とはいえ、何らかの対応策を検討し、無理なく可能な範囲から始めることが求められる時代になってきているのも確かなようです。何を今ごろ、普通の企業では当たり前だ!という反論も出そうです。

 施設内の既存のメンバーで調整対応が可能ならそれで頑張る(もちろん代休やお手当などの待遇改善付きで)というのはもちろん一つの手です。

 それ以外に個人的に思いつく対策案を以下に挙げてみます。他にもいろいろな意見はあると思いますので、機会がありましたら是非ご教示くださいませ。スタッフの給与や代休に関してもとても大事な課題ですが施設毎に方針が様々ありそうなので、あくまで労働としてどう対応するといいだろうという点に絞らせていただきます。

1.各地域で緊急照射病院の輪番制をとる。あるいはがん拠点病院が代表して地域患者さんを受け入れる。
  ただし、がん緊急の患者さんを他施設まで搬送するというのはかなりハードルが高いです。しかも放射線治療が可能な施設なのに他の病院までわざわざ緊急搬送するのは心情的に…というのは前回も書きました。  

 その後の患者さんの全身管理をどうするかという課題はあります。当日に緊急1回照射したらまたお戻りいただくという手もありますが、何時間もかけて来院された後にまた同じ時間かけて戻るというのはたしかに大変です。
 現在、厚生労働省からがん拠点病院に緊急緩和ケア病床を推進という話が出ています(平成25年9月5日 緩和ケア推進検討会第二次中間とりまとめ(報告書))。ここが受け皿になるという手はありそうですが、やはり各施設・診療科間や患者さんサイドとの連携が課題です。これも緊急照射だけの問題ではありません。

2.各地域で決めた休日当番の放射線腫瘍医や放射線技師さんが該当病院まで出張支援する。
 あるいはネットを使い放射線腫瘍医が遠隔で放射線治療計画を行うという方法もあります。その施設の主治医や救急担当医が診察をし、情報共有しながら放射線治療を施行すればいい。
 常勤の放射線腫瘍医がおらず週に1-2回非常勤出張支援でやりくりしている病院、常勤医が1人(以上)いても学会出張などで不在となる日がある病院では、平日日中ですら緊急照射対応が難しくなります。

 しかし、少なくとも放射線技師さんはその施設の担当の方が行ったほうが良いでしょうね。放射線技師さんは機械の操作は使い慣れた施設のスタッフでないと事故のもとです。ただ、そうなると前回も触れたとおりで院内での業務不平等が発生しがちです。

3.標準的な対応の参考になるよう緊急照射ガイドラインを作成する。一つの目安があると現場としては助かる部分もあります。
 緊急照射は治療精度より時間との戦いが重要です。基本、後遺症が出るような総線量ではないので、(多少)広めでアバウトな治療設定は許容されます。むしろ下手に時間をかけすぎるとデメリットの方が大きくなる恐れが高まります。

 対象疾患や治療法を具体的にどう規定するか、世界的に見てもなかなかエビデンスといえるものがまだない領域です。また、対応力に地域間・施設間格差がありすぎます。文書化は簡単ではないかもしれません。
 もちろん放射線治療以外の緊急治療もあり、整形外科や脳外科など他学会との共同検討も必要なのでしょう。


 さしあたりこんな所でしょうか。


 先日の「休日照射・緊急照射」を主題とした研究会では、3つのカテゴリーに分けた課題がおよそ明確になりました。

1.緊急照射:他職種連携を含めた時間の勝負
2.休日照射:長期連休の対応
3.平日早朝夜間照射:就労支援対策

 いずれもスタッフの人員整備が一番の課題で、個人的に思いつく対応策はこれまでにあげた課題を含め重複する部分もありますが、休日照射や平日早朝夜間照射についてはまた別に話題に取り上げてみたいと思います。お国や上司などからがん拠点病院として試行を打診されていることもありまして、休日・平日早朝夜間照射も前向きな検討が求められる時代になってきました。

 今回の研究会では時間的制約もあり「どこもなかなか大変だよね」という問題抽出で終了し、いささか物足りなさを感じました。「はてさて、ではどうしたら?」という『具体的な対策』を日本放射線腫瘍学会あたりでいろいろ検討しないといけなさそうな内容かもしれません。

 もしかして私は平社員だから知らないだけで、すでに検討されてます??


 このあと研究会の発表報告文書を提出しないといけないのですが、このブログを使って書けそうです(笑)。ただ、今回の3つと以前の休日照射2つ、全部で5つのブログ約10000字(+α)を指定の2000字程度に減量しなければいけません…


【2014/10/26 23:48】 | 放射線治療:一般
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 今日は日本医学放射線学会の地方会があり、私も口演発表をしてまいりました。

 演題名は「自力移動困難な照射症例に対する身体苦痛軽減目的の乗せかえ装置付き車椅子」

 長ったらしい演題名ですがこれで充分な要約ともいえたので、思い切って文字はほとんどなく画像だらけのスライドにしてみました。私の人生の中で最も文字数の少ない発表でした。
 実は先日、ある発表(MEDプレゼンってやつ)を聴きに行き、スライドに文字がなくても語り方やボディーランゲージで充分にプレゼンとなるなと改めて意識し、ちょっと真似してみようかな~と思いまして。
 でも、「お前、スライド作り、手抜きしただろ!」って指摘を受けそうで、あえて自分から前振りで発表の冒頭で「手抜きなし(?)」の予防線を張っておきました(笑)

 ボディーランゲージはこっ恥ずかしく結局できませんでした…


 ということで、***以下に演題抄録として以前提出したものを少し改変して転載いたします。

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 車椅子を利用する照射患者さんが段差と高さのある放射線治療寝台へ移動する際、診療放射線技師さんや看護師さんらが患者さんの身体を支えて介助することがあります。

 痛みなどがんの諸症状を発症していたり、脳こうそく後遺症などの合併症があったり、抗がん剤治療などで多くの点滴をつけていたりと、車椅子から自力移動困難な場合が少なくなく、また介助による転倒や骨折などのリスクは現場スタッフを悩ませる問題点の一つでもあります。
 また、病棟スタッフも人員不足でベッドのままの移動でなく車椅子に乗り換えて治療室まで移動せざるを得ない場合があります。

 患者さんにとっては痛かったり辛かったり、スタッフにとっても支えが不安定で心配だったり力が必要だったり、筋骨隆々の男性技師さんならまだしもかよわき女性の若い技師さんや看護師さんだと業務とはいえ男性患者さんの身体を抱きかかえながら移すことにいささか抵抗があったりもします。

 そのような患者さんに対し毎回の放射線治療そのものに伴う負担を改善する方策として、患者さんに過度の負担を与えず医療スタッフの労力軽減にも効果があるとして介護分野などで利用されている「乗せ換え装置付き車いす」(HS-300、㈱いうら社)を今年の3月にうちの病院で導入してみました(写真)。
http://www.iura.co.jp/products/hs300/index.html

 この機器の最大の長所は、車いす(坐位)からストレッチャー(臥位)にゆっくりと形が変わり、付属の繰り出しベルトで苦痛が少なく治療寝台や病室ベッドに乗せかえが安全に楽にできる点です。若い放射線技師さんから「くるまいすとれっちゃー」というわかりやすい呼び名をつけてもらいました(でもスタッフ全員がそう呼んでくれるわけではありません…)。

 これまでに骨転移そのもので移動が難しい患者さんと脳こうそく後遺症で半身不随の患者さんと脳腫瘍で体調不良の患者さんの放射線治療にくるまいすとれっちゃーを使用しましたが、ご利用いただいた患者さんからは「楽に放射線治療が終われました」というお言葉をいただきました。

 車いすの患者さん全員に必要というわけではないでしょうが、安全安楽に放射線治療を行うための有効な補助具としてこれからも活用したいと思っています。

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 今回の発表後、フロアから「普通にベッド移動でもいいのでは?」的な質問がありました。

 たしかにその通りで、うちの病院でも実際多くの入院患者さんはベッドで臥床したまま移動してきます。しかし、ベッドのままで院内移動や待機というのは「重症感があって抵抗がある、恥ずかしい」という患者さんのご意見もあります(以前からそんな話を看護師さんたちから伺っていました)。

 病棟看護師さん的にもマンパワーが不足しがちな要素です。でも、くるまいすとれっちゃーなら看護助手さんやお付き添いの方でも治療室まで比較的楽に連れていただくことができます。外来通院で車椅子移動を要する患者さんでも、くるまいすとれっちゃーが役に立つ方はいそうです。

 他の用途として病室から他科の外来診察に行く時も、ベッド移動でなく車椅子移動のほうが外来の待合スペース的に便利です。治療台に限らず、病室ベッドから車椅子移動も危険を伴う恐れがあります。

 安全安楽な小道具がいろいろあるって良いと思いません?

 さらにちょっと改良するともっと使い勝手がよくなりそうなのですが、それはこれからの課題です。どこかの研究開発費、獲得できないかなあ?


 おかげさまで12月の日本放射線腫瘍学会でもポスター発表として演題採択されました。文字ばかりでごちゃごちゃは避け、「私の人生の中で最も文字数の少ないポスター発表」にしたいと思います。

 手抜きをするつもりではございません!


くるまいすとれっちゃー

【2014/10/24 23:27】 | 放射線治療:支持療法・アメニティ
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 放射線治療担当技師さんの現状の休日体制について

 ごく一部の大病院のように放射線治療部門と診断部門の技師さんたちがたくさんいて組織図上でも両所属が別れているならば、両方で病院夜間休日当番をそれぞれ組むのは比較的容易かもしれません。
 しかし、普通の病院では一つの放射線技師部門として診断と治療をある期間固定しながらローテーションするのが一般的です。そして夜間や休日は交代で1~2人体制で出勤や待機をします。うちの病院もそうですが、放射線技師さんが全員で10~20数人程度しかいないので月に何回か時間外当番となります。
 そして普通は救急外来や病棟患者さんの放射線検査業務で手一杯という状態が日常茶飯事です。そんな中で当番技師さんを緊急照射に駆り出すのはなかなか難しいものです。無理強いすれば様々なスタッフから非難ごうごう間違いなしです。下手をすれば医療事故の原因にもなり得ます。

 治療部門の規模が小さな施設だと1-2名の放射線技師さんだけで治療装置を担当している所が結構あります。1-2名の治療担当技師さんだけで夜間休日当番態勢というのは現実的に厳しいです。診断部門と比べて明らかに不平等な待遇です。時間外待機料無しなんていうブラック系病院は、いまだにとても多いようですし。。。(病院から呼ばれて業務をしたらもちろん時間外手当はありますが)。
 ちなみにうちの病院は数名の治療担当放射線技師さんがいらっしゃるので恵まれています。申し訳ございません。

 前回ブログで休日照射を多数行っていると紹介したOdette Cancer Center (Canada)の休日体制は、なんと放射線腫瘍医1名、診療放射線技師2名、全員が治療専属です。日本の中規模一般病院の平日通常業務並みです!
 こんなことを日本で普通に行っている施設ってあるのかなぁ?

 前回ブログ投稿の後、他の科の先生から「某病院でのかつての経験では、休日緊急照射の装置操作は医師一人で行っていました。放射線科医って、MRI、CTも撮影できて、照射装置も一人でできるんだと、尊敬、感銘を受けました。」というお話を伺いました。たしかに医者は放射線機器の操作・撮影が法的に可能です。医師免許って(ほぼ)なんでもありです。
 開業医さんでもご自身が放射線検査の撮影をなさっている所もありますね。看護師さんらしき人が撮影している診療所もあるらしいですが。。。駄目ですよ!

 しかし昔と違って、医師がなんでも装置を扱える時代ではなくなってきています。システムが高度化しすぎていて、中途半端な操作はかえって危険です(前回も書きました)。

 
 他の病院でがんによる緊急症状になった患者さんの対応について

 うちの病院には、緊急照射を必要としそうなMSCC(悪性腫瘍による脊髄圧迫)疑いのため放射線治療機器を有しない他院から救急車などで緊急搬送される方が年に数例います。
 手術の適応があるかどうかを含め、整形外科の先生方同士が連絡して転院という形をとっていただくことが多いのですが、在宅がん緩和ケアで療養中の方や状態的に明らかに全身麻酔手術は無理そうな方の場合、主治医の先生からうちの放射線治療科へ緊急照射の直接依頼が来ることもあります。もちろんそのような場合でも、MRIなどの検査結果を踏まえ来院後に整形外科の先生らにも相談をして手術か緊急照射か(経過観察か)を診断します。

 うちの病院ではその後のリハビリを含めて暫定入院される場合もあれば、1回照射で当日そのままお帰りいただく(ご依頼元の病院・施設に戻る)場合もあります。整形外科などの先生がたのご尽力もあって受け入れ体制は整備されていると思いますが、放射線治療装置を有するどこの病院でもそうかというと私の知る限りそうではありません。

 治療担当放射線技師さんのマンパワー問題と同様に、そもそも放射線腫瘍医がいない施設が少なからず存在することも大きな問題点です。がん診療連携拠点病院という各地域でがん医療の中心を担うべき中核施設ですら、常勤の放射線腫瘍医が不在という所がまだまだあります。
 日本放射線腫瘍学会による2010 年定期構造調査報告(第1報)では、アンケートに協力した全国の放射線治療施設の半数近くが常勤の(必ずしも専門医ではない)放射線腫瘍医が不在か1人の常勤医しかいないと回答していました。残念ながら今もその状況は劇的に改善していないと思われます。

 放射線腫瘍医不在の施設で緊急照射を行う体制をきちんと整えるのはなかなか難しいと思います。代わりに他科の先生が緊急照射の準備を行うことも不可能ではありませんが、中途半端な操作はかえって危険です(何度も繰り返して申し訳ございません)。

 とはいえ、放射線治療装置がある施設から緊急照射を行っている別の施設へわざわざ転院というのも患者さんや身内の方がたからすれば素直にご納得しがたい部分はあるでしょうね。


 慢性的なスタッフのマンパワー不足、放射線治療分野では緊急照射においても深刻な問題です。


(今回は現場の医療者側の目線中心に書いてしまいました…まだ終わりません)


【2014/10/15 21:28】 | 放射線治療:一般
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 今月下旬に開催される放射線治療の某研究会で「休日照射・緊急照射」が主題テーマとなりました。私も演題発表担当の一人に任命され、現在スライド準備中です。

 「休日照射」と「緊急照射」

 似て非なる、現場的にはそれぞれなかなか難しい問題がいろいろとある、そして全国的にも施設によって方針がかなり異なるだろうデリケートなテーマだと思います。当番世話人の先生はアンケート調査を実施されていて(うちの施設も協力)、研究会でご発表予定とのこと、とても興味深いです。


 休日照射については以前のブログで投稿したことがあります。「大型連休における照射について(1)(2)」。せっかくですし今回のスライド発表ではこれも再利用する予定です(笑)。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-29.html
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-30.html

 もう一つのテーマである緊急照射ですが、「平日の時間外または休日(つまり通常の業務時間外)に、がんによる緊急症状に対して臨時に行う放射線治療」のことをさします(定義は私見)。今回のブログでは、緊急照射についてうちの施設での体制や課題を中心にまとめてみることにしました。


 私が今の病院に着任してから3年余り経つのですが、休日に緊急照射依頼があったのは1例です。平日午後~夕方に飛び込みで緊急照射依頼があったのは平均すると月1例程度(なぜか金曜が大半)、スタッフのご協力を仰いでその日の夜までに緊急照射を行いました。
 依頼のほとんどが悪性腫瘍による脊髄圧迫(Malignant Spinal Cord Compression:以下MSCC)でした。

 下半身マヒなどがあっという間に進行し、がん患者さんの生活の質を永久的に著しく低下させてしまうおそれがあるMSCC。放射線治療計画ガイドライン2012年版(日本放射線腫瘍学会編)ではマヒなどの症状が出たらできるだけ早く治療開始することが重要と書かれています。
 完全マヒになったら2日以内に緊急照射を行わないと回復する見込みはほぼ無いと報告されています。
Loblaw DA, et al. JCO 1998; 16: 1613-1624
 また、患者さんの状態が良ければ手術をした後に放射線治療を行ったほうが治りは良いとも報告されています。
Patchell RA. Lancet 2005; 366: 643-648

 MSCCについては、また改めてブログにしてみたいと思います。


 どんながんによる症状を緊急照射の対象にすべきか、実はきちんと定まっていないようです。でも、MSCCは第1選択です。肺がんなどで上半身が浮腫んでしまう上大静脈症候群も緊急性が高い病状で、他にも脳転移や出血や閉塞なども対象になりえます。

 緊急照射に関連する論文報告って世界的に見ても(意外に)とても少ないようです。

 2年間でなんと161例もの休日緊急照射を行ったOdette Cancer Center (カナダ)からの報告では、MSCCを含む脊椎病変が70%、脳転移が15%、上大静脈症候群を含む胸部病変が10%と、この3部位で緊急照射の大半を占めていたそうです。年間新患数が5200件もある施設なので、多い施設でもその数分の一しかない日本とは単純な比較はできませんが、個人的におよその傾向は合っているような気がします。
Mitera G et al. Curr Oncol. 2009; 16: 55–60


 時間外緊急照射となると、スタッフの人員整備が大きな問題です。どの業界でもきっと同じでしょう。

 うちの施設で緊急照射に対応するスタッフ。放射線腫瘍医は病棟待機が誰か1人いるのでその人が対応することになります。放射線部門外来看護師さんは放射線部全体の待機がいます。でも(忙しくなければ)救急または該当患者さんの病棟看護師さんにお手伝いしていただくことも一応可能です。
 診療放射線技師さんは診断部門と兼務の(というかほとんど診断の)時間外待機技師さんがいます。ただ、実は全員が治療装置を扱えるわけではありません。逆にCTやMRIを操作できない技師さんというのもいます。これは私の知っている施設ではほとんどがそうかもしれません。

 「なぜみんな操作ができないのか?」、「なぜきちんと治療待機担当を作らないのか?」というご意見もあろうかと思います。でも、昨今の放射線装置はどれも特殊すぎて普段扱っていない技師さんに機械の操作をいきなりお願いすることは正直容易ではありません。数年も使用していない、あるいは使ったことのないコンピューターや携帯電話をいきなり使えと言われても無理なのと似たようなことです。治療装置などは中途半端な操作はかえって危険を伴います。
 幸い(?)今の所、うちの治療担当技師さんたちは近隣に住む方々が多いので全員が週末2日間も連絡つかないという事態はまずありません(絶対ではないでしょ?と言われればそうですが…)。

 3年半で1回行った休日緊急照射は5月の連休ど真ん中のことでした。たまたま私が当番の時だったのですが、当番の診療放射線技師さんが少し前まで放射線治療担当だった方でラッキーでしたし、また放射線治療担当の技師さんも一人休日の中お手伝いに来てくれました。

 たまたまでは?と言われればそうだったかもしれません…。


(さらに続きます)


【2014/10/13 22:31】 | 放射線治療:一般
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