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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 ここ最近、うちの施設では院内外から毎週のように緊急照射依頼があります。先週は1週間で4例も。
 不謹慎で申し訳ございませんが、続く時ってなぜか続くようです。場の流れがあるかのように。緊急照射ではありませんが、めったに経験しないがんの患者さんの放射線治療依頼が続けて2~3人続くこともこれまで何度か経験しました。しかもその後はそのがんの照射依頼がピタッと途絶えてしまい。せっかくいろいろ調べたのに…もちろん、その時に出会ったご依頼患者さんたちのために調べているわけですが。


 昨日も夕方に緊急照射のご依頼があり、段取りに手慣れた(?)うちの治療スタッフの迅速な連携と協力のもとで主治医の先生からあった最初の電話から2時間弱で緊急照射を行いました。治療スタッフのみなさん、いつもありがとうございます。

 ここ数日で急に身体の自由が利きにくくなり救急車で来院された患者さん。諸検査の結果を複数診療科の先生方と協議のうえ、患者さんご本人とも相談し当日の緊急照射とあいなりました。
 その患者さん、実は何年も闘病生活を送られ手術経験は数回ある(ベテランの)方なのですが、今回はおそらく初めて経験される身体の自由が思うように効かない状態でした。しかもベッド上安静で、いきなり勧められたのは(いくらご説明をしたとはいえ)何をされるのかおそらく見当がつきにくいであろう人生初の放射線治療。当然のことながらかなり不安があった様子にお見受けしました。
 
 ともあれ緊急照射は無事終了しました。放射線治療装置からベッドに移られた後、「人事を尽くしておりますし、良い経過になることを信じましょう」と私がお話しすると、「ありがとうございました」と患者さんのお礼の言葉とともに私に右手を差し出されました。


 緊急照射というのは突然の臨時依頼に対し治療スタッフの迅速な協力があって実現するものです。私一人(≒医者だけ)で到底できる治療ではありません。本当であれば関係スタッフ全員と握手が交わせればもっとよかったのでしょうが、時間的制約など諸事情でなかなか全員が揃うことは簡単ではありません。また、患者さん自身も冷静に治療をお受けしているわけではないことが多々あります。治療が終り落ち着いた気分の時にようやくきっとそういう気分になれるのでしょう。


 ということで、今日はみんなを代表して私が握手に応じさせていただきました。力強い握手でした。とてもうれしそうな表情に感じました。患者さんご自身も、お礼だけじゃなく「きっとよくなる」と決意表明をするような気分だったのかな?
 後日また再診で体調を伺う予定です。スタッフ一同で今日より回復していることをお祈りしております。

 最後にもう一度。スタッフのみなさん、いつも迅速で効率よい緊急照射のご対応、ありがとうございます。もちろん普段の業務にも大変感謝しております。

 
 ブログ(文章)って面と向かってはなかなか照れくさくて言いにくいことも気軽に書けていいですね。

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【2014/11/27 01:28】 | 放射線治療:よもやま話
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 「筋層浸潤性膀胱がんの化学放射線治療」総説執筆依頼(その2)を書いてから2か月以上も経過してしまいました。実はすでに初稿を某出版社さんへ提出はしていたのですが、なかなか手元に戻ってこなかったのです。

 私も放射線治療を専門科として標榜しているとはいえ、査読という他の専門の先生方からの審査(≒ダメ出し修正)をいろいろ受けてからと思っておりまして(その1、その2も間違ったことは書いてないと信じているのですが…)。で、無事に先週郵送されてきて、おかげさまでほとんど修正することもなく再提出の運びとなりましたので、その3をブログ仕様で***以下に書いてみました。

 査読、されてたのかな…?


**********************

 筋層浸潤性膀胱がんに対する放射線治療をプランするうえで気をつけなければいけない、というか私にとって気になる定かでない点が2つあります。

(1)骨盤リンパ節領域を照射範囲に含めるべきか?
(2)膀胱の照射範囲をどうするか?



(1).筋層浸潤性膀胱がんは明らかな骨盤リンパ節転移が確認されない状態のことでもありますが、手術をしてみたら見えない顕微鏡レベルでのリンパ節転移が少なからず存在したことが大規模な手術結果から示されています。
Stein JP et al: World J Urol 24 :296-304,2006

 世界的に有名な放射線腫瘍グループであるRTOG(Radiation Therapy Oncology Group)の一連の化学放射線療法の臨床試験では、骨盤リンパ節領域への予防照射(=目に見えない小さな転移があるという前提で広い範囲に照射すること)が採用されています。なお、大半の臨床試験で『総腸骨動脈領域を除いた(いわゆる小骨盤)照射範囲を採用』している点には留意すべきです。

 一方、Fourth International Consensus Meeting on Bladder Cancerでは、照射範囲は全膀胱+2㎝としていて(これでも膀胱周囲の高危険リンパ節領域はある程度含まれます)、この照射野を採用したBC 2001試験では骨盤リンパ節再発がわずか5%ほどでした。
James ND et al:N Engl J Med 366:1477-1488,2012
 また膀胱に限局した照射野でも骨盤リンパ節再発に明らかな差はないとする単施設の第III相臨床試験も報告されています。
Tunio MA et al:Int J Radiat Oncol Biol Phys 82:e457-462,2012
 今年報告されたばかりの日本の全国調査(JROSG)でも、最初から膀胱限局照射野だった症例が全体の49%も占めていたにもかかわらず、骨盤リンパ節再発がわずか4例(0.25 %)かつ全てが照射野外でした。臨床試験ではありませんが、日本人でも骨盤リンパ節領域への予防照射が必須ではないことが示唆された報告です。
Maebayashi T et al:Jpn J Clin Oncol 44:1109-15,2014

 骨盤リンパ節再発ですら、まして生存率は…筋層浸潤性膀胱がんに対する骨盤リンパ節領域への予防照射の意義、実はまだはっきりしていないというのが現状のようです。


(2).一般に腹部への放射線治療を行う場合、放射線に敏感な小腸への総線量60Gy(以下1回2Gy換算)を超える照射(特に抗がん剤併用)は粘膜出血や穿孔のリスクが高まるとされ、臨床試験では50Gy程度に制約されることが多いようです。

 一方、筋層浸潤性膀胱がんに対する化学放射線療法では、小腸などを可能なら照射野外にという但し書きはあるものの国内外の診療ガイドラインでは膀胱への総線量を60~70Gyとしています。
 2009年にRTOG試験群で5年経過観察した骨盤内の晩期副作用報告がなされました。ほとんどの症例で全膀胱+2㎝マージンで総線量60Gy相当を超える同時併用化学放射線療法が行われましたが、重い症状であるグレード3(RTOGスコア)副作用は全体の約7%(尿路系5.7%、消化管1.9%)、腸管穿孔や壊死または膀胱を含めた命にかかわる出血などは0%でした。
Efstathiou JA:JCO 27:4055-4061,2009
 その他にも膀胱線量60Gy相当の照射がなされた報告はいろいろありますが、膀胱と小腸の位置関係から 2㎝マージンで小腸の一部が高線量域に含まれる症例は少なくないようです。しかし、小腸に関し重篤な晩期後遺症を大きく問題視した報告は私が調べた限り確認できませんでした。

 膀胱、小腸とも動く管腔臓器であり、正確で信頼できる耐容線量の評価はいまだ不充分(のよう)ですが、膀胱に限局した小さな照射野であれば小腸は60Gy程度の同時併用化学放射線療法でも許容されるのかもしれません(あくまで私見であり、実臨床においては慎重な対応をお願いいたします)。なお、最近のガイドラインでは骨盤照射54Gyとしているものもありますが、その根拠はあまり明確にされていないように思われます。

 今後は、画像誘導放射線治療(IGRT:Image-Guided RadioTherapy)を利用した高精度放射線治療や粒子線治療による照射範囲の縮小・治療成績向上が期待されています。なお、筋層浸潤性膀胱がんにおける放射線治療計画の輪郭描出など技術面の記載はオセアニア(FROGG)のガイドラインで比較的詳しく、こちらも参考にしていただければと思います。
Hindson BR et al:J Med Imaging Radiat Oncol 56:18-30,2012

*************************

 以上、2か月もブランクがありましたがブログ版3部作でした。

 筋層浸潤性膀胱がんの化学放射線療法って「長い治療休止期間がある」「抗がん剤の標準メニューが定まり切れてない」「日本だけは依然として動注が主役」「骨盤リンパ節への予防照射意義が不明確」「救済手術が前提」など不確定要素が多いです。
 これ、他のがんではあまりないことで、検討すべき課題がまだまだ多いようです。


 出版社に提出した原稿にはもっといろいろ書いたのですが、気になる点や追加・修正すべき点などございましたらどうぞご教示ください。今年度中に世に出るそうです。

 少し安堵。


【2014/11/23 23:12】 | 放射線治療計画
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 MSCC(Malignant Spinal Cord Compression:(骨転移などの)悪性腫瘍による脊髄圧迫)は患者さんの症状から早期診断をすること、そして早期治療をすることが重要です。もし下半身マヒや排尿排便障害といった脊髄損傷症状が出てしまっていたら、症状回復を速やかに図るためにステロイドホルモンを使用したり緊急照射をしたりと手立てを講じなければなりません。

 医療者がMSCCを知らない(いや、必ずどこかで学んでいるはずだから単に忘れている)と数日であっという間に下半身マヒになってしまうこともあり、下手をすれば一生寝たきりの恐れがあります。残された時間がかなり短くなってしまった進行がん患者さんにとって、下半身マヒや膀胱直腸障害という重い身体症状が永久に伴ってしまうことは精神的ダメージを含めとてもつらいことであり、また介護される方々にとっても負担がさらに大きくなってしまいます。
 とにかく誰が早期発見をしてもいいのです。医者でも看護師さんでも理学療法士さんでもご家族でもご本人でも、誰かがMSCCを知っていて早急な対応さえできれば…


 厚生労働省委託事業「平成20年度がん医療に携わる医師に対する緩和ケア研修等事業」(平成20年5月9日付け健発0509004号)を受け、日本緩和医療学会が主催して「緩和ケアおよび精神腫瘍学の基本教育に関する指導者研修会(以下、「指導者研修会」)」と「がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会(以下、「緩和ケア研修会」)」を組み込んだ教育プログラムを作成し、これらを「日本緩和医療学会PEACE プロジェクト」として実施することとなりました。PEACEプロジェクトについてはいずれまた改めてブログで触れてみたいと思います。
http://www.jspm-peace.jp/about/index.html

 このPEACEプロジェクトによるがん緩和ケア講習会などをきっかけにMSCCなどがん救急に対する情報周知が少しずつなされるようになり、最近では早期発見・早期治療が増えてきたような印象はうけます。しかし、まだまだ手遅れの状態で放射線治療科に紹介されてしまうケースも少なくありません。

 前回もご紹介しました静岡県立がんセンター整形外科 片桐先生は以前のご講演で、「がん患者さんが胸や腹のわきの痛みを訴えた時、特に起きた時などの体動時の痛みでは(放射線)治療を要する脊椎転移を疑い、至急画像診断をしましょう!」とおっしゃっていました。私が講習会などでお話するときもこのコメントをいつも(無断)引用させていただいております。片桐先生、ありがとうございます!
 とにかく、まずはMSCCを鑑別診断として疑うことが最も大事です。


 とは書いてはみたものの、実はMSCCって他の病気との鑑別診断が難しいことが少なくありません。例えば背中の痛みとか足のしびれとか、MSCCと似たような症状を呈するものとして最も多いのは良性の病気である変形性脊椎症や椎間板ヘルニア。じーちゃんばーちゃんが「腰が痛い」「足がしびれる」ってよく訴えられるやつです。

 画像診断で骨の変化が乏しく、脊髄を圧迫あるいは近い将来圧迫しそうな腫瘍がなければ、MSCCかどうかわからず少なくとも緊急照射の対象にはなりません。判断に悩むのが、骨粗しょう症など良性の変化で脊椎の圧迫骨折が起きたばかりの状態です。複雑な骨の変化が出てこようものなら両者の区別はほぼ困難です。いろいろな検査をすればそこそこ判断できるのかもしれませんが、脊髄マヒ症状が出ていたら時間的余裕はまずない(特に夜間や休日での診断)。
 症状がありMSCCを否定できなかったらぶっちゃけ緊急照射やむなし。賛否両論あるかも知れませんが、うちでは最悪の事態を避けるため原則そのような対応をしています。もちろん患者さんと相談したうえでの話です。

 MSCCの診断に大いに役立つのがMRI検査です。しかし、これが時間遅延の原因の一つになってしまうことがあります。平日のMRI検査は(施設の体制にもよるでしょうが)予約いっぱいってことが当たり前で、当日緊急MRIを申し込んでも早くてお昼時間帯に放射線技師さんがお昼ご飯も食べずに撮影、とてもそんな余裕がない場合は全ての業務が終わって夕方になることがしばしばです。外来患者さんだと(即入院が必要となりそうな下半身マヒが発症していたらまだしも)診察が終わった午前から夕方まで検査だけのためにずっとなんてなかなか待っていられないでしょ?ということで後日検査となり、その間に症状が悪化してしまうケースもあります。

 去年の(通称)Green Journalに、“Always on a Friday: Referral pattern for metastatic spinal cord compression”という同一施設から追試報告がなされました(ようやくブログタイトルの理由が登場m(_ _)m)。月→火→水→木→金にしたがいMSCC症例の照射依頼が多くなり、金曜はなんと月曜の2倍以上の件数があったという報告です。
Koiter E, et al. Radiother Oncol 2013; 107: 259-260

 金曜にMSCC症例が多くなる理由としてKoiterらは、先ほど触れた緊急MRI検査実施が遅れがちな点やオランダでは金曜に総回診をする(医療スタッフが一同で入院患者さんの診察をする)ことが多い点などを考察に挙げていました。人手が少ない週末の前にいろいろ確認したくなるのは古今東西同じようです。(不謹慎ですが)試験直前にようやく本気になって駆け込み勉強する様子と本質的に似ているかもしれません。

 一昨年にうちの病院でもMSCC緊急照射の傾向を調査してみたのですが、なんと半数以上が金曜午後~夜の緊急照射でした。実は以前から「なんでこんなに(花)金にMSCCの緊急照射が多いの?」って少し辟易していたのです。そこでちょっと調べたら、この論文を見つけたわけです。
 先日、私のfacebookに「金曜夜って緊急照射が多いな~」って投稿したら、東京でお仕事をなさっている某女医さんも「なんでだべかー?もっと早くよこしてけろー。」と賛同してくれました。どこも同じなんですかねぇ?


 なんでだろ 緊急照射 金の夜 (JIN)


【2014/11/18 00:05】 | 緩和的放射線治療
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 先週もまた金曜夕方に、他の病院から緊急照射のご依頼がありました。悪性腫瘍(骨転移)による脊髄圧迫(Malignant Spinal Cord Compression:以下MSCC)疑いの患者さんでした。整形外科の先生の診察も仰いだあと、その日の夜に放射線治療を行いました。

 うちの科ですが、通常は前日までに主治医の先生に放射線治療ご依頼の新規患者さん受診予約をしていただきます(新患予約枠を一部制限しているので、院内ですとうちの科に直接電話受付で、院外ですと地域医療連携室を通して予約をとることもあります)。そして、その予約内容を電子カルテでほぼ毎日行っている前日昼のカンファレンスで確認します。初診前に事前準備として、世に出ている各種がん診療ガイドラインや過去の論文報告やうちの病院の基本治療方針とのすり合わせ、あるいは主治医の先生方や画像診断の先生方などとの個別相談をし、あくまで医療者(≒うちの放射線治療科)としての立場「だけ」でその方の診療方針をおよそ確認し診察に臨むためです。もちろん最終的な診療方針は、患者さんの状態を直接確認し、ご本人やお付き添いの方々などのご希望や診察の場でお互いによく相談したうえで決定していています。

 また、初診から初回の放射線治療開始までにも原則として丸1日は時間の余裕をいただいています。丁寧な放射線治療計画や精度検証などを行うためで、つまり事前に「きちんとした」下準備を行ってから実際の患者さんへ放射線治療をご提供させていただいています。
 なお、遠方の外来患者さんご紹介などで、事前打ち合わせなしで飛び込み緊急新患診察をすることはよくあります。ただその場合も、この下準備期間に前述のスタッフ間の治療方針確認を同時進行で行い、必要であれば患者さんへの説明追加・修正は後日改めて行います。

 美味しいごちそう料理を作るにはきちんとした下準備がとても大事だということと同じでしょうか。私の場合、自分でほとんど料理を作らないのでかなり説得力に欠けますが…


 しかし、がんに関連した症状というのは体調が急に悪くなり、1-2日以内に救急治療が必要になることがあります(がん救急ともいいます)。
 緊急照射すべきがんに関連した症状というのはそれほど多くありませんが、MSCCが緊急照射の対象として最も多いことは先月のブログでも簡単にご紹介いたしました。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-92.html

 脊椎の骨転移など悪性腫瘍によって脊髄神経が圧迫され傷つくと、下半身マヒなどがあっという間に進行しがん患者さんの生活の質を永久的に著しく低下させてしまうおそれがあるMSCC。マヒが急速に進行している場合は定型的な放射線治療の事前準備や丁寧さよりもまずは照射開始までの時間の速さが最優先されますので、(やむを得ず)他の患者さんたちの準備を先送りにしてスタッフ間の各種治療内容検証もシンプルに時間をかけず最短コースで緊急照射をめざします。ちなみにうちでは(スタッフが院内にさえいれば)初診から2時間以内に照射がなんとか可能です。だからといって無茶苦茶でひどい治療をしているわけではありませんよ。
 例えるなら、突然帰宅して「腹が減ったよ、お母さん」と食べ物をせがむ息子(や私)に、家にある有りあわせの食材で私の妻が急きょ料理を作るのと似た感じでしょうか。急ぐからといって食べられない腐った食材を使うわけがありませんよね。

 治療開始時に患者さんが歩ける状態だったかどうかで、その後の回復率が全然違うMSCC。下半身が不完全マヒの(自力では歩けないがまだそこそこ足が動く)状態では約50%の症例が緊急照射後に歩けるようになりますが、完全マヒにおちいってしまうと歩行可能例は緊急照射をしても10%程度に激減してしまうと報告されています。
(Loblaw DA, et al. JCO 1998; 16: 1613-1624、など)

 そして、この論文を含め手術を行ったほうがMSCCによる下半身マヒが改善する割合は高いとする報告は多いです。しかし、MSCCを発症している患者さんというのは身体の他の部分にも転移が見つかってたり、全身状態が悪くて手術に耐えられない方が少なくありません。また、手術そのものも全身麻酔はもちろんのこと脊椎の場合は出血など身体の負担も大きいようで簡単ではありません。しかも緊急手術となると、手術室スタッフを呼び出さなければいけなかったり(ま、これは緊急照射でも同じですが)、可能な範囲でいろいろな術前検査をしなければいけなかったり、輸血の準備が必要だったりします。なので、予測予後(あとどのくらい生存されるかの予想)が明らかに3か月を超えない方だと手術対象にし難いようです。

 以前ある講演会で、英論文報告やご講演を多くなさっている国内第1人者である静岡県立がんセンター整形外科の片桐先生のお話を伺う機会があったのですが、整形外科医が積極的にMSCC治療を行っておられる施設ですら手術適応は全体の数%しかないとのことでした。手術が実は簡単でない脊椎を専門にする整形外科医そのものがあまり多くなく、また脊椎転移を積極的に手術する施設というのはさらに限られるそうです。脊椎外科的に今後の大きな課題の一つだそうです。
 たしかに一般総合病院にいらっしゃる整形外科の先生って、事故など良性の(=がんではない)骨折やけがの治療だけでもいつも引っ張りだこで、そうでなくても忙しくて大変そうですし。


 ということで、治る率がやや悪くてもMSCCは緊急照射が対象になる患者さんがとても多いです。

(タイトルの理由はその2で…)


【2014/11/17 02:48】 | 緩和的放射線治療
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 おかげさまで今回、100回目のブログ更新となりました。

 早いもので去年の1月からこのブログを開設してまもなく2年が経とうとしています。

 このブログをはじめたきっかけは「facebookの投稿ってタイムラインに埋もれてしまうし、(たまにする私の)長めの投稿を別の記録として残したら?」という某先輩ドクターのアドバイスでした。で、備忘録としてブログに残すことにしたのです。
 facebookもまだやってます。というか、むしろ最近は投稿数も多くなり、正直まわりからひんしゅくを買っているのだろうという自覚すらあります。申し訳ありません。そして、facebookでお友達らから戴くコメントもブログネタとして重宝し、しっかり(無断)引用しております(笑)
 
 しかし、テレビは本当に見なくなりました。お仕事はちゃんとしています(よね?)

 総カウンターも1万を超えました。私のお知り合いなどリピーターが多いだろうと思います。おつきあいいただき、どうもありがとうございます。
 タイトル通り、その時の気分で思いつくままの投稿ばかりですので、自分も何を書いたか忘れつつあり、カテゴリーを少し細かく整理することにいたしました。

 これまでのブログを改めて振り返ってみると、仮面かぶっているはずなのに放射線治療の投稿がかなり多くなってしまいました。
 ご存じのように(?)私のブログは論文紹介とか治療成績といったアカデミックな投稿をあまりしていません。そもそもこれまでたいして論文を書いてないというのが一番の理由です(汗)。いわゆるエビデンスとか医療とはかくあるべき論とか理想論とか前向き論とかをもっと前面に出すブログにすれば、あるいは時の人になっているあの近藤誠先生のように「がん治療のウソ」とか、都会の偉い先生方のように「かくあるべき!」とかいう感じの断定的でセンセーショナルで一般受けしそうな投稿を増やせば、カウンター数はもっと伸びるのかなとも思ったりします。
 私、そういうアピールが得意でないですし、創作文章力も乏しいですし、つまらない見栄をはっても仕方ないですし、姑息(ここは「緩和」ではない)な手段はあまり使いたくないんです…でも、いつかミリオンセラー本を出してみたい!

 私の投稿なんですが、同業者である放射線腫瘍医らを相手に(偉そうに)問題提起しているやつが少なくありません。偉そうに書いてしまったなと反省する時もあります。
 でも、人数は少ないですが若い放射線腫瘍医の先生からたま~に「共感しました」とか「ありがとうございました」というお返事をいただくことがあります。こんなブログでも現役のお医者さんに役立つ部分が少しでもあるっていうのは、すごく嬉しいですし書く励みになりますね。

 とりあえず今の所属がばれないようちょっとだけ努力していますが、結果としてどうにも抽象的な表現が多いブログになってしまってます。これからはもう少し具体的な話題や投稿範囲を広げていこうかなと思ってます…投稿ネタを増やすためにも!

 ざっと見渡す限り、放射線腫瘍医が書いてるブログって少ないですし、患者さんや職場の方々などにご迷惑をかけないよう気をつけながら続けていきたいなと思ってます。

 ブログネタが尽きるまで、または私が飽きてやめるまで、ご愛顧のほど、引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。



【2014/11/12 00:06】 | 普通の日記
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 唐突ですが、こうみえて実は私、女性の涙に弱いんです。最近も外来診療でそんな機会を3度経験いたしました。


その1

 これまでの手術や放射線治療などで皮膚の創や色の変化が(あくまで医者目線ですが少し)残ってしまった女性患者さん。「こんな姿になってしまうなんて…」と涙を流されました。

 上品なご婦人で、旦那さんも相当な役職につかれています。これまでいろいろ悩まれて治療を選択され、私が担当だった放射線治療前のご説明でもその後の影響について長い時間をかけていろいろ相談しました。
 しかしいざ目に見える影響が残ってしまうことは「想像できませんでした」。

 治療後の個々の正確な容姿を事前に映像でお示しすることは残念ながらまだ無理です。だからといって、治療前の説明で(もっとグロイ)副作用の映像を全員にお見せすることが良いとは正直思わないのですが…。

 治療開始時の同意書に副作用の説明文が書いてあっても、なるべく普通の言葉でお伝えするよう心がけても、放射線治療そのものを経験したことのない一般の方がいきなり専門的な内容を「理解」するのはなかなか難しいようです。まして、がんという病状を知ってしまった後ですから、普段通りに冷静に話を聞ける状況ではないでしょうし。

 「身体の痛みよりも、外見の変化のほうが患者に苦痛をもたらす」。以前にこのブログで引用させていただきました。アピアランスケアで「隠す」ことはできても消えない心の傷。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-79.html

 『か〇は女性の命』、デリカシーに欠ける私にはいまだ難しい領域です。


その2

 進行がんで完治は難しい女性患者さん、初診でご相談中に「どうもありがとうございます」と涙を流されました。

 今の所、なんの症状もなくお元気、頭も聡明なご高齢の方です。
 遠方のご家族が他院での特殊治療を積極的に勧めていますが、ご本人は乗り気ではありません。治療をするとそれなりの副作用がでそうですが、病気が縮小・消失する可能性もなくはないです。そして、他院で治療した後の不安もありました。

 (症状が出てからの)緩和的放射線治療も含め時間をかけお話を伺うと、少し安心されたのかお付き添いのご婦人とお二人で(たぶん)感謝の涙がこぼれてきました。本当にただお話を聞いていただけで(少しだけ私もお話しま)したが、飛び入り受診で最後の外来患者さんだったこともあり、ゆっくりお話をする時間が確保できたのもよかったかもしれません。

 辛い気持ちはたくさんあるでしょうから不謹慎なのですが、正直私も嬉しかったです。

 実は昔はなかったのですが、齢を重ねてきたからかこういう時たまに「もらいそう」になってしまうことがあります…


その3

 がんの緩和的放射線治療の患者さんの準備中、奥様とこれからの相談をしたら「もう自宅に戻したくない」と涙を流されました。

 長い夫婦関係や闘病介護はいろいろ大変だったとのことで、今回の入院を契機に気持ちが解放されたようです。お話をしばし伺いました。一通りお話をされた後は笑顔に。

 でも患者さんはできれば自宅に帰りたい。

 その後も奥様とお話をしてもやはり気持ちは変わらず、お互いの気持ちのズレを修正するのはかなり敷居が高そうです。がん緩和ケアチームなど多職種が関わり、より良き方向を今も模索中です。


 外来診察室などでご対面中に眼がうるうるされている方は(男性も)少なくないです。診察後に別のところで涙を流される方々もすごく多いことと思います。感情に流されないよう気をつけているつもりです。もちろん男女差別をするつもりなど毛頭ございません。

 でも、こうみえて実は私、女性の涙に弱いんです。


 別の形で私自身が本当に泣かされたことも何度かあります。そのお話はまた別の機会に…


【2014/11/11 00:28】 | 放射線治療:よもやま話
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 今週末、地元のリレーマラソンに初参加してきました。病院の放射線部門主体の老若男女メンバーを14名(+応援2名)そろえ、エントリー名は「チームX」。チームとしても初参加でした。

 会場1周約1.4kmをリレーし、全員でフルマラソン。実はうちの病院の放射線科にフルマラソンをなんと2時間40分で走っちゃう強者ドクターがいるんですけど、残念ながら今回は別のガチ大会で(笑)不参加。さらに初参加のハーフマラソンで2時間を軽く切った若手技師さんも風邪で欠席。飛車角落ちでしたが、もともと順位を競うレベルでは全くないチームでしたし、楽しい親睦ランでした。

 還暦が近づいてきた技師長(うちでは部長と呼びます)さん自らトップバッターでスタートし、1~3周毎に交代。しかし、みんな結構マジで走ってましたね(笑)。
 私の担当は当初は途中の2周だったのですが、主力の若手技師さんの急きょ欠席でアンカー前1周も追加となりました。最初の2周は時速約13.5kmでなんとか、1時間以上休んで最後の1周は時速約15kmで最後は息が上がりました。ちなみにフルマラソン2時間40分って時速15.8kmなんですよね…恐るべしドクターS
 ちなみに来年は私も楽しい楽しいフルマラソンに初挑戦しようと思っています。

 で、アンカーも部長が締め、みんな怪我もなく無事ゴール!

 陸上競技場の芝生スタンドにシートを敷き、みんなで応援しました。リレーが終わった後は記念撮影してお弁当食べて終了しました。いろいろ設定してくれた技師さんたち、どうもありがとうございました。打ち上げは再来週に改めて予定…部長、二次会はやっぱりカラオケですか?


 しかし、こういう親睦の場って職場で仕事をしている時と違ってスタッフの新たな面がいろいろ見えてやっぱり良いですね。

 是非、来年も参加しましょう!


【2014/11/09 21:29】 | ラン・運動
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