昨年の秋のことですが、ターミナルケア関連の某会が開催している市民公開セミナーにお招きいただき、緩和的放射線治療について講演をさせていただく機会がありました。
講演終了後ほどなくして事務局の方よりセミナー講演要旨の執筆ご依頼が届きました。今月下旬までに提出とのことで当時は「まだまだ余裕!」と思っておりましたが、あっという間に気づけば〆切間近…この癖、いけませんね。
先ほど初稿を書き終えました。
で、せっかくだからブログに転用させていただきました。会報にも著作権問題はきっとないだろうとは思うのですが、原稿提出前の著作権フリーの私のブログ掲載なのでどうかお許しください。また、内容的に変な箇所や誤字脱字などがございましたら、どうぞご教示いただければ幸いです。修正して事務局さんへメール添付させていただきます。
***以下、白黒・文字サイズ統一で提出します。
****************************
緩和的放射線治療という言葉をご存じでしょうか?少ない線量の放射線治療でがんのつらい症状がやわらぐことがあるのです。
放射線治療は手術、化学療法とならぶがん治療の3本柱の1つで、「切らずに治す」が売り文句です。近年の科学技術やコンピュータの進歩のおかげで、小さながんに対するピンポイントの定位放射線治療、病巣の形に合わせて精密に狙う強度変調放射線治療(IMRT)、来年度から小児がんと手術困難な骨軟部腫瘍でついに保険適応となった粒子線治療、新たな臨床研究が始まったホウ素中性子捕捉療法(BNCT)など、いろいろな高精度放射線治療が登場してきました。
がんを治そうとする放射線治療を根治的放射線治療(または根治照射)といいます。いろいろな対策をしても副作用で患者さんに我慢を強いてしまう場合が時にあります。一方、緩和的放射線治療(または緩和照射)は無理せずがんの症状を楽にすることを主眼にしています。
緩和的放射線治療の期間は、①初診日に終了可能な1回、②なるべく短期に数回、③日本の放射線腫瘍医が好む2週で10回、④長期的な病状コントロールや根治も視野に入れた場合は1か月程度、が標準的です。早い時期の症状改善率にはほとんど差がなく、いろいろな要素で適切と判断される治療方針が選択されます。
緩和的放射線治療対象の代表格である骨転移の痛みに対する効果は証明されています。痛い部分やタイプなどで効果に幅はありますが、痛みが楽になるのはおよそ3人に2人、痛みがほぼ消失するのはおよそ3人に1人と報告されています。骨折予防やしびれなどの神経症状改善にも効果が期待されます。そして、鎮痛剤はあくまで対症的に痛みをやわらげるだけですが、緩和的放射線治療は一部であっても根本的にがんをたたくことで痛みの元が良くなります。
中長期的には結構高額な医療用麻薬などの減量で経済的負担も減ります。なにより、病状が進行すればどんどん量が増えてしまう鎮痛剤と違い、患者さんは「治している」実感が得られ気持ちの支えにもなります。
これって、とても大事なことですよね!
他にも脳転移による神経症状、がんからの出血、がんによる気管・血管圧迫など、全身のいろいろな症状に効果があります。できれば症状が軽いうちに治療をした方が望ましいのですが、特にがんによる脊髄圧迫で下半身まひや排便排尿障害が出現した場合は目安として発見後48時間以内に緊急放射線治療を行うことが薦められています。症状が完成してしまうと治りにくくなってしまうからです。
脊椎転移患者さんに以下のような症状が出現したらできるだけ早くかかりつけの医療機関に相談するとよいでしょう。
1.夜、眠れないほどの背中の強い痛み
2.横になったり、立ち上がったり、重いものを持ったときに強くなる背中の痛み
3.背中に始まり、胸・腹・あるいは手足まで達する痛み
4.手足に力が入りにくい、しびれる
5.急に出にくくなったお小水やお通じ
(NICEガイドライン訳:国立がんセンター東病院中村直樹先生資料借用改変)
緩和ケアもターミナルケアも言葉としてあり、緩和照射もありますがターミナル(終末期)照射は聞いたことがありません。がん患者さんは亡くなられる2ヵ月くらい前から急に身体機能が低下することが多いです。緩和的放射線治療の効果が現れるのは治療後数週してからが多く、全身状態の問題などもあり、がん終末期は緩和的放射線治療の対象となる病状は少ないというのが一つの理由なのかもしれません。
ただし、終末期であっても腫瘍からの出血など数日以内に症状改善が見込める病状もあります。
緩和的放射線治療はがんの緩和医療においてあくまで一つの治療選択肢ではありますが、いろいろな面で心身の癒しとなる患者さん本位の放射線治療なのです。
(愛知がんセンター中央病院名誉院長森田先生のご投稿より引用改変)
http://www.com-info.org/ima/ima_20110831_morita.html

講演終了後ほどなくして事務局の方よりセミナー講演要旨の執筆ご依頼が届きました。今月下旬までに提出とのことで当時は「まだまだ余裕!」と思っておりましたが、あっという間に気づけば〆切間近…この癖、いけませんね。
先ほど初稿を書き終えました。
で、せっかくだからブログに転用させていただきました。会報にも著作権問題はきっとないだろうとは思うのですが、原稿提出前の著作権フリーの私のブログ掲載なのでどうかお許しください。また、内容的に変な箇所や誤字脱字などがございましたら、どうぞご教示いただければ幸いです。修正して事務局さんへメール添付させていただきます。
***以下、白黒・文字サイズ統一で提出します。
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緩和的放射線治療という言葉をご存じでしょうか?少ない線量の放射線治療でがんのつらい症状がやわらぐことがあるのです。
放射線治療は手術、化学療法とならぶがん治療の3本柱の1つで、「切らずに治す」が売り文句です。近年の科学技術やコンピュータの進歩のおかげで、小さながんに対するピンポイントの定位放射線治療、病巣の形に合わせて精密に狙う強度変調放射線治療(IMRT)、来年度から小児がんと手術困難な骨軟部腫瘍でついに保険適応となった粒子線治療、新たな臨床研究が始まったホウ素中性子捕捉療法(BNCT)など、いろいろな高精度放射線治療が登場してきました。
がんを治そうとする放射線治療を根治的放射線治療(または根治照射)といいます。いろいろな対策をしても副作用で患者さんに我慢を強いてしまう場合が時にあります。一方、緩和的放射線治療(または緩和照射)は無理せずがんの症状を楽にすることを主眼にしています。
緩和的放射線治療の期間は、①初診日に終了可能な1回、②なるべく短期に数回、③日本の放射線腫瘍医が好む2週で10回、④長期的な病状コントロールや根治も視野に入れた場合は1か月程度、が標準的です。早い時期の症状改善率にはほとんど差がなく、いろいろな要素で適切と判断される治療方針が選択されます。
緩和的放射線治療対象の代表格である骨転移の痛みに対する効果は証明されています。痛い部分やタイプなどで効果に幅はありますが、痛みが楽になるのはおよそ3人に2人、痛みがほぼ消失するのはおよそ3人に1人と報告されています。骨折予防やしびれなどの神経症状改善にも効果が期待されます。そして、鎮痛剤はあくまで対症的に痛みをやわらげるだけですが、緩和的放射線治療は一部であっても根本的にがんをたたくことで痛みの元が良くなります。
中長期的には結構高額な医療用麻薬などの減量で経済的負担も減ります。なにより、病状が進行すればどんどん量が増えてしまう鎮痛剤と違い、患者さんは「治している」実感が得られ気持ちの支えにもなります。
これって、とても大事なことですよね!
他にも脳転移による神経症状、がんからの出血、がんによる気管・血管圧迫など、全身のいろいろな症状に効果があります。できれば症状が軽いうちに治療をした方が望ましいのですが、特にがんによる脊髄圧迫で下半身まひや排便排尿障害が出現した場合は目安として発見後48時間以内に緊急放射線治療を行うことが薦められています。症状が完成してしまうと治りにくくなってしまうからです。
脊椎転移患者さんに以下のような症状が出現したらできるだけ早くかかりつけの医療機関に相談するとよいでしょう。
1.夜、眠れないほどの背中の強い痛み
2.横になったり、立ち上がったり、重いものを持ったときに強くなる背中の痛み
3.背中に始まり、胸・腹・あるいは手足まで達する痛み
4.手足に力が入りにくい、しびれる
5.急に出にくくなったお小水やお通じ
(NICEガイドライン訳:国立がんセンター東病院中村直樹先生資料借用改変)
緩和ケアもターミナルケアも言葉としてあり、緩和照射もありますがターミナル(終末期)照射は聞いたことがありません。がん患者さんは亡くなられる2ヵ月くらい前から急に身体機能が低下することが多いです。緩和的放射線治療の効果が現れるのは治療後数週してからが多く、全身状態の問題などもあり、がん終末期は緩和的放射線治療の対象となる病状は少ないというのが一つの理由なのかもしれません。
ただし、終末期であっても腫瘍からの出血など数日以内に症状改善が見込める病状もあります。
緩和的放射線治療はがんの緩和医療においてあくまで一つの治療選択肢ではありますが、いろいろな面で心身の癒しとなる患者さん本位の放射線治療なのです。
(愛知がんセンター中央病院名誉院長森田先生のご投稿より引用改変)
http://www.com-info.org/ima/ima_20110831_morita.html

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先週末、母校のがん緩和ケア研修会にお招きいただき、緩和的放射線治療の講演なるものを担当させていただきました。ブログでも書いておりますように地元を離れてまだ1年に満たない私ですが、僭越ながら講師をさせていただきました。
母校での講演は初めてでした。
今回は母校の大学なのでいちおうジャケットとネクタイで正装し気を引き締めて訪問させていただきました。母校を退職したのは20世紀のことなのですっかりアウェー気分でしたが、別に仲が悪いというわけではありません…少なくとも私の方は。深いイミはございません。
この緩和ケア研修会ですが、厚生労働省からの通達を受けて、日本緩和医療学会が…凝縮して書くと「全国のがん拠点病院はPEACE資料などを使って医療者向け緩和ケア研修会を開催してね」といった感じです。正確には(お堅い文章ですが)過去のブログをご参照いただければ。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-143.html
やはり、今回の研修会も(お知り合いの)お医者さんがたくさん参加されていました。というか、今回はなんと受講者全員が医師または歯科医師さんでした!
大学教授クラスの重鎮も何名かいらっしゃいました。
「へ~、この先生もこの研修会をまだ受けていらっしゃらなかったのか~」と思いつつ、短い休憩時間に諸先生方と軽くご挨拶させていただきました。
以前のブログでも少し触れましたが、『平成29年6月までにがん診療において,がん患者の主治医や担当医となる者の 9 割以上が緩和ケア研修を修了することが必須となります。もし,緩和ケア研修の修了率が達成できなければ,がん診療連携拠点病院としての指定要件から外れる』(引用)そうです。
http://www.huhp.hokudai.ac.jp/hotnews/files/00000400/00000403/news_sn_010.pdf
この規定を厳密に受け止めると、出入りが激しい多くの若手医師を抱える大学病院はとても大変です。事実上不可能ではないかという意見もあるようです(ルールですが)。母校の大学もこれまでは年に1回の開催だったようですが、来年度は年に何回か実施しないといけないとお考えのようです。
ということは、もしかして私も母校での講義が年に何回かできるのか?
光栄なことです。
もっとも、来年度からの緩和ケア研修会でPEACEの緩和的放射線治療関連スライドがバッサリ削除されてしまったという悪い噂も聞こえてきましたが…本当かな??今の所、日本緩和医療学会HP上で結構な量であるPEACEプロジェクトの講義用スライド集の中に、補助として緩和的放射線治療の講義用スライドもいくつか混ざっていますけど。
http://www.jspm-peace.jp/data/v3_a/M-3_%E3%81%8C%E3%82%93%E7%96%BC%E7%97%9B%E3%81%AE%E8%A9%95%E4%BE%A1%E3%81%A8%E6%B2%BB%E7%99%82.pdf
もし本当なら日本放射線腫瘍学会を挙げて抗議してもらうよう理事の先生に要望書でも出そうか。JASTROのみなさま、どう思われますか?
で、今回の私の講義ですが、昨年に担当させていただいた古巣病院の講義で30分枠しかないのに途中からご年配の先生方のまぶたがとても重そうでしたので、ご年配の先生方の睡眠導入剤にならないよう久しぶりに講義スライドを少し修正してまいりました。
少しは見直し効果があったのか、今回は古巣の時よりは撃沈している先生は少なかったようです(平均年齢層は今回の方が若めでしたが)。ただ、聴講している体勢がいつもとちょっと違った方々が多かったです。これは他の講師の方々とお昼休憩をしている時にも話題になりました。
いつもの研修会では、聴講しているうちに(疲れてくると)肩肘ついて聴くか両手を机の上に組んで前かがみにうとうとする方が多いのですが、今回は逆エビ反りのような格好で椅子に背中を乗せた方が多かったようです。年齢的にお腹の脂肪が多かったからか、お偉い…
余計なことを書くと講師として今後呼んでいただけなくなるかもしれないから、止めておきます。
以上、母校での貴重な体験でした。
来月も日本放射線腫瘍学会主催の看護師さん向けの放射線治療セミナーの講師を担当させていただきます。私の担当は放射線治療の基礎と緩和的放射線治療総論です。このブログで紹介した話題もいくつかパクろうかと思ってます…自分で書いたものだからパクるとは言わないですかね?
スライドハンドアウトは提出しました。後はいかに私の担当50分間起きて聴いていていただけるよう発表用スライドに手を加えるかが課題。得意技、ないし。でも、熱心な看護師さんたちばかりだからきっと大丈夫でしょう。起きたばかりの朝一ですし、きっと…。
私、看護師さん向けのセミナー講師も初体験です。
実は、今回のブログは以前のブログ投稿をかなりコピペして書きました。もうしわけございません。でも、(希少な)ブログ熟読者でなければわからなかったですよね?
もともと自分で書いたブログですし、査読のあるような投稿論文ではないので出版社の著作権も発生しないでしょうから、問題ないとは思うのですが…。
「学ぶ」という言葉は「真似ぶ」と同じ語源らしいです。
http://gogen-allguide.com/ma/manabu.html

母校での講演は初めてでした。
今回は母校の大学なのでいちおうジャケットとネクタイで正装し気を引き締めて訪問させていただきました。母校を退職したのは20世紀のことなのですっかりアウェー気分でしたが、別に仲が悪いというわけではありません…少なくとも私の方は。深いイミはございません。
この緩和ケア研修会ですが、厚生労働省からの通達を受けて、日本緩和医療学会が…凝縮して書くと「全国のがん拠点病院はPEACE資料などを使って医療者向け緩和ケア研修会を開催してね」といった感じです。正確には(お堅い文章ですが)過去のブログをご参照いただければ。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-143.html
やはり、今回の研修会も(お知り合いの)お医者さんがたくさん参加されていました。というか、今回はなんと受講者全員が医師または歯科医師さんでした!
大学教授クラスの重鎮も何名かいらっしゃいました。
「へ~、この先生もこの研修会をまだ受けていらっしゃらなかったのか~」と思いつつ、短い休憩時間に諸先生方と軽くご挨拶させていただきました。
以前のブログでも少し触れましたが、『平成29年6月までにがん診療において,がん患者の主治医や担当医となる者の 9 割以上が緩和ケア研修を修了することが必須となります。もし,緩和ケア研修の修了率が達成できなければ,がん診療連携拠点病院としての指定要件から外れる』(引用)そうです。
http://www.huhp.hokudai.ac.jp/hotnews/files/00000400/00000403/news_sn_010.pdf
この規定を厳密に受け止めると、出入りが激しい多くの若手医師を抱える大学病院はとても大変です。事実上不可能ではないかという意見もあるようです(ルールですが)。母校の大学もこれまでは年に1回の開催だったようですが、来年度は年に何回か実施しないといけないとお考えのようです。
ということは、もしかして私も母校での講義が年に何回かできるのか?
光栄なことです。
もっとも、来年度からの緩和ケア研修会でPEACEの緩和的放射線治療関連スライドがバッサリ削除されてしまったという悪い噂も聞こえてきましたが…本当かな??今の所、日本緩和医療学会HP上で結構な量であるPEACEプロジェクトの講義用スライド集の中に、補助として緩和的放射線治療の講義用スライドもいくつか混ざっていますけど。
http://www.jspm-peace.jp/data/v3_a/M-3_%E3%81%8C%E3%82%93%E7%96%BC%E7%97%9B%E3%81%AE%E8%A9%95%E4%BE%A1%E3%81%A8%E6%B2%BB%E7%99%82.pdf
もし本当なら日本放射線腫瘍学会を挙げて抗議してもらうよう理事の先生に要望書でも出そうか。JASTROのみなさま、どう思われますか?
で、今回の私の講義ですが、昨年に担当させていただいた古巣病院の講義で30分枠しかないのに途中からご年配の先生方のまぶたがとても重そうでしたので、ご年配の先生方の睡眠導入剤にならないよう久しぶりに講義スライドを少し修正してまいりました。
少しは見直し効果があったのか、今回は古巣の時よりは撃沈している先生は少なかったようです(平均年齢層は今回の方が若めでしたが)。ただ、聴講している体勢がいつもとちょっと違った方々が多かったです。これは他の講師の方々とお昼休憩をしている時にも話題になりました。
いつもの研修会では、聴講しているうちに(疲れてくると)肩肘ついて聴くか両手を机の上に組んで前かがみにうとうとする方が多いのですが、今回は逆エビ反りのような格好で椅子に背中を乗せた方が多かったようです。年齢的にお腹の脂肪が多かったからか、お偉い…
余計なことを書くと講師として今後呼んでいただけなくなるかもしれないから、止めておきます。
以上、母校での貴重な体験でした。
来月も日本放射線腫瘍学会主催の看護師さん向けの放射線治療セミナーの講師を担当させていただきます。私の担当は放射線治療の基礎と緩和的放射線治療総論です。このブログで紹介した話題もいくつかパクろうかと思ってます…自分で書いたものだからパクるとは言わないですかね?
スライドハンドアウトは提出しました。後はいかに私の担当50分間起きて聴いていていただけるよう発表用スライドに手を加えるかが課題。得意技、ないし。でも、熱心な看護師さんたちばかりだからきっと大丈夫でしょう。起きたばかりの朝一ですし、きっと…。
私、看護師さん向けのセミナー講師も初体験です。
実は、今回のブログは以前のブログ投稿をかなりコピペして書きました。もうしわけございません。でも、(希少な)ブログ熟読者でなければわからなかったですよね?
もともと自分で書いたブログですし、査読のあるような投稿論文ではないので出版社の著作権も発生しないでしょうから、問題ないとは思うのですが…。
「学ぶ」という言葉は「真似ぶ」と同じ語源らしいです。
http://gogen-allguide.com/ma/manabu.html

最近、医療現場などで臨床宗教師という存在が徐々に注目を浴びてきています。
『「臨床宗教師」とは、日本の在宅緩和医療のパイオニアのお一人であった故岡部健医師が英語の「チャプレンchaplain」の訳語として考案した名称ですが、公共的施設などで働く宗教者をさす一般名詞であると考えています。…(中略)…
私達の目指している「臨床宗教師」の大きな特色は、超宗教・超宗派の協力と学びあいを通して養成される宗教者であるということをあらためて確認しておきます。』(東北大学実践宗教学寄附講座HPより引用)
http://www.sal.tohoku.ac.jp/p-religion/diarypro/diary.cgi?field=8
これからの時代の臨床宗教師の必要性に対する主張をはじめとする田中雅博先生のインタビュー記事は、個人的に備忘録として記録しておきたく***以下の『 』内にそのまま(無断)引用させていただきました。
***********************************
http://www.higan.net/news/2016/02/spiritualcare.html
『栃木県の益子町に、ご自身のお寺の境内に病院を開院して、患者さんの「いのちの苦」を緩和する「スピリチュアル・ケア」を実践されている、お医者さんであり、真言宗豊山派のお坊さんであられる、田中雅博さんという方がいらっしゃいます。田中先生は、ローマ法王庁が呼びかけた国際会議にも過去4度も招かれ、仏教という立場からの「スピリチュアル・ケア」の大切さについて講演されました。
末期がんと診断され、余命宣告を受けた現在においてなお、田中先生が文字通り命がけで私たちにお伝えくださろうとしている「スピリチュアル・ケア」とは、いったいどのようなものなのでしょう? そして「いのち」の正体とは......? いまこそ、ぜひ、先生に教えを請いたい、と、無理を承知で取材をお願いさせていただいたところ、快くお引き受けくださいました。
仏の智慧を、いかに現代医療、ひいては社会全体に活かしていくべきか......。抗がん剤の副作用の真っ只中にありながら、ひとつひとつ、丁寧に、真摯にお伝えくださった田中先生の、厳しくもあたたかな眼差しに、私は、真の仏教者の姿、もっと言えば「菩薩」の姿を見た気がいたしました。大きな示唆に富んだインタビューです。最後までじっくりとお読みいただけますとさいわいです。
――田中先生は長年、医師として、また僧侶として、「スピリチュアル・ケア」を提唱され、また、ご自身の医院でも真摯に実践されてきました。仏教は「スピリチュアル・ペイン」=「いのちの苦」に対して、具体的にどのような智慧を授けてくれるのでしょうか?
「いのちの苦」というのは、生老病死すべてのことですが、とくに「死」というのは、「自分」、「我」という存在がなくなることですから、人間にとって大変大きな問題なわけです。
それで、古代インドでは、なんとかその問題を解決しようとして、数百年もの間、出家修行ということが盛んに行われた。その人たちが具体的になにをしたのかというと「ヨーガ」ですね。心のはたらきの制御ですけれど、それを必死に修行していた。ところがそれを達成した人はいなかったわけですよ。
そんな折、お釈迦さまが現れて、はじめて「死」という問題を解決された。そうして「不死の鼓(つづみ)を打つ」と宣言されたわけです。その後、お釈迦さまは遠いところまで歩いていって、修行者が集まっていた場所で「苦集滅道(くじゅうめつどう)」という4つの真実を発表しました。
まずは「苦」ですね。最初に、お釈迦さまは、苦しみという真実がある、ということをおっしゃった。次に7つの苦しみを並べるんですね。生・老・病・死。それから怨憎会苦(おんぞうえく)・愛別離苦(あいべつりく)・求不得苦(ぐふとくく)。そして次に、これら7つをまとめると我に執着する苦、五取蘊苦(ごしゅうんく)となる、と。
五取蘊(ごしゅうん)というのは、般若心経に出てくる五蘊(ごうん)と同じですね。色受想行識(しきじゅそうぎょうしき)という、「我」というこだわりの要素の集まりのことです。この身体と心のはたらき。「この身体が私のものである」とか、「我思う、ゆえに我あり」とか、そういう「我」というこだわりの要素の集まりとして、五取蘊というものがある。我に執着する苦、これこそがまさに「スピリチュアル・ペイン」です。
ここでひとつ押さえておきたいのは、「苦」というのは、「思い通りにならない」という意味の言葉なんですね。ですから、いわゆる現代の日本語の「苦しみ」とは、ちょっと違うと思います。
とにかく、お釈迦さまは、「自分」というこだわりこそが「苦」である、と言いました。次に、じゃあどうして「苦」が生じるのか、というところで「思い通りにしたい」という欲から「思い通りにならない」という苦が生まれる、と。これが「集」。3つの渇愛を説いたわけです。1つめは男女の愛欲。2つめは生存に対する欲求。最後に、死にたい、という欲求ですね。この3つの「思い通りにしたい」という思いから、「思い通りにならない」ということが生ずるのだ、と。非常に単純明快です。
そうすると、その3つの欲がコントロールされたら、苦しみはなくなる、思い通りにならないことがなくなる、と。それで、その欲が完璧にコントロールされた状態を、お釈迦さまは「涅槃」と言ったわけですね。そして、涅槃は、まさに「無執着」である、と。これが、苦集滅道の「滅」ですね。その次に、どうしたらそれを達成できるのかということで、「八正道」を説かれたわけです。八正道の「正」は「完全に」という言葉の漢訳で、「正しい」という意味ではありません。これが「道」ですね。完全に渇愛を制御して生きる道です。
つまり、仏教は人々を「苦」の此岸から、「楽」の彼岸まで運ぶ筏(いかだ)ということになります。これはそのまま「スピリチュアル・ペイン」を緩和する「スピリチュアル・ケア」になりますね。
――仏教は、その成り立ちからして、まさしく「スピリチュアル・ケア」そのものだった、ということですね。では、実際に、臨床の現場ではどういった「スピリチュアル・ケア」が行われているのでしょう?
医師のするべきこととしては、まずはしっかりとした科学的な情報を患者さん本人に提供する。そこが非常に大事なことですね。いのちに関して、自分がいまどういう状況なのかということを、本人にはっきりとわかってもらう。その上で、本人に、その限られたいのちをどう生きるのかということを、考えてもらったり、決めてもらったりする。
そのときに「宗教」というものが非常に大事になってくるんですね。「宗教」というのは、どこそこの神さま、仏さまを信仰するというのだけではない。ひとりひとりにとって、自分自身のいのちを超えた価値というのがあったなら、それこそが本人の宗教だと思うんです。
先ほどはお釈迦さまの話をしましたけれど、この仏教っていうのは、「自分」というこだわりを離れていくという教えですので、自分の考えや宗教を相手に押し付けるということをしないわけです。このことからして、本人の生き方、本人の宗教、そういったものを尊重するのがスピリチュアル・ケアワーカーの役割になります。だから、仏教ではこのように説かれているから、こういう生き方をするといいですよ、というようなことは決して言わない。
日本人には無宗教の人が多い、というようなことを良く言われますけれど、私はそういうことはないと思うんですよ。やはり、この限りあるいのちを生きるための理想というのは、みなさん、それぞれに持っていると思うんです。いわゆる一神教のように、なにか特定のものを信仰するというよりも、仏教のように、「自分」というもの、「我」というこだわりを離れる、あらゆる生き方を尊重する。曼荼羅的な世界観といいますか、あらゆるものをそのままに認めていく。これこそが日本人の宗教であって、日本の文化だと思うんですね。そういう意味で、仏教というのは、まさに、これからの時代にふさわしい宗教ではないかと思います。
――田中先生のご尽力によって、「スピリチュアル・ケア」は、日本の医療の現場にも、少しずつ広まりつつあると思います。しかしながら、一般的な認知度は、残念ながら、まだまだ低いと言わざるを得ない状況です。
私自身、現在の臨床宗教師や臨床仏教師が育ってくれることを非常に願っています。いままでの日本では、スピリチュアル・ケアを医師自らがやろうとしていた。現在でもそういう方はいらっしゃいます。しかしながら、医師というのは、とにかく忙しすぎて時間がないんです。これは日本の医療の問題ですけれども、医師たちは、少ない人数で、非常に忙しく、まったく余裕がない状態で、医療の世界を支えているんですね。なので、医師だけでは、能力的にも、時間的にも、とても十分なことはできないんですよ。医師は人間に関する科学の専門家です。医師免許は人文学を学んで得た資格ではありませんから。
そこで、その部分を担当するのが、スピリチュアル・ケアワーカーという人たちです。日本でも、明治以前、江戸時代までは、仏教のお坊さんが、その役割をずっとやってきていたんですよ。しかし、明治維新以降、そういう人たちがいなくなってきてしまった。
だから、まずは現代の、医師中心の、彼らの過重労働で支えられているような医療現場の状況を変える必要があるんですね。しかし、それは大変に難しいことなんです。というのは、じゃあそのお金を誰が負担するのか、という問題になりますから。当然、日本の社会が負担するいい方法を考える必要があるんですけれども。実際、現在の医療現場のスタッフの数の何倍も必要でしょう。スピリチュアル・ケアワーカー以外にも、多くの職員が必要だと思いますよ。果たしてそのための費用を現代の日本の社会が負担できるのかどうか......。
私自身、何十年も医師をやってきましたけれど、十分にスピリチュアル・ケアをやってきたなんて、とても胸張って言えないですよ。やろうという気持ちはあっても、実際にやっている最中にほかの患者さんから呼ばれたり、急患さんの治療にあたったり......。そういう状況がずっと続いていました。
「スピリチュアル・ケア」が必要だということを、私はずっと言ってきたわけですけれど、自分でそれを十分にやれたかというと、とてもやれてはこなかった......。今後に期待したいところですね。
――多くの進行がんの患者さんの治療に当たられてきた田中先生ですが、奇しくも、ご自身が同じ病に冒されてしまった......。残されたいのちが決して長くはないと知ったいま、先生は、ご自身の「いのちの苦」というものと、どのように付き合っていらっしゃるのでしょうか? そして、「いのち」の正体とは? 現在、どのようにお感じですか?
私は「いのちの苦」というものの滅尽を目指して修行をしている僧侶です。ブッダに憧れて、自分もそれに近づきたいと考えて、ずっと努力をしてきました。しかしながら、どこまで近づけたのか、それは問題ですね。自分では、少しは近づけたかな、とは思っておりますが......。
私自身の「苦」は、もちろんありますよ。ただ、それをコントロールすることは、まあ、ある程度は、できているのではないでしょうか。できている、と思いたいところですね。
「いのち」とは......。ひとつには、現実のいのちというのがありますね。これはお釈迦さまが言った、3つの渇愛、これによって生まれては死に、生まれては死にっていう、そういうものですね。それに対してもうひとつ、理想的ないのちというのがある。智慧の完成、というものですね。こちらの意味でのいのちは、不生不滅なんです。
それを努力目標として修行しているのが、私をはじめとする仏教僧侶だと思うんですね。いわゆる仏と一般の人とのちょうど中間にあって、目覚めを目指して頑張っている人。それを「菩薩」といいます。
私は、生きられる時間としては、もう、あまりないということははっきりしているんですよ。これから先、半年以上生きられる可能性っていうのは、統計からいえば、ほとんどないと思うんです。もし生きているとしても、今度は身体の苦しみが起きてしまいます。そうなってきたときには、もう、とても講演もできなくなるし、原稿も書けなくなるし、取材を受けることもできなくなる。しかし、そういう症状が出るまでの間は、どうにか、できる限りのことはやっていきたいな、と思うんですね。生涯、修行者でありたいと考えています。
――田中先生。本日は、大変貴重なお話を、ほんとうにありがとうございました。
2016年1月21日 西明寺信徒会館にて
聞き手:小出遥子』 (全文引用)
『「臨床宗教師」とは、日本の在宅緩和医療のパイオニアのお一人であった故岡部健医師が英語の「チャプレンchaplain」の訳語として考案した名称ですが、公共的施設などで働く宗教者をさす一般名詞であると考えています。…(中略)…
私達の目指している「臨床宗教師」の大きな特色は、超宗教・超宗派の協力と学びあいを通して養成される宗教者であるということをあらためて確認しておきます。』(東北大学実践宗教学寄附講座HPより引用)
http://www.sal.tohoku.ac.jp/p-religion/diarypro/diary.cgi?field=8
これからの時代の臨床宗教師の必要性に対する主張をはじめとする田中雅博先生のインタビュー記事は、個人的に備忘録として記録しておきたく***以下の『 』内にそのまま(無断)引用させていただきました。
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http://www.higan.net/news/2016/02/spiritualcare.html
『栃木県の益子町に、ご自身のお寺の境内に病院を開院して、患者さんの「いのちの苦」を緩和する「スピリチュアル・ケア」を実践されている、お医者さんであり、真言宗豊山派のお坊さんであられる、田中雅博さんという方がいらっしゃいます。田中先生は、ローマ法王庁が呼びかけた国際会議にも過去4度も招かれ、仏教という立場からの「スピリチュアル・ケア」の大切さについて講演されました。
末期がんと診断され、余命宣告を受けた現在においてなお、田中先生が文字通り命がけで私たちにお伝えくださろうとしている「スピリチュアル・ケア」とは、いったいどのようなものなのでしょう? そして「いのち」の正体とは......? いまこそ、ぜひ、先生に教えを請いたい、と、無理を承知で取材をお願いさせていただいたところ、快くお引き受けくださいました。
仏の智慧を、いかに現代医療、ひいては社会全体に活かしていくべきか......。抗がん剤の副作用の真っ只中にありながら、ひとつひとつ、丁寧に、真摯にお伝えくださった田中先生の、厳しくもあたたかな眼差しに、私は、真の仏教者の姿、もっと言えば「菩薩」の姿を見た気がいたしました。大きな示唆に富んだインタビューです。最後までじっくりとお読みいただけますとさいわいです。
――田中先生は長年、医師として、また僧侶として、「スピリチュアル・ケア」を提唱され、また、ご自身の医院でも真摯に実践されてきました。仏教は「スピリチュアル・ペイン」=「いのちの苦」に対して、具体的にどのような智慧を授けてくれるのでしょうか?
「いのちの苦」というのは、生老病死すべてのことですが、とくに「死」というのは、「自分」、「我」という存在がなくなることですから、人間にとって大変大きな問題なわけです。
それで、古代インドでは、なんとかその問題を解決しようとして、数百年もの間、出家修行ということが盛んに行われた。その人たちが具体的になにをしたのかというと「ヨーガ」ですね。心のはたらきの制御ですけれど、それを必死に修行していた。ところがそれを達成した人はいなかったわけですよ。
そんな折、お釈迦さまが現れて、はじめて「死」という問題を解決された。そうして「不死の鼓(つづみ)を打つ」と宣言されたわけです。その後、お釈迦さまは遠いところまで歩いていって、修行者が集まっていた場所で「苦集滅道(くじゅうめつどう)」という4つの真実を発表しました。
まずは「苦」ですね。最初に、お釈迦さまは、苦しみという真実がある、ということをおっしゃった。次に7つの苦しみを並べるんですね。生・老・病・死。それから怨憎会苦(おんぞうえく)・愛別離苦(あいべつりく)・求不得苦(ぐふとくく)。そして次に、これら7つをまとめると我に執着する苦、五取蘊苦(ごしゅうんく)となる、と。
五取蘊(ごしゅうん)というのは、般若心経に出てくる五蘊(ごうん)と同じですね。色受想行識(しきじゅそうぎょうしき)という、「我」というこだわりの要素の集まりのことです。この身体と心のはたらき。「この身体が私のものである」とか、「我思う、ゆえに我あり」とか、そういう「我」というこだわりの要素の集まりとして、五取蘊というものがある。我に執着する苦、これこそがまさに「スピリチュアル・ペイン」です。
ここでひとつ押さえておきたいのは、「苦」というのは、「思い通りにならない」という意味の言葉なんですね。ですから、いわゆる現代の日本語の「苦しみ」とは、ちょっと違うと思います。
とにかく、お釈迦さまは、「自分」というこだわりこそが「苦」である、と言いました。次に、じゃあどうして「苦」が生じるのか、というところで「思い通りにしたい」という欲から「思い通りにならない」という苦が生まれる、と。これが「集」。3つの渇愛を説いたわけです。1つめは男女の愛欲。2つめは生存に対する欲求。最後に、死にたい、という欲求ですね。この3つの「思い通りにしたい」という思いから、「思い通りにならない」ということが生ずるのだ、と。非常に単純明快です。
そうすると、その3つの欲がコントロールされたら、苦しみはなくなる、思い通りにならないことがなくなる、と。それで、その欲が完璧にコントロールされた状態を、お釈迦さまは「涅槃」と言ったわけですね。そして、涅槃は、まさに「無執着」である、と。これが、苦集滅道の「滅」ですね。その次に、どうしたらそれを達成できるのかということで、「八正道」を説かれたわけです。八正道の「正」は「完全に」という言葉の漢訳で、「正しい」という意味ではありません。これが「道」ですね。完全に渇愛を制御して生きる道です。
つまり、仏教は人々を「苦」の此岸から、「楽」の彼岸まで運ぶ筏(いかだ)ということになります。これはそのまま「スピリチュアル・ペイン」を緩和する「スピリチュアル・ケア」になりますね。
――仏教は、その成り立ちからして、まさしく「スピリチュアル・ケア」そのものだった、ということですね。では、実際に、臨床の現場ではどういった「スピリチュアル・ケア」が行われているのでしょう?
医師のするべきこととしては、まずはしっかりとした科学的な情報を患者さん本人に提供する。そこが非常に大事なことですね。いのちに関して、自分がいまどういう状況なのかということを、本人にはっきりとわかってもらう。その上で、本人に、その限られたいのちをどう生きるのかということを、考えてもらったり、決めてもらったりする。
そのときに「宗教」というものが非常に大事になってくるんですね。「宗教」というのは、どこそこの神さま、仏さまを信仰するというのだけではない。ひとりひとりにとって、自分自身のいのちを超えた価値というのがあったなら、それこそが本人の宗教だと思うんです。
先ほどはお釈迦さまの話をしましたけれど、この仏教っていうのは、「自分」というこだわりを離れていくという教えですので、自分の考えや宗教を相手に押し付けるということをしないわけです。このことからして、本人の生き方、本人の宗教、そういったものを尊重するのがスピリチュアル・ケアワーカーの役割になります。だから、仏教ではこのように説かれているから、こういう生き方をするといいですよ、というようなことは決して言わない。
日本人には無宗教の人が多い、というようなことを良く言われますけれど、私はそういうことはないと思うんですよ。やはり、この限りあるいのちを生きるための理想というのは、みなさん、それぞれに持っていると思うんです。いわゆる一神教のように、なにか特定のものを信仰するというよりも、仏教のように、「自分」というもの、「我」というこだわりを離れる、あらゆる生き方を尊重する。曼荼羅的な世界観といいますか、あらゆるものをそのままに認めていく。これこそが日本人の宗教であって、日本の文化だと思うんですね。そういう意味で、仏教というのは、まさに、これからの時代にふさわしい宗教ではないかと思います。
――田中先生のご尽力によって、「スピリチュアル・ケア」は、日本の医療の現場にも、少しずつ広まりつつあると思います。しかしながら、一般的な認知度は、残念ながら、まだまだ低いと言わざるを得ない状況です。
私自身、現在の臨床宗教師や臨床仏教師が育ってくれることを非常に願っています。いままでの日本では、スピリチュアル・ケアを医師自らがやろうとしていた。現在でもそういう方はいらっしゃいます。しかしながら、医師というのは、とにかく忙しすぎて時間がないんです。これは日本の医療の問題ですけれども、医師たちは、少ない人数で、非常に忙しく、まったく余裕がない状態で、医療の世界を支えているんですね。なので、医師だけでは、能力的にも、時間的にも、とても十分なことはできないんですよ。医師は人間に関する科学の専門家です。医師免許は人文学を学んで得た資格ではありませんから。
そこで、その部分を担当するのが、スピリチュアル・ケアワーカーという人たちです。日本でも、明治以前、江戸時代までは、仏教のお坊さんが、その役割をずっとやってきていたんですよ。しかし、明治維新以降、そういう人たちがいなくなってきてしまった。
だから、まずは現代の、医師中心の、彼らの過重労働で支えられているような医療現場の状況を変える必要があるんですね。しかし、それは大変に難しいことなんです。というのは、じゃあそのお金を誰が負担するのか、という問題になりますから。当然、日本の社会が負担するいい方法を考える必要があるんですけれども。実際、現在の医療現場のスタッフの数の何倍も必要でしょう。スピリチュアル・ケアワーカー以外にも、多くの職員が必要だと思いますよ。果たしてそのための費用を現代の日本の社会が負担できるのかどうか......。
私自身、何十年も医師をやってきましたけれど、十分にスピリチュアル・ケアをやってきたなんて、とても胸張って言えないですよ。やろうという気持ちはあっても、実際にやっている最中にほかの患者さんから呼ばれたり、急患さんの治療にあたったり......。そういう状況がずっと続いていました。
「スピリチュアル・ケア」が必要だということを、私はずっと言ってきたわけですけれど、自分でそれを十分にやれたかというと、とてもやれてはこなかった......。今後に期待したいところですね。
――多くの進行がんの患者さんの治療に当たられてきた田中先生ですが、奇しくも、ご自身が同じ病に冒されてしまった......。残されたいのちが決して長くはないと知ったいま、先生は、ご自身の「いのちの苦」というものと、どのように付き合っていらっしゃるのでしょうか? そして、「いのち」の正体とは? 現在、どのようにお感じですか?
私は「いのちの苦」というものの滅尽を目指して修行をしている僧侶です。ブッダに憧れて、自分もそれに近づきたいと考えて、ずっと努力をしてきました。しかしながら、どこまで近づけたのか、それは問題ですね。自分では、少しは近づけたかな、とは思っておりますが......。
私自身の「苦」は、もちろんありますよ。ただ、それをコントロールすることは、まあ、ある程度は、できているのではないでしょうか。できている、と思いたいところですね。
「いのち」とは......。ひとつには、現実のいのちというのがありますね。これはお釈迦さまが言った、3つの渇愛、これによって生まれては死に、生まれては死にっていう、そういうものですね。それに対してもうひとつ、理想的ないのちというのがある。智慧の完成、というものですね。こちらの意味でのいのちは、不生不滅なんです。
それを努力目標として修行しているのが、私をはじめとする仏教僧侶だと思うんですね。いわゆる仏と一般の人とのちょうど中間にあって、目覚めを目指して頑張っている人。それを「菩薩」といいます。
私は、生きられる時間としては、もう、あまりないということははっきりしているんですよ。これから先、半年以上生きられる可能性っていうのは、統計からいえば、ほとんどないと思うんです。もし生きているとしても、今度は身体の苦しみが起きてしまいます。そうなってきたときには、もう、とても講演もできなくなるし、原稿も書けなくなるし、取材を受けることもできなくなる。しかし、そういう症状が出るまでの間は、どうにか、できる限りのことはやっていきたいな、と思うんですね。生涯、修行者でありたいと考えています。
――田中先生。本日は、大変貴重なお話を、ほんとうにありがとうございました。
2016年1月21日 西明寺信徒会館にて
聞き手:小出遥子』 (全文引用)
昨日、地元のがんプロフェッショナル養成基盤推進プラン(以下、がんプロ)の4大学合同学生セミナーにお招きいただき、陽子線治療の教育講演なるものを担当させていただきました。ブログでも書いておりますように陽子線治療の臨床経験はまだ1年に満たない私ですが、僭越ながら講師をさせていただきました。
陽子線治療の講演は初めてでした。
がんプロというのは『手術療法、放射線療法、化学療法その他のがん医療に携わるがん専門医療人を養成する大学の取組を支援することを目的』として『複数の大学がそれぞれの個性や特色、得意分野を活かしながら相互に連携・補完して教育を活性化』するために平成25年度から全国各地域で実施されているものです(『』内は文部科学省HPより引用)。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/1314727.htm
当然、今回のがんプロセミナーの参加者も最新の医学研究をなさっておられる各大学の新進気鋭の若い先生方ばかり、しかも前列には国公立4大学の名の知れた担当教授が勢ぞろい。
そんな中、私は陽子線治療に関する講演は人生初、作成スライドも新作ばかりだったので、緊張感満載の発表でした。
私の講演タイトルは「陽子線治療の現状と臨床試験を軸とした今後の可能性」、今回のセミナーを主催された大学の先生のご要望をふまえて決まりました。
前回のブログで『小児がんの陽子線治療の保険適応が決定したようです!(中略) 数年前から粒子線グループの先生方が集まって厚生労働省の担当の方々とも相談しながら国内外に粒子線治療の安全性・有効性を示すため臨床試験をはじめとするいろいろな準備をしています。』と書きました。
その後も頻回に開催されている各施設の担当放射線腫瘍医が一同に会した粒子線治療会議でいろいろな準備が着々と進んでおりまして、およそできあがった各臨床試験のプロトコール概要やコンセプトをいくつかご紹介させていただきました。
タイムリーに進められている内容(案)が参考資料としていろいろあったので、正直助かりました(笑)
今年1月14日に開催された第38回先進医療会議で報告された粒子線治療の取り扱いが厚生労働省HPに掲載されたPDFに記されています。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000109281.pdf
粒子線治療の先進医療関連の各臨床試験プロトコールについてはまだ公開されていないのですが、それ以外の各がん種でも来年度からは粒子線治療が日本放射線学会作成の全国統一治療方針で診療が行われる予定です。その概要は上記PDFに70ページ以上をかけて公表されています。
今回の教育講演は全部で30分とかなり限られていた(し、加速器BNCT治験の話題も少し紹介したかった)ので、逆に臨床試験以外の統一治療方針の紹介は今回の講演ではほとんど省かざるをえませんでした。
別の機会があったら、臨床試験以外の統一治療方針スライドもお披露目できるかもしれません…もしあれば、ですが。
来年度からは全国統一治療方針の他にも粒子線治療を実施するうえで以下の新たな施設要件を満たすことが必要になりそうです。これも上記PDFに詳細が記載されていますが、その要件を私なりに簡単にまとめてみました。
1. 粒子線治療専門スタッフ数の充足
2. キャンサーボードの整備
3. 学会指定の共通粒子線治療同意説明書等の使用
4. 粒子線治療例を学会へ全例登録
5. 学会による定期的な施設訪問調査、施設からの定期報告
全例登録はなかなか大変そうですが、他はうちの施設に関してはなんとかなりそうです…たぶん。
陽子線治療は装置そのものがだんだん改良され、また小型化も進んでいます。昨年12月には台湾で今のX線治療室にも設置できそうな小型陽子線治療装置が世界で初めて導入されたことが報道されました。
http://www.iba-protontherapy.com/proteusone-0#8299
この辺も話題提供としてご紹介させていただきました。
以上、客観的な臨床効果確認のため多施設臨床試験が進められていること、陽子線治療装置の改良や小型化が進んでいることなど、近い将来X線治療に変わりうると期待されている陽子線治療の現状についてのご紹介講演をさせていただきました。
ほとんどが新しく作ったスライドばかり、私もいろいろ勉強になりました。
実は来月も日本放射線腫瘍学会主催の看護師さん向けの放射線治療セミナーの講師を担当させていただきます。私の担当は放射線治療の基礎と緩和的放射線治療総論です。このブログで紹介した話題もいくつかパクろうかと思ってます…自分で書いたものだからパクるとは言わないですかね?
会費がなんと一人〇千円もするセミナー、予定定員は300名。きっとまた緊張感満載の講演となることでしょう…
私、看護師さん向けのセミナー講師も初体験です。
陽子線治療の講演は初めてでした。
がんプロというのは『手術療法、放射線療法、化学療法その他のがん医療に携わるがん専門医療人を養成する大学の取組を支援することを目的』として『複数の大学がそれぞれの個性や特色、得意分野を活かしながら相互に連携・補完して教育を活性化』するために平成25年度から全国各地域で実施されているものです(『』内は文部科学省HPより引用)。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/1314727.htm
当然、今回のがんプロセミナーの参加者も最新の医学研究をなさっておられる各大学の新進気鋭の若い先生方ばかり、しかも前列には国公立4大学の名の知れた担当教授が勢ぞろい。
そんな中、私は陽子線治療に関する講演は人生初、作成スライドも新作ばかりだったので、緊張感満載の発表でした。
私の講演タイトルは「陽子線治療の現状と臨床試験を軸とした今後の可能性」、今回のセミナーを主催された大学の先生のご要望をふまえて決まりました。
前回のブログで『小児がんの陽子線治療の保険適応が決定したようです!(中略) 数年前から粒子線グループの先生方が集まって厚生労働省の担当の方々とも相談しながら国内外に粒子線治療の安全性・有効性を示すため臨床試験をはじめとするいろいろな準備をしています。』と書きました。
その後も頻回に開催されている各施設の担当放射線腫瘍医が一同に会した粒子線治療会議でいろいろな準備が着々と進んでおりまして、およそできあがった各臨床試験のプロトコール概要やコンセプトをいくつかご紹介させていただきました。
タイムリーに進められている内容(案)が参考資料としていろいろあったので、正直助かりました(笑)
今年1月14日に開催された第38回先進医療会議で報告された粒子線治療の取り扱いが厚生労働省HPに掲載されたPDFに記されています。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000109281.pdf
粒子線治療の先進医療関連の各臨床試験プロトコールについてはまだ公開されていないのですが、それ以外の各がん種でも来年度からは粒子線治療が日本放射線学会作成の全国統一治療方針で診療が行われる予定です。その概要は上記PDFに70ページ以上をかけて公表されています。
今回の教育講演は全部で30分とかなり限られていた(し、加速器BNCT治験の話題も少し紹介したかった)ので、逆に臨床試験以外の統一治療方針の紹介は今回の講演ではほとんど省かざるをえませんでした。
別の機会があったら、臨床試験以外の統一治療方針スライドもお披露目できるかもしれません…もしあれば、ですが。
来年度からは全国統一治療方針の他にも粒子線治療を実施するうえで以下の新たな施設要件を満たすことが必要になりそうです。これも上記PDFに詳細が記載されていますが、その要件を私なりに簡単にまとめてみました。
1. 粒子線治療専門スタッフ数の充足
2. キャンサーボードの整備
3. 学会指定の共通粒子線治療同意説明書等の使用
4. 粒子線治療例を学会へ全例登録
5. 学会による定期的な施設訪問調査、施設からの定期報告
全例登録はなかなか大変そうですが、他はうちの施設に関してはなんとかなりそうです…たぶん。
陽子線治療は装置そのものがだんだん改良され、また小型化も進んでいます。昨年12月には台湾で今のX線治療室にも設置できそうな小型陽子線治療装置が世界で初めて導入されたことが報道されました。
http://www.iba-protontherapy.com/proteusone-0#8299
この辺も話題提供としてご紹介させていただきました。
以上、客観的な臨床効果確認のため多施設臨床試験が進められていること、陽子線治療装置の改良や小型化が進んでいることなど、近い将来X線治療に変わりうると期待されている陽子線治療の現状についてのご紹介講演をさせていただきました。
ほとんどが新しく作ったスライドばかり、私もいろいろ勉強になりました。
実は来月も日本放射線腫瘍学会主催の看護師さん向けの放射線治療セミナーの講師を担当させていただきます。私の担当は放射線治療の基礎と緩和的放射線治療総論です。このブログで紹介した話題もいくつかパクろうかと思ってます…自分で書いたものだからパクるとは言わないですかね?
会費がなんと一人〇千円もするセミナー、予定定員は300名。きっとまた緊張感満載の講演となることでしょう…
私、看護師さん向けのセミナー講師も初体験です。
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