MSCC(Malignant Spinal Cord Compression:(骨転移などの)悪性腫瘍による脊髄圧迫)は患者さんの症状から早期診断をすること、そして早期治療をすることが重要です。もし下半身マヒや排尿排便障害といった脊髄損傷症状が出てしまっていたら、症状回復を速やかに図るためにステロイドホルモンを使用したり緊急照射をしたりと手立てを講じなければなりません。
医療者がMSCCを知らない(いや、必ずどこかで学んでいるはずだから単に忘れている)と数日であっという間に下半身マヒになってしまうこともあり、下手をすれば一生寝たきりの恐れがあります。残された時間がかなり短くなってしまった進行がん患者さんにとって、下半身マヒや膀胱直腸障害という重い身体症状が永久に伴ってしまうことは精神的ダメージを含めとてもつらいことであり、また介護される方々にとっても負担がさらに大きくなってしまいます。
とにかく誰が早期発見をしてもいいのです。医者でも看護師さんでも理学療法士さんでもご家族でもご本人でも、誰かがMSCCを知っていて早急な対応さえできれば…
厚生労働省委託事業「平成20年度がん医療に携わる医師に対する緩和ケア研修等事業」(平成20年5月9日付け健発0509004号)を受け、日本緩和医療学会が主催して「緩和ケアおよび精神腫瘍学の基本教育に関する指導者研修会(以下、「指導者研修会」)」と「がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会(以下、「緩和ケア研修会」)」を組み込んだ教育プログラムを作成し、これらを「日本緩和医療学会PEACE プロジェクト」として実施することとなりました。PEACEプロジェクトについてはいずれまた改めてブログで触れてみたいと思います。
http://www.jspm-peace.jp/about/index.html
このPEACEプロジェクトによるがん緩和ケア講習会などをきっかけにMSCCなどがん救急に対する情報周知が少しずつなされるようになり、最近では早期発見・早期治療が増えてきたような印象はうけます。しかし、まだまだ手遅れの状態で放射線治療科に紹介されてしまうケースも少なくありません。
前回もご紹介しました静岡県立がんセンター整形外科 片桐先生は以前のご講演で、「がん患者さんが胸や腹のわきの痛みを訴えた時、特に起きた時などの体動時の痛みでは(放射線)治療を要する脊椎転移を疑い、至急画像診断をしましょう!」とおっしゃっていました。私が講習会などでお話するときもこのコメントをいつも(無断)引用させていただいております。片桐先生、ありがとうございます!
とにかく、まずはMSCCを鑑別診断として疑うことが最も大事です。
とは書いてはみたものの、実はMSCCって他の病気との鑑別診断が難しいことが少なくありません。例えば背中の痛みとか足のしびれとか、MSCCと似たような症状を呈するものとして最も多いのは良性の病気である変形性脊椎症や椎間板ヘルニア。じーちゃんばーちゃんが「腰が痛い」「足がしびれる」ってよく訴えられるやつです。
画像診断で骨の変化が乏しく、脊髄を圧迫あるいは近い将来圧迫しそうな腫瘍がなければ、MSCCかどうかわからず少なくとも緊急照射の対象にはなりません。判断に悩むのが、骨粗しょう症など良性の変化で脊椎の圧迫骨折が起きたばかりの状態です。複雑な骨の変化が出てこようものなら両者の区別はほぼ困難です。いろいろな検査をすればそこそこ判断できるのかもしれませんが、脊髄マヒ症状が出ていたら時間的余裕はまずない(特に夜間や休日での診断)。
症状がありMSCCを否定できなかったらぶっちゃけ緊急照射やむなし。賛否両論あるかも知れませんが、うちでは最悪の事態を避けるため原則そのような対応をしています。もちろん患者さんと相談したうえでの話です。
MSCCの診断に大いに役立つのがMRI検査です。しかし、これが時間遅延の原因の一つになってしまうことがあります。平日のMRI検査は(施設の体制にもよるでしょうが)予約いっぱいってことが当たり前で、当日緊急MRIを申し込んでも早くてお昼時間帯に放射線技師さんがお昼ご飯も食べずに撮影、とてもそんな余裕がない場合は全ての業務が終わって夕方になることがしばしばです。外来患者さんだと(即入院が必要となりそうな下半身マヒが発症していたらまだしも)診察が終わった午前から夕方まで検査だけのためにずっとなんてなかなか待っていられないでしょ?ということで後日検査となり、その間に症状が悪化してしまうケースもあります。
去年の(通称)Green Journalに、“Always on a Friday: Referral pattern for metastatic spinal cord compression”という同一施設から追試報告がなされました(ようやくブログタイトルの理由が登場m(_ _)m)。月→火→水→木→金にしたがいMSCC症例の照射依頼が多くなり、金曜はなんと月曜の2倍以上の件数があったという報告です。
Koiter E, et al. Radiother Oncol 2013; 107: 259-260
金曜にMSCC症例が多くなる理由としてKoiterらは、先ほど触れた緊急MRI検査実施が遅れがちな点やオランダでは金曜に総回診をする(医療スタッフが一同で入院患者さんの診察をする)ことが多い点などを考察に挙げていました。人手が少ない週末の前にいろいろ確認したくなるのは古今東西同じようです。(不謹慎ですが)試験直前にようやく本気になって駆け込み勉強する様子と本質的に似ているかもしれません。
一昨年にうちの病院でもMSCC緊急照射の傾向を調査してみたのですが、なんと半数以上が金曜午後~夜の緊急照射でした。実は以前から「なんでこんなに(花)金にMSCCの緊急照射が多いの?」って少し辟易していたのです。そこでちょっと調べたら、この論文を見つけたわけです。
先日、私のfacebookに「金曜夜って緊急照射が多いな~」って投稿したら、東京でお仕事をなさっている某女医さんも「なんでだべかー?もっと早くよこしてけろー。」と賛同してくれました。どこも同じなんですかねぇ?
なんでだろ 緊急照射 金の夜 (JIN)
医療者がMSCCを知らない(いや、必ずどこかで学んでいるはずだから単に忘れている)と数日であっという間に下半身マヒになってしまうこともあり、下手をすれば一生寝たきりの恐れがあります。残された時間がかなり短くなってしまった進行がん患者さんにとって、下半身マヒや膀胱直腸障害という重い身体症状が永久に伴ってしまうことは精神的ダメージを含めとてもつらいことであり、また介護される方々にとっても負担がさらに大きくなってしまいます。
とにかく誰が早期発見をしてもいいのです。医者でも看護師さんでも理学療法士さんでもご家族でもご本人でも、誰かがMSCCを知っていて早急な対応さえできれば…
厚生労働省委託事業「平成20年度がん医療に携わる医師に対する緩和ケア研修等事業」(平成20年5月9日付け健発0509004号)を受け、日本緩和医療学会が主催して「緩和ケアおよび精神腫瘍学の基本教育に関する指導者研修会(以下、「指導者研修会」)」と「がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会(以下、「緩和ケア研修会」)」を組み込んだ教育プログラムを作成し、これらを「日本緩和医療学会PEACE プロジェクト」として実施することとなりました。PEACEプロジェクトについてはいずれまた改めてブログで触れてみたいと思います。
http://www.jspm-peace.jp/about/index.html
このPEACEプロジェクトによるがん緩和ケア講習会などをきっかけにMSCCなどがん救急に対する情報周知が少しずつなされるようになり、最近では早期発見・早期治療が増えてきたような印象はうけます。しかし、まだまだ手遅れの状態で放射線治療科に紹介されてしまうケースも少なくありません。
前回もご紹介しました静岡県立がんセンター整形外科 片桐先生は以前のご講演で、「がん患者さんが胸や腹のわきの痛みを訴えた時、特に起きた時などの体動時の痛みでは(放射線)治療を要する脊椎転移を疑い、至急画像診断をしましょう!」とおっしゃっていました。私が講習会などでお話するときもこのコメントをいつも(無断)引用させていただいております。片桐先生、ありがとうございます!
とにかく、まずはMSCCを鑑別診断として疑うことが最も大事です。
とは書いてはみたものの、実はMSCCって他の病気との鑑別診断が難しいことが少なくありません。例えば背中の痛みとか足のしびれとか、MSCCと似たような症状を呈するものとして最も多いのは良性の病気である変形性脊椎症や椎間板ヘルニア。じーちゃんばーちゃんが「腰が痛い」「足がしびれる」ってよく訴えられるやつです。
画像診断で骨の変化が乏しく、脊髄を圧迫あるいは近い将来圧迫しそうな腫瘍がなければ、MSCCかどうかわからず少なくとも緊急照射の対象にはなりません。判断に悩むのが、骨粗しょう症など良性の変化で脊椎の圧迫骨折が起きたばかりの状態です。複雑な骨の変化が出てこようものなら両者の区別はほぼ困難です。いろいろな検査をすればそこそこ判断できるのかもしれませんが、脊髄マヒ症状が出ていたら時間的余裕はまずない(特に夜間や休日での診断)。
症状がありMSCCを否定できなかったらぶっちゃけ緊急照射やむなし。賛否両論あるかも知れませんが、うちでは最悪の事態を避けるため原則そのような対応をしています。もちろん患者さんと相談したうえでの話です。
MSCCの診断に大いに役立つのがMRI検査です。しかし、これが時間遅延の原因の一つになってしまうことがあります。平日のMRI検査は(施設の体制にもよるでしょうが)予約いっぱいってことが当たり前で、当日緊急MRIを申し込んでも早くてお昼時間帯に放射線技師さんがお昼ご飯も食べずに撮影、とてもそんな余裕がない場合は全ての業務が終わって夕方になることがしばしばです。外来患者さんだと(即入院が必要となりそうな下半身マヒが発症していたらまだしも)診察が終わった午前から夕方まで検査だけのためにずっとなんてなかなか待っていられないでしょ?ということで後日検査となり、その間に症状が悪化してしまうケースもあります。
去年の(通称)Green Journalに、“Always on a Friday: Referral pattern for metastatic spinal cord compression”という同一施設から追試報告がなされました(ようやくブログタイトルの理由が登場m(_ _)m)。月→火→水→木→金にしたがいMSCC症例の照射依頼が多くなり、金曜はなんと月曜の2倍以上の件数があったという報告です。
Koiter E, et al. Radiother Oncol 2013; 107: 259-260
金曜にMSCC症例が多くなる理由としてKoiterらは、先ほど触れた緊急MRI検査実施が遅れがちな点やオランダでは金曜に総回診をする(医療スタッフが一同で入院患者さんの診察をする)ことが多い点などを考察に挙げていました。人手が少ない週末の前にいろいろ確認したくなるのは古今東西同じようです。(不謹慎ですが)試験直前にようやく本気になって駆け込み勉強する様子と本質的に似ているかもしれません。
一昨年にうちの病院でもMSCC緊急照射の傾向を調査してみたのですが、なんと半数以上が金曜午後~夜の緊急照射でした。実は以前から「なんでこんなに(花)金にMSCCの緊急照射が多いの?」って少し辟易していたのです。そこでちょっと調べたら、この論文を見つけたわけです。
先日、私のfacebookに「金曜夜って緊急照射が多いな~」って投稿したら、東京でお仕事をなさっている某女医さんも「なんでだべかー?もっと早くよこしてけろー。」と賛同してくれました。どこも同じなんですかねぇ?
なんでだろ 緊急照射 金の夜 (JIN)
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