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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 病院には中央診療部門というのがあります。各科のお医者さんからご依頼があって診療サポートをする部門のことです。具体的には、病理科、麻酔科、放射線診断科、そして放射線治療科(など)のことをさします。
 病理科は各診療科の先生方から細胞検査などを依頼され、がんなどかどうかを診断する部門です。麻酔科は外科の先生方の手術を全身麻酔などを行ったり神経ブロックをはじめとする疼痛緩和などを担う部門です。放射線診断科はCTなどのX線検査やPET検査、あるいはMRI検査などの画像診断を行ったり、血管造影検査や治療を行う部門です。そして放射線治療科は各診療科の先生方からご相談をいただいたがん患者さんの放射線治療を請け負う部門です。

 放射線治療科を受診される患者さんは、たいてい事前に他の診療科で諸検査をうけ、がんという確定診断がなされたうえで、放射線治療はどうでしょうかと「医者から」紹介をうけます。つまり、どこそこの調子が悪いから、あるいはがん検診で異常を指摘されたからと患者さんが自ら放射線治療科を最初に受診されることはまずありません。
 もちろん、以前に放射線治療を受けられた後も放射線治療科で経過観察を行っている患者さんの場合はその限りではありませんが。


 少し話題がそれますが、西洋医学におけるがんの3大治療とは、手術、抗がん剤、そして放射線治療をさします。手術と放射線治療はがんに対する局所療法であり、抗がん剤は基本的に全身療法です。また、手術は身体にメスを入れる(観血的な)治療、抗がん剤と放射線治療は身体を切らない(非観血的な)治療です。
 最近のがん治療では、この3大治療などをより良く組み合わせたいわゆる集学的治療を行う試みが多くなされています。その際、診療ガイドラインや過去の臨床試験などの報告などを元にキャンサーボードなどで各診療科の先生方がいろいろな相談をしながら、そして患者さんのご希望などももちろん踏まえたうえで治療方針を決定します。

 早期がんなどで定型的な治療内容がガイドラインで決まっているような場合は基本的にさほど議論にならずに治療が始められます。しかし、がんの再発転移や珍しいがんやご高齢者など患者さんの一般状態が芳しくない場合などは、手術・抗がん剤・放射線治療の選択、そしてそもそもがん治療をすべきか否かの判断が医者の中でも意見が一致しない場合が少なからずあります。

 以前のブログで「抗がん剤と放射線治療の併用で気をつけたほうがいいと思ってること(2)」というのを書いたことがあります。その一部を以下に再度抜粋引用します。
 『放射線腫瘍医側に関しても「主治医(各診療科の専門の先生)のご依頼だから」と安易に同時併用を承認している話を聞くことがあります。でも実は、相手の診療科の先生も「放射線腫瘍専門医もOKしてくれているし」とか「たぶん大丈夫でしょう」という意識を持っている恐れがあったりします。ちなみに、これまで私が化学療法の内容照会でお問い合わせし、そうお答えになった先生は何人かいらっしゃいました。そのような確認をしなければ、両者ともに責任転嫁状態で抗がん剤という猛毒が根拠あいまいなまま患者さんに投与されたことになっていたわけで…。』
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-21.html

 大学病院とかがんセンターのような大規模施設だと放射線腫瘍医も複数名所属しており、また研究教育機関ということもあっていろいろながんの臨床試験とか各種がんの治療方針の院内基準がある程度定まっているので、キャンサーボードなどの検討会でも比較的まともで対等な議論がなされやすいように思います。

 しかし一方、例えば放射線腫瘍医が一人しかいないような中規模(地方)一般病院ですと相手診療科の先生方もがん専門とは限りません。顔の見えすぎる数少ない医局人数なので、お互いの診療スタンスや主張が食い違うと、そしてそれが繰り返されると双方の人間関係にもひびが入る可能性が、なんてこともありえます。実は私も何度かそういう経験(≒けんかもどき)をしたことがあります。命がかかった患者さんの治療方針なのでやむを得ないのですが、言い方の問題もあったかなあと(今でも)思いつつ…。
 理解ある先生だとそういったことはまずないのですが、『重鎮のような有名な先生が意外にくせ者(自分の思いつき指示)だったりすることもあります。(前述のブログより引用)』。もちろん私自身に言い聞かせるつもりで書いています。

 チーム医療として治療方針を決める際に患者さん本位というのは第1だと当然思うわけですが、中央診療部門で自ら入院患者さんを管理していないと、意見交換の場で「主」治医にはなりにくいことが実際にはありえます。依頼医側の方針が根拠の乏しい診療をしていることをきちんと指摘できればいいわけですが、こちらもそれなりの準備をしていないといけませんし。
 あえてそこまでしなくても「仲良く主治医の先生の方針に従っていればいいじゃない」という放射線腫瘍医も実際にはいらっしゃいます。どちらかというと(表面上)人付き合いがいい、あるいはおとなしい(≒人との会話そのものが得意でない)放射線腫瘍医によくみられる傾向のようです。
 私のまわりではそういう先生を「あてや」っていうことがあります。相手に言われるがまま放射線治療を行う(=放射線をあてる)、思考停止したような先生のことです。でも、さすがに専門医がそれじゃいけませんよね?

 逆に、実は誠実で気まじめな放射線腫瘍医って一匹狼的な方が多い気がします。多種多様の外科内科医と長年やりあう…いや、議論を重ねるとそうなっていくのかもしれません。


 もちろん、超人格者だって少なくないはずです、きっと。
私も見習わないと…

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【2014/12/09 00:40】 | 放射線治療:よもやま話
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