持続型G-CSF製剤(商品名:ジーラスタ®)がまもなくうちの病院でも採用されそうです。この薬剤、抗がん剤の副作用対策に役立つ良いお薬ではあるのですが、放射線腫瘍医として対応がいささかやっかいだなという気が個人的にしています。
G-CSF:顆粒球コロニー刺激因子(かりゅうきゅうコロニーしげきいんし、granulocyte-colony stimulating factor)とは、サイトカインの一種で好中球(細菌や真菌類を飲み込んで殺菌を行うことで、感染を防ぐ役割を果たす白血球の1種類)の産出促進や機能を高める作用がある。英語の略号でG-CSFと表記することが多い。 (Wikipediaより一部改変引用)
抗がん剤治療の種類によっては身体の骨髄も強いダメージを受け、数日~数週すると体調に支障をきたしうる血液中の白血球や赤血球、血小板などの減少(いわゆる骨髄抑制)が起きてきます。G-CSF製剤とは、減少した血液中の白血球の1種である好中球の数を回復させる高価なお薬のことで、国内でもバイオ後続品と呼ばれるものを含め何種類かの医薬品が承認販売されています。
今回採用予定のジーラスタ®は『がん化学療法による好中球減少症の治療に用いられるG-CSFの一つ「フィルグラスチム」をペグ化した、持続型のG-CSF製剤です。がん化学療法による好中球減少症に対して、ジーラスタ®はがん化学療法1サイクルに1回の投与で、フィルグラスチム連日投与に劣らない効果を発揮することから、医療上の簡便性に優れ、特に、患者さんの投与負担軽減や外来化学療法後の通院負担軽減に寄与できることが期待されています。また、ジーラスタ®を好中球減少症の発症前に投与することで、好中球減少症による感染症発症リスクを低減し、がん化学療法の投与量やスケジュール遵守が可能となるといった、医療上のメリットも期待されています。』(協和発酵キリン株式会社さんHPのニュースリリース2014年9月26日分から引用)
http://www.kyowa-kirin.co.jp/news_releases/2014/20140926_01.html
従来のG-CSF製剤というのは、通常は抗がん剤投与後しばらくして好中球減少症となった「後に」速やかな回復をめざした「治療的」投与をしています。一方、ジーラスタでおそらく最も期待されている効果というのが抗がん剤投与後の好中球減少症の「発症前に」投与、具体的には毎回の抗がん剤投与翌日にジーラスタを「予防的」投与することで抗がん剤の副作用リスクを減らします。
問題の一つは薬価。なんとこの薬1回投与だけで106660円もするそうです(もちろん抗がん剤その他は別費用)。骨髄抑制(好中球減少)が強く出る可能性が高い抗がん剤治療を行う際に安心ですが、入院で抗がん剤治療を行う場合は定額制の包括払いになるので病院経営上はなかなか厳しいという意見もあるようです。
外来治療だとしても、病院会計窓口で患者さんが知らずに支払い伝票を見たらびっくりして「オシッコちびりそう」な値段だ、と某先輩ドクターが申しておりました…。
ジーラスタの保険適応ですが「がん化学療法による発熱性好中球減少症の発症抑制」、全部のがんが対象になっています。でも、国内で行われた第II-III相臨床試験は「乳がん」「悪性リンパ腫」、つまり放射線治療との同時併用をすることがまずない疾患だったようです。
毒性を確認する第I相臨床試験は肺がんが対象でしたが、少数例で抗がん剤だけの試験でもちろん放射線治療の同時併用はしていません。
http://www.info.pmda.go.jp/shinyaku/P201400119/230124000_22600AMX01304_A100_1.pdf
で、ここからが私がなぜ「いささかやっかいだ」などと冒頭に書いたか。
G-CSF適正使用診療ガイドラインというのが日本癌治療学会から発行されています。ネット上で無料公開されています。
http://www.jsco-cpg.jp/guideline/30.html
その中に 「放射線を併用して化学療法を行う際や,単独で放射線療法を施行する際に,G-CSF を投与してよいか?」というCQ (Clinical Question:臨床での質問) があり、「推奨グレードD:放射線同時併用化学療法施行時、縦隔領域が照射内に含まれる場合は、G-CSF使用は推奨されない」 という記載があります。
つまり グレードD=使っちゃダメ! ということです。ご存じでしたか?
ちなみに「推奨グレードC1:放射線療法施行時、好中球減少症により、放射線照射の遅延が長引くと予測される場合にG-CSFの治療的投与を考慮しても良い」とあります。つまり 「放射線治療単独ならまあいいでしょう」 ということのようです。
(その2に続く)
G-CSF:顆粒球コロニー刺激因子(かりゅうきゅうコロニーしげきいんし、granulocyte-colony stimulating factor)とは、サイトカインの一種で好中球(細菌や真菌類を飲み込んで殺菌を行うことで、感染を防ぐ役割を果たす白血球の1種類)の産出促進や機能を高める作用がある。英語の略号でG-CSFと表記することが多い。 (Wikipediaより一部改変引用)
抗がん剤治療の種類によっては身体の骨髄も強いダメージを受け、数日~数週すると体調に支障をきたしうる血液中の白血球や赤血球、血小板などの減少(いわゆる骨髄抑制)が起きてきます。G-CSF製剤とは、減少した血液中の白血球の1種である好中球の数を回復させる高価なお薬のことで、国内でもバイオ後続品と呼ばれるものを含め何種類かの医薬品が承認販売されています。
今回採用予定のジーラスタ®は『がん化学療法による好中球減少症の治療に用いられるG-CSFの一つ「フィルグラスチム」をペグ化した、持続型のG-CSF製剤です。がん化学療法による好中球減少症に対して、ジーラスタ®はがん化学療法1サイクルに1回の投与で、フィルグラスチム連日投与に劣らない効果を発揮することから、医療上の簡便性に優れ、特に、患者さんの投与負担軽減や外来化学療法後の通院負担軽減に寄与できることが期待されています。また、ジーラスタ®を好中球減少症の発症前に投与することで、好中球減少症による感染症発症リスクを低減し、がん化学療法の投与量やスケジュール遵守が可能となるといった、医療上のメリットも期待されています。』(協和発酵キリン株式会社さんHPのニュースリリース2014年9月26日分から引用)
http://www.kyowa-kirin.co.jp/news_releases/2014/20140926_01.html
従来のG-CSF製剤というのは、通常は抗がん剤投与後しばらくして好中球減少症となった「後に」速やかな回復をめざした「治療的」投与をしています。一方、ジーラスタでおそらく最も期待されている効果というのが抗がん剤投与後の好中球減少症の「発症前に」投与、具体的には毎回の抗がん剤投与翌日にジーラスタを「予防的」投与することで抗がん剤の副作用リスクを減らします。
問題の一つは薬価。なんとこの薬1回投与だけで106660円もするそうです(もちろん抗がん剤その他は別費用)。骨髄抑制(好中球減少)が強く出る可能性が高い抗がん剤治療を行う際に安心ですが、入院で抗がん剤治療を行う場合は定額制の包括払いになるので病院経営上はなかなか厳しいという意見もあるようです。
外来治療だとしても、病院会計窓口で患者さんが知らずに支払い伝票を見たらびっくりして「オシッコちびりそう」な値段だ、と某先輩ドクターが申しておりました…。
ジーラスタの保険適応ですが「がん化学療法による発熱性好中球減少症の発症抑制」、全部のがんが対象になっています。でも、国内で行われた第II-III相臨床試験は「乳がん」「悪性リンパ腫」、つまり放射線治療との同時併用をすることがまずない疾患だったようです。
毒性を確認する第I相臨床試験は肺がんが対象でしたが、少数例で抗がん剤だけの試験でもちろん放射線治療の同時併用はしていません。
http://www.info.pmda.go.jp/shinyaku/P201400119/230124000_22600AMX01304_A100_1.pdf
で、ここからが私がなぜ「いささかやっかいだ」などと冒頭に書いたか。
G-CSF適正使用診療ガイドラインというのが日本癌治療学会から発行されています。ネット上で無料公開されています。
http://www.jsco-cpg.jp/guideline/30.html
その中に 「放射線を併用して化学療法を行う際や,単独で放射線療法を施行する際に,G-CSF を投与してよいか?」というCQ (Clinical Question:臨床での質問) があり、「推奨グレードD:放射線同時併用化学療法施行時、縦隔領域が照射内に含まれる場合は、G-CSF使用は推奨されない」 という記載があります。
つまり グレードD=使っちゃダメ! ということです。ご存じでしたか?
ちなみに「推奨グレードC1:放射線療法施行時、好中球減少症により、放射線照射の遅延が長引くと予測される場合にG-CSFの治療的投与を考慮しても良い」とあります。つまり 「放射線治療単独ならまあいいでしょう」 ということのようです。
(その2に続く)
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