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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 G-CSF適正使用ガイドラインで「推奨グレードD:放射線同時併用化学療法施行時、縦隔領域が照射内に含まれる場合は、G-CSF使用は推奨されない」としている根拠の論文はたった一編です(+1992年ASCO発表要約で未論文化報告の計2つ)。1995年に発表された小細胞肺がんSWOG第III相試験の230例で、しかも使用されたのは国内未承認薬GM-CSF製剤、縦隔に化学放射線療法したら「血小板が減少」したという内容でした。
Bunn, et al. JCO 1995; 13: 1632-41

 ASCOガイドライン2004&2006でも「G-CSFと化学放射線療法同時併用は避けるべき」となっていたのですが、これも同じ報告をよりどころにしているようです。
 縦隔照射でなくても特に抗がん剤と併用した場合では血小板は減少することがあります。骨盤照射のほうが照射範囲や骨髄機能的には影響が大きいはずです。

 基礎データ系でG-CSFと放射線治療の併用では肺臓炎が起きやすいという噂もあるようなのですが、G-CSFそのものが肺臓炎リスクを高める薬剤だと報告されています。これは(GEMとかタキサン系などの)抗がん剤単独治療でも起きえます。もちろんその発症頻度が問題なわけですが、臨床報告レベルではあまり信頼性の高い肺臓炎の報告はみつけられませんでした(あったら教えてください)。


 G-CSF製剤投与を必要とする発熱性好中球減少症(febrile neutropenia;FN)をきたしそうな縦隔の化学放射線療法同時併用するがんとして、小細胞肺がん(CDDP+VP-16)や非小細胞肺がん(CBDCA+PTXなど)、食道がん(CDDP+5Fu)などが挙がります。

 FNが発症しそうなGrade3-4の好中球減少(かFNを発症してしまった場合)は、治療的投与として「照射を休止していればG-CSF同時併用ではない」という言い訳(?)ができるかもしれません。これまでのG-CSF製剤は血中半減期がとても短いので投与当日に放射線治療を併用しなければ問題ないのでは?とお知り合いの専門家の先生もおっしゃっていましたし。

 しかし、縦隔の化学放射線療法同時併用で持続型G-CSF製剤(ジーラスタ)を予防的投与となるとそうはいきません。

 ジーラスタをあえて予防的に使わなければいいことなのかもしれませんが、初回抗がん剤投与時に好中球減少が出現してしまった後の2回目の抗がん剤投与では、主治医の先生とともにかなり悩みそうです。
 また、前述のASCOガイドラインでも「初回化学療法投与時の予防的G-CSFは特別な場合(化学療法により感染性の合併症がおきるリスクファクターをもった患者)を除き推奨できない」と示されていますし、初回からジーラスタを投与することはほぼ無いのでしょう(?)。

 これはあくまで個人的意見ですが、実際にG-CSF製剤を投与しても(その影響かはわかりませんが)命をおびやかすような血小板減少などは(もし減少しても輸血などを施行すれば)まず起きないのでは?という印象もあります。 


 ちなみに、2011年にSWOGを追試するような小細胞肺がん化学放射線同時併用(CDDP+VP-16)のPhase II報告が英国グループから出ました。全症例数は38例と少ないですが、G-CSF同時併用をするとやはり血小板は減少していたようです(なんでだろ?)。しかし重症肺臓炎はなかったようですし、血小板減少も「G-CSF禁忌」とするほどの影響はなかったようです。この論文によると、現在は第III相試験を行っているらしく、その結果が注目されます(よね?)
Sheikh H, et al. Lung Cancer 2011; 74: 75-79
 
 肺がんの放射線治療で有名な米国の放射線腫瘍の某先生は「G-CSFなんて気にしなくてもいい」ようなことをおっしゃっていたそうです。有名な専門家のコメントって実は診療ガイドラインの客観評価の目安であるエビデンスレベルとしては一番信頼度が低いとされていますが…。偉い先生の感想なんてあまりあてにはなりませんよ、って意味。
 もっとも、このG-CSF適正使用診療ガイドラインが世に出る何年も前から普通に気にせず肺がんや食道がんの化学放射線同時併用療法でG-CSFも同時に使われていた同じ職場の諸先生方の診療をみていて「大丈夫だろ」といまだに信じている私の経験よりは重みがあるのでしょう。

 頭頸部がんでも肺尖部に少しだけ照射されるようなケースでタキサン系抗がん剤が同時併用されるレジメではどうなのか?とか、今後話題(≒問題)になってきそうな気もします。現時点で頭頸部がんの化学放射線療法同時併用でタキサン系は標準レジメンにはなっていないのですが、国内外の学会報告だけを見ても普通に併用している施設って少なくないようですし。
 それが良いかどうかは別として。

 これもジーラスタをあえて予防的に使わなければいいことなのかもしれませんが…。


 今回の投稿における私にとって一番のポイント(というか不満な点)は、臨床試験(しかもSWOG&ASCO)の結果は重いとはいえ、輸血を含めた抗がん治療の支持療法がかなり進歩してきた現在においても 20年くらい前のたった一つの論文報告だけでガイドラインにグレードDと書かれてしまうのは正直いかがなものか ということでした。タイトルで書いてましたね。
 今後出てくる(かもしれない)臨床試験の報告を含め、化学放射線療法同時併用の際にG-CSFを(どのように?)使うことによる好中球回復の利点と、放射線併用による(?)副作用をきちんと評価していくことが今後求められる課題なのかなと思います。


 とはいえ、私自身がグレードDに反論できるような臨床試験を計画しているわけでなく(申し訳ございません)、やっぱり現時点では安全第一に(縦隔への)化学放射線同時併用と安易なジーラスタ投与は控える対応をすべきなのでしょう。

 ということで、放射線腫瘍医として対応がいささかやっかいな薬剤だなという気がしています…田舎の町医者の印象は別として。

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【2015/01/11 00:22】 | 放射線治療と薬
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