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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 唐突ですが、2013年に「がんのリハビリテーションガイドライン第1版」(金原出版さん)が発刊されています。信頼度の高いいろいろな臨床試験などの医学論文をもとに、日本を代表するリハビリテーション科の専門家の方々により様々ながん患者さんに対する包括的な国内指針を記した書籍です。

リハGL

 なんと今ならタダでPDFファイルが手に入ります!
http://www.jarm.or.jp/wp-content/uploads/file/member/member_publication_isbn9784307750356.pdf

 その第8章に「化学療法あるいは放射線療法がおこなわれる予定の患者または行われた患者」という項目があります(p120-135)。化学療法・放射線療法中もしくは治療後の患者さんに対して運動療法(や鍼治療・物理療法・音楽療法など)を行うのは心身のいろいろな面で客観的評価としてどうなのか?という疑問についていろいろ書いてあります。
 すでにご覧になっている方も少なくないでしょうが、まだご覧でない方々用に***以下へ一部抜粋改変してみました。

 昔は、放射線治療中には「疲れを取るために、身体を休めるように」という患者さん指導が当たり前でした。少なくとも私(の周り)はそうでした。実は今でも、そんな指導をなさっているお医者さんや看護師さんたち、少なくないかもしれません。
 でも、このガイドライン(つまりこれまでのエビデンス)では「動け、動け!」が正しい生活指導になるようです。ご覧いただけば分かる通り、なにしろほとんどの項目で「推奨グレードA(≒超おすすめ)」なのですから。

 もっとも、心臓に負担のかかることがある乳がん用の薬や、治療が終わってから肺炎などをおこすことがある薬や放射線治療内容などを受けられたがん患者さんでは、「動け動け」が検査結果によっては必ずしも好ましくない場合もありえます。それ以外にも患者さんの体調に左右される部分はあるでしょう。
 リハビリテーションの先生方だけが作成メンバーであるこのガイドラインでは、その辺りをどこまで評価されていたのかが個人的に気になる部分ではあります。

 とはいえ、なんとなく思いつきではなく、一つの客観的指針があったうえでがん患者さんへのリハビリテーションや日常の運動の指導ができるというのは臨床現場的にありがたいのは間違いありません。

 ということで私も、特に元々お元気な乳がん術後照射や前立腺がん根治照射のような方々には、「自宅でごろごろ横になっているのはよくないです!」と強調するようにしています。

 ただ、頑張りすぎて足腰いためたり、ひどく息切れしたりする方もたまにいらっしゃいますので、今までしていないようなことを急に無理しすぎないようとも指導しています。 
 今の所、狭心症発作や骨折を起こしてしまった方は私の担当患者さんにはいませんが…。


 少し前のことになりますが、うちの病院が自宅から近いという理由で某病院さんからご紹介の乳がん術後照射患者さんを外来通院で治療したことがあります。その時も、初診時に私が「いつも通りに運動してもいいですよ」とお話しました。

 放射線治療を開始してしばらく経ってからですが、その方から「いつも通り自転車をしてもいいでしょうか?」とご質問がありました。私は「もちろん!」とお返事しましたが、お話をよく聞いてみると実はその方、全国大会でチャンピオンになったこともあるすごい選手だったのです。パッと見では華奢な体格の方でしたので、びっくりしました(もちろんしっかり筋肉質でしたが)。

 いつもの運動といっても本格アスリートのいつもの、です。私はつい「放射線治療が終わるまでは、いつもの自転車の練習は少し控えたほうがよいでしょうか…?」とお茶を濁すようにお伝えし、実際治療終了まで練習制限をかけてしまいました。

 で、今は大会にばりばり出場されているようです。

 その時の私の指導、これで正しかったでしょうか?アスリート大会に出場するような激しい「いつもの」練習をしても良かったのでしょうか?これをご覧の専門家の先生方、ご助言ご教示いただけるとありがたいです。


*****************************

第8章 化学療法あるいは放射線療法がおこなわれる予定の患者または行われた患者(p120-135)

【CQ01】
化学療法・放射線療法中もしくは治療後の患者に対して運動療法を行うと、行わない場合に比べて身体活動性や身体機能(筋力、運動耐容能など)を改善することができるか?

推奨グレードA
化学療法・放射線療法中・治療後の乳がん、前立腺がん、血液腫瘍患者に運動療法は安全に実施でき、…(中略)…行うよう強く勧められる。


【CQ02】
化学療法・放射線療法中もしくは治療後の患者に対して運動療法を行うと、行わない場合に比べてQOLを改善することができるか?

推奨グレードA
化学療法・放射線療法中・治療後の乳がん、前立腺がん、血液腫瘍患者に…(中略)…行うよう強く勧められる。


【CQ03】
化学療法・放射線療法中もしくは治療後の患者に対して運動療法を行うと、行わない場合に比べて倦怠感を改善することができるか?

推奨グレードA
化学療法・放射線療法中・治療後の乳がん、前立腺がん、血液腫瘍患者に、…(中略)…行うよう強く勧められる。


【CQ04】
化学療法・放射線療法中もしくは治療後の患者に対して運動療法を行うと、行わない場合に比べて精神機能・心理面(抑うつ、不安など)を改善することができるか?

推奨グレードA
化学療法・放射線療法中・治療後の乳がん、血液腫瘍患者に、…(中略)…行うよう強く勧められる。


【CQ05】
化学療法・放射線療法中もしくは治療後の患者に対して、運動療法または(鍼治療・)物理療法を行うと、行わない場合に比べて、有害事象、その他のアウトカムを改善することができるか?

推奨グレードA
化学療法・放射線療法中・治療後のがん患者に、…(中略)…行うよう強く勧められる。


【CQ06】
化学療法・放射線療法中もしくは治療後の患者に対して、精神的リラクゼーション(音楽療法など)を行うと、行わない場合に比べて、有害事象を軽減できるか?

推奨グレードB
化学療法中・治療後のがん患者に、…(中略)…行うよう勧められる。


※(中略)部分の「運動療法」=エルゴメーターやトレッドミルを用いた有酸素運動、ストレッチングや筋力トレーニングなど

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【2015/02/11 22:44】 | 放射線治療:支持療法・アメニティ
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