痛みを伴う骨転移に対する緩和的放射線治療について全国の放射線腫瘍医へ実施した「先生なら何回照射を選びますか?」というアンケート調査の結果を、現国立がん研究センター東病院の中村直樹先生が有名な国際放射線腫瘍学会誌へ論文としてご投稿なさっています。
予想通りの結果でしたが、日本の放射線腫瘍医の3人に2人が10回(計30Gy)を選択していたそうです(ケースによって少しバラつきあり)。なお、過半数を占めた10回を除くと1回も5回もその他も少数意見としてほぼ均等に分散していました。
Nakamura N et al: Patterns of practice in palliative radiotherapy for painful bone metastases: a survey in Japan. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 83: e117-20, 2012
10回(2週間)という治療回数(期間)、短いようでがんの病状が進んでしまった方々にとってはけっこう長いです。国立がん研究センター某病院の先生から伺ったコメントを引用させていただくと、『結局3か月で天寿を全うされた場合、10回(≒2週間)の治療期間はその人の人生の1/6を占める(≒奪ってしまう)可能性』があります。
片や、全身状態がかなり悪化してしまって骨転移への放射線治療を行うことそのものがその方の負担になるにもかかわらず、標準治療をかなり超えて何週間もかけて照射範囲のがん細胞を叩くことだけを主眼としたかのような放射線腫瘍医もいらっしゃるようです。医師の指示通りにがんばらせたのに、痛みがやわらぐ効果がようやく出そうな時期である一連の照射終了直後にお亡くなりになられてしまい、いったい何のために誰のために放射線治療を行ったのだろうか?そんな経過を伝え聞くこともあります。
もちろん正確な予後予測などというおこがましいことは現状の医学では不可能ですし、担当医と治療を受けられた方が治療方針を相談された結果なのかもしれませんが…。
私が以前担当させていただいた方で、1回照射の提示が精神的な逆効果になってしまった方もおられました。過去に別部位へ1か月半かけて分割照射したことがあった方で、今回は痛みを伴う骨転移に対する緩和的放射線治療のご依頼でした。全身に多発転移もあり一般状態はあまりよくなかったこともあって1回照射をお勧めしたのですが、「これまで分割照射していたのに、今回は1回なのですね。もう私はそういう状態なのですね」とボソッと呟かれました。
逆に、国立がん研究センター某病院の先生の経験談では、1回だけの緩和的放射線治療の説明をなさったところ「1回で済むなんて、サイコーです!」と口に出して大いに喜ばれた方もいらっしゃったそうです。
緩和的放射線治療に限ったことではありませんが、医療者の話し方で、患者さんの体調で、同じ治療内容なのに相手の受け止め方は大きく変わってしまうことがまれならずあります。私が説明をした時は直接お話をなさらず、あとで看護師さんへ本音を話してくださった方もいらっしゃいました。私の説明の仕方が悪いのかもしれません…。
緩和的放射線治療を毎日受けにくることそのものが、がんと向き合う心の支えになっていらっしゃる方も少なくないだろうと思います。
1回と10回の放射線治療比較話ばかりでしたが、5回の分割照射だって選択肢としてあります。それ以外の回数だって状況によっては当然ありです。
骨転移に対する緩和的放射線治療は「みなさんしてるから10回」で終わるエスニックジョークでは決してありません。
最後に打算的なお話を。
現行の保険診療では、一部例外を除き入院患者さんであっても放射線治療を行った回数分だけ病院収益が増える出来高払い制度となっています。
例外は緩和ケア病棟に入院されている患者さんへの緩和的放射線治療で、これだけ包括払い(過少診療を行えば行うほど病院が儲かる)制度です。緩和ケア科の先生方のきっとごく一部だろうとは思うのですが、緩和ケア病棟入院中に緩和的放射線治療をすると「損をする」と躊躇されている方もいらっしゃるようです…(このお話はまた改めて)。
なので10回のほうが(少し)儲かります。昨年度の診療報酬改定でようやく短期照射の診療報酬が改善されましたが、臨床試験で効果がほぼ同等と示されている5回(1回4Gy)と10回(1回3Gy)の放射線治療実施収益格差はいまだ2倍あります。いろいろな患者さんの負担を減らすために工夫して短期の緩和的放射線治療を選択すると、病院収益は減ってしまいます。
もっとも、治療装置一台当たりの照射人数が多すぎる施設では、スタッフの業務負担も鑑みて短期照射の選択を多くすることもあるらしいですが。
お金と労働の問題も無視はできません。
有痛性骨転移に対する緩和的放射線治療、何回に設定するのがより適切だろう?
いろいろなことを考慮すればするほど悩んでしまいます。
「(所詮は姑息だし)みなさんしてるから10回」、日本の放射線腫瘍医のこんな感じの発言にはいささか辟易している昨今です。
予想通りの結果でしたが、日本の放射線腫瘍医の3人に2人が10回(計30Gy)を選択していたそうです(ケースによって少しバラつきあり)。なお、過半数を占めた10回を除くと1回も5回もその他も少数意見としてほぼ均等に分散していました。
Nakamura N et al: Patterns of practice in palliative radiotherapy for painful bone metastases: a survey in Japan. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 83: e117-20, 2012
10回(2週間)という治療回数(期間)、短いようでがんの病状が進んでしまった方々にとってはけっこう長いです。国立がん研究センター某病院の先生から伺ったコメントを引用させていただくと、『結局3か月で天寿を全うされた場合、10回(≒2週間)の治療期間はその人の人生の1/6を占める(≒奪ってしまう)可能性』があります。
片や、全身状態がかなり悪化してしまって骨転移への放射線治療を行うことそのものがその方の負担になるにもかかわらず、標準治療をかなり超えて何週間もかけて照射範囲のがん細胞を叩くことだけを主眼としたかのような放射線腫瘍医もいらっしゃるようです。医師の指示通りにがんばらせたのに、痛みがやわらぐ効果がようやく出そうな時期である一連の照射終了直後にお亡くなりになられてしまい、いったい何のために誰のために放射線治療を行ったのだろうか?そんな経過を伝え聞くこともあります。
もちろん正確な予後予測などというおこがましいことは現状の医学では不可能ですし、担当医と治療を受けられた方が治療方針を相談された結果なのかもしれませんが…。
私が以前担当させていただいた方で、1回照射の提示が精神的な逆効果になってしまった方もおられました。過去に別部位へ1か月半かけて分割照射したことがあった方で、今回は痛みを伴う骨転移に対する緩和的放射線治療のご依頼でした。全身に多発転移もあり一般状態はあまりよくなかったこともあって1回照射をお勧めしたのですが、「これまで分割照射していたのに、今回は1回なのですね。もう私はそういう状態なのですね」とボソッと呟かれました。
逆に、国立がん研究センター某病院の先生の経験談では、1回だけの緩和的放射線治療の説明をなさったところ「1回で済むなんて、サイコーです!」と口に出して大いに喜ばれた方もいらっしゃったそうです。
緩和的放射線治療に限ったことではありませんが、医療者の話し方で、患者さんの体調で、同じ治療内容なのに相手の受け止め方は大きく変わってしまうことがまれならずあります。私が説明をした時は直接お話をなさらず、あとで看護師さんへ本音を話してくださった方もいらっしゃいました。私の説明の仕方が悪いのかもしれません…。
緩和的放射線治療を毎日受けにくることそのものが、がんと向き合う心の支えになっていらっしゃる方も少なくないだろうと思います。
1回と10回の放射線治療比較話ばかりでしたが、5回の分割照射だって選択肢としてあります。それ以外の回数だって状況によっては当然ありです。
骨転移に対する緩和的放射線治療は「みなさんしてるから10回」で終わるエスニックジョークでは決してありません。
最後に打算的なお話を。
現行の保険診療では、一部例外を除き入院患者さんであっても放射線治療を行った回数分だけ病院収益が増える出来高払い制度となっています。
例外は緩和ケア病棟に入院されている患者さんへの緩和的放射線治療で、これだけ包括払い(過少診療を行えば行うほど病院が儲かる)制度です。緩和ケア科の先生方のきっとごく一部だろうとは思うのですが、緩和ケア病棟入院中に緩和的放射線治療をすると「損をする」と躊躇されている方もいらっしゃるようです…(このお話はまた改めて)。
なので10回のほうが(少し)儲かります。昨年度の診療報酬改定でようやく短期照射の診療報酬が改善されましたが、臨床試験で効果がほぼ同等と示されている5回(1回4Gy)と10回(1回3Gy)の放射線治療実施収益格差はいまだ2倍あります。いろいろな患者さんの負担を減らすために工夫して短期の緩和的放射線治療を選択すると、病院収益は減ってしまいます。
もっとも、治療装置一台当たりの照射人数が多すぎる施設では、スタッフの業務負担も鑑みて短期照射の選択を多くすることもあるらしいですが。
お金と労働の問題も無視はできません。
有痛性骨転移に対する緩和的放射線治療、何回に設定するのがより適切だろう?
いろいろなことを考慮すればするほど悩んでしまいます。
「(所詮は姑息だし)みなさんしてるから10回」、日本の放射線腫瘍医のこんな感じの発言にはいささか辟易している昨今です。
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