先日のことですが、お知り合いの放射線腫瘍医から10年くらい前の経験談を伺いました。その先生が当時在籍されていた病院でのことでした。
早期乳がんで乳房温存手術を受けた後に放射線治療科外来で術後照射を行っていた患者さんが、同時期に乳がん手術で有名な他院から術後照射目的で紹介された別の患者さんと、毎日通院で治療をして顔を合わせているうちにお知り合いになりました。話がはずみ、ある時に外来のトイレでお互いの乳房の状態を見せ合うことになり、他院から来た患者さんからこう言われたそうなのです。
「私のおっぱいは成功、あなたのおっぱいは失敗作ね」
私のお知り合いの先生は、心が傷ついたその患者さんから放射線治療科外来診察室で「失敗」についていろいろな相談を受けたそうです。
いきなり10年も前の乳腺外科の患者さんの話題を出し、申し訳ありません。当時と今とでは、外科手術の内容や診療体制などはだいぶ変わってきています。
この話題をfacebookに出した時、大学時代の同級生の外科医から『「外科の中の乳腺分野」で、手術も「乳房取るだけだから研修医の手術」なんて言われていた時代もあったそうなのですが、今や外科から独立した乳腺科であり全く違います。』とのご指導も受けてしまいました。
全くその通りです。
放射線腫瘍医は、患者さんの診察の時にいろいろな外科医が執刀した手術後の傷口付近の皮膚全体の形やバランス(以下、『出来栄え』とあえて表現します)を拝見させていただく機会がよくあります。
乳腺外科ご専門の先生のおっぱいの『出来栄え』は総じて綺麗です。乳腺外科と他の外科医の『出来栄え』はけっこう違います。もちろん、腹、胸、首、腕など部位が違えば単純な比較をしてはいけないわけですけれど…。
同じ領域の外科医間でも『出来栄え』は違います。単に外科医の腕の差だけでなく、『出来栄え』に対する意識の差もあるように感じます。
もちろん身体の中の執刀医と皮膚の縫合医が違うこともあるでしょう。ですが、その外科チームの診療スタンスといいますか、手術そのものの評価が『出来栄え』から垣間見えるようにも感じています。いささか評判が優れない外科医やチームの『出来栄え』の傾向はやっぱり…
あくまで個人的印象です。
私たち放射線腫瘍医は、術後照射などの際に照射範囲の皮膚が放射線治療可能な状態なのか?放射線治療によって皮膚炎が生じてきていないか?放射線皮膚炎の程度はどうなのか?を診察でまじまじと確認しますから、自然と『出来栄え』も気になります。
いろいろな外科医による『出来栄え』を最も意識して比較しているのが、もしかしたら放射線腫瘍医なのではないかと思っています。
同じ科の手術や回診ならまだしも、同じ病院内でも別の科の外科医同士でお互いの担当患者さんたちの術後皮膚の『出来栄え』をまじまじ確認しあうことって、あまりないのではないでしょうか?学会の発表などは「綺麗」な写真が多いですし。
腫瘍内科の先生方もいろいろな外科医による『出来栄え』を確認できる機会は多いかもしれませんが、「まじまじ」とはみないのではないでしょうか?間違っていたらごめんなさい。
麻酔科も術後すぐの『出来栄え』をみる先生方は見ているでしょうが、むしろ手術室の看護師さんのほうがよくみているかもしれません。
でも、手術室では他院の外科医の『出来栄え』まではみられません。
手術切除部位や腫瘍のサイズによっても『出来栄え』は違ってくるでしょう。お知り合いの形成外科の先生によると、いくら手術の上手な先生が『気合いを入れて縫合しても肥厚性瘢痕をゼロには出来ません。やはり患者自身の創治癒能力に起因することが大です。腕の差ではないことの方が多い』のだそうです(そのまま引用させていただきました)。
同じ外科医がやっても個々の症例により『出来栄え』のばらつきは出てしまうのも、正直やむを得ない所があります(と患者さんは思わないわけですが…)。
あくまで医療者目線です。
手術後の美容面も重視される時代になってきたとはいえ、『出来栄え』の優劣は生死に直接かかわる部分ではなく、よっぽどひどい状態でなければ医療の質を問われることは少ないかもしれません。
とはいえ、いまだに患者さん同士の「成功、失敗」という時代は続いているようです。術式が同じでも、当の患者さんにとっては直接見て比較すれば歴然とした違いと不快を感じてしまいます。
『出来栄え』の評価は、残念ながら芸術的な主観的な要素が強いところです。これまでも客観評価の試みはなされているようですが、なかなか簡単ではなさそうな気がします。私は専門家ではないし不用意なコメントはよろしくありませんね。興味深い論文報告などがあったら教えてください。
最後に
つい私は、『出来栄え』から目に見えない身体の中の術後の状態を勘繰ってしまいます。一事が万事?…もちろん患者さんには言いません。知らぬが仏という言葉もあります。
あくまで個人的印象です。
デリカシーに欠ける表現が多かったかもしれません。おわび申し上げます。

PS:文脈とは全然関係ないのですがどうも堅苦しい投稿ばかりなので、うちの犬たちの写真をこれからたまに挿し入れようかと思っています。
早期乳がんで乳房温存手術を受けた後に放射線治療科外来で術後照射を行っていた患者さんが、同時期に乳がん手術で有名な他院から術後照射目的で紹介された別の患者さんと、毎日通院で治療をして顔を合わせているうちにお知り合いになりました。話がはずみ、ある時に外来のトイレでお互いの乳房の状態を見せ合うことになり、他院から来た患者さんからこう言われたそうなのです。
「私のおっぱいは成功、あなたのおっぱいは失敗作ね」
私のお知り合いの先生は、心が傷ついたその患者さんから放射線治療科外来診察室で「失敗」についていろいろな相談を受けたそうです。
いきなり10年も前の乳腺外科の患者さんの話題を出し、申し訳ありません。当時と今とでは、外科手術の内容や診療体制などはだいぶ変わってきています。
この話題をfacebookに出した時、大学時代の同級生の外科医から『「外科の中の乳腺分野」で、手術も「乳房取るだけだから研修医の手術」なんて言われていた時代もあったそうなのですが、今や外科から独立した乳腺科であり全く違います。』とのご指導も受けてしまいました。
全くその通りです。
放射線腫瘍医は、患者さんの診察の時にいろいろな外科医が執刀した手術後の傷口付近の皮膚全体の形やバランス(以下、『出来栄え』とあえて表現します)を拝見させていただく機会がよくあります。
乳腺外科ご専門の先生のおっぱいの『出来栄え』は総じて綺麗です。乳腺外科と他の外科医の『出来栄え』はけっこう違います。もちろん、腹、胸、首、腕など部位が違えば単純な比較をしてはいけないわけですけれど…。
同じ領域の外科医間でも『出来栄え』は違います。単に外科医の腕の差だけでなく、『出来栄え』に対する意識の差もあるように感じます。
もちろん身体の中の執刀医と皮膚の縫合医が違うこともあるでしょう。ですが、その外科チームの診療スタンスといいますか、手術そのものの評価が『出来栄え』から垣間見えるようにも感じています。いささか評判が優れない外科医やチームの『出来栄え』の傾向はやっぱり…
あくまで個人的印象です。
私たち放射線腫瘍医は、術後照射などの際に照射範囲の皮膚が放射線治療可能な状態なのか?放射線治療によって皮膚炎が生じてきていないか?放射線皮膚炎の程度はどうなのか?を診察でまじまじと確認しますから、自然と『出来栄え』も気になります。
いろいろな外科医による『出来栄え』を最も意識して比較しているのが、もしかしたら放射線腫瘍医なのではないかと思っています。
同じ科の手術や回診ならまだしも、同じ病院内でも別の科の外科医同士でお互いの担当患者さんたちの術後皮膚の『出来栄え』をまじまじ確認しあうことって、あまりないのではないでしょうか?学会の発表などは「綺麗」な写真が多いですし。
腫瘍内科の先生方もいろいろな外科医による『出来栄え』を確認できる機会は多いかもしれませんが、「まじまじ」とはみないのではないでしょうか?間違っていたらごめんなさい。
麻酔科も術後すぐの『出来栄え』をみる先生方は見ているでしょうが、むしろ手術室の看護師さんのほうがよくみているかもしれません。
でも、手術室では他院の外科医の『出来栄え』まではみられません。
手術切除部位や腫瘍のサイズによっても『出来栄え』は違ってくるでしょう。お知り合いの形成外科の先生によると、いくら手術の上手な先生が『気合いを入れて縫合しても肥厚性瘢痕をゼロには出来ません。やはり患者自身の創治癒能力に起因することが大です。腕の差ではないことの方が多い』のだそうです(そのまま引用させていただきました)。
同じ外科医がやっても個々の症例により『出来栄え』のばらつきは出てしまうのも、正直やむを得ない所があります(と患者さんは思わないわけですが…)。
あくまで医療者目線です。
手術後の美容面も重視される時代になってきたとはいえ、『出来栄え』の優劣は生死に直接かかわる部分ではなく、よっぽどひどい状態でなければ医療の質を問われることは少ないかもしれません。
とはいえ、いまだに患者さん同士の「成功、失敗」という時代は続いているようです。術式が同じでも、当の患者さんにとっては直接見て比較すれば歴然とした違いと不快を感じてしまいます。
『出来栄え』の評価は、残念ながら芸術的な主観的な要素が強いところです。これまでも客観評価の試みはなされているようですが、なかなか簡単ではなさそうな気がします。私は専門家ではないし不用意なコメントはよろしくありませんね。興味深い論文報告などがあったら教えてください。
最後に
つい私は、『出来栄え』から目に見えない身体の中の術後の状態を勘繰ってしまいます。一事が万事?…もちろん患者さんには言いません。知らぬが仏という言葉もあります。
あくまで個人的印象です。
デリカシーに欠ける表現が多かったかもしれません。おわび申し上げます。

PS:文脈とは全然関係ないのですがどうも堅苦しい投稿ばかりなので、うちの犬たちの写真をこれからたまに挿し入れようかと思っています。
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