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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 東北大学緩和ケア看護学分野の先生方が、最近の緩和ケア(病棟)の現状について興味深い2つの論文報告をなさっています。

 1つ目はタイトル「本ホスピス緩和ケア協会の調査データからみた緩和ケア病棟の現況」という佐藤一樹先生の論文で、『緩和ケア病棟の平均在院日数の中央値は年々徐々に少なくなってきていて2009年度で39日だった』という記載(一部改変)があります。つまり、半数近くの方がおよそ1か月以内の入院期間(で多くの方々がお亡くなりになってしまう)ということです。
http://www.hospat.org/assets/templates/hospat/pdf/hakusyo_2012/2012_2_1.pdf

 このようなデータもおそらく参考にして、(その1)でも書いた通り日本緩和医療学会の健保委員ら関係各位のご尽力のおかげで、平成26年度の診療報酬改定で緩和ケア病棟入院料が見直されました。施設基準を満たした病棟なら最初の30日間は1日49260円、入院継続した翌月の30日間は1日44120円、以降は1日33840円の診療報酬を請求できるようになり、以前より入院料の大幅アップが実現しました。
https://clinicalsup.jp/contentlist/shinryo/ika_1_2_3/a310.html
 

 2つ目はタイトル「データでみる日本の緩和ケアの現状」という宮下光令先生の論文で、『緩和ケア病棟の苦痛症状として多いのが有痛性骨転移で入院患者さん全体の66.5%(約3人中2人)を占めていた』という記載(一部改変)があります。
http://www.hospat.org/assets/templates/hospat/pdf/hakusyo_2013/2013_2_1.pdf

 1か月以内に寿命をお迎えになられるかもしれないと(何らかの推測を理由に医療者側が勝手に予後)予測する終末期の方々に対しては、以下の点で有痛性骨転移に対する緩和的放射線治療を行う事そのものの意義が問われるような場合が少なからずあると思います。

1. 緩和ケア病棟に入院される段階ですでに何らかの発症があり、放射線治療を行うことそのものが時間や苦痛など様々な負担を逆にかけてしまう恐れがあること
2. 全身状態があまり良くないことが多く、治療終了後1~2週までに放射線宿酔(悪心嘔吐)や皮膚炎や粘膜炎といった急性期の副作用を「元気な」患者さんたちと比べ強めに自覚される、あるいは体調そのものを悪化させてしまうかもしれないこと
3. 除痛効果が出始める数週後は、病状そのものの進行で全身状態がかなりまいってしまい照射部分だけの症状の問題ではなくなる時期になってしまうかもしれないこと

 もちろん、悪性腫瘍による脊髄圧迫で下半身マヒが急速に進行したり、腫瘍出血による強い貧血がすすんだりといった緊急的な治療を要する方々にとっては、仮に残された予後が数日~数週と予測されていても、他に適した治療選択肢がなく「今」とても困っている症状を和らげるために緩和的放射線治療を行うのは、これまた治療行為そのものがデメリットにならなければ実施する意義は大いにあります。

 緩和的放射線治療というのは個々の放射線腫瘍医の考え方・経験による違い(腕の差)がとても出てくる分野だと私は思っていますが、一方で誰が設定しても多少なりとも緩和的放射線照射後の副作用が出てしまうこともあります。


 さすがご専門の緩和ケア科の先生方はそのあたりをよくご存じです。また、麻薬をはじめとする多種多様な鎮痛剤の調整もお上手です。「無理に」緩和的放射線治療を行わず身体的・精神的苦痛をやわらげることができればそれが一番です。


 とはいえ、専門の緩和ケア医だとしても進行がん患者さんの予後予測をピタリと当てるなどということは今の医学では不可能であり、またおこがましいことでもあると思います。

 また、麻薬をはじめとする痛み止めの薬は決して安くなく、一般によく処方される徐放製剤の麻薬(1日1~2回で済むタイプ)だけで安くても月に万円単位の薬価になります。既出の通り、緩和ケア病棟の平均在院日数は1か月強ですが、数か月単位で経過するかもしれない患者さんにとって毎月の、しかも痛みが強いときは大量になってしまう鎮痛剤その他のお薬代はチリも積もれば、でバカになりません。そして、除痛目的の緩和的放射線治療で鎮痛剤などを減量できれば、包括請求である緩和ケア病棟入院料に占める中長期的なお薬代の節約にもつながります。


 そんなことを書きつつ、緩和的放射線治療だって短期的にはお安い治療ですよとはなかなか言えません。(以前のブログでも書きましたが)日本の放射線腫瘍医が大好きな10回分割照射だと余裕で総額10万円以上はかかってしまいます。
 でも、痛みを和らげることが主目的の1回照射なら全部で8万円ですみます(それでも安くはないですが…)。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-121.html
 
 前回ブログ(その1)でも触れましたが、緩和ケア病棟入院料は例外的に放射線治療も含まれた1日定額お高め設定となっています。
 緩和ケア病棟に1か月間入院され1回の緩和的放射線治療を行った方の場合は、1か月総額150万円≒49260円x30日の保険請求額(バイキング料金)の中に最低で一連8万円もの緩和的放射線治療代金(シェフこだわり食材費)が含まれることになります。

 一部緩和ケア科の先生方がおっしゃっているように、ここまで読むと緩和ケア病棟入院患者さんに緩和的放射線治療を行うのは病院として何となく「損をする」気分になってしまいそうですよね。

 だからといって、緩和ケア病棟に入院の患者さんたちに対する緩和的放射線治療は8万円「損をするから(なかなかできない)」と思ったり、わざわざ一般病室に再転科して8万円分「出来高払いになるように」緩和的放射線治療を行ったりするのには、個人的にはやっぱり違和感があります。

 まあ、人件費や諸経費がかかる以上は病院経営をしなければならず、きれい事だけでは済まないお金の話なのですけれど…その1でも、似たようなことを書きました。


(さらに続く…その3はちょっとデリケートなお話に)

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【2015/05/15 18:49】 | 緩和的放射線治療
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