では、緩和ケア病棟における他の医療費はどうでしょうか?
サンドスタチンという注射薬があります。「進行・再発がんの緩和医療における消化管閉塞に伴う消化器症状の改善」という適応症。腸閉塞症状をやわらげる薬というのは少ないので、サンドスタチンは現場でよく使用されています。
この薬、とっても高額で1日1万円前後も使います。症状が安定しなければ継続して投与しなければいけませんから、1ヶ月間毎日投与すればサンドスタチンのお薬代だけで月30万円くらい確実に「損」をします。緩和ケア病棟入院料は月総額150万円ですから、全体の20%です。
今の消費税率よりはるかに高いです!
鎮痛剤の医療用麻薬だって安くはありません。投与量にもよりますが、1日数千円以上することはざらですから、麻薬だけで1か月だと数万円以上となります。それ以外の鎮痛補助薬のお薬代も上乗せされてきます。
では、緩和的放射線治療における病院の「損」って何でしょうか?ちなみに一連の治療で8万円なので月総額150万円の5%強となります。
今より安い一昔前の消費税率くらいです。
ようやく本題です!
緩和的放射線治療でかかる諸経費は以下の3つだと思います。
1.初期設備投資
放射線治療装置は超高額です。が、そもそも一般病室や外来患者さん用にすでに買ってあるものだから緩和ケアへの特別な影響はありません。サンドスタチンや鎮痛剤みたいに全ての患者さんで確実に病院から製薬会社他へ高額な薬代が病院外へ出ていくこともありません。
2.日々の装置稼働費用
(お薬みたいにむちゃくちゃ高くない)電気代は少しだけかかります。他は、たま~に使うかもしれない身体の固定具や身体につけるインク代くらいでしょうか(これらも通常照射で使用する物品です)?
もちろん、何万円もしません。
3.人件費他
医療者の労働も滅多に依頼がないボランティアだと思えばタダで…入院費がそもそもお高い包括代金設定だし(ダメですか?)。
つまり、月に8万円する緩和的放射線治療における病院の実質的な「損」(病院の持ち出し=自腹)というのは日々の電気代くらいなのです。
中には日本緩和医療学会ご所属の放射線腫瘍専門医でも、「緩和ケア病棟の患者さんまで手を広げる(照射人数を増やす)のは自分の首を絞めるようなもの」みたいなご発言をなさる方もいらっしゃいます。
しかし、私が知っている地域では、緩和ケア病棟から週に何人も毎週照射依頼されるご施設さんを知りません。日本の他の地域でもそんな噂を聞いた施設はございません(あるのかもしれませんが、ごく稀でしょう)。
常勤の緩和ケア医師がいらして、毎週のように院内緩和ケアチームのカンファレンスで緩和的放射線治療の適否を相談させていただいているうちの病院も、緩和ケア病棟から緩和的放射線治療患者さんのご依頼があるのは年に数例程度です(少なすぎますか…?)。私個人の経験からすれば、放射線治療新患年数百例のうちの緩和ケア病棟数例で自分の首を絞めるほどのつらさを感じたことはまずございませんでした。
むしろ、辛い症状が治療後にやわらいで患者さんたちから「ありがとう」と感謝されることが多いのは緩和的放射線治療で、診療放射線技師さんや看護師さんたちを含めとてもやりがいを感じます(のはず)。
そして幸いなことに、ご理解ある今の病院上層部から「損をするから緩和ケア病棟の患者さんの照射を止めるように」という指令を受けたことを私は一度もございません。ご依頼患者さんがあまりに多くなったらわかりませんけど…
「緩和ケア病棟だけ放射線治療包括問題」を数年前に知った私は、この保険請求の件について有名な日本緩和医療学会の某先生に質問をさせていただいたことがありました。
某先生からのご回答では『平成24年度(前々回)の診療報酬改定に際し、緩和ケア病棟入院中患者の放射線治療に関わる診療報酬を包括外にとの提言も含めていろいろな交渉が行われ、その結果として包括入院料の大幅アップが実現した』(改変一部引用)とのことでした。
つまり、診療報酬改定で包括全体の大幅増収となったし、放射線治療も改めて交渉しなくても包括のままで良さそう、という見解のようなのです。とても大変であろうお役人さんたちとの診療報酬改定の交渉の場に立たれている緩和関係の健保委員さんたちのお立場なら普通の見解だろうと思います。
しかし、実際の緩和ケア病棟の現場では、こういった診療報酬改定の交渉経緯が充分に反映されていないように感じました。私が意識して見聞きする限りでは「今だに」緩和的ケア病棟での放射線治療は損とか、一般病室に再転科は?という話が出てきますので…。
また同じような時期に、日本放射線腫瘍学会の何人かの有名な先生方にも、緩和ケア病棟入院患者の放射線治療包括問題について質問したことがあります。すると、健保委員の某先生を含め緩和ケア病棟入院患者の放射線治療包括問題をご存じの方はいらっしゃらず、口々に「一般病棟と同じDPC包括外の出来高算定では?」と勘違いしておられました。
その後、健保委員の先生らのご尽力のおかげで緩和ケア病棟入院患者の放射線治療包括問題も健保委員会の議題の一つとなり、平成26年度(前回)の診療報酬改定では日本医学放射線学会と日本放射線腫瘍学会からの要望「緩和ケア病棟入院料の包括から放射線治療が除外されること」が正式に要望される運びとなりました。
残念ながら前回改定での要望実現とはなりませんでしたが、日本放射線腫瘍学会の健保委員の先生方も継続課題の一つと認識してくださっていて、次の診療報酬改定に向けて今もいろいろな情報収集や議論が行われているようです。
次回の診療報酬改定で「緩和ケア病棟入院料の包括から放射線治療が除外されること」が実現するよう、町医者として陰ながら切に願っております。
健保委員の先生方、頑張ってくださ~い!

サンドスタチンという注射薬があります。「進行・再発がんの緩和医療における消化管閉塞に伴う消化器症状の改善」という適応症。腸閉塞症状をやわらげる薬というのは少ないので、サンドスタチンは現場でよく使用されています。
この薬、とっても高額で1日1万円前後も使います。症状が安定しなければ継続して投与しなければいけませんから、1ヶ月間毎日投与すればサンドスタチンのお薬代だけで月30万円くらい確実に「損」をします。緩和ケア病棟入院料は月総額150万円ですから、全体の20%です。
今の消費税率よりはるかに高いです!
鎮痛剤の医療用麻薬だって安くはありません。投与量にもよりますが、1日数千円以上することはざらですから、麻薬だけで1か月だと数万円以上となります。それ以外の鎮痛補助薬のお薬代も上乗せされてきます。
では、緩和的放射線治療における病院の「損」って何でしょうか?ちなみに一連の治療で8万円なので月総額150万円の5%強となります。
今より安い一昔前の消費税率くらいです。
ようやく本題です!
緩和的放射線治療でかかる諸経費は以下の3つだと思います。
1.初期設備投資
放射線治療装置は超高額です。が、そもそも一般病室や外来患者さん用にすでに買ってあるものだから緩和ケアへの特別な影響はありません。サンドスタチンや鎮痛剤みたいに全ての患者さんで確実に病院から製薬会社他へ高額な薬代が病院外へ出ていくこともありません。
2.日々の装置稼働費用
(お薬みたいにむちゃくちゃ高くない)電気代は少しだけかかります。他は、たま~に使うかもしれない身体の固定具や身体につけるインク代くらいでしょうか(これらも通常照射で使用する物品です)?
もちろん、何万円もしません。
3.人件費他
医療者の労働も滅多に依頼がないボランティアだと思えばタダで…入院費がそもそもお高い包括代金設定だし(ダメですか?)。
つまり、月に8万円する緩和的放射線治療における病院の実質的な「損」(病院の持ち出し=自腹)というのは日々の電気代くらいなのです。
中には日本緩和医療学会ご所属の放射線腫瘍専門医でも、「緩和ケア病棟の患者さんまで手を広げる(照射人数を増やす)のは自分の首を絞めるようなもの」みたいなご発言をなさる方もいらっしゃいます。
しかし、私が知っている地域では、緩和ケア病棟から週に何人も毎週照射依頼されるご施設さんを知りません。日本の他の地域でもそんな噂を聞いた施設はございません(あるのかもしれませんが、ごく稀でしょう)。
常勤の緩和ケア医師がいらして、毎週のように院内緩和ケアチームのカンファレンスで緩和的放射線治療の適否を相談させていただいているうちの病院も、緩和ケア病棟から緩和的放射線治療患者さんのご依頼があるのは年に数例程度です(少なすぎますか…?)。私個人の経験からすれば、放射線治療新患年数百例のうちの緩和ケア病棟数例で自分の首を絞めるほどのつらさを感じたことはまずございませんでした。
むしろ、辛い症状が治療後にやわらいで患者さんたちから「ありがとう」と感謝されることが多いのは緩和的放射線治療で、診療放射線技師さんや看護師さんたちを含めとてもやりがいを感じます(のはず)。
そして幸いなことに、ご理解ある今の病院上層部から「損をするから緩和ケア病棟の患者さんの照射を止めるように」という指令を受けたことを私は一度もございません。ご依頼患者さんがあまりに多くなったらわかりませんけど…
「緩和ケア病棟だけ放射線治療包括問題」を数年前に知った私は、この保険請求の件について有名な日本緩和医療学会の某先生に質問をさせていただいたことがありました。
某先生からのご回答では『平成24年度(前々回)の診療報酬改定に際し、緩和ケア病棟入院中患者の放射線治療に関わる診療報酬を包括外にとの提言も含めていろいろな交渉が行われ、その結果として包括入院料の大幅アップが実現した』(改変一部引用)とのことでした。
つまり、診療報酬改定で包括全体の大幅増収となったし、放射線治療も改めて交渉しなくても包括のままで良さそう、という見解のようなのです。とても大変であろうお役人さんたちとの診療報酬改定の交渉の場に立たれている緩和関係の健保委員さんたちのお立場なら普通の見解だろうと思います。
しかし、実際の緩和ケア病棟の現場では、こういった診療報酬改定の交渉経緯が充分に反映されていないように感じました。私が意識して見聞きする限りでは「今だに」緩和的ケア病棟での放射線治療は損とか、一般病室に再転科は?という話が出てきますので…。
また同じような時期に、日本放射線腫瘍学会の何人かの有名な先生方にも、緩和ケア病棟入院患者の放射線治療包括問題について質問したことがあります。すると、健保委員の某先生を含め緩和ケア病棟入院患者の放射線治療包括問題をご存じの方はいらっしゃらず、口々に「一般病棟と同じDPC包括外の出来高算定では?」と勘違いしておられました。
その後、健保委員の先生らのご尽力のおかげで緩和ケア病棟入院患者の放射線治療包括問題も健保委員会の議題の一つとなり、平成26年度(前回)の診療報酬改定では日本医学放射線学会と日本放射線腫瘍学会からの要望「緩和ケア病棟入院料の包括から放射線治療が除外されること」が正式に要望される運びとなりました。
残念ながら前回改定での要望実現とはなりませんでしたが、日本放射線腫瘍学会の健保委員の先生方も継続課題の一つと認識してくださっていて、次の診療報酬改定に向けて今もいろいろな情報収集や議論が行われているようです。
次回の診療報酬改定で「緩和ケア病棟入院料の包括から放射線治療が除外されること」が実現するよう、町医者として陰ながら切に願っております。
健保委員の先生方、頑張ってくださ~い!

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