だいぶ前のことになりますが、胸部への緩和的放射線治療を行う目的で70才代の〇さんがうちの科に入院しました。〇さんからお話を伺うと、最初の手術後から体重は少なかったそうですが、今回の入院時は食欲不振もあって体重30kg台とかなり痩せてきていました。
放射線治療が始まってまもなくの病室回診時、私が〇さんに食事の具合をお尋ねすると、「本当はエビチリが食べたいんだけど、からいものは(放射線治療の食道粘膜炎が強くなるから)ダメって言われていて…」と暗い表情でポツリ。
私、「〇さん、どうぞお食べください。主治医として許可いたします!」と即答いたしました。
〇さんの放射線治療内容、町医者的には食道粘膜に照射される範囲はたいしたことなかったですし、すでに別の部分で痛み止めの内服を開始されていましたし、「まあ大丈夫でしょう」って感じでしたから。
すると〇さん、パァーッと満面の笑みを浮かべられました。入院後、初めて拝見した笑顔でした。
後日、次の回診の時、〇さんにそれとなく「エビチリ、食べました?」と私が伺ってみました。
「美味しかった!許可してくれた時、先生に後光が差して見えました」と、また笑顔。
飲みこんだ時の胸の痛みはなかったそうです。
その後も笑いながら二人でエビチリ談義をしばし続けました。
胸部に放射線治療を行う患者さんに対し、いずれ食道粘膜炎が出てくる可能性があることから症状を悪化させないように「(放射線治療開始時から)からい食べ物は控えましょう」という食事指導が、医師や看護師から治療開始前や照射中に行われることがあります。風邪ひいてのどが荒れているときに辛い物を食べるのは痛くてしんどいでしょ?治療が進むとだんだんそんな感じになる(ような)ので刺激物は控えたほうがいいという理由で。
特に抗がん剤を同時併用している場合は、粘膜炎に関しても放射線増感効果が出てしまうので注意が必要です。
でも、緩和的放射線治療で照射範囲が小さかったり総線量が少なかったりする場合には、照射部位の粘膜炎は(そんなに)ひどくならないことが多いです。また、普通は照射開始数日くらいまでなら何の症状も感じませんし。
緩和的放射線治療でよく用いられる1回3Gy以上の小分割短期間照射法と抗がん剤や分子標的薬剤との「同時」併用も確立したメニューってあるようでなかなかないですから、私は副作用対策を優先して可能ならお薬を一旦お休みしていただくことが少なくありません。この辺は医師によって病状によって意見が分かれるところかもしれません。
ということで、緩和的放射線治療の場合、少なくとも粘膜炎が無症状のうちは食事制限で神経質になり過ぎなくて良いだろうと個人的には思っています。ぶっちゃけ、私の食事指導は甘いかもしれません。
もちろん、痛みなどの症状が出はじめた場合には気をつける時期であることをきちんとお伝えしていますし、何でもかんでも気にしなくていいと言っているわけではないのですが、時と場合により臨機応変な対応というのも大事なのではないかと。
食べることって人生の楽しみの一つですから。 (ね、勝亦社長!)
と、偉そうに書きましたが、〇さんに今回「エビチリだめ」を意識させたのは私(たち)でした…。
実際同じようなことをお伝えしているつもりでも、各医療者による説明の仕方やニュアンスが微妙に違って患者さんに伝わることも少なくありません。また、説明不足があったかもしれません。放射線治療前の私(たち)の説明の時なのか、その後の看護師さんたちの説明の時なのか、患者さん説明用の冊子かなにかを見た時なのかわからないのですが、〇さんにはしばらく「損」をさせてしまいました。
医師・看護師の連携や意志統一がなってない!というご批判、まことに申し訳ございません。
ところで、日本放射線腫瘍学会公認の「放射線治療を受けられる方へ」という放射線治療患者さん説明用の小冊子があります。うちの病院でも患者さんたちへ配布しています。
この冊子の食事指導上の注意点の所に、「のりやワカメ、トマトの皮」にオレンジ色の☓がついている部分があります。粘膜に放射線治療が周囲の粘膜に照射された場合に食べるのに気をつけたほうが良い食品類を紹介しています。もちろん、これ以外は何でも食べていいというわけでなく、代表的な食材の一部です。ちなみに、その上には禁止すべきとされるアルコールやタバコが赤☓をつけられています。絶対にダメ!という赤です(たぶん)。つまり、オレンジ☓は「絶対にダメ」というわけではありません。
実は(少しくらいの)アルコールも個人的にはオレンジ☓なのですが…
この冊子をご覧になった後で、「のりやワカメが好きなんですけど食べちゃダメですか?」と質問される乳房温存術後で胸壁のみに照射される患者さんが時々いらっしゃいます。部位的に粘膜には全く照射されないので、治療中の副作用として粘膜炎が出てくることはありません(つまり、のりやワカメを食べても何ら問題ないということです)。食道がんによる食道狭窄部に薄皮のような食材が蓋をしてしまう(≒詰まらせてしまう)心配もありません。でも、少なからず患者さんたちはそうは思わないようです。
これも、患者さんにきちんと伝わっていないという点で、私たちが気をつけなければいけない所です。
ただ、外来などで一度説明を受けても、その内容を覚えていらっしゃらない患者さんも実際にはいらっしゃいます。放射線治療科受診の時は(時も?)、何人もの医療者からいろいろな難しい説明をたくさん聞いたり、そうでなくても病状や不安で頭が真っ白になって、説明されたこと自体を覚えていない方もいらっしゃいます。
で、自宅に戻って説明書を熟読し、書いてあるから「(オレンジ☓の)のりやワカメ食べちゃダメなんだ…」と思い込んでしまわれるようなのです。もちろん、その方に合っていそうな各部位ごとの食事指導も(特に看護師さんたちが)丁寧に行っているつもりなのですが。
他にも気をつけなければいけない食材もありますが全部を記載するのはほぼ不可能ですし、何でもかんでも食べるのを控えるというのも(特に外来通院では)大変なことです。
患者さん全員が充分にご理解いただけるような放射線治療の副作用対策用の説明書を作成するのってなかなか簡単ではないような気がします…。
〇さん、無事に緩和的放射線治療が終了してからも飲みこんだ時の痛みは感じなかったそうです。よかったよかった。
(スーラータンメンへ続く)

放射線治療が始まってまもなくの病室回診時、私が〇さんに食事の具合をお尋ねすると、「本当はエビチリが食べたいんだけど、からいものは(放射線治療の食道粘膜炎が強くなるから)ダメって言われていて…」と暗い表情でポツリ。
私、「〇さん、どうぞお食べください。主治医として許可いたします!」と即答いたしました。
〇さんの放射線治療内容、町医者的には食道粘膜に照射される範囲はたいしたことなかったですし、すでに別の部分で痛み止めの内服を開始されていましたし、「まあ大丈夫でしょう」って感じでしたから。
すると〇さん、パァーッと満面の笑みを浮かべられました。入院後、初めて拝見した笑顔でした。
後日、次の回診の時、〇さんにそれとなく「エビチリ、食べました?」と私が伺ってみました。
「美味しかった!許可してくれた時、先生に後光が差して見えました」と、また笑顔。
飲みこんだ時の胸の痛みはなかったそうです。
その後も笑いながら二人でエビチリ談義をしばし続けました。
胸部に放射線治療を行う患者さんに対し、いずれ食道粘膜炎が出てくる可能性があることから症状を悪化させないように「(放射線治療開始時から)からい食べ物は控えましょう」という食事指導が、医師や看護師から治療開始前や照射中に行われることがあります。風邪ひいてのどが荒れているときに辛い物を食べるのは痛くてしんどいでしょ?治療が進むとだんだんそんな感じになる(ような)ので刺激物は控えたほうがいいという理由で。
特に抗がん剤を同時併用している場合は、粘膜炎に関しても放射線増感効果が出てしまうので注意が必要です。
でも、緩和的放射線治療で照射範囲が小さかったり総線量が少なかったりする場合には、照射部位の粘膜炎は(そんなに)ひどくならないことが多いです。また、普通は照射開始数日くらいまでなら何の症状も感じませんし。
緩和的放射線治療でよく用いられる1回3Gy以上の小分割短期間照射法と抗がん剤や分子標的薬剤との「同時」併用も確立したメニューってあるようでなかなかないですから、私は副作用対策を優先して可能ならお薬を一旦お休みしていただくことが少なくありません。この辺は医師によって病状によって意見が分かれるところかもしれません。
ということで、緩和的放射線治療の場合、少なくとも粘膜炎が無症状のうちは食事制限で神経質になり過ぎなくて良いだろうと個人的には思っています。ぶっちゃけ、私の食事指導は甘いかもしれません。
もちろん、痛みなどの症状が出はじめた場合には気をつける時期であることをきちんとお伝えしていますし、何でもかんでも気にしなくていいと言っているわけではないのですが、時と場合により臨機応変な対応というのも大事なのではないかと。
食べることって人生の楽しみの一つですから。 (ね、勝亦社長!)
と、偉そうに書きましたが、〇さんに今回「エビチリだめ」を意識させたのは私(たち)でした…。
実際同じようなことをお伝えしているつもりでも、各医療者による説明の仕方やニュアンスが微妙に違って患者さんに伝わることも少なくありません。また、説明不足があったかもしれません。放射線治療前の私(たち)の説明の時なのか、その後の看護師さんたちの説明の時なのか、患者さん説明用の冊子かなにかを見た時なのかわからないのですが、〇さんにはしばらく「損」をさせてしまいました。
医師・看護師の連携や意志統一がなってない!というご批判、まことに申し訳ございません。
ところで、日本放射線腫瘍学会公認の「放射線治療を受けられる方へ」という放射線治療患者さん説明用の小冊子があります。うちの病院でも患者さんたちへ配布しています。
この冊子の食事指導上の注意点の所に、「のりやワカメ、トマトの皮」にオレンジ色の☓がついている部分があります。粘膜に放射線治療が周囲の粘膜に照射された場合に食べるのに気をつけたほうが良い食品類を紹介しています。もちろん、これ以外は何でも食べていいというわけでなく、代表的な食材の一部です。ちなみに、その上には禁止すべきとされるアルコールやタバコが赤☓をつけられています。絶対にダメ!という赤です(たぶん)。つまり、オレンジ☓は「絶対にダメ」というわけではありません。
実は(少しくらいの)アルコールも個人的にはオレンジ☓なのですが…
この冊子をご覧になった後で、「のりやワカメが好きなんですけど食べちゃダメですか?」と質問される乳房温存術後で胸壁のみに照射される患者さんが時々いらっしゃいます。部位的に粘膜には全く照射されないので、治療中の副作用として粘膜炎が出てくることはありません(つまり、のりやワカメを食べても何ら問題ないということです)。食道がんによる食道狭窄部に薄皮のような食材が蓋をしてしまう(≒詰まらせてしまう)心配もありません。でも、少なからず患者さんたちはそうは思わないようです。
これも、患者さんにきちんと伝わっていないという点で、私たちが気をつけなければいけない所です。
ただ、外来などで一度説明を受けても、その内容を覚えていらっしゃらない患者さんも実際にはいらっしゃいます。放射線治療科受診の時は(時も?)、何人もの医療者からいろいろな難しい説明をたくさん聞いたり、そうでなくても病状や不安で頭が真っ白になって、説明されたこと自体を覚えていない方もいらっしゃいます。
で、自宅に戻って説明書を熟読し、書いてあるから「(オレンジ☓の)のりやワカメ食べちゃダメなんだ…」と思い込んでしまわれるようなのです。もちろん、その方に合っていそうな各部位ごとの食事指導も(特に看護師さんたちが)丁寧に行っているつもりなのですが。
他にも気をつけなければいけない食材もありますが全部を記載するのはほぼ不可能ですし、何でもかんでも食べるのを控えるというのも(特に外来通院では)大変なことです。
患者さん全員が充分にご理解いただけるような放射線治療の副作用対策用の説明書を作成するのってなかなか簡単ではないような気がします…。
〇さん、無事に緩和的放射線治療が終了してからも飲みこんだ時の痛みは感じなかったそうです。よかったよかった。
(スーラータンメンへ続く)

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