先日、ある癌患者さんのご家族が某サイトで以下の『 』内の投稿をなさっていたのを拝見いたしました。僭越ながら匿名で一部抜粋引用させていただきます。
『放射線の副作用って半端無いですね。先月主人の〇癌が転移している腰椎の痛みが酷くなり、緩和ケアとしての放射線をすることになりました。
説明では治療の放射線とは違い、線量が低いので副作用は殆ど出ません。と言われました。
一回30グレイ(→おそらく3グレイです)を平日連続10回行いました。
段々元気が無くなり食欲が落ちていきました。
終わって1週間位経つ頃から下痢と吐き気で何も食べられなくなりました。
漢方薬もサプリも何も飲めなくなりました。
薬だけは必死に飲んでいましたが、何か飲むと直ぐにトイレに駆け込む毎日でした。
終了から2週間が過ぎやっと少し食べれるようになってきました。まだトイレとはお友達ですが。
話には聞いていましたが治療の為の放射線はもっと高い線量なのでこんなものでは無いんでしょうね。
本当に恐ろしい治療だと思います。
肝心の緩和はまだ効果を実感出来てい無いようです。効き目はゆっくり出てくるそうです、
こんな辛い思いをしているんですから早く痛みだけでも無くなって欲しいです。』
投稿された方へなんとコメントしたらいいか、私には具体的な言葉が思い浮かびませんでした。余計な言葉はかえって不快な気分にさせてしまうかもしれませんし…。
日本の放射線腫瘍医の多くが日常診療において参考にする放射線治療計画ガイドライン2012年版((株)金原出版)という書籍があります。我々の教科書みたいなものです。およそ4年に1度改定され、現在は2016年版の製作中らしいです。
このガイドラインの「緩和II骨転移」という項目の合併症欄に『照射部位に応じて,粘膜炎,皮膚炎,腸炎,骨髄抑制などが起こり得るが,概して軽微である』という記載があります。
さりげなく『概して』と書いてあります。
各種診療ガイドラインのこういったさりげない形容詞って、実はけっこう押さえておかなければならない大事なポイントだったりします。本当は具体的にきちんと長々書いてほしい所なのですが、紙面・文字数に限りがあるためやむなく簡単な一言だけで終わってしまっている場合も少なくないようです。
でも、ガイドライン作成委員のような専門家でない一般のお医者さんたちが読むと、こういう大事な部分は文字として見えていてもきちんと意識されず、『副作用は軽微』だけが記憶されてしまったりします。
冒頭の方の正確な放射線治療範囲はSNSの情報だけなのでわかりませんが、腰椎ですから腹部への放射線治療です。
代表的な骨転移への照射方法としてこのガイドライン「緩和II骨転移」の最初の図に隣接腰椎3つ分が含まれた照射範囲が示されています。おそらくこの方の照射範囲もガイドラインに準拠していたのでしょう。もしかすると複数骨転移のため腰椎全体に照射せざるを得ない広い設定だったかもしれません。
『線量が低い』緩和的放射線治療で問題になるのは、放射線治療開始から終了して数週までのいわゆる急性期の副作用だと思います(再照射は除く)。腹部への照射ですと照射開始直後に吐き気をもよおすことがある放射線宿酔、放射線治療が進んでから徐々に出現する可能性がある食欲不振や下痢・腹痛といった放射線胃腸炎が代表的な副作用です。
放射線宿酔については、去年のブログでも少し触れましたが、優れた吐き気止めの効果があるカイトリルという(お高めの)薬が数年前に保険適応となりました。…しかし、未だ他科の先生方には充分認知されていない印象も受けます。専門家である放射線腫瘍医がサポートすべきでしょう。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-68.html
放射線胃腸炎は治療開始2週前後ごろから自覚されることが多いようです。一方、骨転移などへの緩和的放射線治療は標準的には治療期間が数日から2週程度なので、照射終了時ころから副作用が出現し始めることが少なくありません。冒頭で引用させていただいた方は典型的な症状発現と経過です。
腰椎骨転移に対する『線量が低い』3グレイ10回の緩和的放射線治療であっても、放射線に敏感な(場所によっては胃や)腸にそれなりに照射されます。中には主治医らの意向で抗がん剤をいっしょに投与しながら緩和的放射線治療を行っているケースも見受け、デリケートな胃腸粘膜への副作用が増強される恐れもあります。
『概して』の例外にあたるであろう腰椎(腹部)は、他部位の骨転移よりも慎重に検討・設定すべき部位だと個人的には思っています。
(長くなったので、その2へ…)
『放射線の副作用って半端無いですね。先月主人の〇癌が転移している腰椎の痛みが酷くなり、緩和ケアとしての放射線をすることになりました。
説明では治療の放射線とは違い、線量が低いので副作用は殆ど出ません。と言われました。
一回30グレイ(→おそらく3グレイです)を平日連続10回行いました。
段々元気が無くなり食欲が落ちていきました。
終わって1週間位経つ頃から下痢と吐き気で何も食べられなくなりました。
漢方薬もサプリも何も飲めなくなりました。
薬だけは必死に飲んでいましたが、何か飲むと直ぐにトイレに駆け込む毎日でした。
終了から2週間が過ぎやっと少し食べれるようになってきました。まだトイレとはお友達ですが。
話には聞いていましたが治療の為の放射線はもっと高い線量なのでこんなものでは無いんでしょうね。
本当に恐ろしい治療だと思います。
肝心の緩和はまだ効果を実感出来てい無いようです。効き目はゆっくり出てくるそうです、
こんな辛い思いをしているんですから早く痛みだけでも無くなって欲しいです。』
投稿された方へなんとコメントしたらいいか、私には具体的な言葉が思い浮かびませんでした。余計な言葉はかえって不快な気分にさせてしまうかもしれませんし…。
日本の放射線腫瘍医の多くが日常診療において参考にする放射線治療計画ガイドライン2012年版((株)金原出版)という書籍があります。我々の教科書みたいなものです。およそ4年に1度改定され、現在は2016年版の製作中らしいです。
このガイドラインの「緩和II骨転移」という項目の合併症欄に『照射部位に応じて,粘膜炎,皮膚炎,腸炎,骨髄抑制などが起こり得るが,概して軽微である』という記載があります。
さりげなく『概して』と書いてあります。
各種診療ガイドラインのこういったさりげない形容詞って、実はけっこう押さえておかなければならない大事なポイントだったりします。本当は具体的にきちんと長々書いてほしい所なのですが、紙面・文字数に限りがあるためやむなく簡単な一言だけで終わってしまっている場合も少なくないようです。
でも、ガイドライン作成委員のような専門家でない一般のお医者さんたちが読むと、こういう大事な部分は文字として見えていてもきちんと意識されず、『副作用は軽微』だけが記憶されてしまったりします。
冒頭の方の正確な放射線治療範囲はSNSの情報だけなのでわかりませんが、腰椎ですから腹部への放射線治療です。
代表的な骨転移への照射方法としてこのガイドライン「緩和II骨転移」の最初の図に隣接腰椎3つ分が含まれた照射範囲が示されています。おそらくこの方の照射範囲もガイドラインに準拠していたのでしょう。もしかすると複数骨転移のため腰椎全体に照射せざるを得ない広い設定だったかもしれません。
『線量が低い』緩和的放射線治療で問題になるのは、放射線治療開始から終了して数週までのいわゆる急性期の副作用だと思います(再照射は除く)。腹部への照射ですと照射開始直後に吐き気をもよおすことがある放射線宿酔、放射線治療が進んでから徐々に出現する可能性がある食欲不振や下痢・腹痛といった放射線胃腸炎が代表的な副作用です。
放射線宿酔については、去年のブログでも少し触れましたが、優れた吐き気止めの効果があるカイトリルという(お高めの)薬が数年前に保険適応となりました。…しかし、未だ他科の先生方には充分認知されていない印象も受けます。専門家である放射線腫瘍医がサポートすべきでしょう。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-68.html
放射線胃腸炎は治療開始2週前後ごろから自覚されることが多いようです。一方、骨転移などへの緩和的放射線治療は標準的には治療期間が数日から2週程度なので、照射終了時ころから副作用が出現し始めることが少なくありません。冒頭で引用させていただいた方は典型的な症状発現と経過です。
腰椎骨転移に対する『線量が低い』3グレイ10回の緩和的放射線治療であっても、放射線に敏感な(場所によっては胃や)腸にそれなりに照射されます。中には主治医らの意向で抗がん剤をいっしょに投与しながら緩和的放射線治療を行っているケースも見受け、デリケートな胃腸粘膜への副作用が増強される恐れもあります。
『概して』の例外にあたるであろう腰椎(腹部)は、他部位の骨転移よりも慎重に検討・設定すべき部位だと個人的には思っています。
(長くなったので、その2へ…)
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