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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 今の陽子線治療施設に移籍して、本日で一年が経過しました。時の経つのは早いものです。

 陽子線の特徴、なんとなくわかってきました。X線より正常部分の被ばくを抑え身体に優しい放射線治療とか、がん病巣の照射量が上乗せでき治療効果も高まる(可能性)とか、以前から文言としてはいろいろ伺っておりましたが、やはり現場で実際の患者さんを直接診療させていただくと違いますね。百聞は一見に如かずです。
 陽子線治療はおそらくX線治療の「次世代の」放射線治療ですし、JASTROの皆さんもぜひ一度は早めに経験なさってみてはいかがでしょう? ちなみに今回のJASTRO Newsletter裏表紙にはうちの放射線腫瘍医募集広告も掲載されています(笑)

 ということで、今回のブログでは陽子線治療に関する私なりの印象を思いつくままに以下箇条書きしてみることにしました。

1.陽子線治療の線量分布はやっぱりX線治療より総じて良いです。特に局所進行肺癌や肝胆腫瘍は予想以上に使える印象です。III期肺癌(や進行食道癌)で縦隔リンパ節がごろごろしていたり(右)肺下葉病変で照射野変更時に脊髄を外すと肺V20が35%を軽く超えてしまったり、正常の心臓や肝臓線量ががっちり入ってしまったりするケース、放射線腫瘍医なら誰しも治療計画の難しさを経験されているのではないでしょうか?やむを得ず総線量を減らさざるをえなかったりGTVすら照射野を削らなければならない照射設定、まれならずありますよね。陽子線治療だとそのストレスがほぼなくなり、ばっちり照射できます!
 I期肺癌でも間質性肺炎例はX線の定位放射線治療よりずっと安全にご提供できそうです。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27090216
 もっとも、RTOG0617や今年のASCO報告のようにIII期非小細胞肺癌ではいくら局所照射を頑張っても生命予後には寄与しないかもしれない可能性はあるのですが…。
 また、全頸部照射のような広い照射野など実はIMRTの方が適している場合もあったりします。施設、装置によって微妙に対応が変わるようです。これはX線治療でも同じですね。

2.陽子線治療を受けられる方々は地元の症例が多いです。これはどの粒子線治療施設でもそのようなのですが、現場の医者から治療方針として粒子線が選択提示されるかどうかが大きな要素のようです。入院や外来通院するにも自宅からの距離というのはもちろん大きな因子となりますが、やはり医者の説明の仕方で全然違うようです。
 粒子線治療はまだまだエビデンスが十分でなく、診療ガイドライン至上主義の先生方からは「選択肢に挙げられない」とのご意見を少なからず伺います。現在、先進医療として(うちの施設を含めた)粒子線治療グループがいろいろな多施設共同臨床試験などを計画している最中ではありますが、それらの結果(や海外の報告)が出るまで診療ガイドラインには反映されにくいのも確かではあります。
 でも、目の前の患者さんはそれまで待てません。そして、自分の担当患者さんにはEBMを優先される医者もいざ自分が患者になったら陽子線を選択肢としてお考えになるだろうとも思います、きっと。あまり余計なことを書くと、JASTROの一部先生方に叱られそうですが…

3.先進医療保険特約加入者や実費お支払い可能者は思いのほかいらっしゃるようです。社長とか先生とか、やっぱりある程度の資産をお持ちの方は多いようですが。ちなみに銀行ローンなどでの分割支払いも条件によっては可能です。
 300万円、決して安くはありませんが、自動車1台分の値段と同じと考えれば、命や後遺症の値段として高いかどうか、人それぞれで見解が異なります。担当医が勝手に「お高い治療」と決めつけるのはおかしいことです。
 昨今の分子標的治療は月に300万円もします。それをずっと投与し続けたら…。もちろん保険収載されているので、1人の患者さんご自身の自腹金額としてはずっと安価ですが、それを日本国民全員で負担しているわけでして。

4.自分(か家族)の意思で受診される方が多いです。裏を返せばなかなか個性的な方も多いのですが、総じて医者お任せ的でない方が多い気がします。お金のことは触れましたが、高額ということを除けば陽子線治療がX線治療に劣ることはほぼありません。
 陽子線治療の最大の利点は、従来のX線治療より後遺症を含めた副作用のリスク面で明らかに優れていることが多い点だと私は思っています(全部変わらないなら300万円も出す価値はありませんよね)。また、そこを最優先に期待され受診される方も少なくありません。患者さんたちは生存率といった医学者目線のエビデンスだけで治療選択をなさっていません。
 自分の身体は自分で守る、自分で決める。これはがん治療においても、とても大事な要素の一つだと思います。

5.そして最後に。うちの施設の売りの一つは、放射線治療科として自ら病棟管理をし、場合によっては化学療法や緩和ケアも含めた主治医になれることでしょう。他の診療科の請負(≒あてや)だと、チーム医療とはいえどうしても最終方針は主治医のご意向を優先せざるを得ない部分が少なくありません。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-107.html
 自らが主治医になるとその点の対応はしやすいですし、また治療以外の深いったいろいろなお話も多々しやすくなります。個人的には、自然治癒力のお話とか補完代替療法の相談もベッドサイドで積極的にできるようになりました。もちろんご本人のご意向を優先し下手な誘導はしておりませんし、具体的なお薦め(≒商売)もしていません。
 でも、がん患者さんの大半が関心を持つこれら領域を話題にさせていただくと、より親身ながん診療がしやすくなる印象です。

 陽子線治療、なかなか面白いです。


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【2016/07/01 01:07】 | 粒子線治療
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