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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 先日、私が20年近く前に当時上司とともに入院診療を担当させていただいた方の娘さんが、超久しぶりにわざわざ私の所へご挨拶に来てくださりました。
 
 最初、私に面会希望の患者さんのご家族がいるというお話で、(たしか自分の担当ではなかったはずだけれど)何かしちゃったかなあ?と一瞬変な不安がよぎってしまいましたが、娘さんを診察室にご案内すると「その節はありがとうございました」とニコニコしながら第一声。
 ちょっとホッとしました。

 当時その方はある進行がんだったのですが、今後の治療方針について当時の上司と若輩な私の意見が割れていました(実はその方以外でもしばしば意見が割れていたのですが…)。で、娘さんを含めたご家族も交えていろいろ相談した結果、最終的にご本人が私の治療方針を選択なさりました。

 その後ほどなくして私は医局人事で当時所属していた大学病院に戻ることになってしまったのですが、その方は在宅でしばらく苦痛もなく過ごされ、上司の予測より半年ほど長く在宅で元気に過ごされたとのことでした。娘さんは「(若輩の)私の助言があったから元気に延命できました」とおっしゃってくださりました。

 今回、たまたまその方のご家族の方が入院治療されていて、病院のホームページを見ていたら私が当時所属施設と同じ県である今の病院に勤務していることを知ったとのこと。「亡き父が引き合わせてくれた」と当時の御礼にとプレゼントまでいただきました。それってどうなの?という反対意見の方もおられましょうが、(後で開けてみたら私にとって貴重な日用品でしたし)お気持ちがとても嬉しく遠慮なく頂戴いたしました。
 いろいろな意味でありがとうございました。


 今でこそ在宅がん診療は全国各地に普及するようになってきましたが、私が関わった20年も前は在宅医療そのものが先駆的な地域でした。まず、がんの告知が一般的ではなかったし、介護備品も整備されていなかったし、在宅医療医や訪問看護や地域医療連携室などもまともに機能(≒存在すら)していませんでした。

 ということで主治医の上司か私が病院看護師さんたちと直接往診に伺い、点滴・処置やお看取りまでも私たちがご自宅で担当させていただきました。一部の診療所の先生と多少連携をとれることもあったような気もしますが、私たちがほとんど請け負って在宅診療をしていました。


 当時から「在宅だと元気になられるな~」といろいろな方の往診に伺いながらよく思ったものでした。

 化学放射線治療の甲斐なく終末期となってしまった若い子宮癌の方がいました。狭くて暗いバラックのような古い長屋に何人もの家族がひしめき合うお宅でしたが、入院中には見たこともないような笑顔でみんなに囲まれて過ごされていたのが印象的でした。がん性腹膜炎で食事は全く食べられなかったのですが、好きなコーラを頑張ってちびちび飲むだけで1か月余り過ごされました。
 入院中にあった足の浮腫みも徐々に改善し、最期はほとんど苦痛なく過ごされました。なんでもかんでも高カロリーな点滴や栄養をすれば良いというものではないと改めて教えていただいた方でした。

 「今、私は放射線治療の後遺症で大変ですが、そのおかげでがんが治って自宅で妻とともに生きていられるわけですから、治療してくれた(上司の)先生にはとても感謝しています」とおっしゃられた方もいました。
 (単に私の知識不足だったのかもしれませんが)エビデンスという言葉を聞いたことすらない時代で、当時の上司は自分なりにいろいろな論文を調べて放射線治療や抗がん剤や温熱療法や免疫療法などを組み合わせたオリジナル治療をしていました。論文などよく勉強されていた先生で単なる経験だけの何となく思いつき診療ではなかったのですが、当時標準的とされる治療とは異なる斬新な治療方針をとられていた先生でもありました。(私からすると)その方は過剰治療例でしたが致命的な状態までには至らずがんは完治といえる状態になった方でした。
 もちろん治療の後遺症により裁判沙汰になることは時に報道されたりもしますし、過剰診療は慎むべきというのが常識的ですが、人によってはいろいろな見解があるものだと改めて教えていただいた方でした。


 冒頭にご紹介した方は私が直接在宅で診療したわけではなかったのですが、娘さんとの話を通じていろいろなことを思い出させていただきました。

 20年越しのプレゼント、医者冥利に尽きます。
ありがとうございました。

20160829
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【2016/08/29 23:47】 | 緩和医療
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