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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 今日、某科とのミーティングで、某がんに対する抗がん剤と放射線治療の同時併用について、これまでの治療内容と今後の方針についていろいろと議論をする機会がありました。だからというわけでは決してないのですが、抗がん剤と放射線治療の併用で患者さんも気をつけたほうがいいかな、と私が思ってることについて、書いてみます(厳密には以前のFB投稿の書き換えですが…笑)。


 最近の抗がん剤治療は、各がん別に標準的な投与メニューが院内登録されることが一般的になり、普通の(まともな)病院での不注意な薬剤投与量ミスというのは激減してきたと思います。

 一般に抗がん剤治療のメニューというものは、多くの専門の先生が集まって大がかりで厳しい規定をいろいろと作成し、人への投与に対する安全性や有効性を確認する臨床試験などで何年もかけて治療および経過観察をし、出てきた結果を国内外の学会や医学誌に発表するという、それはそれは大変な労苦を要する作業をいろいろと行って、ようやく新しい患者さんのために利用できるようになります。

 また、放射線治療関連では、がんに対する治療効果をより高めるため、放射線治療をする期間にいろいろな抗がん剤を一緒に投与することがあります。最近では、いろいろながん診療ガイドラインで、抗がん剤と放射線治療の同時併用(同時化学放射線療法)が標準治療と評価されています。

 ただそこで、以前から個人的に気になっていることがあります。同時化学放射線療法をどんな内容でもいいと拡大解釈してしまっている先生が、学会や院内カンファレンスなどでたまにいらっしゃるということです。


 抗がん剤治療も放射線治療も、がんであろうと正常組織であろうとどちらも細胞に相当なダメージを与えます。そして、抗がん剤単独治療で保険承認されている投与量であっても、放射線治療との同時併用では細胞のダメージが単純な足し算以上の上乗せ効果が出る恐れがあり、放射線治療との組み合わせOKと気軽に言えるものではありません。照射範囲が大きいとなおさらです。
 
 また、複数薬剤を組み合わることでより効果を高める有名な抗がん剤治療メニューもいろいろあります。たとえば、子宮がんにおけるTC(パクリタキセル:タキソール+カルボプラチン)療法、直腸がんにおけるFOLFIRI療法、膀胱がんにおけるGC(ジェムシタビン+シスプラチン)療法、などなど。そんな有名メニューでも、放射線治療との同時併用に関しては(最近まで)あまりきちんとした臨床試験報告がなされていなかったものが意外にあったりするので(しかも外国人仕様だけの報告)、注意が必要だと思います。

 実際のところ有名ながん関連学会ですら、証拠が乏しくも「勇気ある」同時併用治療を単施設の数少ない症例数でご発表というのをちらほらとお見受けすることがあります。
 海外ですら出ていない内容で臨床試験でもなくいきなり実臨床で同時併用を行うなどということは危険を伴いますし、倫理委員会承認などの手続きを踏まずに行うのは厳密には許容されるものではありません。学会発表すらなされないケースは潜在的にはおそらく少なからずあると思われ、実際にとんでもない副作用が出ている症例がいるという噂を聞くことすらあります。

 また、海外の臨床試験報告があったとしても、日本人でそのまま採用するのはどうかという意見も当然あります。まあ、(言い方は不適切ですが)それでもないよりはましなのですが…国内で出ている数少ない臨床試験だけを参考にすると、化学放射線療法が困難となるものも少なくありませんし。

 ちなみに、日本放射線腫瘍学会の多くの先生方はマンパワーがとても少ない中、頑張って日本のがん患者さんに将来役立つであろう化学放射線治療の臨床試験をいろいろと企画・実行されています。

 
 (長いので、次回に続くとしました…)
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【2013/03/11 22:57】 | 放射線治療と薬
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