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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 今日、4月から大学に戻られるうちの若手女医さんに、照射範囲決定のため入院中の食道がん患者さんの食道造影検査をしてもらったのですが、とても上手に撮影していただきました。

 もちろんバリウムを使って…


 食道がん患者さんの病状を確認するために食道造影検査を行うことがあります。胃の検診と同じようにバリウムを飲んでいただくのですが、病気が進行して食道と気管に穴(瘻孔)ができ常に肺に誤飲してしまう患者さんにバリウムの代わりにガストログラフィン(以下ガストロ)という水溶性の造影剤を用いられるお医者さんが時々いらっしゃいます。胃腸が詰まったり穴が開いているとバリウムだと吸収されずに体内に残ってしまうのですが、ガストロだと水溶性であり漏れても腹腔内で吸収され尿中に排泄されるので安全だという理由から、食道病変にも同じように扱っていいと思いこんでいらっしゃるからのようです。
 私の知る限り、特に消化器科(内科も外科も)の先生方に目立つ印象です。使用理由を問うと「先輩から言い伝えられてきたから」とお答えになる先生ばかりです。十年以上前のことですが、私もある放射線診断の先生にこのことを聞くまで「言い伝え」を鵜呑みにしていました。


 あまり知られていないようですが、ガストロは高浸透圧性イオン性造影剤に分類され、その浸透圧は1700 mosm/L、生理食塩水に対する浸透圧比は約9と非常に高い検査薬です。そんな薬剤が肺に大量に流れこんだら、身体の水分が薬剤を希釈するため肺胞の中に引っ張られて水浸し=肺水腫になり、水に溺れたのと同じような状態になってしまいます。投与量が少なければ症状的にはあまり問題になりにくいのかもしれませんが、瘻孔があるからと調子に乗って検査で飲ませ続けると危険です。
 多くはないのですが、小児系を中心に肺への誤飲によるガストロの危険性を報告した医学論文は散見します。

 ガストロの添付文書の(重要な基本的注意)には、4.高張液であるので、水代謝異常又は電解質代謝異常のある患者に投与する場合は、あらかじめ水・電解質代謝を正常にするなど適切な処置を行う[脱水症や水・電解質代謝異常を起こしやすい]。5.誤嚥により、呼吸困難、肺水腫等を引き起こす恐れがあるので、誤嚥を引き起こす恐れのある患者(高齢者、小児、嚥下困難、意識レベルが低下した患者等)に経口投与する際には観察を十分に行い注意する。また、術前造影を実施した場合には、麻酔導入時の嘔吐等による誤嚥に留意する。と明記されています。

 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会の嚥下造影の標準的検査法(詳細版)にも、「消化管造影剤には硫酸バリウムとガストログラフィンがあるが,ガストログラフィンは誤嚥した場合の肺毒性が報告されており,嚥下障害での使用は不適切である」と明記されています。つまりここでは通過障害のある進行食道がん(+頭頸部がん)自体で使用を勧めていないことになるようです。
 HP最下部にPDFがありダウンロードできますので、他の対処法を含めてご参考まで。
http://www.jsdr.or.jp/news/news_all/

 最近では食道気管支瘻はCTなどでも発見できることがあり、また食道がん症例に対して食道造影検査自体を施行する先生が減ってきているようですが(これはこれでいかがなものか?)、誤飲検査を含め上部消化管造影を施行される際は是非ご留意いただいたほうがよろしいかと思っています。


 お医者さんはあまりご覧いただいていないブログかもしれませんが、ご参考になれば…田舎の町医者より



(2012.5.xx facebookより加筆修正)


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【2013/03/18 22:45】 | 重要
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勉強になります
りり
来月、言語聴覚士の国家試験を受験する者です。

ガストロについて調べておりこちらを見つけましたが、大変参考になります。ありがとうございます。

言語聴覚士の先生の授業で、臨床現場で「ガストロ使いますか?」と聞かれることはよくあるので覚えておきなさいと言われましたが、やはりまだあまり医療関係職の間でも浸透していない知識なのですね。



JIN
りりさん、コメントありがとうございます。私の知る限り、医療関係者でもいまださほど浸透していないような気がします。不用意にガストロを使用しようとする偉そうな医療関係者に対しても、根拠をもって説得していただければと思います。

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コメント
この記事へのコメント
勉強になります
来月、言語聴覚士の国家試験を受験する者です。

ガストロについて調べておりこちらを見つけましたが、大変参考になります。ありがとうございます。

言語聴覚士の先生の授業で、臨床現場で「ガストロ使いますか?」と聞かれることはよくあるので覚えておきなさいと言われましたが、やはりまだあまり医療関係職の間でも浸透していない知識なのですね。
2015/01/11(Sun) 18:55 | URL  | りり #-[ 編集]
りりさん、コメントありがとうございます。私の知る限り、医療関係者でもいまださほど浸透していないような気がします。不用意にガストロを使用しようとする偉そうな医療関係者に対しても、根拠をもって説得していただければと思います。
2015/01/11(Sun) 19:10 | URL  | JIN #-[ 編集]
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2016/11/29(Tue) 08:02:17 |  http://www.valras-plage.net/xl-trigger/