母校である大学病院での定期診療支援が昨日で終わり、4月からは調べ物をする時などたま〜にしか大学病院に行かなくなります。業務内容は放射線治療計画支援が主体だったので、医学生さんと接する機会は正直あまりなかったのですが、来月からは若くて元気な医学生さんに会うことすら激減するので少しだけさみしい気もします。
私は一昨年まで数年間、別の某大学の教官として医学生さんの実習指導をしてきました。そもそも大学教官は「教師」として雇用されていて、また「研究者」としても業績を重ねることが求められ、「医者」はついでにという感が正直なきにしもあらずの所があります。
まあ、今日その話はさておいて…。
医学部は卒業まで順調でも6年の学業期間を要しますが。最近の医学生さんは4年生で共用試験 (CBT:Computer Based Testing)なるものをクリアしてから、病院実習に入ることが一般的です。俗に「ポリクリ」とか「クリクラ(クリニカル・クラークシップ)」とかいうやつです。
最初はグループ全員で現場「見学」的な要素が強い実習ですが、5年生の半ばからは希望の診療科を中心に個別の「体験」実習が主体となります。私が某大学在職の時は、医学生さんは4週間/講座、合計6ヶ月の期間で実習があり、我々の指導も連日続きました(さらに1学年下のグループも定期的に実習に来ます)。毎月5〜6人回ってくる医学生さんたちを放射線科は診断と治療に分けて、各教官が(治療部門は「治療スタッフ全員で」)個別指導をしていました。
医者の教官にとっては病院の臨床(や、きっと普通の先生は当然研究も)しながらなので、これは結構長くて大変だった…最初に書いた通り、これが本来の業務なのですが…某大学着任当初はもう少し短かったのですが、いつの間にやら6ヶ月…。
当時の私のBossの指導方針で、2週間のみ治療部門に回ってくる医学生さんには、放射線治療の面白さの一端を体感していただくため、実際の放射線治療で用いる放射線治療計画コンピュータ(以下、治療計画PCと仮称)を操作してもらうことを実習の主体にしていました。具体的には、放射線治療用に撮像されたCT画像を治療計画PCに転送し、専用の放射線治療計画用アプリケーション(以下、計画アプリ)を使って、我々が業務として行っている以下の操作を学生さんにもシミュレーションしてもらっていました。
1. まずは計画アプリに取り込まれ写し出されたCT画像に、がん病巣はどれか、がんのありそうな危険範囲はどこか、また放射線治療を行う上で危険な正常臓器がどれか、お絵描きツールを使って各々を区別できるように色分けした線などで囲む(絵を書く)作業を行います。これは世に出回っている描画ソフトでの「お絵かき」と技術的には大して変わりませんし、(世界中の施設で主力として汎用されている計画アプリが入っただけで1台数百万〜数千万円もするPCなのに)フリーウェアのほうが操作性が優っていたりします。
2. 続いて、「囲った絵」をみて、どの方向からどの範囲に放射線を照射したら、治療すべき範囲に充分な線量があたり、また危険臓器を極力被曝保護できるか、を計画アプリ上でいろいろとシミュレーションします。別の例えをするなら、地図の等高線(「山頂」は放射線がたくさん照射される高線量域で、「山裾」や「平野部」は正常臓器が主となる低線量域)を製作するといった感じです。これはPC好きの医学生さんなんかには(たぶん日本の放射線腫瘍医も少なからず)、ゲーム感覚で面白く結構ハマる要素を持っているようです。
まず最初の数十分で治療計画PCの一連の取扱いについて、我々指導教官側がいっしょに見せて聞かせて触らせるのですが、その後は用意してある計画アプリの学生さん用マニュアル(研修医用に作成したものをさらに簡易にしたVersion)で、ある程度自由に操作をしてもらってました。もちろん医学生さんの行う計画はあくまでもシミュレーションです。当然実際の患者さんの放射線治療計画は、医局員である放射線腫瘍医が中心に行い、さらに複数の放射線腫瘍専門医や医学物理士さんのチェックも受けて決定しています。
昨今の医学生さんたちは(当たり前なのかもしれませんが)アプリの操作に手馴れていて、早い学生さんだとたった半日で定型的な治療計画を仕上げ、2週間後の実習終了時には結構高度な「全脳全脊髄照射」や「マントル照射」なんかも作り上げてしまいました。また明らかにPC操作が得意ではなさそうな女学生さんでも、2週間もすれば「乳房温存照射」程度の計画でもそこそこ仕上げることができるようになります。
これを体験してもらうと、我々のお仕事って「実は簡単?」と思われがちですが(正直私も学生さんたちの覚え方の早さには最初びっくりしました)、実は全然そうではないのだということが臨床経験を積めば積むほどほどわかってきます。放射線治療計画は、コンピューターゲームとは全く違うので…。とはいえ、医学生さんの関心を引くにはとても有効な実習法であったと今でも思っていますし、もしかすると某大学の放射線治療科に回ってきた医学生さんたちの実習直後のレベルは、そこらの研修医より上なのではないかとたまに思うこともありました。
ただ、人間、時が経つとすぐに忘れてしまうというのは皆同じようで、すごいな〜と思っていた医学生さんでも改めて研修医になって修練に回ってきた時にはすっかり忘れていて、放射線治療計画の一連の指導を改めてその時に回ってきた医学生さんと一緒に教えなければいけないなんてこともよくありましたけれど…
(2012.8.xx facebookより加筆修正)
私は一昨年まで数年間、別の某大学の教官として医学生さんの実習指導をしてきました。そもそも大学教官は「教師」として雇用されていて、また「研究者」としても業績を重ねることが求められ、「医者」はついでにという感が正直なきにしもあらずの所があります。
まあ、今日その話はさておいて…。
医学部は卒業まで順調でも6年の学業期間を要しますが。最近の医学生さんは4年生で共用試験 (CBT:Computer Based Testing)なるものをクリアしてから、病院実習に入ることが一般的です。俗に「ポリクリ」とか「クリクラ(クリニカル・クラークシップ)」とかいうやつです。
最初はグループ全員で現場「見学」的な要素が強い実習ですが、5年生の半ばからは希望の診療科を中心に個別の「体験」実習が主体となります。私が某大学在職の時は、医学生さんは4週間/講座、合計6ヶ月の期間で実習があり、我々の指導も連日続きました(さらに1学年下のグループも定期的に実習に来ます)。毎月5〜6人回ってくる医学生さんたちを放射線科は診断と治療に分けて、各教官が(治療部門は「治療スタッフ全員で」)個別指導をしていました。
医者の教官にとっては病院の臨床(や、きっと普通の先生は当然研究も)しながらなので、これは結構長くて大変だった…最初に書いた通り、これが本来の業務なのですが…某大学着任当初はもう少し短かったのですが、いつの間にやら6ヶ月…。
当時の私のBossの指導方針で、2週間のみ治療部門に回ってくる医学生さんには、放射線治療の面白さの一端を体感していただくため、実際の放射線治療で用いる放射線治療計画コンピュータ(以下、治療計画PCと仮称)を操作してもらうことを実習の主体にしていました。具体的には、放射線治療用に撮像されたCT画像を治療計画PCに転送し、専用の放射線治療計画用アプリケーション(以下、計画アプリ)を使って、我々が業務として行っている以下の操作を学生さんにもシミュレーションしてもらっていました。
1. まずは計画アプリに取り込まれ写し出されたCT画像に、がん病巣はどれか、がんのありそうな危険範囲はどこか、また放射線治療を行う上で危険な正常臓器がどれか、お絵描きツールを使って各々を区別できるように色分けした線などで囲む(絵を書く)作業を行います。これは世に出回っている描画ソフトでの「お絵かき」と技術的には大して変わりませんし、(世界中の施設で主力として汎用されている計画アプリが入っただけで1台数百万〜数千万円もするPCなのに)フリーウェアのほうが操作性が優っていたりします。
2. 続いて、「囲った絵」をみて、どの方向からどの範囲に放射線を照射したら、治療すべき範囲に充分な線量があたり、また危険臓器を極力被曝保護できるか、を計画アプリ上でいろいろとシミュレーションします。別の例えをするなら、地図の等高線(「山頂」は放射線がたくさん照射される高線量域で、「山裾」や「平野部」は正常臓器が主となる低線量域)を製作するといった感じです。これはPC好きの医学生さんなんかには(たぶん日本の放射線腫瘍医も少なからず)、ゲーム感覚で面白く結構ハマる要素を持っているようです。
まず最初の数十分で治療計画PCの一連の取扱いについて、我々指導教官側がいっしょに見せて聞かせて触らせるのですが、その後は用意してある計画アプリの学生さん用マニュアル(研修医用に作成したものをさらに簡易にしたVersion)で、ある程度自由に操作をしてもらってました。もちろん医学生さんの行う計画はあくまでもシミュレーションです。当然実際の患者さんの放射線治療計画は、医局員である放射線腫瘍医が中心に行い、さらに複数の放射線腫瘍専門医や医学物理士さんのチェックも受けて決定しています。
昨今の医学生さんたちは(当たり前なのかもしれませんが)アプリの操作に手馴れていて、早い学生さんだとたった半日で定型的な治療計画を仕上げ、2週間後の実習終了時には結構高度な「全脳全脊髄照射」や「マントル照射」なんかも作り上げてしまいました。また明らかにPC操作が得意ではなさそうな女学生さんでも、2週間もすれば「乳房温存照射」程度の計画でもそこそこ仕上げることができるようになります。
これを体験してもらうと、我々のお仕事って「実は簡単?」と思われがちですが(正直私も学生さんたちの覚え方の早さには最初びっくりしました)、実は全然そうではないのだということが臨床経験を積めば積むほどほどわかってきます。放射線治療計画は、コンピューターゲームとは全く違うので…。とはいえ、医学生さんの関心を引くにはとても有効な実習法であったと今でも思っていますし、もしかすると某大学の放射線治療科に回ってきた医学生さんたちの実習直後のレベルは、そこらの研修医より上なのではないかとたまに思うこともありました。
ただ、人間、時が経つとすぐに忘れてしまうというのは皆同じようで、すごいな〜と思っていた医学生さんでも改めて研修医になって修練に回ってきた時にはすっかり忘れていて、放射線治療計画の一連の指導を改めてその時に回ってきた医学生さんと一緒に教えなければいけないなんてこともよくありましたけれど…
(2012.8.xx facebookより加筆修正)
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