うちの科に今月から、大学人事による交代で新しい先生が着任されました。放射線腫瘍専門医の資格を持っていらっしゃるうえ、他県のがん専門病院勤務もご経験されているので、私にはとても勉強になりますし大変な戦力であります。今日もある患者さんの治療計画で、放射線治療すべき部位(ターゲット)について二人でいろいろ語りました。
学会などでの情報交換というのは治療成績とか総論的な治療計画内容の話とか、具体性にいささか欠けた議論になりがちだと思っていますが、個々の患者さんの具体的な治療計画に関する専門医同士の情報交換というものは、また違った刺激や向上が得られます。
踊る大捜査線での織田裕二さん演じる青島俊作の名セリフ「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」ってやつに相通じるものでしょうか(違うかな…?)
そこで今日は(やっぱり以前のFBにも投稿した内容ではあるのですが)、これからのブログ投稿に向けての準備といいますか同業者以外へのイントロといいますか、放射線治療計画におけるターゲットについて、同業者から学び自分なりに感じてきたことを手短に『あえて』書かせていただこうと思います。
とても偉そうな文章かもしれませんが、どうぞお許しくださいませ。
最初に基礎情報として、CTを用いた一般的な放射線治療計画のターゲットの定義について、同業者以外の方々用に放射線治療計画ガイドライン2013:総論の一部を***間に改変引用させていただきます。これはあくまで用語の定義で、同業者には特におせっかいな記載ですが…。
********************************
最初に治療計画コンピュータ上のCT画像で、ターゲットを決定します。写真のごとく、ターゲットはICRUレポート(JIS規格みたいなものと思って頂ければ…)に規定されている
・肉眼的腫瘍体積(GTV ; gross tumor volume)
・臨床標的体積(CTV ; clinical target volume)
・ITV(internal target volume)
・計画標的体積(PTV ; planning target volume)
に分けられます。
GTVとは、画像や診察で確認できる腫瘍そのものを意味し(だからGTVだけT=tumor=腫瘍、他はtarget=標的)、これには原発巣、リンパ節あるいは遠隔転移巣が含まれ、GTVは原則『治すために絶対に治療範囲に含めなければいけません』。癌をとった後の術後照射などの場合は、GTVがないということもありえます。
CTVとは、GTVおよびその周辺の顕微鏡的な進展範囲、あるいは所属リンパ節領域を含んだ照射すべき部分。「一部は目に見えてないけど小さな癌がとてもありそうな近隣の危険範囲」のことです。
ITVとは、CTVに呼吸、飲み込み、心臓の拍動、胃腸の蠕動など、体内臓器の動きによる影響を含めた標的体積を意味します。「CTVは静止画像、ITVは動画」と思って頂ければいいかな?ここまでは「人間の身体の中」のお話でした。
PTVとは、「身体の外でのズレ・誤差」のことで、毎回の照射における機械などの設定誤差を含めた標的体積を意味します。
以上より、根治的な照射ではGTV ≦ CTV ≦ ITV < PTVの不等号は常に成立します。

*********************************
放射線治療を志す若手の先生方ならこの定義はさすがに皆さん良くご存知でありますが、わかりました?
ここから先は私個人のコメントです。
特にGTVやCTVですが、「その中でも」優先順位設定というのがあると思います。放射線腫瘍医のお仕事として大事なポイントの一つでしょう。
例えば、耳鼻科の癌ではなるべく臓器の機能温存(≒元のままに残すこと)が望まれますが、そこで原発巣とリンパ節転移は同じGTVでも扱い方が多少変わることがあります。原発巣はのどとか口の中とか、手術で摘出しまうと発声や飲食など後々の日常生活に大変不具合がでてしまうので『絶対』照射範囲に入れなければいけません。しかし首のリンパ節転移は正常組織の副作用、特に後遺症との兼ね合いなどで照射範囲から不幸にして外れてしまっても、その後に手術切除できれば生活の質に対する影響は少なめに済みます。
もちろん、首のリンパ節転移に対する放射線治療がいい加減(悪い意味)でも良いとしているわけではありません。あくまで止むなくです。
CTVも同じで、癌が絶対にあると確定している部分ではないとは言うものの本当にヤバそうな場所は何とか治療範囲に含めるようにすべきですし、逆に危険度の少ないところは優先順位で緩め設定も(止むなく)視野に入れることになると思います。
で、絶対的なGTVよりはCTVは優先順位が落ちます。
そんなの当たり前のことでしょ?とも言われそうな気がします。
ところが、若い先生や学生さんなどに治療計画をしてもらうと、アニメーション画像だけになった段階でGTVもCTVもPTVも全て『横一線の意識』となってしまい、『癌が確実に存在する一番重要なGTV』が照射範囲から外れそうだったり線量分布(放射線の量)が一部甘かったりしてもあまり気にしなかったり、それほど気にしなくてもよさそうなPTVの分布に妙なこだわりをもって無駄な時間を費やしてしまうことがあります。
臨床情報の確認も不十分なまま…。
どうもコンピュータ操作にはまり込むと、放射線治療でどこを最も治さなければいけないのか、つまり画面の裏にいる実際の患者さんが本当に困っている、あるいはこれから困る病気の場所が見えにくくなってしまう傾向が、私の周りの一部(若手の)先生方に見受けられるような印象を持っています。
「放射線治療計画はコンピュータゲームじゃないよ」が少しだけ私の口癖になってきました。
IMRTなどで工夫すればそんな問題自体起きないよ、とおっしゃる一部の先生もいそうですが、それはまた別の問題ということでご容赦ください。
一般の方にはやっぱり解りにくい文章だったでしょうか??
学会などでの情報交換というのは治療成績とか総論的な治療計画内容の話とか、具体性にいささか欠けた議論になりがちだと思っていますが、個々の患者さんの具体的な治療計画に関する専門医同士の情報交換というものは、また違った刺激や向上が得られます。
踊る大捜査線での織田裕二さん演じる青島俊作の名セリフ「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」ってやつに相通じるものでしょうか(違うかな…?)
そこで今日は(やっぱり以前のFBにも投稿した内容ではあるのですが)、これからのブログ投稿に向けての準備といいますか同業者以外へのイントロといいますか、放射線治療計画におけるターゲットについて、同業者から学び自分なりに感じてきたことを手短に『あえて』書かせていただこうと思います。
とても偉そうな文章かもしれませんが、どうぞお許しくださいませ。
最初に基礎情報として、CTを用いた一般的な放射線治療計画のターゲットの定義について、同業者以外の方々用に放射線治療計画ガイドライン2013:総論の一部を***間に改変引用させていただきます。これはあくまで用語の定義で、同業者には特におせっかいな記載ですが…。
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最初に治療計画コンピュータ上のCT画像で、ターゲットを決定します。写真のごとく、ターゲットはICRUレポート(JIS規格みたいなものと思って頂ければ…)に規定されている
・肉眼的腫瘍体積(GTV ; gross tumor volume)
・臨床標的体積(CTV ; clinical target volume)
・ITV(internal target volume)
・計画標的体積(PTV ; planning target volume)
に分けられます。
GTVとは、画像や診察で確認できる腫瘍そのものを意味し(だからGTVだけT=tumor=腫瘍、他はtarget=標的)、これには原発巣、リンパ節あるいは遠隔転移巣が含まれ、GTVは原則『治すために絶対に治療範囲に含めなければいけません』。癌をとった後の術後照射などの場合は、GTVがないということもありえます。
CTVとは、GTVおよびその周辺の顕微鏡的な進展範囲、あるいは所属リンパ節領域を含んだ照射すべき部分。「一部は目に見えてないけど小さな癌がとてもありそうな近隣の危険範囲」のことです。
ITVとは、CTVに呼吸、飲み込み、心臓の拍動、胃腸の蠕動など、体内臓器の動きによる影響を含めた標的体積を意味します。「CTVは静止画像、ITVは動画」と思って頂ければいいかな?ここまでは「人間の身体の中」のお話でした。
PTVとは、「身体の外でのズレ・誤差」のことで、毎回の照射における機械などの設定誤差を含めた標的体積を意味します。
以上より、根治的な照射ではGTV ≦ CTV ≦ ITV < PTVの不等号は常に成立します。

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放射線治療を志す若手の先生方ならこの定義はさすがに皆さん良くご存知でありますが、わかりました?
ここから先は私個人のコメントです。
特にGTVやCTVですが、「その中でも」優先順位設定というのがあると思います。放射線腫瘍医のお仕事として大事なポイントの一つでしょう。
例えば、耳鼻科の癌ではなるべく臓器の機能温存(≒元のままに残すこと)が望まれますが、そこで原発巣とリンパ節転移は同じGTVでも扱い方が多少変わることがあります。原発巣はのどとか口の中とか、手術で摘出しまうと発声や飲食など後々の日常生活に大変不具合がでてしまうので『絶対』照射範囲に入れなければいけません。しかし首のリンパ節転移は正常組織の副作用、特に後遺症との兼ね合いなどで照射範囲から不幸にして外れてしまっても、その後に手術切除できれば生活の質に対する影響は少なめに済みます。
もちろん、首のリンパ節転移に対する放射線治療がいい加減(悪い意味)でも良いとしているわけではありません。あくまで止むなくです。
CTVも同じで、癌が絶対にあると確定している部分ではないとは言うものの本当にヤバそうな場所は何とか治療範囲に含めるようにすべきですし、逆に危険度の少ないところは優先順位で緩め設定も(止むなく)視野に入れることになると思います。
で、絶対的なGTVよりはCTVは優先順位が落ちます。
そんなの当たり前のことでしょ?とも言われそうな気がします。
ところが、若い先生や学生さんなどに治療計画をしてもらうと、アニメーション画像だけになった段階でGTVもCTVもPTVも全て『横一線の意識』となってしまい、『癌が確実に存在する一番重要なGTV』が照射範囲から外れそうだったり線量分布(放射線の量)が一部甘かったりしてもあまり気にしなかったり、それほど気にしなくてもよさそうなPTVの分布に妙なこだわりをもって無駄な時間を費やしてしまうことがあります。
臨床情報の確認も不十分なまま…。
どうもコンピュータ操作にはまり込むと、放射線治療でどこを最も治さなければいけないのか、つまり画面の裏にいる実際の患者さんが本当に困っている、あるいはこれから困る病気の場所が見えにくくなってしまう傾向が、私の周りの一部(若手の)先生方に見受けられるような印象を持っています。
「放射線治療計画はコンピュータゲームじゃないよ」が少しだけ私の口癖になってきました。
IMRTなどで工夫すればそんな問題自体起きないよ、とおっしゃる一部の先生もいそうですが、それはまた別の問題ということでご容赦ください。
一般の方にはやっぱり解りにくい文章だったでしょうか??
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