IMRTや粒子線治療といった高精度放射線治療は、がんに放射線を集中しやすい点で腫瘍縮小効果や副作用の軽減が期待されますし、論文やメディアなどでその有効性が多々報告されています。
しかし、いくら優れものの放射線治療装置で技術的に正確な放射線治療が可能だとしても、そもそもの病気の部分がきちんと治療計画画像で捉えられていなければ(≒ターゲット設定が正確でなければ)、治療効果が不十分となりがち、いや逆に照射の切れ味が良いだけにかえって病巣辺縁から再発する危険が高まる恐れもあります。
以前、某施設で施行された化学放射線療法の臨床試験に関連するご講演があり、「ターゲット設定にも放射線治療の施設間格差がある」と講師の先生がお話されていました。質疑応答で具体的な部分を質問させていただいた所、「きちんとした造影CTを撮影していても病巣の囲み方が施設ごとでかなり違った」そうなのです。
詳細な放射線治療範囲に関する規定が定めてあって、かつ〇×大学とか△□がんセンターといった全国でも有名な施設の放射線腫瘍専門医ばかりが参加する臨床試験『であっても』バラつきが出るということは、普通の放射線治療ではもっと…?
前立腺がんの放射線治療計画をする時に、通常は前立腺全体を治療範囲に設定します。前立腺は膀胱や直腸に挟まれたクルミ大の骨盤内臓器です。
数年前ですが、九州の25名の放射線腫瘍医に同じ患者さんのCT上の前立腺を線で囲んでもらった調査結果を解析された九州大の中村先生から論文報告がありました。それによると、頭尾側長さで2倍以上(21~54mm)、体積に至っては4倍以上(23.8~98.3cm3)も医師間格差があるという結果だったそうです。また 治療医経験年数10年以上のベテラン医師ほど囲む範囲が広めだったとも報告されています(p=0.067)。
繊細で丁寧と評判の(?)日本人医師たちなのに、比較的見分けやすいと思われていた前立腺(がんではなく臓器全体)の囲み『ですら』これだけの違いが出るのか!と 当時の私には結構衝撃的な報告でした。九州人がアバウトだとは思えませんし。ただ、MRIを参考にしていないこと、造影検査をしていない調査であること、2007年ごろと少し前であることから、今と状況は異なるかもしれません。
当時の年配の先生がたはコンピュータ操作の不慣れや(悲しいかな他人事ではないのですが)老眼の影響で広く囲んでしまっていたのかもしれません。いずれにせよ専門の医師であっても囲いの格差は意外にあるかも、と改めて認識させられた論文でした。
ちなみに外国からも似たような論文報告がでています。
最近では、国内外の学会などから部位別の輪郭描出アトラスが論文として発表されるようになり、定型的なターゲット作成に関してはだんだん標準化されてきています。しかし、これも微妙にバラつきがあったりして、逆に頭を悩ませることがありますが…
我々が時々参考にする教科書でも、著者によって結構ターゲットの囲み方が異なっていたりします。どの本のどの先生の、という具体的な内容はここでは(あえて)触れませんが、結構違います。几帳面な先生がいれば、大ざっぱな先生もいて…。CT治療計画世代の比較的年齢が若い先生ほど『丁寧』な印象です。
研修医の先生は、そういったアトラスや教科書と治療計画CTとをにらめっこしながらそのまま「模写しています」。
X線などを使った画像診断というのは未だにせいぜい数mmレベルのがん病巣の描出能力しかなく、しかもがん以外の変化、例えば炎症との鑑別も容易ではない場合が少なからずあります。MRIやPETなどで総合的に判断しますけど、現状の画像診断は病理検査(顕微鏡で細胞ががんなのかどうかを確認するやつ)の代わりにはまだなれません。
機械の精度同様に病巣描出も厳密に行うべきなのですが、あまり厳密過ぎると却って仇となる(≒治療が失敗する)恐れもないとはいえません。豊富な経験に裏打ちされたPC操作に疎いご高齢の先生方の「こんな感じ~」的な囲みの方が、実は結果的に正しかったということも?
私は一応、「きちんと」ターゲットを囲ったほうが確率的には局所制御率は高く副作用は少ないはず、と信じているほうなのですが…

しかし、いくら優れものの放射線治療装置で技術的に正確な放射線治療が可能だとしても、そもそもの病気の部分がきちんと治療計画画像で捉えられていなければ(≒ターゲット設定が正確でなければ)、治療効果が不十分となりがち、いや逆に照射の切れ味が良いだけにかえって病巣辺縁から再発する危険が高まる恐れもあります。
以前、某施設で施行された化学放射線療法の臨床試験に関連するご講演があり、「ターゲット設定にも放射線治療の施設間格差がある」と講師の先生がお話されていました。質疑応答で具体的な部分を質問させていただいた所、「きちんとした造影CTを撮影していても病巣の囲み方が施設ごとでかなり違った」そうなのです。
詳細な放射線治療範囲に関する規定が定めてあって、かつ〇×大学とか△□がんセンターといった全国でも有名な施設の放射線腫瘍専門医ばかりが参加する臨床試験『であっても』バラつきが出るということは、普通の放射線治療ではもっと…?
前立腺がんの放射線治療計画をする時に、通常は前立腺全体を治療範囲に設定します。前立腺は膀胱や直腸に挟まれたクルミ大の骨盤内臓器です。
数年前ですが、九州の25名の放射線腫瘍医に同じ患者さんのCT上の前立腺を線で囲んでもらった調査結果を解析された九州大の中村先生から論文報告がありました。それによると、頭尾側長さで2倍以上(21~54mm)、体積に至っては4倍以上(23.8~98.3cm3)も医師間格差があるという結果だったそうです。また 治療医経験年数10年以上のベテラン医師ほど囲む範囲が広めだったとも報告されています(p=0.067)。
繊細で丁寧と評判の(?)日本人医師たちなのに、比較的見分けやすいと思われていた前立腺(がんではなく臓器全体)の囲み『ですら』これだけの違いが出るのか!と 当時の私には結構衝撃的な報告でした。九州人がアバウトだとは思えませんし。ただ、MRIを参考にしていないこと、造影検査をしていない調査であること、2007年ごろと少し前であることから、今と状況は異なるかもしれません。
当時の年配の先生がたはコンピュータ操作の不慣れや(悲しいかな他人事ではないのですが)老眼の影響で広く囲んでしまっていたのかもしれません。いずれにせよ専門の医師であっても囲いの格差は意外にあるかも、と改めて認識させられた論文でした。
ちなみに外国からも似たような論文報告がでています。
最近では、国内外の学会などから部位別の輪郭描出アトラスが論文として発表されるようになり、定型的なターゲット作成に関してはだんだん標準化されてきています。しかし、これも微妙にバラつきがあったりして、逆に頭を悩ませることがありますが…
我々が時々参考にする教科書でも、著者によって結構ターゲットの囲み方が異なっていたりします。どの本のどの先生の、という具体的な内容はここでは(あえて)触れませんが、結構違います。几帳面な先生がいれば、大ざっぱな先生もいて…。CT治療計画世代の比較的年齢が若い先生ほど『丁寧』な印象です。
研修医の先生は、そういったアトラスや教科書と治療計画CTとをにらめっこしながらそのまま「模写しています」。
X線などを使った画像診断というのは未だにせいぜい数mmレベルのがん病巣の描出能力しかなく、しかもがん以外の変化、例えば炎症との鑑別も容易ではない場合が少なからずあります。MRIやPETなどで総合的に判断しますけど、現状の画像診断は病理検査(顕微鏡で細胞ががんなのかどうかを確認するやつ)の代わりにはまだなれません。
機械の精度同様に病巣描出も厳密に行うべきなのですが、あまり厳密過ぎると却って仇となる(≒治療が失敗する)恐れもないとはいえません。豊富な経験に裏打ちされたPC操作に疎いご高齢の先生方の「こんな感じ~」的な囲みの方が、実は結果的に正しかったということも?
私は一応、「きちんと」ターゲットを囲ったほうが確率的には局所制御率は高く副作用は少ないはず、と信じているほうなのですが…

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