私の同級生(あえて匿名…)のFacebookに「酒の有効成分はエタノールでしょうか。それなら日本酒もワインもスコッチもテキーラもバーボンも老酒だってエタノールです。燗酒も冷や酒も湯で割った焼酎も生のスコッチもバーボンも赤ワインも白ワインもアルコール度数さえ同じにしたら飲んだ人に与える効果は同じでしょうか?同じだといった馬鹿丸出しの肝臓専門医が私が学生時代に講義してました。…(以下、略)」という投稿が以前ありました。
お酒と同様に放射線治療も、吸収線量(ある場所のある物質中に吸収された放射線量:グレイ≒アルコール量)さえ同じにしたら治療効果や副作用も同じになるかというと決してそうではありません。日本酒やビール、ワインなどアルコール度数の違う多種のお酒があるように、治療に用いる放射線にもX線、粒子線(陽子線、炭素イオン線)、β線やγ線(ヨウ素-131、ストロンチウム-89)などがあります。
また、放射線の線質によって人体への影響が変わる線量当量(吸収線量に法令で定められた係数---放射線の種類ごとに定められた人体の障害の受けやすさ---を掛けたもの:シーベルト≒酔いの程度)があることは、昨今の内部被曝問題からご存知の方も多数いらっしゃると思います。
また通常用いられるX線治療で同じグレイを照射しても、副作用や腫瘍の縮小程度は患者さんによって異なります。一部の膠原病患者さんでは通常では起きにくい少量の放射線被曝でも皮膚炎など強い副作用(≒アルコールアレルギー)が現れることがあります。同じ臓器の同じタイプの癌でも放射線治療による腫瘍縮小の程度や速さはかなりばらつきます。
放射線治療に関する生存率を中心とした臨床試験の報告は世界中に数多くありますが、同じ照射法の個人差(患者と医者の両面)についての言及は、私の知る限りさほどなされていません。人種格差や治療する国や病院の実力差(≒ワインにおけるブドウの銘柄や土壌の差)を示した論文はいくつかありますし、今後は遺伝子解析などによるオーダーメード放射線治療がどんどん進みそうです。
しかし放射線腫瘍医の腕や知識、経験の差(≒酒の造り手の技や経験の差)を示した臨床試験はほとんどないと思います。実際のところ、数が少なすぎて個々の放射線腫瘍医の限られた診療経験数ではなかなか統計学的有意差は出にくいのでしょう。また偉大な神の創造物である人間の治癒力や、逆にがんという極めて手ごわい相手(これも不死を避けるための神の創造物≒遺伝子プログラム)の致死力の前では、個々の放射線腫瘍医の「こだわり」という小細工(?)はまだまだ通用しきれない所があるのかもしれません。素材が良ければ醸造場所や造り手が異なってもそれなりに美味しいお酒ができるのと同じように。
ただ、放射線治療計画における医師のちょっとした「こだわり」で、放射線口内炎の出かたなどは医者からみたら「ちょっとした」、しかし患者さんからしたら「とんでもない」程度の副作用の違いになることは少なくないと思います。CTで見えている(はずの)腫瘍の囲み一つだけとっても「長々細々とした数ページものルールがきちんと定義され」かつ「有名施設の放射線腫瘍専門医」が行う「きちんとした臨床試験ですら」担当する医師によって違い(ずれ)が出てしまうと聞きます。
ワインの場合など、その微妙な違い≒「こだわり」が区別できるプロがいるので、隣同士のワイナリーなのに味も値段も全然違うワインが存在するのでしょう。酒と違って、個々の患者さん側からすれば放射線治療は人生で何度も味わう(?)ものではなく、また同じ場所を治療することは原則ありませんので、個々の放射線腫瘍医の医療レベルの違いを比較体験することはまずできません。まあ、5大シャトーのファーストラベルなどは一生のうち滅多に飲めるものではありませんが…普通の人ならば。
しかし味(≒診療行為のレベル)のわかる専門の放射線腫瘍医側からみれば、生存率という数字だけでは語れない個々の治療計画内容や患者説明の「こだわり」の違いは、自分との対比などである程度判るはずです。同じ放射線治療「専門医」でも、ソムリエのような達人もいれば、赤白ワインの違いしかわからないような方もいるのでしょうが…と書いている自分がどの程度なのかが一番気になりますけど。
画像は私が勤務する病院の平成15年時の照射位置設定X線写真です。今はほぼ全例コンピュータ上のCT画像の病巣を「直接見て囲んで映し出して」放射線治療計画をしているのですが、21世紀に入ってからもこんな設定を多くの施設で普通にしていました。今でも一部施設では行われているでしょうが、X線写真上がん病巣は「見えません」。
放射線治療レベルの国別の格差、施設の格差、放射線腫瘍医の格差は、一般の方が想像している以上にあるのではないかと(勝手に)思っています。セカンドオピニオン外来は近いものがあるのかもしれませんが、医師の実力や医療内容の本質的「鑑別診断」ができる仕組みが世にあると患者さんには便利なのだろうなと、たまに思ったりします。
何か作れないかな〜?

お酒と同様に放射線治療も、吸収線量(ある場所のある物質中に吸収された放射線量:グレイ≒アルコール量)さえ同じにしたら治療効果や副作用も同じになるかというと決してそうではありません。日本酒やビール、ワインなどアルコール度数の違う多種のお酒があるように、治療に用いる放射線にもX線、粒子線(陽子線、炭素イオン線)、β線やγ線(ヨウ素-131、ストロンチウム-89)などがあります。
また、放射線の線質によって人体への影響が変わる線量当量(吸収線量に法令で定められた係数---放射線の種類ごとに定められた人体の障害の受けやすさ---を掛けたもの:シーベルト≒酔いの程度)があることは、昨今の内部被曝問題からご存知の方も多数いらっしゃると思います。
また通常用いられるX線治療で同じグレイを照射しても、副作用や腫瘍の縮小程度は患者さんによって異なります。一部の膠原病患者さんでは通常では起きにくい少量の放射線被曝でも皮膚炎など強い副作用(≒アルコールアレルギー)が現れることがあります。同じ臓器の同じタイプの癌でも放射線治療による腫瘍縮小の程度や速さはかなりばらつきます。
放射線治療に関する生存率を中心とした臨床試験の報告は世界中に数多くありますが、同じ照射法の個人差(患者と医者の両面)についての言及は、私の知る限りさほどなされていません。人種格差や治療する国や病院の実力差(≒ワインにおけるブドウの銘柄や土壌の差)を示した論文はいくつかありますし、今後は遺伝子解析などによるオーダーメード放射線治療がどんどん進みそうです。
しかし放射線腫瘍医の腕や知識、経験の差(≒酒の造り手の技や経験の差)を示した臨床試験はほとんどないと思います。実際のところ、数が少なすぎて個々の放射線腫瘍医の限られた診療経験数ではなかなか統計学的有意差は出にくいのでしょう。また偉大な神の創造物である人間の治癒力や、逆にがんという極めて手ごわい相手(これも不死を避けるための神の創造物≒遺伝子プログラム)の致死力の前では、個々の放射線腫瘍医の「こだわり」という小細工(?)はまだまだ通用しきれない所があるのかもしれません。素材が良ければ醸造場所や造り手が異なってもそれなりに美味しいお酒ができるのと同じように。
ただ、放射線治療計画における医師のちょっとした「こだわり」で、放射線口内炎の出かたなどは医者からみたら「ちょっとした」、しかし患者さんからしたら「とんでもない」程度の副作用の違いになることは少なくないと思います。CTで見えている(はずの)腫瘍の囲み一つだけとっても「長々細々とした数ページものルールがきちんと定義され」かつ「有名施設の放射線腫瘍専門医」が行う「きちんとした臨床試験ですら」担当する医師によって違い(ずれ)が出てしまうと聞きます。
ワインの場合など、その微妙な違い≒「こだわり」が区別できるプロがいるので、隣同士のワイナリーなのに味も値段も全然違うワインが存在するのでしょう。酒と違って、個々の患者さん側からすれば放射線治療は人生で何度も味わう(?)ものではなく、また同じ場所を治療することは原則ありませんので、個々の放射線腫瘍医の医療レベルの違いを比較体験することはまずできません。まあ、5大シャトーのファーストラベルなどは一生のうち滅多に飲めるものではありませんが…普通の人ならば。
しかし味(≒診療行為のレベル)のわかる専門の放射線腫瘍医側からみれば、生存率という数字だけでは語れない個々の治療計画内容や患者説明の「こだわり」の違いは、自分との対比などである程度判るはずです。同じ放射線治療「専門医」でも、ソムリエのような達人もいれば、赤白ワインの違いしかわからないような方もいるのでしょうが…と書いている自分がどの程度なのかが一番気になりますけど。
画像は私が勤務する病院の平成15年時の照射位置設定X線写真です。今はほぼ全例コンピュータ上のCT画像の病巣を「直接見て囲んで映し出して」放射線治療計画をしているのですが、21世紀に入ってからもこんな設定を多くの施設で普通にしていました。今でも一部施設では行われているでしょうが、X線写真上がん病巣は「見えません」。
放射線治療レベルの国別の格差、施設の格差、放射線腫瘍医の格差は、一般の方が想像している以上にあるのではないかと(勝手に)思っています。セカンドオピニオン外来は近いものがあるのかもしれませんが、医師の実力や医療内容の本質的「鑑別診断」ができる仕組みが世にあると患者さんには便利なのだろうなと、たまに思ったりします。
何か作れないかな〜?

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