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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 前回のブログで膠原病患者さんの放射線治療について、アルコールアレルギーと関連して少し話題にあげましたが、今回はそれをメインテーマにしています。


 ごくたまに慢性関節リウマチなど膠原病の持病がある癌患者さんに対する放射線治療を依頼されることがあります。膠原病患者さんに放射線治療を行うと皮膚や粘膜、肺などにひどい後遺症が比較的起きやすいということで、一般に「相対禁忌」とされます。
 しかし他の科の先生方の認知度は必ずしも高いとは言えず(放射線腫瘍医側のアピール不足と言われればそうかもしれないのですが…)、放射線治療依頼書に「膠原病の有無」というチェック項目を作成していても主治医に無視されてしまうことがあります。
 なので、我々放射線治療医のほうでもアンテナを立てて既往歴のチェックをする必要があります。今年うちにはいる病院情報システムでは主治医側のチェックが必須となる縛りを入れる予定ですが、他院からの紹介となると効果が及びませんし。

 この「相対禁忌」という言葉は、患者さん(と私)を非常に悩ませます。先日も、ずっと確定診断されていない慢性関節リウマチ様の患者さんへの説明の際に、この相対禁忌がらみで相当な時間を費やし、最終的には現在の病状を優先し患者さんもご了承の上で放射線治療を行ったケースがありました。
 医療禁忌マニュアル第3版(医歯薬出版株式会社)の記載によると、絶対禁忌とは「その医療行為によって患者さんが死、もしくは不可逆的な障害を招くもの」、相対禁忌とは「それほどの危険性はないものの,医療上通常行ってはならないこと」とあります。膠原病の中でも強皮症などは絶対禁忌に近いのですが、患者数が比較的多い慢性関節リウマチはさほど危険性はないとも報告されていて温度差があります。膠原病による間質性肺炎がある患者さんへの胸部照射では、数ヶ月以内に命を脅かす放射線肺臓炎がとても起きやすいので、放射線治療を行わないことが原則だと思います。
 とはいえ、癌そのものも放置すれば生命や苦痛を脅かすため、「命がけの」放射線治療をするかしないか患者さんに究極の選択を提示せざるをえない場合もあります。


 多くの方が元気に長生きされる早期乳がんの場合、乳癌診療ガイドラインでは膠原病患者さんに対して術後照射が原則必要となる「乳房温存療法の適応にならない」と記載されています。にもかかわらず、すでに乳房温存手術が終わり術後照射をするだけとなって紹介された患者さんもたまにいらっしゃって(最近は滅多にありませんが)、その場合はいささか困ってしまいます。
 患者さんおよび主治医にガイドラインなどに記載されている膠原病によるリスクを一通りご説明の上で、①線量や照射範囲などに配慮し照射期間中はもちろん終了後も慎重な対応のもと予定通り術後照射を施行する、②リスク(後遺症)を考慮して照射しないで経過観察をする、③再手術(乳房全摘術)をご検討いただく、のいずれかを選択することになるかと思います。③はなかなか難しい部分もありますが、顕微鏡的な取り残しが明らかでなければ照射をしなくても80-90%程度の患者さんは局所再発しないので、無理して照射すべきでないと主張される先生方もいらっしゃいます。主治医と相談した上で患者さんがご了承されるのであれば私も②を選択する場合があります。 

 実際、私自身はこれまで特にリスクの少なめな慢性関節リウマチの患者さんなどに放射線治療をご提供したことも何度かあるのですが、今のところ幸運にも膠原病患者さんでの悲しい副作用の経験はないようです。ただ単に知らないだけだとしたら大変申し訳ございません。
 患者さんへの説明の時、(私)「強い後遺症が出るかもしれず原則として照射してはいけないとなっています。ただ大丈夫なことのほうが多いです。」→(患者さん) 「やっていいのか悪いのか、どっちなんだ?!」となります。患者さんの立場からすれば当然湧く疑問です。私の説明の仕方に問題があるのかもしれませんが、「いけない」と「大丈夫」の順番を変えただけで患者さんの受け止め方は違う印象もあります。また、ダイレクトに「命がけの照射」と表現することはよっぽどリスクが高くない限りたぶん少ないですが、オブラートに包んだ表現だと誤解されてしまう可能性があるため、患者さんの側からすれば脅迫まがいの説明に受け取られてしまう場合もありえます。


 結局、いつも通りに癌が良くなる確率と重篤な副作用の危険度を両天秤にかけて、我々と患者さんとが共に腹をくくって選択するしかない、というスタンスで相談させていだたくのですが、いまだ難しい課題です。


(2012.5.xx facebookから加筆修正)

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【2013/01/17 03:54】 | 放射線治療:一般
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Mさんへ
JIN
本日、その(2)をブログにしてみました。ご参考になれば幸いです。


momokomama
膠原病と放射線治療の記事を読み投稿しました。
2年前、強皮症と診断され、主な症状はレイノーと手足先や指関節の痛み、むくみです。1年半プレドニンを服用し、現在、我慢できる痛みならと、経過観察中です。先日、市の乳がん検診を受けたところ、乳腺X線検査で悪性の疑いとの結果が届きました。検査を受けた病院でも治療は可能なのですが、やはり、膠原病の方の先生に相談する方がよいでしょうか。

momokomamaさんへ
JIN
私は(かかりつけの)膠原病専門の先生に事前にご意見を伺い、病状を確認いたします。その上で放射線治療をするか患者さんと相談します。
ただ外科の先生が知らずに温存術を施行しあとは放射線をするだけという状態でご紹介されることもあり、その際は困ってしまいます。強皮症ですし、放射線治療をしない選択肢を考える必要がありますでの、膠原病の先生に相談(受診)されたほうがいいと思います。

Re: momokomamaさんへ
JIN
> 私は(かかりつけの)膠原病専門の先生に事前にご意見を伺い、病状を確認いたします。その上で放射線治療をするか患者さんと相談します。
> ただ外科の先生が知らずに温存術を施行しあとは放射線をするだけという状態でご紹介されることもあり、その際は困ってしまいます。強皮症ですし、放射線治療をしない選択肢を考える必要がありますでの、膠原病の先生に相談(受診)されたほうがいいと思います。

膠原病と放射線治療(2)もご参考になれば幸いです。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-60.html


momokomama
ありがとうございます。
強皮症と乳がん、全く関係ないので膠原病の先生に相談してご迷惑では…でも治療過程で注意が必要かもと悩んでいました。
おっしゃるとおり、膠原病の先生に相談してみます。幸い大きな病院に所属されている先生なので、同じ病院の乳腺外来を紹介して頂ければと思います。


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2013/12/11(Wed) 23:39 |   |  #[ 編集]
Mさんへ
本日、その(2)をブログにしてみました。ご参考になれば幸いです。
2013/12/14(Sat) 00:59 | URL  | JIN #-[ 編集]
膠原病と放射線治療の記事を読み投稿しました。
2年前、強皮症と診断され、主な症状はレイノーと手足先や指関節の痛み、むくみです。1年半プレドニンを服用し、現在、我慢できる痛みならと、経過観察中です。先日、市の乳がん検診を受けたところ、乳腺X線検査で悪性の疑いとの結果が届きました。検査を受けた病院でも治療は可能なのですが、やはり、膠原病の方の先生に相談する方がよいでしょうか。
2015/04/11(Sat) 12:03 | URL  | momokomama #-[ 編集]
momokomamaさんへ
私は(かかりつけの)膠原病専門の先生に事前にご意見を伺い、病状を確認いたします。その上で放射線治療をするか患者さんと相談します。
ただ外科の先生が知らずに温存術を施行しあとは放射線をするだけという状態でご紹介されることもあり、その際は困ってしまいます。強皮症ですし、放射線治療をしない選択肢を考える必要がありますでの、膠原病の先生に相談(受診)されたほうがいいと思います。
2015/04/11(Sat) 16:48 | URL  | JIN #-[ 編集]
Re: momokomamaさんへ
> 私は(かかりつけの)膠原病専門の先生に事前にご意見を伺い、病状を確認いたします。その上で放射線治療をするか患者さんと相談します。
> ただ外科の先生が知らずに温存術を施行しあとは放射線をするだけという状態でご紹介されることもあり、その際は困ってしまいます。強皮症ですし、放射線治療をしない選択肢を考える必要がありますでの、膠原病の先生に相談(受診)されたほうがいいと思います。

膠原病と放射線治療(2)もご参考になれば幸いです。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-60.html
2015/04/11(Sat) 16:57 | URL  | JIN #-[ 編集]
ありがとうございます。
強皮症と乳がん、全く関係ないので膠原病の先生に相談してご迷惑では…でも治療過程で注意が必要かもと悩んでいました。
おっしゃるとおり、膠原病の先生に相談してみます。幸い大きな病院に所属されている先生なので、同じ病院の乳腺外来を紹介して頂ければと思います。
2015/04/11(Sat) 17:24 | URL  | momokomama #-[ 編集]
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