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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 またですが、去年facebookに書いた文章を、改変して以下に再掲します。昨日、なんとなくそんな気分の業務の日でしたので…
 

 放射線治療はがん病巣は治療範囲から外さずかつ正常臓器の後遺症(副作用)を極力出さない範囲で設定することが原則で、そのため放射線を身体の様々な方向から病巣を狙って照射をします。また、毎日の放射線治療が進むにつれて腫瘍の大きさなどが変化することが多く、正常組織の副作用を分散させるためにも、途中で1~2回程度の放射線治療内容設定し直しをすることが少なくありません。

 例えば胸部への放射線治療を行う場合ですが、特に治療後半年以内に起きる可能性がある放射線肺臓炎が晩期有害事象(後遺症)として問題となります。
 放射線肺臓炎を発症しやすいかどうかというのは個人差があり、またいろいろな原因があるとも推測されていますが、現時点で明らかに統計学的な差がありそうだと示されているのが、
(1) 元々間質性肺炎を持病とされている方かどうか、
(2)ある一定量以上の放射線があたる正常の肺の体積割合がどのくらいか、
のようです。

 前者はアレルギー的な要素も強く、放射線量の大小にかかわらず放射線治療自体を避けた方が無難とされますが、後者は治療範囲や総線量の設定によって変わります。具体的には総治療期間中に20グレイ(=X線なので20シーベルト)という量が肺全体の体積の何%に照射されるかが一つの指標となっています。
 同業者間では肺のV20などと表現しています。


 以前、某大学病院を訪問した時のことでした。

 ある若い女医さんが、食道癌の患者さんに対する胸部への再照射計画(治療の変更)作業をしていました。遠目からなんとなく眺めていたら、肺の後遺症が出そうないささか広めの照射範囲を設定していたように見えたので、計画作業の途中でしたが「合計の肺のV20はどうなりました?」とつい厚かましい質問をしてしまいました。
照射範囲を広く設定すればするほど正常肺の被曝線量域も広くなり、肺炎などの後遺症が出やすくなる恐れがあるからです。

 で、その若い先生(女医さん)のお返事は「まだ計算してません!」
たぶんですが、怒られちゃいました…。たぶんですが、そんな口調でした…。
 その先生の放射線治療計画で一番気になったのは、現在計画中の肺のV20ではなく治療計画の全体像をシミュレーションしたうえでのおよそのV20はどうだったのかな?ということでした。それを意識していなさそうだったので…。

 その時は、私も別のお仕事ですぐ席を外したためきちんと確認できなかったのですが、信頼できる主治医に後で二重チェックがなされていたようでした。
 他施設の具体的な個々の放射線治療計画について、他者がどうこういえる環境・風土(つまり「他施設の専門家」がチェックする仕組み)が整っていないのが日本の課題の一つだと思うのですが、それはまた別の機会にでも。


 添付写真はイメージ画像です。
 2つの異なるCT画像を正確に重ね合わせることがなかなか困難な現状では、その患者さんの放射線治療計画の全体像を確認、つまり悪い事態を含めて最終ゴールを予測するには、初回の治療計画で全体の計画をざっくりとで良いのでシミュレーションしてみるのが、ひとつの対応策になると思います。

 治療内容の途中変更時の計画CTでも検討可能ですが、たぶん腫瘍が縮小するし正常組織への悪い影響を予測するうえで、あとうまくいかなかった時に後戻りできないので、あまり適さないと思います。「初回の計画に追加プランをさらに作るなんて手間かかるし、どうせ使わないプランだし、たぶん縮小するのに意味あるの?」との反論が出そうですが、私の中では現状これが一番良い方法だと思っています。

 他職種の方々からみたら当たり前のような、でも意外にやってなかったりしそうな放射線治療計画の全体像に対する一つの考え方についての私見でした。


 でも、もっといい技があったら教えてください。



 まだ続きがあるのですが、(2)へ…


治療計画


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【2013/09/11 00:56】 | 放射線治療計画
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