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放射線治療にたずさわっている赤ワインが好きな町医者です。緩和医療や在宅医療、統合医療にも関心があります。仕事上の、医療関係の、趣味や運動の、その他もろもろの随想を不定期に更新する予定です。
 昭和の時代は(いや、平成になってからも)、今のようながん告知は一般的でなく、またきちんとした緩和ケア病棟や在宅緩和診療体制も整備されていませんでした。なので、当時は放射線治療病棟が今の緩和ケア病棟に近い役割も果たしていたそうです。「放射線治療科病棟でお亡くなりになられた患者さんが大学病院内の霊安室に4名続けて運ばれ、ベッドを連ねたこともあった」と、ある先輩放射線腫瘍医から伺ったこともあります。
 そこまでではないですが、私が放射線腫瘍医になりたてで(20年くらい前)某病院に下っ端勤務をした時は、30床以上ある放射線治療科病棟の半数くらいが進行・末期がん患者さんで、私一人で毎月何枚も死亡診断書を記載したこともありました。

 また、私が某大学の放射線科に入局した頃の放射線治療計画(=医者が行う準備)と言えば、一枚の位置決めX線写真を撮影し、出てきたフィルム上に色鉛筆でささっと照射範囲の印をつける程度で、早ければ1患者数分で完了したものでした。中には正方形や長方形に曲げられた針金を患者さんの皮膚の上にポンと置き、「このあたりでよろしく!」と印をつけて終了、という計画をしていたひどい(?)施設もありました。
 治療に用いる放射線の量も、手計算(≒電卓程度)で済んでしまうようなものでした。前述の放射線治療準備が終わったらそのまま治療装置に移動して放射線治療を開始、なんてことも日常茶飯事。

 今から思えば、全てが簡易で大雑把。コンピュータなど必要ない(というか存在しない)マクロでアナログの世界。文系要素の色濃かった放射線治療科の時代でした…古き良き時代?


 ところが今は、慢性の全国的な放射線腫瘍医の人手不足と業務過多などで、病棟患者を持た(→て?)ずに外来診療に限定している放射線腫瘍医が少なくありません。時代の流れで多くの施設で高額放射線治療機器の整備(だけ)は着々と進み、たった一人あるいは非常勤医師だけで診療せざるを得ない施設もかなりあります。

 IMRTに代表される高精度放射線治療の総業務量は昔とは雲泥の差となり、何台も並んだコンピュータの前で医者が黙々と作業する時間は劇的に増えました。
 まず治療の準備として撮影した数十枚以上のCTやMRI、時にはPET画像をモニターで綿密にチェックし、がんやそれに関係する標的、守るべき多くの正常臓器を治療計画コンピュータソフト上で丁寧に描く必要があります。さらに放射線治療の量(線量分布)も複雑な計算をコンピュータで行った後に、専門の人間の目で入念な二重の確認をする必要があります。その後には放射線技師さんらが(業務時間外まで)時間をかけて、正しく放射線があたっているかの実測検証作業もあります。
 これら一連の業務は、全部で早くても数時間、IMRTといった大がかりなものだと数日以上の準備期間を要します。このようにして1日何人もの患者さんの準備を日々行っています。他科の先生方と同様に、何十人もの新患・外来診察をしたり、各種症例検討会に参加したり、などももちろんあります。

 昔とは正反対、コンピュータまみれ、ミクロでデジタルの世界です。たまに、自分の仕事はコンピュータ屋なのか?と錯覚しそうな時もあります。


 他科のお医者さんたちや一般の方々からみたら賛否様々なご意見があろうかと思いますが、そんな状況なので、全がん患者さんのおよそ30%にも関与している数少ない放射線腫瘍医が「全ての方々」を主治医として入院管理することはほぼ不可能だと思います。
 ちなみに今、私の所では放射線治療装置がない他院からのご紹介や緩和照射について一部患者さんの入院管理を主に担当させていただいております。もちろん、放射線治療科としてどの疾患のどんな患者さんを自分の病棟で診るか、いやそもそも診られるか、といった方針は施設ごとで大きく異なってきます。


 私が経験してきたここ20年余りを振り返ってみても、放射線治療の職場環境は大きく様変わりしました。

 理系(とオタク系)の世界にどっぷりはまってしまいがちな昨今の放射線治療科ではありますが、文系(と芸術系)もつつがなくできるよう臨床医として成長・勉強を続けて切磋琢磨せねば!と、いまだ自らに言い聞かせています。


 たまには湯船につかってリラックスもしつつ…

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【2014/02/04 00:32】 | 放射線治療:よもやま話
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