がんの骨転移に対する緩和照射は、全体の約7割の方に痛みを和らげる効果がみられ、また約3割の方の痛みを無くすことができると報告されています(多くの臨床試験がでていますが、ここでは引用省略)。
また、病的骨折を防ぐ効果や、神経などががんで圧迫された部分のしびれやマヒを楽にする効果などにも有効なことがあります。
そしてなにより痛み止めの薬と違うのは、照射である程度『腫瘍そのものを抑え込む』点、そして主治医側から見たらがんが完治せず根本的ではない局所治療(≒意味がない)と判断されていてもがん患者さんにとっては『治している実感が得られる』点です。
いろいろな不安や落ち込みを抱えておられるがん患者さんにとって、生存率などの臨床試験成績というお医者さんたちが大好きな科学的根拠や確率統計学よりもずっと大切な部分だと思います。
でもその一方で、今苦しまれている骨転移のつらい痛みを「いずれ」やわらげる(照射の除痛効果は通常数週してから現れます)ための毎回の照射そのものが、無理に身体を動かしたり別の体位にしたりという不自然で意図的な「がんの突出痛(Breakthrogh cancer pain: BTcP)」を誘発することでかえって苦痛を増やしてしまうという残念な矛盾を生じてしまうことがあります。
ちなみに、BTcPとは、麻薬定時投与によって持続する痛みが適切にコントロールされている患者さんに発生する一過性の痛みの増強のことだそうです(Caraceni A, et al. Lancet Oncol 2012)。
一般的な日々の放射線治療では、照射の正確性や安定性を保つため、まず患者さんが平らな寝台の上に仰向けまたはうつ伏せで横になり、身体の皮膚などにつけた印と装置の位置を合わせてから、実際の照射となります。
普段は痛みで動くのがしんどいため自分にとって楽な格好で横になっている患者さんを放射線治療の準備室に連れて行き狭い幅のCTやX線透視の寝台に移動(BTcP最初の関門)、しばらくじっとしながら位置決め撮影後は再びベッドなどに身体を移動し(次の関門)、準備ができて除痛緩和照射をする際にもやっぱりまた治療装置の寝台に移動して数分間以上も安静を保った上に終わったらまたベッドなどに移動して、病室へ戻ります(最終関門は合計照射回数により、1回から10回以上のことも)。
もちろん可能な限り楽な体位設定にしたり、即効性麻薬鎮痛剤(レスキュードース)を予防的に事前投与したりと、たいていの医療者もいろいろ考慮するわけですが、痛み止め薬剤の指示も主治医によってまちまちであったりして日々の一連の照射の開始から終了までの間のBTcPがうまくコントロールつかなかったりすることも時にあり…
また、放射線装置の寝台の幅が狭かったり、狭い口径のCTでしか治療計画準備ができなかったりする場合などでは、半坐位(ギャッジベッド等で上半身を30~45度程起こした姿勢)はもちろん側臥位設定すら困難をきたしBTcPを誘発する無理な仰臥位にせざるを得ないケースもあります。
呼吸困難で半坐位や起坐位(ギャッジベッド等で上半身を90度程起こした姿勢)でないとつらい肺がんの患者さんに対する放射線治療の時なども同様の問題を抱えていて、現実問題として対応に苦慮している施設は少なからずあると思います。
最近になって大口径の治療計画CTが普及し始め(多少の)半坐位での撮影も何とか可能になってきましたが、まだ起坐位は無理です。
X線シミュレータという昔ながらのX線透視を用いた簡易放射線治療準備装置を使えば、半坐位や起坐位、場合によっては立位での治療準備も可能なのですが、実は最近X線シミュレータは全国的に設置されていない(というか場所がなくてCTシミュレータに置き換わってしまった)施設が少なくありません。
X線シミュレータって呼吸性移動など身体の動きがリアルに確認できるし、使い方によっては凄く便利な装置なのですけどね。うちの病院では最近ようやく大口径CTが導入されましたが、X線シミュレータもまだ活躍しています(ちなみに呼吸性移動の確認用が主です)。
本当は、坐位でも立位でもいいから照射そのものの苦痛ができるだけなくなるよう、余計な身体の移動や不必要なBTcPができるだけなく済む工夫ができれば一番良いんだけどなぁ…
(続きます)
また、病的骨折を防ぐ効果や、神経などががんで圧迫された部分のしびれやマヒを楽にする効果などにも有効なことがあります。
そしてなにより痛み止めの薬と違うのは、照射である程度『腫瘍そのものを抑え込む』点、そして主治医側から見たらがんが完治せず根本的ではない局所治療(≒意味がない)と判断されていてもがん患者さんにとっては『治している実感が得られる』点です。
いろいろな不安や落ち込みを抱えておられるがん患者さんにとって、生存率などの臨床試験成績というお医者さんたちが大好きな科学的根拠や確率統計学よりもずっと大切な部分だと思います。
でもその一方で、今苦しまれている骨転移のつらい痛みを「いずれ」やわらげる(照射の除痛効果は通常数週してから現れます)ための毎回の照射そのものが、無理に身体を動かしたり別の体位にしたりという不自然で意図的な「がんの突出痛(Breakthrogh cancer pain: BTcP)」を誘発することでかえって苦痛を増やしてしまうという残念な矛盾を生じてしまうことがあります。
ちなみに、BTcPとは、麻薬定時投与によって持続する痛みが適切にコントロールされている患者さんに発生する一過性の痛みの増強のことだそうです(Caraceni A, et al. Lancet Oncol 2012)。
一般的な日々の放射線治療では、照射の正確性や安定性を保つため、まず患者さんが平らな寝台の上に仰向けまたはうつ伏せで横になり、身体の皮膚などにつけた印と装置の位置を合わせてから、実際の照射となります。
普段は痛みで動くのがしんどいため自分にとって楽な格好で横になっている患者さんを放射線治療の準備室に連れて行き狭い幅のCTやX線透視の寝台に移動(BTcP最初の関門)、しばらくじっとしながら位置決め撮影後は再びベッドなどに身体を移動し(次の関門)、準備ができて除痛緩和照射をする際にもやっぱりまた治療装置の寝台に移動して数分間以上も安静を保った上に終わったらまたベッドなどに移動して、病室へ戻ります(最終関門は合計照射回数により、1回から10回以上のことも)。
もちろん可能な限り楽な体位設定にしたり、即効性麻薬鎮痛剤(レスキュードース)を予防的に事前投与したりと、たいていの医療者もいろいろ考慮するわけですが、痛み止め薬剤の指示も主治医によってまちまちであったりして日々の一連の照射の開始から終了までの間のBTcPがうまくコントロールつかなかったりすることも時にあり…
また、放射線装置の寝台の幅が狭かったり、狭い口径のCTでしか治療計画準備ができなかったりする場合などでは、半坐位(ギャッジベッド等で上半身を30~45度程起こした姿勢)はもちろん側臥位設定すら困難をきたしBTcPを誘発する無理な仰臥位にせざるを得ないケースもあります。
呼吸困難で半坐位や起坐位(ギャッジベッド等で上半身を90度程起こした姿勢)でないとつらい肺がんの患者さんに対する放射線治療の時なども同様の問題を抱えていて、現実問題として対応に苦慮している施設は少なからずあると思います。
最近になって大口径の治療計画CTが普及し始め(多少の)半坐位での撮影も何とか可能になってきましたが、まだ起坐位は無理です。
X線シミュレータという昔ながらのX線透視を用いた簡易放射線治療準備装置を使えば、半坐位や起坐位、場合によっては立位での治療準備も可能なのですが、実は最近X線シミュレータは全国的に設置されていない(というか場所がなくてCTシミュレータに置き換わってしまった)施設が少なくありません。
X線シミュレータって呼吸性移動など身体の動きがリアルに確認できるし、使い方によっては凄く便利な装置なのですけどね。うちの病院では最近ようやく大口径CTが導入されましたが、X線シミュレータもまだ活躍しています(ちなみに呼吸性移動の確認用が主です)。
本当は、坐位でも立位でもいいから照射そのものの苦痛ができるだけなくなるよう、余計な身体の移動や不必要なBTcPができるだけなく済む工夫ができれば一番良いんだけどなぁ…
(続きます)
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