20世紀末くらいまで、放射線治療装置は初期導入費用が億単位と高額にもかかわらず、放射線治療の診療単価自体はあまり恵まれず、また医療者と患者さん双方の放射線治療に対する理解度不足もあって放射線治療患者数が少なかったため、正直いって放射線治療部門は病院のお荷物的存在だったと思います。
しかし、最近の10年で放射線治療の診療単価は上昇し(これは健保委員の先生方のご尽力の賜物です)、身体に優しいがん治療という世間の認知度上昇に伴う放射線治療患者数の増加があり(それでもまだ先進諸外国と比べると少ないのですが…)、また2010年4月以降は地域がん診療拠点病院の指定を受けるために放射線治療が実施できることが必須になったことも重なって、最近ではようやく名実ともに病院の売りになりつつある分野に変貌してきました。
そんな時代を反映してか、先月および今月号の「新医療」という雑誌に「放射線治療は病院の“看板”になるか」という興味深い特集があり、病院経営者や放射線治療専門医の方々がそれぞれの視点でご投稿されていました。
総じて、経営者の目線では「がん患者さんは増加の一途だからこれからの放射線治療は儲かりそう」というご意見、一方で放射線治療(すなわち現場)の先生方の目線は「ちょっと、少し待って」といった慎重論的なご意見と、若干温度差があったような印象を受けました。
特に個人的に関心を引いたのが、聖隷三方ヶ原病院放射線治療科部長の山田和成先生のご投稿記事でした。要旨は以下の通り、『放射線治療棟建設に当たっては、将来の拡張性、アメニティを考慮しなければならない。最新医療機器の更新は必須であるが、真の施設の「看板」に育てるためには放射線治療に関わる専門スタッフ養成・教育システムの構築が最も重要である』。
特に要旨後半の記載は極めて重要だと私も思いますし、安易にシステム導入してしまいがちな経営者の方々には是非ご理解いただきたい部分でしょうか。
昨今のX線治療装置は単体で2-5億程度、システムとして導入すると(ピンキリですが)その約1.5倍〜2倍。箱モノ(施設)も含めると10億以上かかることはざらです。また箱は巨大コンクリート&分厚い金属板の塊なので一度出来上がると簡単にリフォームできません。
それでも(5年以上経過した「どんな人でもいいから」放射線治療専門医一人いればサイコーな)放射線治療担当常勤医がいて1日25名程度の患者さんを照射していれば、普通の施設で十分採算が取れるようになりましたし、がん拠点病院の指定をはじめとする病院の生き残り面でも鍵となる診療部門になってきました。
一方、粒子線治療装置(陽子線、炭素イオン線など)は初期導入費用として数10億〜100億以上かかるといわれます。兵庫県立粒子線医療センターの不破院長先生によると「陽子線は年間450人以上、炭素線に至っては800人以上の患者数が必要」との試算だそうです。
X線治療は原則保険診療なので、患者負担は1〜3割であり実費30万以上かかることはまずありません(放射線治療「だけ」の場合です)が、粒子線治療はいまだ先進医療(公的に認められた保険「外」診療)なので臨床試験でもない限り全額実費、250〜300万円以上の自己負担になってしまいます。一施設あたりの年間X線治療患者数ですら平均300人強なので(2009年JASTRO構造調査より)、全額自費を支払う患者さんをその倍以上「集める」こと自体かなりの労力を要しますし、集客の仕組みをうまく構築しないと相当大変です。
民間施設ですと「売上」が経営をモロに直撃しますので集客により一層力を入れるでしょう。しかし公的病院ではぶっちゃけ儲かろうが暇だろうが個人の給与には大きく変化がないため、医療スタッフの放射線治療に対するマンパワーとモチベーションが患者数に大きく関与してきます。
前述の山田和成先生は、『病院の「看板」にしようと高額な最新鋭の治療機器を無理に導入しても5年ほどですぐに旧式化することが避けられない。(中略)専門スタッフの要請もないまま高額な放射線治療機器を導入し、十分に稼働していない施設は枚挙に暇がない。』と本文内で表現されています。行政のおかげでせっかく優れた放射線治療装置が血税から大枚はたいて導入されても、それを動かすスタッフが(やる気を含めて)きちんと整備されていなければ「宝の持ち腐れ」になってしまいます。
これについては私の体験談も交えて(天から怒られなければ)また改めて触れようかなと考えてますが、あまりにもったいないと思いませんか?
でもね、持ち腐れてる施設ってまれではないんですよ。私が見聞きしただけでも…きっと全国的にはもっと…?
**************************
付記
いろいろな内容を混ぜすぎて、話のまとまりがない投稿になってしまいました。申し訳ありません。改めて自分なりに整理して、それぞれについて思いついたことをまた別の機会にブログで独り言したいと思ってます。
しかし、最近の10年で放射線治療の診療単価は上昇し(これは健保委員の先生方のご尽力の賜物です)、身体に優しいがん治療という世間の認知度上昇に伴う放射線治療患者数の増加があり(それでもまだ先進諸外国と比べると少ないのですが…)、また2010年4月以降は地域がん診療拠点病院の指定を受けるために放射線治療が実施できることが必須になったことも重なって、最近ではようやく名実ともに病院の売りになりつつある分野に変貌してきました。
そんな時代を反映してか、先月および今月号の「新医療」という雑誌に「放射線治療は病院の“看板”になるか」という興味深い特集があり、病院経営者や放射線治療専門医の方々がそれぞれの視点でご投稿されていました。
総じて、経営者の目線では「がん患者さんは増加の一途だからこれからの放射線治療は儲かりそう」というご意見、一方で放射線治療(すなわち現場)の先生方の目線は「ちょっと、少し待って」といった慎重論的なご意見と、若干温度差があったような印象を受けました。
特に個人的に関心を引いたのが、聖隷三方ヶ原病院放射線治療科部長の山田和成先生のご投稿記事でした。要旨は以下の通り、『放射線治療棟建設に当たっては、将来の拡張性、アメニティを考慮しなければならない。最新医療機器の更新は必須であるが、真の施設の「看板」に育てるためには放射線治療に関わる専門スタッフ養成・教育システムの構築が最も重要である』。
特に要旨後半の記載は極めて重要だと私も思いますし、安易にシステム導入してしまいがちな経営者の方々には是非ご理解いただきたい部分でしょうか。
昨今のX線治療装置は単体で2-5億程度、システムとして導入すると(ピンキリですが)その約1.5倍〜2倍。箱モノ(施設)も含めると10億以上かかることはざらです。また箱は巨大コンクリート&分厚い金属板の塊なので一度出来上がると簡単にリフォームできません。
それでも(5年以上経過した「どんな人でもいいから」放射線治療専門医一人いればサイコーな)放射線治療担当常勤医がいて1日25名程度の患者さんを照射していれば、普通の施設で十分採算が取れるようになりましたし、がん拠点病院の指定をはじめとする病院の生き残り面でも鍵となる診療部門になってきました。
一方、粒子線治療装置(陽子線、炭素イオン線など)は初期導入費用として数10億〜100億以上かかるといわれます。兵庫県立粒子線医療センターの不破院長先生によると「陽子線は年間450人以上、炭素線に至っては800人以上の患者数が必要」との試算だそうです。
X線治療は原則保険診療なので、患者負担は1〜3割であり実費30万以上かかることはまずありません(放射線治療「だけ」の場合です)が、粒子線治療はいまだ先進医療(公的に認められた保険「外」診療)なので臨床試験でもない限り全額実費、250〜300万円以上の自己負担になってしまいます。一施設あたりの年間X線治療患者数ですら平均300人強なので(2009年JASTRO構造調査より)、全額自費を支払う患者さんをその倍以上「集める」こと自体かなりの労力を要しますし、集客の仕組みをうまく構築しないと相当大変です。
民間施設ですと「売上」が経営をモロに直撃しますので集客により一層力を入れるでしょう。しかし公的病院ではぶっちゃけ儲かろうが暇だろうが個人の給与には大きく変化がないため、医療スタッフの放射線治療に対するマンパワーとモチベーションが患者数に大きく関与してきます。
前述の山田和成先生は、『病院の「看板」にしようと高額な最新鋭の治療機器を無理に導入しても5年ほどですぐに旧式化することが避けられない。(中略)専門スタッフの要請もないまま高額な放射線治療機器を導入し、十分に稼働していない施設は枚挙に暇がない。』と本文内で表現されています。行政のおかげでせっかく優れた放射線治療装置が血税から大枚はたいて導入されても、それを動かすスタッフが(やる気を含めて)きちんと整備されていなければ「宝の持ち腐れ」になってしまいます。
これについては私の体験談も交えて(天から怒られなければ)また改めて触れようかなと考えてますが、あまりにもったいないと思いませんか?
でもね、持ち腐れてる施設ってまれではないんですよ。私が見聞きしただけでも…きっと全国的にはもっと…?
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付記
いろいろな内容を混ぜすぎて、話のまとまりがない投稿になってしまいました。申し訳ありません。改めて自分なりに整理して、それぞれについて思いついたことをまた別の機会にブログで独り言したいと思ってます。
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ありがとうございます
山田 和成 駄文を読んでいただき、汗顔のいたりです。
宝の持ち腐れにならないように、また高額機器の減価償却が無事できるように日々追われております。
JIN 山田先生、こちらこそ駄文ブログにご訪問いただき、恐縮です。無断引用、申し訳ございませんでした。
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宝の持ち腐れにならないように、また高額機器の減価償却が無事できるように日々追われております。
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