前回、「半世紀だし半生記の反省期」などというオヤジ文章を書いた手前、これまで投稿した自分のブログをなんとなく見直してみました。
だんだん以前に自分が何を書いたか忘れつつある時期に突入しており…
およそ1年前に、セツキシマブ(以下、セツ)という薬と放射線治療について、自分なりの疑問点をいくつか挙げた投稿をしたことがあります。
その後、うちの病院でも何人かの患者さんに放射線治療との組み合わせでセツを投与しました。正確には、頭頸部がんを積極的に治療している同じ職場の先生がたが主治医として処方され、私は併診です。
今回は、この1年間に自分が診察させていただいた患者さんたちを振り返り、またごく最近の報告にも少し目を通したうえで、(いつものことですがあくまで個人的な)今の印象を「その2」として書いてみることにしました。まあ、他の理由もありますが。
局所進行頭頸部がんの治療は、手術以外に、シスプラチン(以下、シス)という抗がん剤と放射線治療の同時併用が世界標準の治療法と評価されています。しかし実際の所、比較的若くて腎臓など身体も元気な患者さんでないと治療は難しいですし、そういう方々であっても治療中のいろいろな副作用が結構強く出現してかなりへばることが少なくありません。多くの患者さんが咽頭粘膜炎によるのどの痛みなどで水もなかなか飲めなくなるから、一時的胃瘻など別の形でしっかりとした栄養管理をせざるを得なくなります(もちろん医療用麻薬を含めた痛み止めもしっかり使います)。
手術と違って放射線治療は「切らずに治す」「身体にやさしい治療」と一般に言われるものの、あくまで「手術に比べれば」という但し書きがつくだけであって、頭頸部がん患者さんにとっては抗がん剤と放射線治療の同時併用もかなりしんどい影響が治療中に、そして治療が終わった後にもいろいろと生じえます。
一方で、およそ1年半前に保険収載となり、日本でも日常診療で使用可能となった頭頸部がんに対するセツと放射線治療は、「抗がん剤と放射線治療の同時併用のようなひどい副作用はなくて大丈夫ですよ!」といった触れ込みや噂が(少なくとも私の所には)入ってきたように思い出されます。
国内承認に至ったのは、日本の有名所数施設が局所進行頭頸部がんに対するセツと照射の同時併用臨床試験で安全性を確認したのを踏まえてのことらしいです。で、その結果を示した医学論文が去年の3月、つまり私がブログを書いた翌月に医学雑誌に掲載されていました。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23479383
セツと放射線治療は同時が良いって示した有名なBonner先生たちの臨床試験の報告(NEJM2006、Lancet2010)と同じようなメニューで「日本人に対する安全性と有効性」を確かめた臨床試験の報告です。
論文の結論は「日本人でも安全に実施できました(私の和訳)」でした。
でも、その内容をよくみると治療中の副作用も全然無視できず、かなり強いとされるGrade3-4の皮膚炎(触ると出血しやすいくらいのただれ以上)が27%、粘膜炎(食べられないくらい辛くて高カロリー点滴などが必要になるレベル以上)に至ってはなんと73%もでていたそうです。ちなみにこの臨床試験を行ったのは、強い副作用が出ても全身管理をしっかり行える(はずの)全国有数の施設ばかりです。
そんな施設なら、仮に強い副作用が出ても無事回復して「安全に治療できる」と思います。でも、普通の(?)病院でそういう強めの副作用が3人に2人以上も出るというのは、耳鼻科にしても放射線治療科にしても診療体制が必ずしも充分とはいえないでしょうから、正直大変かな?って気もします。
また、この臨床試験ではBonner試験でも何割かの患者さんに用いられた「照射は首全体に1.8Gy/日を週5日全6週間+6週の後半2週間余はがんにしぼって1.5Gy/日を1回追加して計1日2回朝夕」という後半1日2回(朝夕)照射法(Concomitant Boost、加速過分割照射)を採用しています。ここでの1日2回法というのは総治療期間を短くして予定線量を照射するため、実は放射線治療だけの場合でも治療中の皮膚炎や粘膜炎は普通の1日1回法(1.8~2Gy/日の通常分割照射)より強くなります。頭頸部がん領域では、抗がん剤との同時併用は副作用が強すぎるため慎重に、とも言われています(放射線治療単独ならお勧め)。
ちなみに去年開催された日本放射線腫瘍学会学術大会のシンポジウムの質疑応答で、この件に関するフロアからの質問に対し日本の頭頸部がんの主導的立場でいらっしゃる先生が「(臨床試験は1日2回法ですが)患者さんの身体の負担を考慮すると1日1回法で治療したほうがいいかもしれません」とご回答されていました。
ということで、うちの病院ではセツと放射線治療の同時併用は1日1回照射法を採用しているのですが、それでも(当初の個人的予想以上に)副作用が強く現れる患者さんがいらっしゃいます。
長くなってきたので、次回へ…
だんだん以前に自分が何を書いたか忘れつつある時期に突入しており…
およそ1年前に、セツキシマブ(以下、セツ)という薬と放射線治療について、自分なりの疑問点をいくつか挙げた投稿をしたことがあります。
その後、うちの病院でも何人かの患者さんに放射線治療との組み合わせでセツを投与しました。正確には、頭頸部がんを積極的に治療している同じ職場の先生がたが主治医として処方され、私は併診です。
今回は、この1年間に自分が診察させていただいた患者さんたちを振り返り、またごく最近の報告にも少し目を通したうえで、(いつものことですがあくまで個人的な)今の印象を「その2」として書いてみることにしました。まあ、他の理由もありますが。
局所進行頭頸部がんの治療は、手術以外に、シスプラチン(以下、シス)という抗がん剤と放射線治療の同時併用が世界標準の治療法と評価されています。しかし実際の所、比較的若くて腎臓など身体も元気な患者さんでないと治療は難しいですし、そういう方々であっても治療中のいろいろな副作用が結構強く出現してかなりへばることが少なくありません。多くの患者さんが咽頭粘膜炎によるのどの痛みなどで水もなかなか飲めなくなるから、一時的胃瘻など別の形でしっかりとした栄養管理をせざるを得なくなります(もちろん医療用麻薬を含めた痛み止めもしっかり使います)。
手術と違って放射線治療は「切らずに治す」「身体にやさしい治療」と一般に言われるものの、あくまで「手術に比べれば」という但し書きがつくだけであって、頭頸部がん患者さんにとっては抗がん剤と放射線治療の同時併用もかなりしんどい影響が治療中に、そして治療が終わった後にもいろいろと生じえます。
一方で、およそ1年半前に保険収載となり、日本でも日常診療で使用可能となった頭頸部がんに対するセツと放射線治療は、「抗がん剤と放射線治療の同時併用のようなひどい副作用はなくて大丈夫ですよ!」といった触れ込みや噂が(少なくとも私の所には)入ってきたように思い出されます。
国内承認に至ったのは、日本の有名所数施設が局所進行頭頸部がんに対するセツと照射の同時併用臨床試験で安全性を確認したのを踏まえてのことらしいです。で、その結果を示した医学論文が去年の3月、つまり私がブログを書いた翌月に医学雑誌に掲載されていました。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23479383
セツと放射線治療は同時が良いって示した有名なBonner先生たちの臨床試験の報告(NEJM2006、Lancet2010)と同じようなメニューで「日本人に対する安全性と有効性」を確かめた臨床試験の報告です。
論文の結論は「日本人でも安全に実施できました(私の和訳)」でした。
でも、その内容をよくみると治療中の副作用も全然無視できず、かなり強いとされるGrade3-4の皮膚炎(触ると出血しやすいくらいのただれ以上)が27%、粘膜炎(食べられないくらい辛くて高カロリー点滴などが必要になるレベル以上)に至ってはなんと73%もでていたそうです。ちなみにこの臨床試験を行ったのは、強い副作用が出ても全身管理をしっかり行える(はずの)全国有数の施設ばかりです。
そんな施設なら、仮に強い副作用が出ても無事回復して「安全に治療できる」と思います。でも、普通の(?)病院でそういう強めの副作用が3人に2人以上も出るというのは、耳鼻科にしても放射線治療科にしても診療体制が必ずしも充分とはいえないでしょうから、正直大変かな?って気もします。
また、この臨床試験ではBonner試験でも何割かの患者さんに用いられた「照射は首全体に1.8Gy/日を週5日全6週間+6週の後半2週間余はがんにしぼって1.5Gy/日を1回追加して計1日2回朝夕」という後半1日2回(朝夕)照射法(Concomitant Boost、加速過分割照射)を採用しています。ここでの1日2回法というのは総治療期間を短くして予定線量を照射するため、実は放射線治療だけの場合でも治療中の皮膚炎や粘膜炎は普通の1日1回法(1.8~2Gy/日の通常分割照射)より強くなります。頭頸部がん領域では、抗がん剤との同時併用は副作用が強すぎるため慎重に、とも言われています(放射線治療単独ならお勧め)。
ちなみに去年開催された日本放射線腫瘍学会学術大会のシンポジウムの質疑応答で、この件に関するフロアからの質問に対し日本の頭頸部がんの主導的立場でいらっしゃる先生が「(臨床試験は1日2回法ですが)患者さんの身体の負担を考慮すると1日1回法で治療したほうがいいかもしれません」とご回答されていました。
ということで、うちの病院ではセツと放射線治療の同時併用は1日1回照射法を採用しているのですが、それでも(当初の個人的予想以上に)副作用が強く現れる患者さんがいらっしゃいます。
長くなってきたので、次回へ…
- 関連記事
-
- G-CSFと放射線治療って本当に相性悪いの?(その2) (2015/01/11)
- G-CSFと放射線治療って本当に相性悪いの?(その1) (2015/01/08)
- 「筋層浸潤性膀胱がんの化学放射線治療」総説執筆依頼(その2) (2014/09/11)
- 「筋層浸潤性膀胱がんの化学放射線治療」総説執筆依頼(その1) (2014/09/04)
- セツキシマブ(商品名:アービタックス)と放射線治療(4):第38回日本頭頸部癌学会印象記 (2014/07/09)
- セツキシマブ(商品名:アービタックス)と放射線治療(3) (2014/05/07)
- セツキシマブ(商品名:アービタックス)と放射線治療(2) (2014/05/02)
- アカシジアと放射線宿酔(2) (2014/03/09)
- アカシジアと放射線宿酔(1) (2014/03/08)
- 抗がん剤と放射線治療の併用で気をつけたほうがいいと思ってること(2) (2013/03/12)
- 抗がん剤と放射線治療の併用で気をつけたほうがいいと思ってること(1) (2013/03/11)
- セツキシマブと放射線治療 (2013/02/03)
スポンサーサイト
| ホーム |