ここ1年で実際にセツキシマブと放射線治療(以下、セツ照射)を同時併用した頭頸部がん患者さんを数名診察させていただきましたが、副作用対策はなかなか大変だと感じます。
セツの副作用や標準的な対策については、アービタックス適正使用ガイド第1版‐頭頸部癌‐に詳しく記され、前回ブログで紹介した国内外の臨床試験論文についても概要が解説されています。
http://file.bmshealthcare.jp/bmshealthcare/pdf/guide/EB-HN-guide-1212.pdf
セツの副作用としては、注射している時に起きる可能性がある infusion reaction(いわゆるアレルギー発作)や「にきび」様皮疹の頻度が多く、また特徴的です(適正使用ガイドにも最初に紹介)。
アレルギー発作が起きる頻度はステロイドなどの予防薬をいっしょに使えば少なくなりますが、それでも入院が必要になりそうな重症発作(CTCAE ver4でGrade3以上)は1%程度でステロイドを使わないと1~5%もあるのだそうです。放射線科領域ですと造影CT検査などで使用するヨード造影剤のアレルギー発作がよく知られていますが、最近の非イオン性ヨード造影剤は特に予防薬を使わなくても重症副作用がおきる割合は全体の0.1%以下、昔よく使用され副作用が出やすかったイオン性造影剤ですら1%以下でした。それよりセツのほうが多そうなので、要注意です。
「にきび」様皮疹は薬が効きそうな人に出やすいそうです。そして皮疹が悪化しないようにするためには治療開始時からの日々のこまめな皮膚ケアが推奨され、ステロイド外用剤などが有効だそうです。
しかし、これまでたいしたお肌のお手入れなどしたことがない男性患者さんなどからすれば、セツ投与期間中に皮膚ケアを何か月(何年?)も続けるというのは、いやそもそもこれまで経験ない全身皮疹と毎日お付き合いしなければならないというのは、自分のためとはいえ、また効果がありそうな証拠とはいえ、心身ともに相当な負担だと思います。
そういえば横浜の某医院でアトピー性皮膚炎用の「漢方クリーム」と虚偽広告したステロイド入り軟膏による集団被害が報道されていましたね。軟膏とはいえステロイド長期連用、要注意です。
セツ照射同時併用は、照射範囲の(特に「にきび」様皮疹部の)皮膚炎や口腔粘膜炎も患者さんによってはシス同時併用並みに強い症状が出現します。食べられないくらいの粘膜炎で胃ろうや高カロリー点滴の補助が必要になるケースは、前回紹介した日本人の臨床試験通りで結構いるように思われます。特に高齢者ですとかインスリンが必要な糖尿病や体力低下などがある患者さんに対しては、実感としても同時併用はなかなか負担が大きいように思います。
適正使用ガイドの添付文書に、高齢者への投与については「一般に高齢者では生理機能が低下しているので、患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること」とだけ記載があります。ちなみに前回触れた頭頸部がんセツ照射併用の国内臨床試験の年齢上限は81才(中央値67才)でした。
しかし、予備体力が低下している高齢者は、食が細くなるだけで一気に体調を崩す恐れがあります。高カロリー点滴は心肺機能にも負担をかけますし、むくみやすくなりますし…。高齢者に対するセツ照射同時併用、要注意です。
皮膚炎やアレルギー発作と同レベルの頻度で(0.5~10%とかなり幅はありますが)呼吸困難を呈する間質性肺炎や下痢なども記されていますし、それらより頻度は少ないものの心不全なども記されています。使用上の注意として「慎重投与」項目にも挙げられています。
こういった注意事項はどの抗がん薬剤でもたいてい似たような記載がなされています。しかし、全体としての発症頻度は少なくとも、症状が出てしまった患者さんにとってはすでに確率は関係なく自分の命にもかかわる大問題となります。ほかの副作用が有名なだけに忘れられがちな呼吸困難や心不全兆候の確認、要注意です。
1年前のブログで「ちゃんと体調管理できない病院でセツを使われるのも何となくちょっと心配だよね」と書きましたが、今は「何となくちょっと」を消したい気分です。
適正ガイドにも最初に赤字で、『緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤が適切と判断される症例についてのみ投与して下さい』としっかり書いてありますし。「十分」と「適切」の定義が曖昧な点は気になりますが…
以上、いろいろ書いてしまいました。
ここ大事な点ですが、「セツは進行頭頸部がん治療の有効な選択肢の一つ」であることに異を唱えるつもりではございません。あくまで個人的な実感としてセツ照射併用は当初予想より副作用があるっていう印象をブログにしようと思っただけです。(がん治療に限りませんが)どの治療を選択するかは、治療効果と副作用、がんの病状や進み方、そして患者さんの体調・希望などの兼ね合い(総合評価)で決まりますし。ついでに書くと(なかなか数値化できない)医者の知識や腕もあり…
日本人に対して文章化されたセツ照射の使用報告はまださほど出ていないようなので、セツ照射の初期報告がなされそうな(私も参加予定の)来月の日本頭頸部癌学会、要注意(チェック?)です。
セツ照射患者さんをそんなに診ているわけではない町医者の投稿ですので、問題点などございましたらどうかご教示ください。
セツの副作用や標準的な対策については、アービタックス適正使用ガイド第1版‐頭頸部癌‐に詳しく記され、前回ブログで紹介した国内外の臨床試験論文についても概要が解説されています。
http://file.bmshealthcare.jp/bmshealthcare/pdf/guide/EB-HN-guide-1212.pdf
セツの副作用としては、注射している時に起きる可能性がある infusion reaction(いわゆるアレルギー発作)や「にきび」様皮疹の頻度が多く、また特徴的です(適正使用ガイドにも最初に紹介)。
アレルギー発作が起きる頻度はステロイドなどの予防薬をいっしょに使えば少なくなりますが、それでも入院が必要になりそうな重症発作(CTCAE ver4でGrade3以上)は1%程度でステロイドを使わないと1~5%もあるのだそうです。放射線科領域ですと造影CT検査などで使用するヨード造影剤のアレルギー発作がよく知られていますが、最近の非イオン性ヨード造影剤は特に予防薬を使わなくても重症副作用がおきる割合は全体の0.1%以下、昔よく使用され副作用が出やすかったイオン性造影剤ですら1%以下でした。それよりセツのほうが多そうなので、要注意です。
「にきび」様皮疹は薬が効きそうな人に出やすいそうです。そして皮疹が悪化しないようにするためには治療開始時からの日々のこまめな皮膚ケアが推奨され、ステロイド外用剤などが有効だそうです。
しかし、これまでたいしたお肌のお手入れなどしたことがない男性患者さんなどからすれば、セツ投与期間中に皮膚ケアを何か月(何年?)も続けるというのは、いやそもそもこれまで経験ない全身皮疹と毎日お付き合いしなければならないというのは、自分のためとはいえ、また効果がありそうな証拠とはいえ、心身ともに相当な負担だと思います。
そういえば横浜の某医院でアトピー性皮膚炎用の「漢方クリーム」と虚偽広告したステロイド入り軟膏による集団被害が報道されていましたね。軟膏とはいえステロイド長期連用、要注意です。
セツ照射同時併用は、照射範囲の(特に「にきび」様皮疹部の)皮膚炎や口腔粘膜炎も患者さんによってはシス同時併用並みに強い症状が出現します。食べられないくらいの粘膜炎で胃ろうや高カロリー点滴の補助が必要になるケースは、前回紹介した日本人の臨床試験通りで結構いるように思われます。特に高齢者ですとかインスリンが必要な糖尿病や体力低下などがある患者さんに対しては、実感としても同時併用はなかなか負担が大きいように思います。
適正使用ガイドの添付文書に、高齢者への投与については「一般に高齢者では生理機能が低下しているので、患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること」とだけ記載があります。ちなみに前回触れた頭頸部がんセツ照射併用の国内臨床試験の年齢上限は81才(中央値67才)でした。
しかし、予備体力が低下している高齢者は、食が細くなるだけで一気に体調を崩す恐れがあります。高カロリー点滴は心肺機能にも負担をかけますし、むくみやすくなりますし…。高齢者に対するセツ照射同時併用、要注意です。
皮膚炎やアレルギー発作と同レベルの頻度で(0.5~10%とかなり幅はありますが)呼吸困難を呈する間質性肺炎や下痢なども記されていますし、それらより頻度は少ないものの心不全なども記されています。使用上の注意として「慎重投与」項目にも挙げられています。
こういった注意事項はどの抗がん薬剤でもたいてい似たような記載がなされています。しかし、全体としての発症頻度は少なくとも、症状が出てしまった患者さんにとってはすでに確率は関係なく自分の命にもかかわる大問題となります。ほかの副作用が有名なだけに忘れられがちな呼吸困難や心不全兆候の確認、要注意です。
1年前のブログで「ちゃんと体調管理できない病院でセツを使われるのも何となくちょっと心配だよね」と書きましたが、今は「何となくちょっと」を消したい気分です。
適正ガイドにも最初に赤字で、『緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤が適切と判断される症例についてのみ投与して下さい』としっかり書いてありますし。「十分」と「適切」の定義が曖昧な点は気になりますが…
以上、いろいろ書いてしまいました。
ここ大事な点ですが、「セツは進行頭頸部がん治療の有効な選択肢の一つ」であることに異を唱えるつもりではございません。あくまで個人的な実感としてセツ照射併用は当初予想より副作用があるっていう印象をブログにしようと思っただけです。(がん治療に限りませんが)どの治療を選択するかは、治療効果と副作用、がんの病状や進み方、そして患者さんの体調・希望などの兼ね合い(総合評価)で決まりますし。ついでに書くと(なかなか数値化できない)医者の知識や腕もあり…
日本人に対して文章化されたセツ照射の使用報告はまださほど出ていないようなので、セツ照射の初期報告がなされそうな(私も参加予定の)来月の日本頭頸部癌学会、要注意(チェック?)です。
セツ照射患者さんをそんなに診ているわけではない町医者の投稿ですので、問題点などございましたらどうかご教示ください。
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