骨転移はどんながんでもきたす恐れのある病状です。近年のがん治療の進歩のおかげで延命効果が次々と報告されるようになり、結果として骨転移を発症する患者さんも年々増加傾向にあります。
骨転移で痛みや病的な骨折、脊髄神経損傷などがおきると、がん患者さんの生活の質が著しく低下してしまう可能性があります。
がんの骨転移による痛みをやわらげたり、がんに侵された部分の病的な骨折や近くにある神経圧迫などを防いだりと、放射線治療はがんによる骨転移の諸症状に対してとても有効な治療法の一つです。以前にも書きましたが、なにより決定的に痛み止めの薬と違う利点は、放射線治療である程度『腫瘍そのものの勢いを押さえる(≒縮小させる)』点、そして主治医側から見たらがんが完治せず根本的ではない局所治療(≒意味がない)と判断されていてもがん患者さんにとっては『治している実感が得られる』点です。
ちなみに日本放射線腫瘍学会2010 年定期構造調査報告によると、放射線治療実患者総数に対する骨転移患者さんの割合はおよそ13%前後、つまり7-8人に1人が骨転移に対する放射線治療患者さんでした。それでも他の先進諸国と比べるとまだまだ少ないそうなのですが…。
骨転移に放射線治療を行ってもがんで傷ついた骨が一瞬に回復するわけではない、という点は患者さん自身も私たち医療者側も充分気をつけなければなりません。がんの種類や骨転移の場所、病状にもよりますが、傷つき弱くなった骨が放射線治療後に再び石灰化して硬くなる(≒化骨化する)のは、経験的におよそ3か月以上はかかるように思います。がん細胞が邪魔をしている分だけ通常の骨折より回復が遅いのかもしれません。また、多くの場合で傷ついた骨が元の正常な形に戻るわけではありません。
一方で、骨転移による痛みというのは、早ければ放射線治療後1-2週くらいから和らぐことが少なくありません(なぜ痛みが放射線治療後早い時期に楽になるのか、いろいろな理由が推測されていますが、きちんと証明はされていません)。とても良いことなのですが、痛みが楽になってくると患者さんは当然身体を動かしたくなります。しかし、骨自体はまだ強度が不十分なままです。また逆に、骨転移により神経が圧迫されていたり、がんによる他の症状で身体の不自由さが残ってしまっていると、転倒などの危険はつきまといます。
除痛緩和的放射線治療を終了後せっかく痛みが楽になったのに、少し経過してから無理な体重負荷などで骨折をきたしてしまったため、もっとつらい状態にその後ずっと陥ってしまった患者さんも残念ながらいらっしゃいました。
患者さんの一般状態が許せば、骨転移に対しても外科的手術を行ったり、あるいは(ごく一部の)専門施設では骨セメント注入療法あるいはバルーン椎体形成術という特殊治療も行ったりするようです。ただ、現実問題としては(診療報酬とかマンパワーとか)なかなか難しい部分もあるようで、骨転移に対する積極的緩和治療としては放射線治療を選択する場合が多いようです…いや、放射線治療装置がない施設では放射線治療の選択肢すら考慮されないがん患者さんも少なからずいらっしゃるのですが…。
骨転移発症後のリハビリテーションも、病状や社会復帰などの目標により多様性に富んだ領域かと思います。骨折などのリスク回避は第一に重要なことなのですが、治療期間が長くなりすぎたりベッド上安静を保ちすぎたりすると筋力低下や特に高齢者では物忘れやせん妄を引き起こし、かえってその後の全身機能を低下させてしまう恐れもあります。
生命予後やがんの病状変化を視野に入れた、退院後のいろいろな生活環境も考慮しなければなりません。
「標準的」緩和的放射線治療「だけ」ならば、骨転移に限定した範囲で2週間で10回の照射設定であまり時間をかけずに1門か対向2門で「業務終了」です。もちろん1回、5回、それ以外の照射回数もありますが、アンケート調査結果では日本の放射線腫瘍医は10回治療が大好きみたいです。
しかし、標準的緩和的放射線治療以外の諸要素をさまざま考慮すると、放射線腫瘍医としても大変奥が深く、とても悩むのが骨転移の緩和的放射線治療だと思います。
私も恥ずかしながら、この頃になってようやくそれを強く実感するようになってまいりました。
(続く…)
骨転移で痛みや病的な骨折、脊髄神経損傷などがおきると、がん患者さんの生活の質が著しく低下してしまう可能性があります。
がんの骨転移による痛みをやわらげたり、がんに侵された部分の病的な骨折や近くにある神経圧迫などを防いだりと、放射線治療はがんによる骨転移の諸症状に対してとても有効な治療法の一つです。以前にも書きましたが、なにより決定的に痛み止めの薬と違う利点は、放射線治療である程度『腫瘍そのものの勢いを押さえる(≒縮小させる)』点、そして主治医側から見たらがんが完治せず根本的ではない局所治療(≒意味がない)と判断されていてもがん患者さんにとっては『治している実感が得られる』点です。
ちなみに日本放射線腫瘍学会2010 年定期構造調査報告によると、放射線治療実患者総数に対する骨転移患者さんの割合はおよそ13%前後、つまり7-8人に1人が骨転移に対する放射線治療患者さんでした。それでも他の先進諸国と比べるとまだまだ少ないそうなのですが…。
骨転移に放射線治療を行ってもがんで傷ついた骨が一瞬に回復するわけではない、という点は患者さん自身も私たち医療者側も充分気をつけなければなりません。がんの種類や骨転移の場所、病状にもよりますが、傷つき弱くなった骨が放射線治療後に再び石灰化して硬くなる(≒化骨化する)のは、経験的におよそ3か月以上はかかるように思います。がん細胞が邪魔をしている分だけ通常の骨折より回復が遅いのかもしれません。また、多くの場合で傷ついた骨が元の正常な形に戻るわけではありません。
一方で、骨転移による痛みというのは、早ければ放射線治療後1-2週くらいから和らぐことが少なくありません(なぜ痛みが放射線治療後早い時期に楽になるのか、いろいろな理由が推測されていますが、きちんと証明はされていません)。とても良いことなのですが、痛みが楽になってくると患者さんは当然身体を動かしたくなります。しかし、骨自体はまだ強度が不十分なままです。また逆に、骨転移により神経が圧迫されていたり、がんによる他の症状で身体の不自由さが残ってしまっていると、転倒などの危険はつきまといます。
除痛緩和的放射線治療を終了後せっかく痛みが楽になったのに、少し経過してから無理な体重負荷などで骨折をきたしてしまったため、もっとつらい状態にその後ずっと陥ってしまった患者さんも残念ながらいらっしゃいました。
患者さんの一般状態が許せば、骨転移に対しても外科的手術を行ったり、あるいは(ごく一部の)専門施設では骨セメント注入療法あるいはバルーン椎体形成術という特殊治療も行ったりするようです。ただ、現実問題としては(診療報酬とかマンパワーとか)なかなか難しい部分もあるようで、骨転移に対する積極的緩和治療としては放射線治療を選択する場合が多いようです…いや、放射線治療装置がない施設では放射線治療の選択肢すら考慮されないがん患者さんも少なからずいらっしゃるのですが…。
骨転移発症後のリハビリテーションも、病状や社会復帰などの目標により多様性に富んだ領域かと思います。骨折などのリスク回避は第一に重要なことなのですが、治療期間が長くなりすぎたりベッド上安静を保ちすぎたりすると筋力低下や特に高齢者では物忘れやせん妄を引き起こし、かえってその後の全身機能を低下させてしまう恐れもあります。
生命予後やがんの病状変化を視野に入れた、退院後のいろいろな生活環境も考慮しなければなりません。
「標準的」緩和的放射線治療「だけ」ならば、骨転移に限定した範囲で2週間で10回の照射設定であまり時間をかけずに1門か対向2門で「業務終了」です。もちろん1回、5回、それ以外の照射回数もありますが、アンケート調査結果では日本の放射線腫瘍医は10回治療が大好きみたいです。
しかし、標準的緩和的放射線治療以外の諸要素をさまざま考慮すると、放射線腫瘍医としても大変奥が深く、とても悩むのが骨転移の緩和的放射線治療だと思います。
私も恥ずかしながら、この頃になってようやくそれを強く実感するようになってまいりました。
(続く…)
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