週末、東京で開催された放射線治療の臨床試験に関する会合に参加してきました。私は緩和医療系のメンバーに加えていただいております。
今回の会合では「(消化管を含む)腹部腫瘍からの出血に対する緩和的放射線治療」が今後の臨床試験の一案として候補に挙がりました。
胃がんや大腸がんは日本のがん罹患者数としてはとても多いがん種ですが、国内では(お医者の大好きな)エビデンスがあまりないということで放射線治療の対象となることがほとんどありませんでした。
「そもそも胃がんや大腸がんに放射線治療なんて効くの?」という日本の先生方はいまだに少なくありません。
実は30 年以上も前に、日本のある放射線治療の先生が手術困難な胃がんに対し化学放射線療法をして5年生存13%「も」得られたという報告をなさっています。 1982年の報告なのですが、いまだにたいていの欧米の教科書にその論文はしっかり引用されています。
Asakawa, Tohoku J Exp Med 1982; 137: 445-52.
直腸がんは欧米で術前放射線治療の臨床試験が数多く出ていて、有効であることが示されています。
胃がんに放射線治療が無効という「誤解」の原因 は、①胃がんは手術成績が良いこと、②胃粘膜が放射線に敏感なこと、③胃がん(腺がん)には放射線が効かないと(勝手に)多くの日本の医者が思い込んでいたこと、が主な理由のようです。
ようやく最近、術前化学放射線療法で、胃がんは主に慶応大さんが、大腸がんは主に北里大さんや東海大さんが、臨床試験レベルで放射線治療の有効性を示しています。しかし、緩和的放射線治療に関しては、臨床試験レベルでの証明という信頼度としての立ち位置はまだまだです。
消化管からの腫瘍出血に対し緩和的放射線治療に止血効果が「かなり」期待できるということは、放射線腫瘍医なら誰でも昔から知っている「事実」なのですが、正直言って日本ではまだ認知されていません。胃がんや大腸がんという腹部消化管原発であっても、効果は「かなり」期待できるのですが。「かなり」、数値で書くと60-90%という高率です。
海外の報告では胃がんでも大腸がんでも(止血目的の)緩和的放射線治療は高率に症状緩和効果が得られることが昔からいろいろ報告されています。もちろん副作用は少ないです。国内でも最近、静岡県立がんセンターさんや国立がんセンター中央病院さんなどから止血緩和照射は有効だったとする論文報告がなされています。もちろん副作用は少ないです。
Hashimoto, J Cancer Res Clin Oncol 2009; 135: 1117-23.
Asakura, J Cancer Res Clin Oncol 2011; 137: 125-30.
手術困難な進行胃がんや大腸がんに対し、抗がん剤や分子標的薬剤がエビデンスで固められたガイドライン上の「標準治療」であることに異論はございません。また、胃がんや大腸がんに放射線治療なんて無効という日本の伝統的「固定観念」を知識としていらっしゃる医療者の方々を含め、世間的に認知される為にはやはりきちんと臨床試験という形でデータを集積してそれなりの医学雑誌に発表する必要があるという意見もその通りかと思います。平均数か月の延命が得られる薬の治療で「引っ張る」のもエビデンス上は大事なのかもしれません。
しかし、がんからの出血を自覚(=自分で目の当たりに)させられたり輸血が必要になったりと患者さん自身が辛い症状に対する「局所対策」は、延命という数字上のエビデンスだけではない大事な部分であると思います。
この辺は医療者によっても考え方が大きく異なっていて、例えばうちの病院でも、積極的に緩和的放射線治療依頼をしてくださる先生もいれば、非常に消極的な先生もいます。どうやら副作用も気になるようで。抗がん剤のほうがひどいのに…。
他の臨床試験をしている都合上、放射線治療を排除していることもあるようです。臨床試験って制限がいろいろあって、「余計な」放射線治療を行うと対象から外れてしまうことがあるそうなのです。それって患者さん中心の医療ではないのですが…。
検討課題はいろいろあるのですが、日本の現状調査などを踏まえ、腫瘍出血に対する緩和的放射線治療が臨床試験という形で日本人に対する有効性を示せるようになればきっと苦痛から救われる方が多くなるはず、と期待。微力ながら私も協力させていただきます。
個人的なことで恐縮ですが、その昔、亡き義母に辛い思いをさせてしまったこともトラウマとしてあり…
しかし東京は暑かった。昼休みに食べた築地のお寿司(+α)は美味しかったけど。
今回の会合では「(消化管を含む)腹部腫瘍からの出血に対する緩和的放射線治療」が今後の臨床試験の一案として候補に挙がりました。
胃がんや大腸がんは日本のがん罹患者数としてはとても多いがん種ですが、国内では(お医者の大好きな)エビデンスがあまりないということで放射線治療の対象となることがほとんどありませんでした。
「そもそも胃がんや大腸がんに放射線治療なんて効くの?」という日本の先生方はいまだに少なくありません。
実は30 年以上も前に、日本のある放射線治療の先生が手術困難な胃がんに対し化学放射線療法をして5年生存13%「も」得られたという報告をなさっています。 1982年の報告なのですが、いまだにたいていの欧米の教科書にその論文はしっかり引用されています。
Asakawa, Tohoku J Exp Med 1982; 137: 445-52.
直腸がんは欧米で術前放射線治療の臨床試験が数多く出ていて、有効であることが示されています。
胃がんに放射線治療が無効という「誤解」の原因 は、①胃がんは手術成績が良いこと、②胃粘膜が放射線に敏感なこと、③胃がん(腺がん)には放射線が効かないと(勝手に)多くの日本の医者が思い込んでいたこと、が主な理由のようです。
ようやく最近、術前化学放射線療法で、胃がんは主に慶応大さんが、大腸がんは主に北里大さんや東海大さんが、臨床試験レベルで放射線治療の有効性を示しています。しかし、緩和的放射線治療に関しては、臨床試験レベルでの証明という信頼度としての立ち位置はまだまだです。
消化管からの腫瘍出血に対し緩和的放射線治療に止血効果が「かなり」期待できるということは、放射線腫瘍医なら誰でも昔から知っている「事実」なのですが、正直言って日本ではまだ認知されていません。胃がんや大腸がんという腹部消化管原発であっても、効果は「かなり」期待できるのですが。「かなり」、数値で書くと60-90%という高率です。
海外の報告では胃がんでも大腸がんでも(止血目的の)緩和的放射線治療は高率に症状緩和効果が得られることが昔からいろいろ報告されています。もちろん副作用は少ないです。国内でも最近、静岡県立がんセンターさんや国立がんセンター中央病院さんなどから止血緩和照射は有効だったとする論文報告がなされています。もちろん副作用は少ないです。
Hashimoto, J Cancer Res Clin Oncol 2009; 135: 1117-23.
Asakura, J Cancer Res Clin Oncol 2011; 137: 125-30.
手術困難な進行胃がんや大腸がんに対し、抗がん剤や分子標的薬剤がエビデンスで固められたガイドライン上の「標準治療」であることに異論はございません。また、胃がんや大腸がんに放射線治療なんて無効という日本の伝統的「固定観念」を知識としていらっしゃる医療者の方々を含め、世間的に認知される為にはやはりきちんと臨床試験という形でデータを集積してそれなりの医学雑誌に発表する必要があるという意見もその通りかと思います。平均数か月の延命が得られる薬の治療で「引っ張る」のもエビデンス上は大事なのかもしれません。
しかし、がんからの出血を自覚(=自分で目の当たりに)させられたり輸血が必要になったりと患者さん自身が辛い症状に対する「局所対策」は、延命という数字上のエビデンスだけではない大事な部分であると思います。
この辺は医療者によっても考え方が大きく異なっていて、例えばうちの病院でも、積極的に緩和的放射線治療依頼をしてくださる先生もいれば、非常に消極的な先生もいます。どうやら副作用も気になるようで。抗がん剤のほうがひどいのに…。
他の臨床試験をしている都合上、放射線治療を排除していることもあるようです。臨床試験って制限がいろいろあって、「余計な」放射線治療を行うと対象から外れてしまうことがあるそうなのです。それって患者さん中心の医療ではないのですが…。
検討課題はいろいろあるのですが、日本の現状調査などを踏まえ、腫瘍出血に対する緩和的放射線治療が臨床試験という形で日本人に対する有効性を示せるようになればきっと苦痛から救われる方が多くなるはず、と期待。微力ながら私も協力させていただきます。
個人的なことで恐縮ですが、その昔、亡き義母に辛い思いをさせてしまったこともトラウマとしてあり…
しかし東京は暑かった。昼休みに食べた築地のお寿司(+α)は美味しかったけど。
- 関連記事
-
- 緩和ケア病棟で緩和的放射線治療を行うと「損をする」?(その1) (2015/05/13)
- みなさんしてるから10回?:有痛性骨転移に対する緩和的放射線治療(その2) (2015/04/11)
- みなさんしてるから10回?:有痛性骨転移に対する緩和的放射線治療(その1) (2015/04/09)
- Always on a Friday (その2) (2014/11/18)
- Always on a Friday (その1) (2014/11/17)
- ご一読をお勧めする『緩和医療と放射線治療』 (2014/08/15)
- 緩和的放射線治療、とてもやりがいを感じるこの頃です (2014/07/31)
- 消化管腫瘍からの出血に対する緩和的放射線治療ってご存知ですか? (2014/07/27)
- 骨転移の緩和的放射線治療は難しい(2):第19回日本緩和医療学会学術大会印象記 (2014/07/22)
- 骨転移の緩和的放射線治療は難しい(1) (2014/07/19)
- 疼痛緩和照射の時に起きてしまうがん骨転移の突出痛(2) (2014/03/22)
- 疼痛緩和照射の時に起きてしまうがん骨転移の突出痛(1) (2014/03/17)
- 姑息照射って表現、消えてほしいな~ (2013/09/24)
- May I help you ? (3) (2013/07/09)
- May I help you ? (2) (2013/07/02)
スポンサーサイト
| ホーム |