昨日は、前夜にあった医局ビールパーティーの影響が少なからず残る中、放射線治療大手の某社主催のユーザーミーティングに参加してきました。
今回の企画、新しい放射線治療計画装置の使用体験会を兼ねたワークショップがなかなか面白かったです。私が以前ご厄介になったことのある施設からのご発表も多く、ぶっちゃけ参加しないわけにはいかない感もありましたが、それはそれとして(笑)。
もちろん、うちの病院にも某社関連の放射線治療関連機器が導入されています。
主催者側から事前に用意されていた乳がん温存手術症例に対する乳房への術後照射について、輪郭描出や計画作成などの大まかなシナリオに基づき代表の先生方が実際の使用感を確認し、他の参加者は前方スクリーン上の操作PC画面を見ながらリアルタイムで放射線治療計画プロセスの確認をするという、検討時間がたっぷり2時間近くも確保されたワークショップでした。「どうぞいつでも遠慮なく質問やコメントをどうぞ」という司会者の冒頭挨拶でスタートしました。
乳房温存術後照射は日本の乳がん診療ガイドラインでも推奨と明記されている標準的治療法です。前立腺がんの根治照射と同様に、全国多くの施設で放射線治療症例のかなりの割合を占めています。標準的な放射線治療計画方法も放射線治療計画ガイドラインなどに記載されていて、患側乳房の四方に体表マークなどをつけたりCT上で乳房にみえる部分を囲んだりして放射線治療を行う範囲や放射線の分布図を作成します。
乳房や周囲リンパ節領域のCTにおける囲み方・境界の定義は、RTOGという有名な放射線治療グループとしての合意指針が具体的な画像を含めて公開されていて、大変参考になります。
http://www.rtog.org/LinkClick.aspx?fileticket=vzJFhPaBipE=
とはいえ、乳腺を「厳密に」囲もうとするとあいまいな点がいろいろあるような…。
例えば、乳腺って画像上の端っていったいどこ? とか。
形がしっかりした乳房だと体表での境でわかるのですが、かなりやせ形の方とかふくよかな方のようないわゆる皮下脂肪との境界が不明瞭な乳房の患者さんだとわかりにくい。以前、乳腺が得意な放射線診断の先生といっしょに調べたこともあるのですが、厳密な境界はよくわからない、という結論でした。きちんと示した論文があったら是非教えてください。
もちろん、ガイドラインではその辺の曖昧さをふまえての範囲設定を規定しているし、昨日のユーザーミーティングでもあえて乳腺組織を囲まずに放射線治療計画を行っているという先生もいらっしゃるようでしたし(一つの目安としてあえて私は囲っていますが、もしかして希少?)、なんら問題はないわけですが。
手術で摘出したがんの近くを腫瘍床といいます。この腫瘍床に顕微鏡レベルでがんの根っこが残ってしまったり、切除部位近傍までがん細胞があった場合などには、腫瘍床へ追加照射をしたほうが良いと言われています。
腫瘍床の定義も乳房同様で厳密な範囲規定は難しく、通常は手術や診察・画像所見などを踏まえた担当医の総合判断で決定されます。施設によっては手術中に腫瘍床へ小さな金属マーキングを置いたりしています。
温存術後照射を行う場合、目に見えるがんは手術で取り切れているので、ガイドライン上では「GTVは存在しない」とあります。しかし個人的には腫瘍床はがんがある(か極めて疑わしい)からGTVに相当するくらい危険な部分だと思っています。ちなみに全体の乳腺は領域なのでCTVです。
GTVやCTVについては以前の拙ブログ「放射線治療計画のターゲットで思うこと (1)」もご参考にしていただければ…
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-26.html
乳房への領域照射であり、たいていの場合はあえて腫瘍床の設定をしなくても大丈夫です。ただ、がんの局在が身体の正中寄りだったり外側縁(腋窩中線近く)だったりした場合の照射野設定時に「腫瘍床」としてある程度囲んでいた(=「見える化」した)ほうが、照射野辺縁に近すぎないか(照射野内にちゃんと含まれているか)をより正確に確認できると思っています。心配な場合は、照射野を微調整します。
まあ、放射線腫瘍専門医なら腫瘍床をあえて「見える化」しなくてもきっと意識していらっしゃることだろうと思いますが(?)、『若い先生や学生さんなどに治療計画をしてもらうと、治療計画アニメーション画像だけになった段階でGTVもCTVもPTVも全て「横一線の意識」となってしまい、「がんが確実に存在する一番重要なGTV(ここでは腫瘍床)」が照射範囲から外れそうだったり線量分布(放射線の量)が一部甘かったりしてもあまり気にしなかったり』(以前の拙ブログ「放射線治療計画のターゲットで思うこと (1)」より引用)ということが時におきます。
ということで、私は乳房温存照射の治療計画でも腫瘍床(や乳腺)を囲む派です。心臓や胃袋をなるべく照射野外にするのにも大変参考になりますし。
2時間もあったので、放射線治療の線量分布についての設定やら体動やらの意見交換もできて、大変有意義なワークショップでした。私も(つらい二日酔いでしたが気力を振りしぼって)軽快な発言を心がけました。
臨床試験やガイドラインなどのマクロ的検討が重要な点は論を待たないですが、多施設による個別の照射内容検討(各施設のやり方:工夫、お作法、治療方針、癖の比較)といったミクロ的検討会もやっぱり大事だなと、改めて感じた次第です。
他の地域ではやっているのかな? 例えば、ネットを使った多地点放射線治療計画検討会とか。
今回の企画、新しい放射線治療計画装置の使用体験会を兼ねたワークショップがなかなか面白かったです。私が以前ご厄介になったことのある施設からのご発表も多く、ぶっちゃけ参加しないわけにはいかない感もありましたが、それはそれとして(笑)。
もちろん、うちの病院にも某社関連の放射線治療関連機器が導入されています。
主催者側から事前に用意されていた乳がん温存手術症例に対する乳房への術後照射について、輪郭描出や計画作成などの大まかなシナリオに基づき代表の先生方が実際の使用感を確認し、他の参加者は前方スクリーン上の操作PC画面を見ながらリアルタイムで放射線治療計画プロセスの確認をするという、検討時間がたっぷり2時間近くも確保されたワークショップでした。「どうぞいつでも遠慮なく質問やコメントをどうぞ」という司会者の冒頭挨拶でスタートしました。
乳房温存術後照射は日本の乳がん診療ガイドラインでも推奨と明記されている標準的治療法です。前立腺がんの根治照射と同様に、全国多くの施設で放射線治療症例のかなりの割合を占めています。標準的な放射線治療計画方法も放射線治療計画ガイドラインなどに記載されていて、患側乳房の四方に体表マークなどをつけたりCT上で乳房にみえる部分を囲んだりして放射線治療を行う範囲や放射線の分布図を作成します。
乳房や周囲リンパ節領域のCTにおける囲み方・境界の定義は、RTOGという有名な放射線治療グループとしての合意指針が具体的な画像を含めて公開されていて、大変参考になります。
http://www.rtog.org/LinkClick.aspx?fileticket=vzJFhPaBipE=
とはいえ、乳腺を「厳密に」囲もうとするとあいまいな点がいろいろあるような…。
例えば、乳腺って画像上の端っていったいどこ? とか。
形がしっかりした乳房だと体表での境でわかるのですが、かなりやせ形の方とかふくよかな方のようないわゆる皮下脂肪との境界が不明瞭な乳房の患者さんだとわかりにくい。以前、乳腺が得意な放射線診断の先生といっしょに調べたこともあるのですが、厳密な境界はよくわからない、という結論でした。きちんと示した論文があったら是非教えてください。
もちろん、ガイドラインではその辺の曖昧さをふまえての範囲設定を規定しているし、昨日のユーザーミーティングでもあえて乳腺組織を囲まずに放射線治療計画を行っているという先生もいらっしゃるようでしたし(一つの目安としてあえて私は囲っていますが、もしかして希少?)、なんら問題はないわけですが。
手術で摘出したがんの近くを腫瘍床といいます。この腫瘍床に顕微鏡レベルでがんの根っこが残ってしまったり、切除部位近傍までがん細胞があった場合などには、腫瘍床へ追加照射をしたほうが良いと言われています。
腫瘍床の定義も乳房同様で厳密な範囲規定は難しく、通常は手術や診察・画像所見などを踏まえた担当医の総合判断で決定されます。施設によっては手術中に腫瘍床へ小さな金属マーキングを置いたりしています。
温存術後照射を行う場合、目に見えるがんは手術で取り切れているので、ガイドライン上では「GTVは存在しない」とあります。しかし個人的には腫瘍床はがんがある(か極めて疑わしい)からGTVに相当するくらい危険な部分だと思っています。ちなみに全体の乳腺は領域なのでCTVです。
GTVやCTVについては以前の拙ブログ「放射線治療計画のターゲットで思うこと (1)」もご参考にしていただければ…
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-26.html
乳房への領域照射であり、たいていの場合はあえて腫瘍床の設定をしなくても大丈夫です。ただ、がんの局在が身体の正中寄りだったり外側縁(腋窩中線近く)だったりした場合の照射野設定時に「腫瘍床」としてある程度囲んでいた(=「見える化」した)ほうが、照射野辺縁に近すぎないか(照射野内にちゃんと含まれているか)をより正確に確認できると思っています。心配な場合は、照射野を微調整します。
まあ、放射線腫瘍専門医なら腫瘍床をあえて「見える化」しなくてもきっと意識していらっしゃることだろうと思いますが(?)、『若い先生や学生さんなどに治療計画をしてもらうと、治療計画アニメーション画像だけになった段階でGTVもCTVもPTVも全て「横一線の意識」となってしまい、「がんが確実に存在する一番重要なGTV(ここでは腫瘍床)」が照射範囲から外れそうだったり線量分布(放射線の量)が一部甘かったりしてもあまり気にしなかったり』(以前の拙ブログ「放射線治療計画のターゲットで思うこと (1)」より引用)ということが時におきます。
ということで、私は乳房温存照射の治療計画でも腫瘍床(や乳腺)を囲む派です。心臓や胃袋をなるべく照射野外にするのにも大変参考になりますし。
2時間もあったので、放射線治療の線量分布についての設定やら体動やらの意見交換もできて、大変有意義なワークショップでした。私も(つらい二日酔いでしたが気力を振りしぼって)軽快な発言を心がけました。
臨床試験やガイドラインなどのマクロ的検討が重要な点は論を待たないですが、多施設による個別の照射内容検討(各施設のやり方:工夫、お作法、治療方針、癖の比較)といったミクロ的検討会もやっぱり大事だなと、改めて感じた次第です。
他の地域ではやっているのかな? 例えば、ネットを使った多地点放射線治療計画検討会とか。
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