今月下旬に開催される放射線治療の某研究会で「休日照射・緊急照射」が主題テーマとなりました。私も演題発表担当の一人に任命され、現在スライド準備中です。
「休日照射」と「緊急照射」
似て非なる、現場的にはそれぞれなかなか難しい問題がいろいろとある、そして全国的にも施設によって方針がかなり異なるだろうデリケートなテーマだと思います。当番世話人の先生はアンケート調査を実施されていて(うちの施設も協力)、研究会でご発表予定とのこと、とても興味深いです。
休日照射については以前のブログで投稿したことがあります。「大型連休における照射について(1)(2)」。せっかくですし今回のスライド発表ではこれも再利用する予定です(笑)。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-29.html
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-30.html
もう一つのテーマである緊急照射ですが、「平日の時間外または休日(つまり通常の業務時間外)に、がんによる緊急症状に対して臨時に行う放射線治療」のことをさします(定義は私見)。今回のブログでは、緊急照射についてうちの施設での体制や課題を中心にまとめてみることにしました。
私が今の病院に着任してから3年余り経つのですが、休日に緊急照射依頼があったのは1例です。平日午後~夕方に飛び込みで緊急照射依頼があったのは平均すると月1例程度(なぜか金曜が大半)、スタッフのご協力を仰いでその日の夜までに緊急照射を行いました。
依頼のほとんどが悪性腫瘍による脊髄圧迫(Malignant Spinal Cord Compression:以下MSCC)でした。
下半身マヒなどがあっという間に進行し、がん患者さんの生活の質を永久的に著しく低下させてしまうおそれがあるMSCC。放射線治療計画ガイドライン2012年版(日本放射線腫瘍学会編)ではマヒなどの症状が出たらできるだけ早く治療開始することが重要と書かれています。
完全マヒになったら2日以内に緊急照射を行わないと回復する見込みはほぼ無いと報告されています。
Loblaw DA, et al. JCO 1998; 16: 1613-1624
また、患者さんの状態が良ければ手術をした後に放射線治療を行ったほうが治りは良いとも報告されています。
Patchell RA. Lancet 2005; 366: 643-648
MSCCについては、また改めてブログにしてみたいと思います。
どんながんによる症状を緊急照射の対象にすべきか、実はきちんと定まっていないようです。でも、MSCCは第1選択です。肺がんなどで上半身が浮腫んでしまう上大静脈症候群も緊急性が高い病状で、他にも脳転移や出血や閉塞なども対象になりえます。
緊急照射に関連する論文報告って世界的に見ても(意外に)とても少ないようです。
2年間でなんと161例もの休日緊急照射を行ったOdette Cancer Center (カナダ)からの報告では、MSCCを含む脊椎病変が70%、脳転移が15%、上大静脈症候群を含む胸部病変が10%と、この3部位で緊急照射の大半を占めていたそうです。年間新患数が5200件もある施設なので、多い施設でもその数分の一しかない日本とは単純な比較はできませんが、個人的におよその傾向は合っているような気がします。
Mitera G et al. Curr Oncol. 2009; 16: 55–60
時間外緊急照射となると、スタッフの人員整備が大きな問題です。どの業界でもきっと同じでしょう。
うちの施設で緊急照射に対応するスタッフ。放射線腫瘍医は病棟待機が誰か1人いるのでその人が対応することになります。放射線部門外来看護師さんは放射線部全体の待機がいます。でも(忙しくなければ)救急または該当患者さんの病棟看護師さんにお手伝いしていただくことも一応可能です。
診療放射線技師さんは診断部門と兼務の(というかほとんど診断の)時間外待機技師さんがいます。ただ、実は全員が治療装置を扱えるわけではありません。逆にCTやMRIを操作できない技師さんというのもいます。これは私の知っている施設ではほとんどがそうかもしれません。
「なぜみんな操作ができないのか?」、「なぜきちんと治療待機担当を作らないのか?」というご意見もあろうかと思います。でも、昨今の放射線装置はどれも特殊すぎて普段扱っていない技師さんに機械の操作をいきなりお願いすることは正直容易ではありません。数年も使用していない、あるいは使ったことのないコンピューターや携帯電話をいきなり使えと言われても無理なのと似たようなことです。治療装置などは中途半端な操作はかえって危険を伴います。
幸い(?)今の所、うちの治療担当技師さんたちは近隣に住む方々が多いので全員が週末2日間も連絡つかないという事態はまずありません(絶対ではないでしょ?と言われればそうですが…)。
3年半で1回行った休日緊急照射は5月の連休ど真ん中のことでした。たまたま私が当番の時だったのですが、当番の診療放射線技師さんが少し前まで放射線治療担当だった方でラッキーでしたし、また放射線治療担当の技師さんも一人休日の中お手伝いに来てくれました。
たまたまでは?と言われればそうだったかもしれません…。
(さらに続きます)
「休日照射」と「緊急照射」
似て非なる、現場的にはそれぞれなかなか難しい問題がいろいろとある、そして全国的にも施設によって方針がかなり異なるだろうデリケートなテーマだと思います。当番世話人の先生はアンケート調査を実施されていて(うちの施設も協力)、研究会でご発表予定とのこと、とても興味深いです。
休日照射については以前のブログで投稿したことがあります。「大型連休における照射について(1)(2)」。せっかくですし今回のスライド発表ではこれも再利用する予定です(笑)。
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-29.html
http://mccradonc.blog.fc2.com/blog-entry-30.html
もう一つのテーマである緊急照射ですが、「平日の時間外または休日(つまり通常の業務時間外)に、がんによる緊急症状に対して臨時に行う放射線治療」のことをさします(定義は私見)。今回のブログでは、緊急照射についてうちの施設での体制や課題を中心にまとめてみることにしました。
私が今の病院に着任してから3年余り経つのですが、休日に緊急照射依頼があったのは1例です。平日午後~夕方に飛び込みで緊急照射依頼があったのは平均すると月1例程度(なぜか金曜が大半)、スタッフのご協力を仰いでその日の夜までに緊急照射を行いました。
依頼のほとんどが悪性腫瘍による脊髄圧迫(Malignant Spinal Cord Compression:以下MSCC)でした。
下半身マヒなどがあっという間に進行し、がん患者さんの生活の質を永久的に著しく低下させてしまうおそれがあるMSCC。放射線治療計画ガイドライン2012年版(日本放射線腫瘍学会編)ではマヒなどの症状が出たらできるだけ早く治療開始することが重要と書かれています。
完全マヒになったら2日以内に緊急照射を行わないと回復する見込みはほぼ無いと報告されています。
Loblaw DA, et al. JCO 1998; 16: 1613-1624
また、患者さんの状態が良ければ手術をした後に放射線治療を行ったほうが治りは良いとも報告されています。
Patchell RA. Lancet 2005; 366: 643-648
MSCCについては、また改めてブログにしてみたいと思います。
どんながんによる症状を緊急照射の対象にすべきか、実はきちんと定まっていないようです。でも、MSCCは第1選択です。肺がんなどで上半身が浮腫んでしまう上大静脈症候群も緊急性が高い病状で、他にも脳転移や出血や閉塞なども対象になりえます。
緊急照射に関連する論文報告って世界的に見ても(意外に)とても少ないようです。
2年間でなんと161例もの休日緊急照射を行ったOdette Cancer Center (カナダ)からの報告では、MSCCを含む脊椎病変が70%、脳転移が15%、上大静脈症候群を含む胸部病変が10%と、この3部位で緊急照射の大半を占めていたそうです。年間新患数が5200件もある施設なので、多い施設でもその数分の一しかない日本とは単純な比較はできませんが、個人的におよその傾向は合っているような気がします。
Mitera G et al. Curr Oncol. 2009; 16: 55–60
時間外緊急照射となると、スタッフの人員整備が大きな問題です。どの業界でもきっと同じでしょう。
うちの施設で緊急照射に対応するスタッフ。放射線腫瘍医は病棟待機が誰か1人いるのでその人が対応することになります。放射線部門外来看護師さんは放射線部全体の待機がいます。でも(忙しくなければ)救急または該当患者さんの病棟看護師さんにお手伝いしていただくことも一応可能です。
診療放射線技師さんは診断部門と兼務の(というかほとんど診断の)時間外待機技師さんがいます。ただ、実は全員が治療装置を扱えるわけではありません。逆にCTやMRIを操作できない技師さんというのもいます。これは私の知っている施設ではほとんどがそうかもしれません。
「なぜみんな操作ができないのか?」、「なぜきちんと治療待機担当を作らないのか?」というご意見もあろうかと思います。でも、昨今の放射線装置はどれも特殊すぎて普段扱っていない技師さんに機械の操作をいきなりお願いすることは正直容易ではありません。数年も使用していない、あるいは使ったことのないコンピューターや携帯電話をいきなり使えと言われても無理なのと似たようなことです。治療装置などは中途半端な操作はかえって危険を伴います。
幸い(?)今の所、うちの治療担当技師さんたちは近隣に住む方々が多いので全員が週末2日間も連絡つかないという事態はまずありません(絶対ではないでしょ?と言われればそうですが…)。
3年半で1回行った休日緊急照射は5月の連休ど真ん中のことでした。たまたま私が当番の時だったのですが、当番の診療放射線技師さんが少し前まで放射線治療担当だった方でラッキーでしたし、また放射線治療担当の技師さんも一人休日の中お手伝いに来てくれました。
たまたまでは?と言われればそうだったかもしれません…。
(さらに続きます)
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