先週末、某大学放射線科の同門会(OBや現役医局員らの集まり)がありました。私、2つの放射線科同門会への参加資格を有していますが、今回は私の卒業大学のほうでした。
年1回、この時期に開催されます。
例年通り今年も1次会は初めに勉強会・総会。昨年度大学院を卒業し学位(博士)を取得した先生がたの発表、海外留学した先生や関連病院の近況報告などを拝聴しました。その後、みんなで記念撮影をして懇親会へ。通常ここまでは出席者全員が参加します。
懇親会の後、会場を移して2次会へ。こちらは参加者が(元)教授先生とか各病院の部長さんとか新入医局員さんになることが多く、参加平均年齢はぐっと上がります。
反西洋医学系の某サイトで「医者の平均年齢は50才なかば」なんて記事を最近見かけましたが、この会に参加しているといったいどこの話?って感じがします。還暦過ぎた先生方も多くの方がお元気です。身体も胃袋も頭も口もみ~んな元気!
放射線科って長寿の診療科なのか? もしかして放射線ホルミシス効果??
さて、本題に入ります。
2次会の宴もたけなわのところでご年配の大先輩からスピーチがあり、なんとも驚きの放射線治療現場での逸話を2つご披露いただきました。
以下にご紹介いたします。なお、2次会の席でしばし飲食した時の記憶をたどって書いているので、私の思い込みが(もしかしたらかなり)入っちゃっているかもしれない点はご容赦ください。
*******************************
【逸話その1】
その昔、鼻の横にある副鼻腔にでてきたがんに、顔の正面から放射線治療を行っていた患者さんがいました。放射線治療開始から数週間経過すると、なにやら頭のてっぺんの一部髪の毛が抜けてきた。明らかに放射線があたっているような脱毛の所見です。
「そんなはずはない。確認してこい」と上司の先生。
当時はコバルト60というガンマ線源を使って放射線治療を行うテレコバルト装置が主流でした。この装置、コバルト線源から出るガンマ線の量がだんだん少なくなってくるので、状況によっては1ケ所照射するのに数十分もの長時間を要することがあったようです。
さっそく確認に行った所、患者さんの治療位置合わせはきちんとなされているし、放射線治療も予定通りに進められていました。しかし、いざ治療が始まってしばらくするとその患者さんの目がうつらうつらしてきました。
みなさんも電車の中などでつい寝てしまったことはないでしょうか。座りながらうたたねすると無意識のうちにこっくりこっくり頭が前後や左右に揺れてきます。そのうち完全に後ろのガラスに頭をくっつけたまま熟睡したり、たまたま隣に座っていたあかの他人の肩によりかかってしまったり。
そう、その患者さんも最初は同じ姿勢でじっと座っていたのですが(当時の照射装置は座って治療ができたんですね!これはこれで一部の患者さんにとってはすごく楽:写真は医用画像電子博物館HPから借用)、時間が経つにしたがって頭がこっくりこっくりしはじめ、しまいに頭を完全に前に垂れながら寝てしまったのです。もともとは顔の前方から放射線を照射していましたが、寝たことにより元の顔の位置に来た垂れた頭のてっぺんにずっと照射されてしまっていた。当時は部屋から出てもドアにロックがかかっているわけでもなく監視モニターもなかったので、きちんと確認するまでわからなかったようです(今なら大問題です)。
毎回同じように気持ちよく寝てしまったのでしょうね。その結果、想定外の頭に部分脱毛が起きてしまったというわけ。
がんのある場所とは全く別の方向に放射線治療! これでは治りません…
なお今は、きちんと頭を支えて位置がずれない治療補助具を使っている(はずだ)から大丈夫です。
http://www.jira-net.or.jp/vm/data/1951000003/1951000003_all.html

【逸話その2】
その昔、お腹に放射線治療を行っていた高齢の男性患者さんがいました。当時の装置は皮膚表面の放射線量が今よりずっと多かったので、数週間経過すればお腹の皮膚が日焼けのように赤くなり下痢などの症状も強く出やすかったそうです。しかし、その方は放射線治療が進んでも皮膚炎も起きないしケロッとしている。なんかおかしい。
「そんなはずはない。確認してこい」と上司の先生。
高齢の男性ってすぐに尿意をもよおしトイレが近くなることが多いですよね。長時間のバス移動などはかなりつらく、普段からオムツ着用されている方もいます(私はまだ大丈夫そうです)。しかもお腹に放射線治療をしていると、腸や膀胱の粘膜炎が進んでさらにトイレが近くなることがよくあります。
(繰り返しになりますが)当時は1カ所照射するのに数十分もの長時間を要することがあったようです。患者さんの治療位置合わせはきちんとなされているし、放射線治療も予定通りに進められていました。しかし、いざ治療が始まってしばらくするとその患者さんは身体をモゾモゾしはじめました。
そしてなんとあろうことか、放射線治療のまっ最中に自分で勝手に治療台から降りてトイレへ用足しに行ってしまったのです。当時は部屋から出てもドアにロックがかかっているわけでもなく監視モニターもなかったので、きちんと確認するまでわからなかったようです(今なら大問題です)。
放射線は患者さんがいなくても出続けていましたから、毎回トイレに行っていたことにより実照射時間はかなり短くなった。しかも自分で勝手に治療台を降りて勝手に戻っているからもともとの正しい位置に照射されているわけがない。だから副作用が少なかったし、皮膚の影響もほとんど出なかった。
がんのある場所とは全く別の場所に放射線治療! これでは治りません…
なお、今の時代は、治療中に身体が動いてないか確認する監視モニターなどが操作室にある(はずだ)から大丈夫です。
*******************************
これらは今年50才を迎えた私が医者になる前、たった○○年くらい前の実話です(記憶が間違ってなければ)。わずか数㎜の治療精度を学会で熱く議論する、そして放射線治療の危機管理体制を様々な面から整備する現在からは、とても考えられないお話です。
なんとものどかな、いやはや凄い時代だったのですね。
大先輩、昔の貴重な情報をご教示賜り、まことにありがとうございました。二度とそのようなことが起きないよう、私たちも充分留意いたします。
年1回、この時期に開催されます。
例年通り今年も1次会は初めに勉強会・総会。昨年度大学院を卒業し学位(博士)を取得した先生がたの発表、海外留学した先生や関連病院の近況報告などを拝聴しました。その後、みんなで記念撮影をして懇親会へ。通常ここまでは出席者全員が参加します。
懇親会の後、会場を移して2次会へ。こちらは参加者が(元)教授先生とか各病院の部長さんとか新入医局員さんになることが多く、参加平均年齢はぐっと上がります。
反西洋医学系の某サイトで「医者の平均年齢は50才なかば」なんて記事を最近見かけましたが、この会に参加しているといったいどこの話?って感じがします。還暦過ぎた先生方も多くの方がお元気です。身体も胃袋も頭も口もみ~んな元気!
放射線科って長寿の診療科なのか? もしかして放射線ホルミシス効果??
さて、本題に入ります。
2次会の宴もたけなわのところでご年配の大先輩からスピーチがあり、なんとも驚きの放射線治療現場での逸話を2つご披露いただきました。
以下にご紹介いたします。なお、2次会の席でしばし飲食した時の記憶をたどって書いているので、私の思い込みが(もしかしたらかなり)入っちゃっているかもしれない点はご容赦ください。
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【逸話その1】
その昔、鼻の横にある副鼻腔にでてきたがんに、顔の正面から放射線治療を行っていた患者さんがいました。放射線治療開始から数週間経過すると、なにやら頭のてっぺんの一部髪の毛が抜けてきた。明らかに放射線があたっているような脱毛の所見です。
「そんなはずはない。確認してこい」と上司の先生。
当時はコバルト60というガンマ線源を使って放射線治療を行うテレコバルト装置が主流でした。この装置、コバルト線源から出るガンマ線の量がだんだん少なくなってくるので、状況によっては1ケ所照射するのに数十分もの長時間を要することがあったようです。
さっそく確認に行った所、患者さんの治療位置合わせはきちんとなされているし、放射線治療も予定通りに進められていました。しかし、いざ治療が始まってしばらくするとその患者さんの目がうつらうつらしてきました。
みなさんも電車の中などでつい寝てしまったことはないでしょうか。座りながらうたたねすると無意識のうちにこっくりこっくり頭が前後や左右に揺れてきます。そのうち完全に後ろのガラスに頭をくっつけたまま熟睡したり、たまたま隣に座っていたあかの他人の肩によりかかってしまったり。
そう、その患者さんも最初は同じ姿勢でじっと座っていたのですが(当時の照射装置は座って治療ができたんですね!これはこれで一部の患者さんにとってはすごく楽:写真は医用画像電子博物館HPから借用)、時間が経つにしたがって頭がこっくりこっくりしはじめ、しまいに頭を完全に前に垂れながら寝てしまったのです。もともとは顔の前方から放射線を照射していましたが、寝たことにより元の顔の位置に来た垂れた頭のてっぺんにずっと照射されてしまっていた。当時は部屋から出てもドアにロックがかかっているわけでもなく監視モニターもなかったので、きちんと確認するまでわからなかったようです(今なら大問題です)。
毎回同じように気持ちよく寝てしまったのでしょうね。その結果、想定外の頭に部分脱毛が起きてしまったというわけ。
がんのある場所とは全く別の方向に放射線治療! これでは治りません…
なお今は、きちんと頭を支えて位置がずれない治療補助具を使っている(はずだ)から大丈夫です。
http://www.jira-net.or.jp/vm/data/1951000003/1951000003_all.html

【逸話その2】
その昔、お腹に放射線治療を行っていた高齢の男性患者さんがいました。当時の装置は皮膚表面の放射線量が今よりずっと多かったので、数週間経過すればお腹の皮膚が日焼けのように赤くなり下痢などの症状も強く出やすかったそうです。しかし、その方は放射線治療が進んでも皮膚炎も起きないしケロッとしている。なんかおかしい。
「そんなはずはない。確認してこい」と上司の先生。
高齢の男性ってすぐに尿意をもよおしトイレが近くなることが多いですよね。長時間のバス移動などはかなりつらく、普段からオムツ着用されている方もいます(私はまだ大丈夫そうです)。しかもお腹に放射線治療をしていると、腸や膀胱の粘膜炎が進んでさらにトイレが近くなることがよくあります。
(繰り返しになりますが)当時は1カ所照射するのに数十分もの長時間を要することがあったようです。患者さんの治療位置合わせはきちんとなされているし、放射線治療も予定通りに進められていました。しかし、いざ治療が始まってしばらくするとその患者さんは身体をモゾモゾしはじめました。
そしてなんとあろうことか、放射線治療のまっ最中に自分で勝手に治療台から降りてトイレへ用足しに行ってしまったのです。当時は部屋から出てもドアにロックがかかっているわけでもなく監視モニターもなかったので、きちんと確認するまでわからなかったようです(今なら大問題です)。
放射線は患者さんがいなくても出続けていましたから、毎回トイレに行っていたことにより実照射時間はかなり短くなった。しかも自分で勝手に治療台を降りて勝手に戻っているからもともとの正しい位置に照射されているわけがない。だから副作用が少なかったし、皮膚の影響もほとんど出なかった。
がんのある場所とは全く別の場所に放射線治療! これでは治りません…
なお、今の時代は、治療中に身体が動いてないか確認する監視モニターなどが操作室にある(はずだ)から大丈夫です。
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これらは今年50才を迎えた私が医者になる前、たった○○年くらい前の実話です(記憶が間違ってなければ)。わずか数㎜の治療精度を学会で熱く議論する、そして放射線治療の危機管理体制を様々な面から整備する現在からは、とても考えられないお話です。
なんとものどかな、いやはや凄い時代だったのですね。
大先輩、昔の貴重な情報をご教示賜り、まことにありがとうございました。二度とそのようなことが起きないよう、私たちも充分留意いたします。
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